法と社会保障研究会
研究目的
社会保障は、公的な主体が国民の権利・自由を侵害する作用の側面は少なく、一定の給付を行うものであるため、どのような法制度を採用するかは、基本的には立法府あるいは行政府の広い裁量に委ねられている。しかしながら、社会保障もわが国の法制度の一部であるから、憲法を頂点とした既存の法体系の枠組みの中で制度・政策を考える必要がある。また、社会保障は国民の生存権の保障に直接的に関わる制度であり、制度そのものの妥当性の検討に加え、政策決定の過程や制度の運営に関する手続きの適正性、妥当性の検証も重要な課題である。これらの問題意識に基づき、本研究事業では、第一に、既存の法解釈論、法政策論を踏まえ、社会保障制度のあり方に関して法学的観点からの検討を行い、現在、研究の場、あるいは政策策定の場で議論されている政策オプションにつき、どのような法制度の仕組みが考えられるか、第二に、政策策定の過程や社会保障制度の運営に関する手続きのあり方を適正性や妥当性の観点から検討し、これらを通じ、国立社会保障・人口問題研究所(以下「社人研」という。)で行われている政策研究等に資する基礎的な資料を提供することを目的とする。具体的には、法学の基礎的な研究として、社会保障関連の事例に関する判例研究を行う研究会(以下「判例研究会」という。)を開催し、その成果を研究所で刊行している『社会保障研究』に掲載するとともに、上記判例研究で取り上げた事例に関連する法政策についての研究を含め、社会保障に関係する法律問題、及び法政策の課題についての基礎的研究を行う。
研究計画
本プロジェクトでは、上記の目的を達成するために、研究会の開催とその成果の発表を行う。まず、法学の基礎的な研究として、社会保障関連の事例に関する判例研究を行う研究会を開催し、その成果を研究所で刊行している『社会保障研究』に掲載する。各会の報告者(執筆者)は『社会保障研究』の幹事が編集委員会に諮った上で選出する。
第二に、社会保障に関係する法律問題、及び法政策の課題に関する検討・分析を行う
研究実施状況
所外の研究者の協力を得ながら、社会保障法判例研究会を開催し、報告者は判例研究を執筆し、また、同時にその判例の政策的意義等について社会保障と法政策として『社会保障研究』に掲載している。
また、上記以外の社会保障に関係する法律問題、及び法政策の課題に関する検討・分析については、今後、適宜公表する予定である。
プロジェクトメンバー
所内担当
所外委員
プロジェクトの成果
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『社会保障研究』掲載論文(公表順)
社会保障と法政策一覧
社会保障判例研究一覧
『社会保障研究』掲載論文(分野別)
医療・医療保険
年金
労働保険(労災保険・雇用保険)
介護・社会福祉(介護保険、児童福祉、障害者福祉等)
生活保護・生活困窮者支援
「社会保障と法政策」及び「社会保障判例研究」の意義
『社会保障研究』の前身である『季刊社会保障研究』においても「社会保障判例研究」が掲載されていたが、『社会保障研究』では、従来の「社会保障判例研究」を維持し、その前段として「社会保障と法政策」を置いている。判例研究はある意味非常に専門技術的であり、その内容は法学あるいは法律に明るくない者にとっては容易には理解しがたい(ただこのようなことは法学に限らない)。しかし、判例研究は法学研究の重要な一分野であり、その内容を「薄める」ことは、少なくとも法学研究者にとって執筆の意味もそれを閲読する意義も失われる恐れがある。そこで、『社会保障研究』の目的の1つが学際性であることを踏まえ、判例研究自体は維持するとともに、その前段として「社会保障と法政策」を置き、判例研究で取り扱っている事例に関連して、当該判決の意義や政策的な課題などを論じるものとしたのである。
他方で、社会保障の事例は、その事例の背景たる政策との関わりが大きい。ただ、ある特定の事例の社会的な影響、ひいてはそこから要請される法政策のあり方等は、判例研究の主たる目的からは若干離れる事柄であり、仮に言及されるとしても、例えば「判例評釈の枠からは外れるが」といった枕詞を伴って末尾に簡潔に記述されることが多い。「社会保障と法政策」はこれらを独立して論じるという趣旨であり、判例研究で取り扱った事例の社会的な意義、あるいは、惹起される法政策の課題を正面から考察することにより、判例研究で取り扱った事例の意義もより明確化される。また、「社会保障と法政策」は、法学研究者以外の者にとって示唆のある内容とすべきこととしており、そしてこのことは『社会保障研究』の目的の1つである政策指向性にも適合したものである。