3.仮定の解説

(2) なぜ寿命は延び続けるのか

2) 寿命の限界論と死亡率モデル

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 かつて専門家の間では、寿命は生物学的に決まっており、それぞれの種の寿命には一定の限界があるため、人間の平均寿命もやがて限界に近づいて延びが鈍っていくのではないかという見方が有力であった。もし寿命にこのような限界があるとすれば、若い年齢層では死亡がいっさい無くなる一方で、限界近くの高齢層で集中して死亡が起こるため、生命表における生存数曲線は徐々に長方形の形状に近づいていくことになる。このことは生存数曲線の「矩形化」と呼ばれている。図3-5はわが国の女性の生存数曲線の変遷をみたものであるが、たしかに矩形化を示し、平均寿命が延びてきた様子がみられる。こうした推移は、寿命に限界があるという見方を裏付けていたといえる。
 ところが、近年の生存数曲線の動きをみると、高齢層において、生存数が降下する年齢が、高齢側へシフトしていることがわかる。これは死亡の遅延とでも呼ぶべき現象であり、これにより寿命に限界があるという説には疑問が生じてきた。すなわち、寿命には限界を考えることができないとする見方や、存在したとしても現在想定されるよりもずっと高い年齢であるとする見方が有力視されるようになってきたのである。詳しくみると、これまであまり下がらないだろうといわれていた高齢層での死亡率低下が著しいことや、日本やスウェーデンなどの低死亡率の国で、死亡の最高年齢が徐々に記録を更新していることなどからも、これらの説が裏付けられる。

こうした事実や理論は、将来人口推計における寿命の人口学的投影に用いるべきモデルがどのようなものでなくてはならないのかに重要な示唆を与えている。先の観察は、投影にあたって死亡の遅延をよりよく表現できるようなモデルが必要とされることを示しており、平成18年12月推計においては、こうした指針に従って新たなモデルの開発が行われた。以下では、今回の死亡率投影のモデルにおいて、大きく改善された点についてみることにしよう。

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