第5回人口移動調査の概要


国立社会保障・人口問題研究所



目次

  T.調査の概要

  U.移動の経験と居住地域

  V.現住地への移動理由

  W.出生県へのUターン移動                 

  X.親元からの離家、離家理由

  Y.5年後の居住地と移動理由    




T.調査の概要


 1.第5回人口移動調査の概要

 近年、日本の人口問題といえば、出生力の動向が話題を集めているが、地域レベルでは、人口移動も人口の動きに依然として重要な役割を果たしている。市町村間をこえて移動する人は、現在でも年に数百万人にのぼり、移動が地域人口に与える影響は依然大きい。 また、最近では、大都市での「都心回帰」現象や、大都市圏の転入超過の再拡大など、新しい傾向も観察されている。高齢化にともない、子世帯、あるいは老親との同居を目的とする移動なども、一層注目を集めるようになっている。
 国立社会保障・人口問題研究所は、人口移動の動向とそれが与える社会的な影響をあきらかにするため、ほぼ5年ごとに全国調査を行ってきた。 1976年以来5回目にあたる今回は、平成13(2001)年7月1日に、厚生労働省大臣官房統計情報部、都道府県、保健所を設置する市・特別区および保健所の協力を得て、調査を実施した。


 2.調査方法および回収状況

 本調査の対象母集団は、全国の世帯主および世帯員である。 調査対象者の抽出にあたっては、平成13年国民生活基礎調査で設定された調査地区(5,240地区)より300調査区を無作為に選び、その調査区内に住むすべての世帯の世帯主および世帯員を調査の客体とした。 調査票の配布・回収(密封)は調査員が行い、調査票への記入は原則として世帯主に依頼した。 主な調査事項は、世帯員の居住歴、将来の居住地域、居住経験のある都道府県、離家経験などであった。
 今回、調査票を配布した世帯は14,731世帯であり、うち13,606世帯から調査票が回収された(配布票に対する回収率92.4%)。 このなかから、12,594世帯を有効票として分析の対象とした。 配布票に対する有効回収率は85.5%となる。
 分析対象者の地域ブロック別分布を、平成13(2001)年の10月1日推計人口(総務省統計局)と比べると(表T-1)、本調査での割合は東京圏・大阪圏といった大都市地域で低く、九州・沖縄で高い。 本調査はサンプル調査である以上、ある程度かたよりが生じるのは避けられないが、こうしたかたよりが生じる原因には、大都市地域では単身者が多く、配布・回収が他の地域にくらべ困難なことも考えられる。 他方、年齢5歳階級別割合をみると(表T-2)、15〜19歳で本調査の割合が低く、40〜54歳で高いが、すべての年齢層で±1%の範囲内におさまっている。




U.移動の経験と居住地域


 本調査では、生まれてから現在までの移動経験について、さまざまな側面を調査している。本節では、都道府県の境をこえる比較的長距離の移動経験をとりあげる。ここではとくに、居住経験のある都道府県・地域ブロック、出生地域と現住地域の関係について、集計結果を示す。


