V.推計の方法と仮定

3.出生率の仮定

(4) 年次別出生率の推計結果

 高位、中位、低位の三つの仮定に基づいてコーホート年齢別出生率が推計されれば、それを組み換えることによって将来年次の年齢別出生率ならびに合計特殊出生率を算出することができる。ただし、ここで得られた仮定値は日本人女性についての出生率なので、総人口を推計するための出生率を求めるには、外国人を含めた出生率が必要である。このために本推計では、日本人女性の年齢別出生率と外国人女性のそれとの関係を、近年の実績から得られる出生率モーメント(年齢別出生率の合計、平均出生年齢ならびに出生年齢の標準偏差)間の関係として求め 注21)、これを用いることで、前節において策定された日本人女性の出生率に対応する総人口の出生率を求めている 注22)。なお、推計計算の過程において必要となる外国人女性から生ずる日本国籍児数については、その年齢別発生率について近年の実績を平均して用いた 注23)。

注21)1987〜2005年について得られた日本人女性、外国人女性それぞれの年齢別出生率のモーメント間の関係を、数理関数(ロジスティック関数)によってモデル化した。 

注22)手続きはすべて出生順位別出生率に対して適用され、その総計として出生率が求められた。 

注23)日本人男性を父とする場合、外国人女性から日本国籍児数が生ずる。外国人女性の生んだ児のうち、この日本国籍児数の割合は近年安定的に推移しているため、本推計では2000〜05年実績値について母の年齢別に最大および最小値を除いた平均値を算出し、これを用いた。 

 これらの出生率構成に対応する人口動態統計と同定義の出生率(外国籍女性が生んだ日本国籍出生児も含めた出生率)ならびに合計特殊出生率(下式参照)は、日本人女性、外国人女性の人口構成に依存するため、人口推計の結果として算出されるものである。将来人口推計の出生率仮定について、こうした複数定義の出生率を扱うことは推計手法を著しく複雑なものとするが、人口の国際的交流が進展した人口状況を正確に再現するためには必須の仕組みである。

 なお、推計時点における直近年次となる平成18(2006)年については、人口動態統計月報ならびに速報により年次途中までの出生の状況が把握できる )。それらの動向によれば2006年は前年の急な出生低下の揺り戻し効果もあり、出生数、率ともに前年同時期を上回っており、年次変動が生ずることが見込まれた。したがって、本推計においてもこれを反映することとし、コーホート出生率法による仮定に対し2006年についてのみ月別実績値を用いて補正を行った(結果についてはW-1仮定値表を参照)。

 表V-3-7ならびに図V-3-9に、結果として得られた将来年次の合計特殊出生率の推移をその前提となる日本女性の出生率とともに、仮定の別に示した(いずれも死亡中位仮定との組み合わせによる)。出生中位仮定に対応する合計特殊出生率は、平成17(2005)年の実績値1.26から平成18(2006)年に1.29となった後、平成25(2013)年の1.21まで穏やかに低下し、その後やや上昇に転じて平成42(2030)年の1.24を経て、平成67(2055)年には1.26へと推移する。

 同様に、高位の仮定における人口動態統計と同定義の合計特殊出生率は、平成17(2005)年の実績値1.26から平成18(2006)年に1.32となった後、平成42(2030)年に1.53を経て、平成67(2055)年には1.55へと推移する。低位の仮定における人口動態統計と同定義の合計特殊出生率は、平成17(2005)年の実績値1.26から平成18(2006)年に1.27となった後、平成38(2026)年に1.03台まで低下し、その後わずかに上昇を示して平成67(2055)年には1.06へと推移する。

注24)推計時点において7月までの人口動態統計月別概数による母の年齢別出生数、ならびに9月までの速報値(出生総数)を得た。

 図V-3-9には、合計特殊出生率の推移とともに、推計結果として算出される年次別出生数を出生仮定別に示している(死亡中位仮定との組み合わせによる)。2030年以降はいずれの仮定においても合計特殊出生率はほとんど変化しないが、母親となる女性人口が漸次減少していくことによって、出生数はいずれの仮定においても減少が続く。

(5) 出生性比の仮定

 出生数を男児と女児とに分けるためには出生性比(女児数100に対する男児数の比)を仮定する必要があるが、過去の出生性比を観察すると年次変動はきわめて小さいため、本推計では、2001〜2005年の5年間の実績値である105.4を平成18(2006)年以降一定として用いた。

V.推計の方法と仮定
 1.推計の方法
 2.基準人口
 3.出生率の仮定
  (1) 近年の出生動向
  (2) 出生率の推計方法
  (3) コーホート出生指標の仮定設定
   1)仮定設定の方法と参照コーホート
   2)平均初婚年齢と生涯未婚率の推定
   3)夫婦完結出生児数の推定
   4)離死別・再婚効果
   5)コーホート出生仮定値
  (4) 年次別出生率の推計結果
  (5) 出生性比の仮定
 4.生残率の仮定(将来生命表)
  (1) 近年の死亡動向
  (2) 生残率仮定設定の方法
  (3) 将来生命表の推計方法
  (4) 将来生命表の推計結果
 5.国際人口移動の仮定
  (1) 近年における国際人口移動の動向
  (2) 国際人口移動の仮定設定
   1)日本人の国際人口移動
   2)外国人の国際人口移動
   3)国籍異動について
 6.参考推計(超長期推計)について