ページ内を移動するためのリンクです。
(1)研究目的
本研究の目的は,引退過程における中高年の生活実態を明らかにし,引退過程が健康と医療行動,就業行動
によって,どのような影響を受けるのかを経済学的・社会学的な分析枠組みを用いて解明する。とくに1946-
49年生まれと1971-74年生まれのベビー・ブーマー(以下,BB)世代は,人口分布における特異な現象では
あるが,日本固有の社会問題ではない。BB世代という国際比較可能な概念として位置づけなおし,引退過程
における普遍的な側面と世代に特徴的な側面の分離を通じてその特質を解明する。日本社会は高齢社会を迎
え,今後も引退後の生計を支える若年者の負担は増大することが避けられない。引退者の規模がこれまで以
上に大きくなると,現在の中高年における各世代の引退過程の同質性が高い場合には,1946年以前に出生し
た世代と比較して,「団塊」世代の人口規模に応じて社会保障の機能(給付)は増大することが見込まれる。
各世代の異質性が高い場合,あるいは「団塊」の世代のみが,その前後の世代と異質性が強い場合には,社
会保障機能(給付)の柔軟性が求められるだけではなく,現行のあり方の検討に加え,多様なオプションの
可能性を検討する必要がある。本研究では,人口規模の大きさのみが強調されるBB世代の概念整理と多様な
要因を技術的に丁寧に分離し,今後の社会保障の再配分議論に向けた整理をおこなうことにある。
(2)研究計画
本研究プロジェクトは,大きく3つの体制をもち研究を進め,それを研究代表者(西村)が統合する。研
究体制は,@BB世代の就業意識・就業継続意欲,引退(離職・無職化)過程における就業の効果,ABB世
代の引退(離職・無職化)における健康要因とその他の規定要因の効果,B平均余命の違いが就業継続/ 引退
決定にもたらす効果の検証である。@は酒井,Aは野口,Bは泉田が担当し,西村は@を中心に研究統括者
として,分担研究者と相互に研究協力をおこなう。今年度は,日本に加え,各国のBB世代の特定化と,先行
研究の整理をおこないながら,研究計画で示した各調査の取得と結果表の整備をおこなう。これは主に西村
と酒井が担当する。国際比較によるCOHORT分析を可能にするデータ整備をおこない,整備されたデータに
基づいてメンバー間で頻繁に意思疎通・研究会をおこなう。
さらに,引退決定要因については,日本のBB 世代に面接調査をおこない補完する。ここでは,たとえ同じ
理由のようにみえても,就業継続/ 引退決定それぞれに影響を与える“潜在的な”可能性を確認しなければな
らない。こうした基礎的な手続きを丁寧に実施する。引退期の中高年者と社会保障の関係は,年金の就労に
与える効果についてのみ検討が行われてきた。しかしながら,引退期の中高年者には,大別すると所得リス
クと健康リスクがあり,これらは少なくとも7つのリスクで構成される。それは,( 1 )定年退職による所得
低下及びそれに伴う信用力低下,( 2 )住宅,( 3 )健康低下,( 4 )自分の親の介護,( 5 )配偶者との離死別,( 6 )
子世代の所得の不安定,( 7 )子を抱え続けるリスクである。これまでは個別に対応されてきたものであるが,
社会保障制度に転嫁する可能性が大きい。あるいは,社会保障制度の充実により,個人・世帯がより大きな
リスクを抱え込むように誘発される可能性もあるだろう。このことを確認できるように,団塊の世代において,
ベビー・ブーマーとの差異化を技術的におこなったうえで,上記のようなリスクが存在するのか否かを確認
することが課題となる。それゆえに,慎重な実証的検証を踏まえて計画を実行していく。
(3)研究組織の構成
研究代表者 西村幸満(社会保障応用分析研究部第2室長)
研究分担者 酒井 正(社会保障基礎理論研究部研究員),野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2室長),
泉田信行(社会保障応用分析研究部第1室長)
(4)研究成果の公表(本年度分の場合は,研究成果の公表予定)
学会,研究会等で研究成果の報告を行い,報告書などにて成果を公表する予定である。