 1.居住経験のある都道府県数

 本調査では、世帯主とその配偶者を対象に、これまでに住んだことのある都道府県、および国外での居住経験の有無をたずねている。表U-1に、居住経験のある都道府県の数を示した(外国については、複数の国にいた場合でも1カ所として数えている)。 これによれば、世帯主と配偶者計20,492人のうち、ひとつの都道府県にしか住んだことのない人は、全体の37.5%にとどまっており、56.7%は2カ所以上の都道府県に住んだことがある(5.8%は居住県の数不詳)。 居住経験のある都道府県の平均数は2.13であった。
 居住都道府県の数が1の人々は、出生地の都道府県以外に住んだことがないことになるが、全体でみれば、こうした人々は少数派である。他方、残りの約6割は、出生都道府県とは別の場所に住んだことがあり、さらに3割弱の人々は3カ所以上の都道府県で居住経験がある。 このことから、都道府県をこえて移動し、複数の都道府県に住むことは、一般的な経験であるといってよいだろう。
 次に、居住経験のある都道府県の平均数を、年齢・性別などの属性ごとにみると(表U-2)、年齢別には、30〜34歳および55〜64歳で値が高い。また、男女別では男で、現在住んでいる地域ブロック別では、東京圏で値が高くなっている。
 年齢別にみた場合、都道府県をこえる比較的長距離の移動は、一般に、10代後半から20代で経験する人が多い。現在、30〜34歳、55〜64歳の人々が10代後半から20代だった時期は、それぞれバブル経済期と高度成長期にあたり、その前後にくらべ長距離移動が盛んであった。 居住都道府県数の平均値が高くなったのは、こうした社会状況が関係していると思われる。男女別には、一般に、男性のほうが長距離移動をしやすいといわれるが、今回の調査でも同様の結果がでている。 また、大都市圏居住者で平均値が高いのは、大都市圏には、非大都市圏から進学や就職で移動してきた人が多く住むためだろう。


 2. 居住経験のある地域

 居住経験のある地域をより具体的にみるため、大都市圏/非大都市圏別、地域ブロック別に、居住経験の有無を示した(表U-3表U-4)。
 大都市圏での居住経験の有無を、世帯主および配偶者の総数について、年齢別に観察すると、居住経験を有する人の割合は、15〜19歳以降、年齢があがるにつれて上昇し、30〜34歳で71.1%となる。その後は一旦低下するが、55〜59歳で再び高い値を示し、それ以降は低水準となる。こうした特徴は、平均居住県数の場合と似ているが、30〜39歳で55〜59歳より高い値を示す点が異なる。 調査時点で30代だった人々は、高度成長期に大都市圏に大量に移り住んだ人々の子どもが多く含まれる世代で、大都市圏生まれの割合が高い集団だといわれる。30代での大都市圏居住経験の多さには、こうした世代別の出生地域の特徴も関係していると考えられる。
 大都市圏での居住経験を男女別にみると、全般に男のほうが高い割合を示す。ただし、これを年齢別にみると、15〜19歳で20ポイント以上あった男女差が、年齢の上昇とともに急速に縮まっている。男と女で大都市圏に移動してくるタイミング(年齢)が異なることが示唆される。
 現住ブロック別に、居住経験のある地域ブロックの割合をみると(表U-4)、現住地域がどのブロックの場合でも、1割以上の人(世帯主および配偶者)が東京圏に住んだ経験をもつ。東京圏での居住経験割合が最も高いのは北関東(38.8%)で、東北、北関東、中部でも高い値を示す。 他方、最も割合が低いのは中国地方(10.5%)である。大阪圏に住んだことのある割合は、近畿より西で高いが(例えば近畿43.4%)、北関東から北の地域では非常に低い。名古屋圏に居住経験のある人の割合は、自地域(=名古屋圏)以外ではいずれも1割に満たない。 その他の特徴としては、九州・沖縄地方に居住経験のある人の割合が、名古屋圏から中国地方までの地域で1割をこえている。九州・沖縄地方とこれらの地域との間で、人口交流の盛んなことが推察される。
 前回調査と比較すると、東京圏での居住経験割合が、北海道や北関東、九州・沖縄などでやや高くなり(前回は、それぞれ14.4%、35.9%、16.2%)、中国地方でやや低くなっている(同15.5%)。 ただし、どの現住ブロックでも1割以上の人が東京圏に住んだ経験をもつ点は共通している。名古屋圏に居住経験のある人の割合が、名古屋圏以外では1割に満たないことなども同様であった。


