1.将来推計人口の基本的性質と見方
(2)将来推計人口の基本的性質
2)予測としての将来人口推計
一方で、将来推計人口は、「当たる」ことが最も重要な特質なのではないかという見方もあるだろう。将来の社会経済の計画を立てる上で、基礎となる人口が外れていたら、誤った選択をすることになるだろう。だから将来人口推計は、できるだけ正確に将来を言い当てることを目指すべきではないか。これは自然な見方だが、推計の指針として適切かどうかは、もう少し考えてみる必要がある。
このことを論じるためには、まず社会科学にとって予測とは何かという問題にふれる必要がある。
人口変動を含め、社会科学が対象とする事象について「予測」を行うということは、未来を言い当てるという種類の予測、すなわち予報(forecast)をするということとは異なる。
天体の軌道や天候などと違って、社会経済は人間が変えて行くものであるから、現在において定まった未来というものは存在しない。
したがって、科学的にそれを言い当てるという行為もあり得ないだろう。すなわち、将来の社会経済は、われわれ自身が今後にとる行動しだいで無数の展開の可能性があり、これを予測するということは、標本から母集団の平均値を推定するといった操作とは本質的に異なるものである。
すなわち、推定すべき真の値はわからないのではなく、(まだ)存在しないのである。そして、何よりわれわれ人間は、しばしば望ましくない予測がその通りに実現しないように行動する。
したがって、一般に社会科学における科学的予測とは、結果として将来を言い当てることに役割があるのではなく、科学的妥当性のある前提の下に、今後に何が起こり得るかを示すことを目的としている。将来人口推計についても、まったく同様である。そして、その前提としては、人口動態事象(出生、死亡、ならびに人口移動)の現状と趨勢が分析されて、用いられることになる。
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