V.推計の方法と仮定

3.出生率の仮定

(3) コーホート出生指標の仮定設定

 2) 平均初婚年齢と生涯未婚率の推定

 晩婚化、非婚化といった結婚行動の変化は、1970年代半ばからの出生率低下の全過程に深く関わり、現在も進行中であるとみられる。将来の出生率に関する見通しを得る上では、結婚動向を見極めることが重要な過程となっている。実際、上に述べた参照コーホートの合計特殊出生率の算定式においても、晩婚化を表す平均初婚年齢 afm 、ならびに非婚化を左右する生涯未婚率 γは、全体に影響する重要な位置を占めている。しかしながら、年齢別初婚率について、一般化対数ガンマ分布モデルによる統計的推定が可能なのは、ある程度まで初婚過程を終えたコーホートに限られている。とくに参照コーホート以降の年少コーホートに至っては、未だ初婚過程に入っておらず、初婚率の実績値がまったく得られないので、統計的推定を行うことはできない。こうした場合、年長コーホートですでに得られている実績値ならびに統計的推定値の時系列的趨勢を観察し、これを将来へ投影することによって仮定値を策定することになるが、上述のように結婚動向は将来の出生水準を大きく左右するため、できるだけ精度の高い仮定値を設定することが求められる。そのためには、仮定設定に対して複数の方法によるアプローチや検証を行うことが望ましいと考えられる。

 本推計では、初婚のさまざまな指標について検討を行った結果、年齢別初婚ハザード率の時間的変化について一定のパターンがみられることに注目した 注15)。すなわち、近年日本人女性の初婚ハザード率は20歳代で急速に低下している反面、30歳代以上ではあまり変化していない。一般に晩婚化が進行する際、若年のハザード率が下がり、その後の年齢のハザード率がこれを補う形で上昇する。しかし、わが国の場合後年齢であたかもハザード率に上限があるかのような推移がみられる。こうした動きは、結果として生涯未婚率の動向を大きく左右する。そこで将来コーホートの生涯未婚率を見通す方法として、これら年齢ごとのハザード率の年次変化を観察し、それらの趨勢に対して数理関数の当てはめによる投影を行い 注16)、参照コーホートに対して得られた年齢別初婚ハザード率から年齢別初婚率を再構成することによって、その生涯未婚率を推定した。このようにして求めた将来年次の年齢別初婚率を、一般化対数ガンマ分布モデルによって投影された年齢別初婚率と比較し、その整合性を確認した上で、上記で得られた参照コーホートの生涯未婚率を仮定値として採用した。その際、直近20年(1985〜2004年)のハザード率の趨勢に対して、その変化が参照コーホートに向けて収束するケースを中位仮定とし、ほぼ直線的に継続するケースを低位仮定とした。また、ハザード率が直近10年(1995〜2004年)の平均水準に止まるケースを高位仮定として設定した。また、これらに対応する一般化対数ガンマ分布モデルの平均初婚年齢をあわせて仮定値とした。

 上記の手続きによって得られたコーホートの平均初婚年齢と生涯未婚率の仮定値は、出生3仮定についてそれぞれ以下のとおりである。

 (中位仮定)

 コーホート別にみた女性の平均初婚年齢は昭和30(1955)年出生コーホートの24.9歳から平成2(1990)年出生コーホートの28.2歳を経て、平成17(2005)年出生コーホートで28.3歳に至り以後は変わらない。生涯未婚率は昭和30(1955)年出生コーホートの5.8%から平成2(1990)年出生コーホートの23.5%を経て、平成17(2005)年出生コーホートで23.6%に至り以後は変わらない。

 (高位仮定)

 コーホート別にみた女性の平均初婚年齢は平成2(1990)年出生コーホートの27.8歳まで進み、平成17(2005)年出生コーホートまでほぼ同水準で推移し以後は変わらない。生涯未婚率は平成2(1990)年出生コーホートの17.9%を経て、平成17(2005)年出生コーホートで17.1%に至り以後は変わらない。

 (低位仮定)

 コーホート別にみた女性の平均初婚年齢は平成2(1990)年出生コーホートの28.7歳を経て、平成17(2005)年出生コーホートで28.8歳に至り以後は変わらない。生涯未婚率は平成2(1990)年出生コーホートの27.0%まで進み、平成17(2005)年出生コーホートで27.4%に至り以後は変わらない。

注15)年齢別初婚ハザード率とは、各年齢で未婚に残存している者に対する初婚確率に相当する。

注16)二重指数関数を用いた。変化の少ない30歳代以降の年齢に対しては指数関数による当てはめ(対数ハザード率への直線の当てはめ)でも十分であるが、20歳代でのハザード率の低下パターンをよりよく表現するためには二重指数関数が適していた。当てはめには1985年から2004年までの20年間の初婚率の実績値を用いた。

V.推計の方法と仮定
 1.推計の方法
 2.基準人口
 3.出生率の仮定
  (1) 近年の出生動向
  (2) 出生率の推計方法
  (3) コーホート出生指標の仮定設定
   1)仮定設定の方法と参照コーホート
   2)平均初婚年齢と生涯未婚率の推定
   3)夫婦完結出生児数の推定
   4)離死別・再婚効果
   5)コーホート出生仮定値
  (4) 年次別出生率の推計結果
  (5) 出生性比の仮定
 4.生残率の仮定(将来生命表)
  (1) 近年の死亡動向
  (2) 生残率仮定設定の方法
  (3) 将来生命表の推計方法
  (4) 将来生命表の推計結果
 5.国際人口移動の仮定
  (1) 近年における国際人口移動の動向
  (2) 国際人口移動の仮定設定
   1)日本人の国際人口移動
   2)外国人の国際人口移動
   3)国籍異動について
 6.参考推計(超長期推計)について