はじめに
将来推計人口の基本的性質と見方
推計結果の解説
仮定の解説
(1)合計特殊出生率1.26の意味
1)期間合計特殊出生率とコーホート合計特殊出生率
2)出産先送りによる期間合計特殊出生率の低下
a) 出産先送りによる期間合計特殊出生率の低下
b) コーホート合計特殊出生率と期間合計特殊出生率の比較
3)生み戻しによる期間合計特殊出生率の反転上昇
4)反転しない期間合計特殊出生率
(2)なぜ寿命は延び続けるのか
(3)国際人口移動の仮定とその効果
(4)将来推計人口の国際比較
(5)将来推計人口の描く日本人のライフコース
参考推計(条件付推計)
将来人口推計[報告書]

3.仮定の解説

(1) 合計特殊出生率1.26の意味

4)反転しない期間合計特殊出生率

 一方、わが国の合計特殊出生率の見通し(出生中位仮定)は、今後ほとんど上昇することはなく、現在の水準にとどまるというものである。

 これは一体どのような状況を意味しているのだろうか。

 先に図3-2において、近年、コーホート合計特殊出生率が低下し、期間合計特殊出生率に近づいていることを確認した。これはわが国では上述の出生率が回復した国々とは事情が異なっていることを示している。

 すなわち、わが国では出生年齢が遅くなるだけではなく、生涯に生む子ども数自体の減少が認められるのである。

 図3-4の中心のグラフが示す期間合計特殊出生率は、図3-1に示した1980年代と同様1.0の水準である。しかし、これを合成する複数の世代をみると、いずれの世代もコーホート合計特殊出生率が1.0である。こうなると先の欧州の国々のように晩産化が止まって出生率が回復するメカニズムは働かない。

 コーホート合計特殊出生率そのものが回復しない限り、期間合計特殊出生率はいつまでたっても低いままである。

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 平成18年12月推計の出生中位仮定において、2055年に想定されている状況というのは、このようすべての世代のコーホート合計特殊出生率が、極めて低い水準にあることを意味する。

 人口再生産の観点からみれば、合計特殊出生率が1.26で長期に推移するということは、人口置換水準の2.07に対して、61%しか置換力がない。

 すなわち、人口は1世代(約30年)ごとに61%に縮小して行く。これが2世代、3世代と続いて行けば、人口は急速に縮小して行くことがわかるだろう。

 しかし、そうしたマクロ的な効果よりも、むしろわれわれ国民の日常がどのように変わるかということの方がわかりやすいかもしれない。

 これまで日本では子どもを持たない女性は1割前後、一方夫婦の完結出生児数は平均で2人以上という状況の下に社会を維持してきた。しかし、出生中位仮定において想定されている将来の社会は、子どものいない女性が4割弱(37.4%)、夫婦の完結出生児数は 1.7人を下回るというものである。

 このことからわかるように、期間合計特殊出生率が、現在の低い水準に長期にわたってとどまるということは、決して出生や家族を取り巻く状況が安定することを意味しているのではない。むしろこれまで歴史上どんな国も経験したことのないような高い無子割合の社会が日本に実現することを意味している。

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