 3. 出生地域と現住地域

 本調査では、世帯員全員に出生地をたずねている。人口移動の観点からいえば、出生地のデータだけでは、現在までの移動経験の詳細は分からないが、例えば、各地域出身者の現在の地域分布や、各地域における出身地別の人口割合などを知ることはできる。表U-5に、出生ブロックと現住ブロックとの関係を示した。 ある地域ブロックで生まれた人が現在どのブロックに住んでいるかをみると(「(1)現住ブロックの割合」)、出生ブロックと現住ブロックが同一の人の割合は、どの出生ブロックでも7割以上を占める。同一ブロックに住む人の割合が高いのは、出生地が東京圏(90.4%)や名古屋圏(88.8%)の場合で、低いのは四国(74.2%)や中国(76.4%)、東北(77.1%)の場合である。 他方、現住ブロックごとに出生ブロック別の人口割合(「(2)出生ブロックの割合」)をみると、同一地域出身者の割合が低いのは、東京圏(68.1%)や大阪圏(76.4%)で、高いのは東北(94.7%)や北海道(91.8%)、四国(91.4%)である。
 一般に、東京圏などの大都市圏では、地元出身者は地元にとどまる傾向が強い。しかし、他地域から大量の人が移動してくるので、現住人口にしめる地元出身者の割合は相対的に低くなる。他方、四国などの非大都市圏では、かなりの人々が大都市圏などに移動するため、地元に住む人の割合は低くなる。 ただし、他地域から流入する人は相対的に少ないので、現住人口にしめる地元出身者の割合は相対的に高くなる。表の数字は、地域ごとのこうした移動の傾向を反映していると考えられる。 なお、大都市圏に隣接する北関東や近畿では、(1)と(2)の値の差が小さいことが特徴となっている。これらの地域では、地元出身者の流出と他地域出身者の流入のバランスがとれていると考えられる。
 前回と比較すると、九州・沖縄地方では地元出身者が同一ブロックに住む割合が上昇し(前回は75.3%)、北海道では、現住人口にしめる地元出身者の割合が上昇した(前回87.7%)。また、北関東では、現住人口にしめる地元出身者の割合が低下している(前回87.7%)。 こうした変化は、最近の人口移動・人口分布の変化傾向を示すと考えられなくもないが、同時に、分析対象者の地域別割合のかたよりに影響を受けている部分もあると思われる(T章参照)。 なお、東京圏や名古屋圏では、地元出身者が同一ブロックに住む割合、現住人口にしめる地元出身者の割合のいずれも、前回とおおむね同じであった(前回は、東京圏で92.0%、68.4%、名古屋圏では87.7%、78.7%)。
 東京圏について、現住人口にしめる地元出身者の割合を年齢別にみると(図U-1)、14歳未満の92.9%から、年齢があがるにつれほぼ一律に低下し、50歳代前半で53.2%になる。それ以降の年齢では、65歳以上でやや上昇傾向がみられるが、基本的には横ばいであった。 前回の調査にくらべると、30歳未満ではほとんど値が変わらないが、30〜49歳で前回の値を2〜9%程度上回っている。この年齢層では、前々回調査から一貫して割合が上昇しており、若いコーホートほど、各年齢時点での東京圏出身者の割合が高くなっている。 この原因としては、若いコーホートほど、進学や就職で東京圏に移動する人が減った、あるいは東京圏出身の人口が多い、などのことが考えられる。
 他方、前回、前々回では、60歳代前半の割合が、その前後の年齢層より高かったが、今回はそうした傾向はみられなかった。コーホートの観点でみれば、今回60〜64歳のコーホートは、以前から地元出身者の割合が低かったと考えられる部分もあるが(例えば前々回50〜54歳時には48.1%)、同時に、50歳代から60歳代にいたる際に、前回や前々回とは異なる動きがあったと考えることも可能である。 地元出身者割合の上昇は、他地域出身者が転出するか、地元出身者が他所から戻ってくるか、あるいはその双方が同時におきた場合に観察される。今回は、こうした動きがなかったか、あるいは、あっても、それを相殺するような変化(例えば地元出身者が転入したが、他地域出身者も転入した、など)があったものと思われる。




