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(1) 研究目的
医療・介護・福祉等に関わる人々(福祉マンパワー)の確保・定着に関わる課題が,地域的な人手不足や
分野別の人手不足,正規・非正規職員の労働条件格差などを例として明らかになり,対策が採られ始めてい
る(平成18年7月「医師の需給に関する検討会報告書」,平成20年7月「介護労働者の確保・定着等に関す
る研究会中間取りまとめ」)。しかし,現場では,ニーズに応じた医療・介護従事者の不足,非正規職員の待
遇改善等の課題が残されている。これらの課題は,若年労働力の減少や労働市場の変化など従来とは異なる
社会経済状況と関連している。従って,福祉マンパワーの確保・定着を図るためには,働く人々のインセンティ
ブ(誘因)と技能向上,ニーズに応じた人材配置等を可能にする組織体制を,賃金等人件費を含む社会保障
財政とのバランスを保ちながら整備・拡充していくという,制度横断的な課題に応えることが必要である。
このような問題意識から,本研究では,福祉マンパワーの全体把握を,時系列データに基づく実証分析と
制度分析を合わせて行い,これらの分野で人々に働く誘因が与えられかつ社会保障財政を維持していくこと
のできる制度間に共通した要素と条件を明らかにし,今後の政策に応用可能なエビデンスを提供することを
目的として,研究を行う。
(2) 研究計画
本研究では,専門職に就く人々の社会的背景やインセンティブには多様な要素が関係するため,経済学の
みならず,教育社会学,心理学,社会保障法学,準市場論,制度分析などを応用し多角的に分析する。研究
方法としては,福祉マンパワーの統計データによる全体把握,専門職従事者の教育・社会的背景の分析,福
祉マンパワーに関連する制度分析・社会保障法学的分析,及び「国民生活基礎調査」等の再集計による福祉
マンパワーに影響するニーズ把握,ニーズ需給に関する実証分析や対費用効果のシミュレーション分析,並
びに国際比較研究を実施する。研究項目は,次の通りである。
@ 福祉マンパワーの統計による全体把握と制度分析:福祉マンパワーとなる人々の就業意識と教育・入
職経路等との関連性の分析,福祉マンパワーの就業インセンティブと賃金水準・賃金格差に関する比
較研究,福祉分野における雇用制度の比較制度分析,特定健康診査・保健指導のコストと医療保険財
政に関する研究)。
A 実証分析:介護・福祉における家族と社会サービスの代替・補完関係に関する分析,介護・福祉サー
ビス提供の制度改善と人的資源の専門性に関する制度分析,ライフサイクルにおける医療・介護ニー
ズの推計に基づく医療介護財政の分析,世帯構成・所得格差の変化を踏まえた社会サービスのマイク
ロ・シミュレーション分析,人件費・管理コストを考慮した医療・介護財政と地方財政との関係に関
する分析。
B 国際比較研究:EU及びドイツ等の社会サービス提供と専門職確保に関する政策の研究,介護力に着目
した人的資源の育成・定着の条件と国際協力に関する研究。
平成23年度(2年目)は,1年目のヒアリング・福祉マンパワー関連統計作成等の分析を踏まえ,福祉マ
ンパワーの就業離職等の社会経済的要因の分析,福祉マンパワーを支える教育・健康・人的資本と社会保障
に関する分析,「国民生活基礎調査」等の再集計及び個人情報保護に留意したアンケート調査を用いた福祉マ
ンパワーと社会保障財政との関係に関する実証分析,及び国際比較研究を行う。3年目は,社会経済状況の変
化に応じて拡張した統計データによる福祉マンパワーの全体把握と分析を行い,研究成果をワークショップ
や機関誌等により一般に提供する。
(3) 研究組織の構成
研究代表者 金子能宏(社会保障基礎理論研究部長)
研究分担者 西村周三(所長),松本勝明(政策研究調整官),
東 修司(企画部長),山本克也(社会保障基礎理論研究部第4室長),
暮石 渉(同部研究員),佐藤 格(同部研究員),
酒井 正(同部研究員),稲垣誠一(一橋大学経済研究所教授),
岩木秀夫(日本女子大学人間社会学部教授),岩本康志(東京大学大学院経済学研究科教授),
西山 裕(北海道大学公共政策大学院教授),森口千晶(一橋大学経済研究所教授),
音山若穂(群馬大学教育学部准教授),八塩裕之(京都産業大学経済学部准教授),
湯田道生(中京大学経済学部准教授),
研究協力者 野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),
泉田信行(社会保障応用分析研究部第1 室長)
(4) 研究成果の公表
・ 刊行物
厚生労働科学研究費補助金政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業)『医療・介護制度における適切
な提供体制の構築と費用適正化に関する実証的研究』報告書として刊行する予定。