はじめに
将来推計人口の基本的性質と見方
推計結果の解説
(1)人口減少のメカニズム―人口減少の世紀
1)人口置換水準
2)人口モメンタム
3)減少モメンタムの時代
(2)人口ピラミッドの変遷―人口高齢化を視る
(3)将来推計人口における仮定値改定の効果−推計結果の比較分析
(4)将来推計人口の不確実性と確率推計の試み
仮定の解説
参考推計(条件付推計)
将来人口推計[報告書]

2.推計結果の解説

(1)人口減少のメカニズム

2)人口モメンタム

 出生率が人口置換水準よりも高く、人口増加が継続してきた人口について考えよう。

 わが国の人口もかつてはそうであったし、現在でも発展途上国の多くはそうした状況にある。

 このような人口において、ある時、出生率が直ちに人口置換水準まで低下しても、その時点で人口規模が即座に一定になることはなく、しばらくは増加が続いて、かなり大きな規模に至ってから一定になるという現象がみられる。

 これは増加傾向にある人口が持つ慣性ともいうべき特性であるが、この特性を専門的には「人口モメンタム」と呼んでいる。

 その正体であるが、人口モメンタムは、人口構造、すなわち人口の年齢構成の中に潜在している。

 すなわち、人口は長期に人口置換水準を上回る出生率が続いた場合、若い世代ほど人口が多くなり、しばらくの間は親となって子どもを生む人口(再生産年齢人口)が増え続けるため、仮に一人ひとりが生む子ども数が減ったとしても、生まれてくる子どもの総数は減らないのである。

 だからそれぞれの世代の出生率(子どもの生み方)が、自身の世代を置き換えられない水準に低下しても、人口構造がそれを補ってすぐには人口減少を生じないということが起こる。

 実は、わが国の場合でも、この人口モメンタムが働いていたのである。このことを反実仮想のシミュレーションによって確認しよう。

 図2-2は、わが国の人口について、過去のいくつかの時点から出生率が直ちに人口置換水準となった場合(死亡率一定、国際人口移動はゼロとする)の仮想の人口推移を示したものである。

 このうち、最も上側にあるグラフは、1985年時点で出生率が人口置換水準となった場合の人口の推移である。これによれば、人口は1985年時点の水準で一定になるのではなく、しばらく増加を続け、かなり高い水準に達してから一定状態へと収束している。

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 こうした惰性を持った人口の推移は、他の時点で置換水準となった場合も同じように観察される。

 つまり、わが国の人口は、この間、出生率が下がって人口置換水準を下回ったとしても、年齢構造に組み込まれた増加方向の惰性によって人口増加が続いていたのである。

 わが国では、30年以上も以前から出生率が人口置換水準を下回っていたのに、最近まで人口増加が続いていたのは、こうしたメカニズムによるものである。

 ところで、図2-2によれば、置換水準に設定した人口推移は、その時点が遅くなればなるほどその後に到達するピークや最終的な収束水準が低くなることがわかる。

 これは遅い時点ほど、人口増加の惰性の強さ、すなわち人口モメンタムが少なくなっていたことを示す。

 そして1995年より後の時点では、出生率を人口置換水準に設定したにも関わらず、最終収束水準は出発時点の水準よりも低くなっている。これはわが国の人口が、この時点以降は、マイナスの惰性を持つに至ったとみることができるのである (注)。

(注) このようにある時点の人口のモメンタムの強さは、その時点以降出生率を人口置換水準に設定したときに最終的に収束する人口の水準を求め、これを当初人口で割った比によって表すことができる(この指標は静止人口比、または人口モメンタムの名称で呼ばれている)。これが1より大きければ人口は増加方向の惰性を持っており、1より小さければ減少方向への惰性を持っていることになる。

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