V.推計の方法と仮定

3.出生率の仮定

(3) コーホート出生指標の仮定設定

 3) 夫婦完結出生児数の推定

 夫婦完結出生児数とは、一般に夫婦が最終的に生んだ子ども数を表すが、本推計では初婚どうし夫婦における妻50歳時の平均出生児数として定義している。夫婦完結出生児数は、夫、妻の結婚年齢によって異なる。とくに妻が若くして結婚した夫婦では完結出生児数は多く、逆に遅く結婚した夫婦では少ない。この関係は、出生動向基本調査から得られる初婚年齢別にみた妻40歳代の夫婦の平均出生児数(図V-3-7)から定量的に推定される )。こうして定式化された妻の初婚年齢による夫婦完結出生児数の回帰モデル(ロジスティック回帰モデル)を前節において求めた将来コーホートの年齢別初婚率に対して適用することによって、各コーホートの妻の平均完結出生児数を推計することができる。こうすることによって、いわゆる晩婚化などの結婚年齢分布変化にともなう夫婦出生力変化を捉えることができる。

注17)実際には、妻の初婚年齢と出生順位ごとの出生頻度を求め、出生確率を推定する。

 しかしながら、調査によれば近年夫婦の子どもの生み方には変化がみられ、とくに1960年代生まれの世代では、実際に計測される完結出生児数が妻の初婚年齢から期待される完結出生児数より少なくなっている(図V-3-8)。60年代以降に生まれたコーホートはまだ出生過程の完結に至っていないが、途中経過をみるかぎり先行のコーホートより水準が低下しており、完結出生児数にも影響が及ぶものと考えられる。したがって、夫婦出生力の将来仮定値については、結婚年齢変化だけでなく結婚後の出生力変化を捉える必要がある。

 本推計においては、こうした結婚後の行動変化にともなう出生力変化を期待夫婦完結出生児数に対する係数で表現し、結婚出生力変動係数κと呼んでいる。すなわち、夫婦完結出生児数は、期待夫婦完結出生児数と結婚出生力変動係数の積として表される。したがって、その将来仮定値はそれぞれの要素の投影の結果として求まる。

 まず期待夫婦完結出生児数は、上記のモデルとあらかじめ推定された女性コーホートの初婚年齢分布(前節参照)を用いて投影を行う )。これより参照コーホートの初婚年齢分布にもとづく期待夫婦完結出生児数CEB*は、中位1.87人、高位1.91人、低位1.82人と推定された。

 つぎに、結婚出生力変動係数κの投影は、出生動向基本調査から求まる妻1935〜65年生まれコーホートの夫婦出生順位別完結出生確率の推移に関数を当てはめることによって行った。ただし、高位仮定については、参照コーホートにおいて従来の水準 )に戻るものと想定し、結婚出生力変動係数が参照コーホートにおいて1.0に復帰するものとした。中位仮定、低位仮定においては妻1953〜65年の実測値の趨勢を用い、指数関数を当てはめて、低下傾向が減衰する推移を中位仮定とし、参照コーホートに向かってほぼ直線的に低下する推移を低位仮定とした。その結果、参照コーホートにおける結婚出生力変動係数κの値は、中位仮定で0.906、高位仮定で1.000、低位仮定で0.838 となった。

 以上の結果得られた将来の夫婦出生力に関する仮定値は、前節において記述した初婚年齢分布変化の3仮定に対応して、それぞれ以下のとおりである。

 (中位仮定)

 期待完結出生児数は、昭和30(1955)年出生コーホートの実績値2.12人から、中位として仮定された初婚年齢分布の変化によって順次低下し、参照コーホートである平成2(1990)年出生コーホートの1.87人に至り、平成17(2005)年出生コーホートまでほぼ同水準で推移するが、以降は1.87人で変わらない。一方、夫婦の出生行動の変化を示す結婚出生力変動係数は、妻昭和10(1935)〜29(1954)年出生コーホートの夫婦を基準(1.0)として以後低下し、参照コーホートの0.906を経て、平成17(2005)年出生コーホートで0.902に至り以後は変わらない。これらの積により求まる夫婦完結出生児数は、昭和30(1955)年出生コーホートの実績値2.16人から、参照コーホートである平成2(1990)年出生コーホートの1.70人を経て、平成17(2005)年出生コーホートで1.69人まで低下し、以後は変わらない。

 (高位仮定)

 期待完結出生児数は、高位として仮定された初婚年齢分布の変化によって参照コーホートの1.91人を経て、平成17(2005)年出生コーホートまでほぼ同水準で推移するが、以降は1.91人で変わらない。一方、結婚出生力変動係数は、妻が昭和10(1935)〜29(1954)年出生コーホートを基準(1.0)として以後一旦低下するが、参照コーホートまでに再び1.0に回復して以後は変わらない。これらの積により求まる夫婦完結出生児数は、参照コーホートの1.91人を経て、平成17(2005)年出生コーホートまでほぼ同水準を維持し、以後は1.91人で変わらない。

 (低位仮定)

 期待完結出生児数は、低位として仮定された初婚年齢分布の変化によって参照コーホートの1.82人を経て、平成17(2005)年出生コーホートの1.81人まで低下し、以降は変わらない。一方、結婚出生力変動係数は、妻昭和10(1935)〜29(1954)年出生コーホートの夫婦を基準(1.0)として以後低下し、参照コーホートの0.838を経て、平成17(2005)年出生コーホートで0.825に至り以後は変わらない。これらの積により求まる夫婦完結出生児数は、参照コーホートの1.52人を経て、平成17(2005)年出生コーホートの1.49人まで低下し、以後はで変わらない。

注19)妻1935〜54年生まれコーホートの平均とした。

V.推計の方法と仮定
 1.推計の方法
 2.基準人口
 3.出生率の仮定
  (1) 近年の出生動向
  (2) 出生率の推計方法
  (3) コーホート出生指標の仮定設定
   1)仮定設定の方法と参照コーホート
   2)平均初婚年齢と生涯未婚率の推定
   3)夫婦完結出生児数の推定
   4)離死別・再婚効果
   5)コーホート出生仮定値
  (4) 年次別出生率の推計結果
  (5) 出生性比の仮定
 4.生残率の仮定(将来生命表)
  (1) 近年の死亡動向
  (2) 生残率仮定設定の方法
  (3) 将来生命表の推計方法
  (4) 将来生命表の推計結果
 5.国際人口移動の仮定
  (1) 近年における国際人口移動の動向
  (2) 国際人口移動の仮定設定
   1)日本人の国際人口移動
   2)外国人の国際人口移動
   3)国籍異動について
 6.参考推計(超長期推計)について