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国立社

会保障・人口問題研究所

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10 介護保険

 

 1995(平成7)年2月から、老人保健福祉審議会において、高齢者介護問題に関する審議が開始された。同審議会は、同年7月に中間報告「新たな高齢者介護システムの確立について」をまとめ、その後3つの部会で審議を行い、1996(平成8)年1月に第2次報告「新たな高齢者介護制度について」を出し、同年4月に最終報告「高齢者介護保険制度の創設について」を発表した。それによって、介護保険制度の全体像はほぼ明らかになったが、議論の焦点となっていた市町村保険者の是非、被保険者の範囲、保険料の賦課および徴収方法、現金給付(介護手当)等については、委員の間の意見対立を集約するに至らず、最終報告では両論または数論を併記した報告となっていた。老人保健福祉審議会は、最終報告書をふまえて厚生省が介護保険制度の具体的な試案を作成することを求め、それを受けて再び老健審で検討するということとなった。

 こうした状況のなかで、かねてから介護保険制度の検討を行ってきた与党(自由民主党・社会民主党・新党さきがけ)福祉プロジェクトチームは、老人保健福祉審議会の最終報告書の提出後ただちに厚生省に対して介護保険制度試案の作成を要請した。厚生省の介護対策本部は、与党プロジェクトチームの協力を得て「介護保険制度試案」を作成し、同年5月に老人保健福祉審議会に提出した。そこでは懸案となっていた論点に関して、市町村を保険者とし、被保険者は40歳以上として第一種(65歳以上)と第二種(40歳以上65歳未満)に分け、現金給付は行わないといった内容になっていた。厚生省試案に対して老人保健福祉審議会の審議では地方団体から異論が出され、試案の修正をしたうえで、老人保健福祉審議会および社会保障制度審議会に提示された[1]。続いて6月に厚生省は「介護保険制度案大綱」を老人保健福祉審議会と社会保障制度審議会に諮問し、両審議会から了承する旨の答申を得たが、市町村保険者に反対する地方団体の意向を反映して自民党内の反対が強く、法案の国会提出は見送られ、次期国会での提出を目指すこととなった[2]

 その後、与党主導のもとで、各地で6回の公聴会を開き、地方行政団体との意見調整を行った。与党は公聴会で得られた意見等をふまえて法案要綱を修正し、同年9月に与党は合意に達した[3]。1996(平成8)年11月に「介護保険法案」が国会に提出され、法案は3回の国会における審議を経て、1997(平成9)年12月成立した。その後、約2年4か月の準備期間を経て、2000年4月から介護保険法が施行された[4]

 介護保険の概要は以下の通りである。(1)保険者は市町村と特別区、(2)被保険者は40歳以上で、そのうち65歳以上を第1号被保険者、40歳以上65歳未満の医療保険加入者を第2号被保険者とする、(3)保険給付の財源は、給付費用の1割を利用者負担、残り9割のうち半分を公費(その2分の1を国、4分の1ずつを都道府県と市町村が負担)、半分を保険料(その3分の1を第1号被保険者、3分の2を第2号被保険者が負担)でまかなう、(4)第1号被保険者の保険料は主として公的年金から天引きされ(年金額の低い者は市町村が直接徴収)、第2号被保険者の保険料は医療保険料に加算して徴収(被用者は労使折半)される、(5)要介護認定は、訪問調査結果をコンピュータ処理した第1次判定の後、学識経験者で構成される介護認定審査会が第1次判定とかかりつけ医の意見書をもとに行う第2次判定によって行われる、(6)要介護認定で要支援と要介護度1〜要介護度5と認定された者には、本人の申請に基づき保険給付が行われる、(7)保険給付は在宅サービスと施設サービスがあり(要支援と認定された者は在宅サービスのみ)、在宅サービスは訪問系サービス・通所系サービス・短期入所系サービス等13種類の給付、施設サービスは介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・介護老人保健施設・介護療養型介護施設の3種類の施設による給付がある、(8)要介護者の選択により、ケアプランの作成と計画的なケアを行うケアマネジメントを受けることができる、(9)在宅介護サービスの給付限度額(月額)は、要支援が61,500円、要介護1が165,800円、要介護2が194,800円、要介護3が267,500円、要介護4が306,000円、要介護5が358,300円であるが(地域やサービスによって多少金額が異なる)、グループホーム(痴呆対応型共同生活支援)など一部の在宅サービス、ケアプラン作成、施設サービスには支給限度額は設けられていない、(10)利用者負担には月額37,200円(低所得者には減額措置がある)の上限があり、それを超えた負担額は請求により払い戻される、(11)介護給付を行った介護サービス事業者には介護保険から介護報酬が支払われる(国保連合会が審査支払機関)、(12)市区町村に介護保険特別会計が設けられて、3年間の中期財政運営が行われ、保険財政の安定のために調整交付金、財政安定化基金、市町村相互財政安定化事業などが講じられている。

 介護保険法の実施に先立って、1999(平成11)年10月、与党(自由民主党・自由党・公明党)が、政策課題合意書のなかで「高齢者の負担軽減、財政支援の検討を行う」としたことを受けて、同年11月「介護保険の円滑実施のための特別対策」を定め、第1号被保険者の保険料について軽減措置を講じた[5]

 また、介護保険制度の実施にあたって、各地方公共団体で要介護者等の実態を調査し、将来の介護サービスの必要量等を見込んで、5年を1期(最初は2000年度から2004年度まで)とする「介護保険事業計画」(市町村介護保険事業計画および都道府県介護保険事業支援計画をいう)を作成し、それをふまえて介護サービスの供給体制の整備が図られた。なお、老人福祉法に基づく老人保健福祉計画(市町村および都道府県で作成)は、地域における老人保健福祉事業全般にわたる計画で、介護保険事業計画を内包するものであることから、老人保健福祉計画の作成・見直しにあたっては介護保険の対象とならない施策についても配慮することが必要とされている。

 1999(平成11)年度で新ゴールドプランが終了したが、介護保険制度の施行という新たな状況に適格に対応するため、1999年11月に「今後5か年間の高齢者保健福祉施策の方向(ゴールドプラン21)」が策定され、2000(平成12)年度から開始された。そこでは、介護サービス基盤の整備に加え、介護予防、生活支援等が推進することにより、高齢者の自立支援を図っていくことが目的とされている。

                                   (土田武史)

 



[2]厚生省「介護保険制度大綱:介護保険の財政試算」、老人保健福祉審議会「介護保険制度案大綱について」、社会保障制度審議会「介護保険制度の制定について」を参照。

[3]自由民主党・社会民主党・新党さきがけ「介護保険法要綱案に係る修正事項」を参照。

[4]厚生省令「介護保険法施行規則」、その他の省令を参照。