1.将来推計人口の基本的性質と見方
(2)将来推計人口の基本的性質
5)社会経済動態との関係
将来人口推計では、仮定として出生率、死亡率、ならびに人口移動率などのいわゆる人口学的変数のみを用いている。その際、景気の変動や人々の意識の変化などは、考えなくてよいのだろうか。
言い換えれば、社会経済動態と将来人口推計との関係はどのようになっているのだろうか。
これについて「日本の将来推計人口」は、社会経済的な動態を反映していないと考えることは誤りである。将来推計人口の前提となる人口動態事象(出生、死亡、ならびに人口移動など)の仮定推移は、それらの実績推移に基づいた投影であるが、これらの実績推移はすでに社会経済的な環境変化を反映している。
したがって、これを投影した結果は、やはり社会経済環境の変化を反映したものといえる。
しかし、そのような間接的な反映ではなく、もっと明示的に景気変動や意識変化を人口推計に取り入れることはできないだろうか。
これは主に3つの理由から、既存の公的推計では、行われていない。
第一に、多数ある社会経済要因をすべて取り入れることはできないから、要因の選択が必要となるが、この際にどれを用いてどれを用いないのかという要因の選別から生ずる恣意性は、公的な将来人口推計の要件である客観性、中立性と相容れない。
第二に現在、人口動態事象といかなる社会経済変数の間にも十分に普遍的な定量モデルは確立されていない。したがって、不十分なモデルを用いれば、推計の不確実性が増すことになる。
第三に、社会経済変化を人口変化に反映させるということは、その社会経済変化の将来推計を行わなくてはならないが、通常これを十分な精度で行うことは、人口変数の投影を単独で行うよりはるかに困難である。たとえば、数十年後にいたる景気の動向や人々の意識を推計することは、合計特殊出生率や平均寿命を投影するより難しいと考えられる。事実、労働力や消費動向などの主要な社会経済の見通しの策定は、将来推計人口に基づいて行われている。
以上の課題が解決しないかぎり、社会経済変化を明示的に将来人口推計に取り入れることは必ずしも推計の目的に寄与しないと考えられる(注)。実際、諸外国や国際機関による将来推計人口の例でも、社会経済変化を明示的に取り入れているものは見あたらない。
(注)ただし、人口動態と社会経済が一つのシステムをなしていることは事実であるから、それらの間の相互作用を明らかにし、3つの課題の克服を目指した研究を進めて行くことは重要である。
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