研究助成元
厚生労働科学研究費補助金(政策科学総合研究事業(統計情報総合研究事業))令和5年度~7年度
研究目的
ICD-11(国際疾病分類第11版)は2019年5月に世界保健総会で採択され、2022年1月に発効した。第10版の採択から29年を経て、医学とそれをとりまく情報環境の進展もあり、大項目数が22章から28章へ、収載コード数は1万6千から3万5千へと拡大、伝統医学(26章)や生活機能(V章)、拡張コード(X章)の追加など、その内容と構成は拡張された。
長年使われてきたICD-10とそれに応じた日本における死因分類、とりわけ基本分類、簡単分類、年次推移分類は、1995年のICD-9からICD-10への改訂時の死因構造を色濃く反映しており、近年の死因構造に追随できていない点が少なくない。またその前回改定時に心疾患が急に減少するなど死因統計制度の変化は実際のデータに影響を与える。医療の進歩と長寿化により、例えばICDでは診断名不明確な病態とされている老衰による死亡が総死亡数の10.6%を占め、心不全を死因とする死亡の増加、自宅における死亡の死因把握など「死因不明社会」克服の施策はいまだ万全ではない。
また、ICD-11の詳細性・拡張性は、死亡統計はもとより疾病統計において活用されるべきものである。従来から疾病統計として用いられている患者調査に付け加え、医療サービスのほとんどが同一の支払い制度に基づいているわが国における医療・介護レセプトデータは他国には見られない貴重なデータであり、それらを用いて、ICD-11の詳細性を生かした疾病分類を作成しデータ利用を推進する必要性は高まっている。がんについては、全国がん登録の罹患集計にICD分類が用いられ、今後ICD-11にどのように対応するか検討が必要となっている。精神医療においてはICDによる疾病名とは別次元で病態別分類を用いるような、多元的な分類法の必要性が高まっており、ICD-11の拡張性が生かせる可能性がある。さらに、ICD-11にはV章が設定され、ICFやWHODASといった、生活機能に関わる分類を死因・疾病や拡張コードに連結することも可能となり、その具体的手法が模索されているところである。
このような状況のなか、本研究は、長期的、国際的に整合的で、ICD-11の詳細性、多次元性、拡張性を活用し、日本の死亡・疾病の状況を効率的に把握できる新たな死因・疾病分類表を提案することで、我が国の死因・疾病統計の向上を図ることを目的とする。
研究内容
以下の項目について研究を行い、その内容に応じた国内外学会、WHO-FIC等国際会議にて情報発信と情報収集を行う。研究結果は死亡診断書・死体検案書の記入マニュアルや研修モジュールに提供可能な形式に整備する。
1. 長期的、国際的に整合的で、ICD-11の詳細性、多次元性、拡張性を活用した新たな死因・疾病分類表の提案
2. 課題のある死因(老衰、心不全、外因死等)のICD-11枠組での適切な把握手法の提案
3. 患者調査、NDB、介護DB、DPCデータ等を用いたICD-11枠組みにおける適切な疾病分類の検討(がん、精神医療を含む)
4. ICD-11 V章を生かした生活機能・介護の統計分類の検討