V.現住地への移動理由


 人口移動の要因には、経済構造の変化等のマクロ的な要因と、個人の就職や結婚等のライフイベントにみられるミクロ的な要因が密接にからみあっている。ここでは、ミクロ的な視点から、人は何をきっかけとして現在の居住地へ移り住むようになったかを探る。本調査では、現住地への移動者を対象に移動理由を尋ねている。 この設問から過去5年間(1996年〜2001年)における現住地への移動者を対象に移動理由、男女別にみた移動理由、さらに年齢階級ごとの移動理由について概観する。また、前住地別の移動理由についても簡単にふれる。


 1.移動理由の分類

 本調査では、対象者が現住地へ移動してきた理由を18項目の中から1つ選択する問を設定している。ここでは便宜上、18項目を以下の7つに分類し、分析を進める。表V-1の左側が実際に設問に含まれた移動理由の選択肢、右側が分類上の項目を表している。


 2.全対象者の移動理由

 性別不詳を含む全対象者の移動理由分布を表V-2に示す。最も多い移動理由は「住宅を主とする理由」で、移動者全体の35.7%、次が「結婚・離婚」で全体の15.7%を占めた。1番目の理由と2番目の理由の間には、2倍以上の開きがあり、住宅事情が圧倒的に大きな要因であることが伺える。3番目に多い理由は、「職業上の理由」で13.0%、続いて「親や配偶者の移動に伴って」の11.0%であった。
 今回の分析のため再集計した前回調査の結果とくらべると、「結婚・離婚」や「親や子との同居・近居」の割合が増える一方、「親や配偶者の移動に伴って」「職業上の理由」で低下している。「親や配偶者の移動に伴って」(随伴移動)の割合は、その時々で、各個人が移動の決定者をだれと考えるかによる部分が大きく、数値が安定しないきらいがある。 ただし、未婚率の上昇などにより単身者割合が増えている状況では、この理由の割合が低下するのは、ある程度一般的な傾向と考えることもできる。他方、「職業上の理由」の減少には、ながびく不況の影響も考えられる。


 3.男女別移動理由

 移動理由は、男女の間でどのような違いが見られるのだろうか。表V-2を見ると、男女ともに「住宅を主とする理由」が最も多く、男性で35.1%、女性で35.9%であった。男性では「職業上の理由」(18.6%)、続いて「結婚・離婚」(13.4%)という順番になっている。
 一方、女性は「結婚・離婚」が全体の18.1%を占めており、「住宅を主とする理由」に次いで2番目に高い理由となっている。「親や配偶者の移動に伴って」が14.8%で3番目に多い理由であった。男性は「住宅」、「職業」、「結婚・離婚」の三つで男性全体移動理由の3分の2(67.1%)を占める。一方、女性は「住宅」、「結婚・離婚」、「親や配偶者の移動に伴って」の三つで女性全体の移動理由の3分の2強(68.8%)を占める。
 前回に比べると、男性は、「職業上の理由」、女性では「入学・進学」の減少が顕著である。一方、男女ともに、「親や子との同居・近居」と「結婚・離婚」で、割合の増加がみられた。


 4.年齢別移動理由

 移動理由の分布は、男女間で異なることを観察した。それでは、移動理由は年齢によってどのように変わるのであろうか。表V-3は、男女別に年齢ごとの移動理由を示している。表の上半分が男性であり、下半分が女性である。表の一番右は、年齢階級ごとの過去5年間における移動者の割合を示している。なお、0〜14歳の子どもの移動は、随伴移動が多く含まれるので、以下の分析では15歳以上を中心にみる。


 (1)男性

 まず、男性をみると、移動者の割合は年齢を経るごとに高くなり、25歳から34歳で半数を超え、それ以後、減少する傾向にある。年齢階級ごとの移動理由に注目すると、15歳から19歳までの高校・大学進学にあたる年齢階級で「入学・進学」が33.3%と、この年齢層における移動の3分の1を占める高さを示している。20歳から24歳では、「職業上の理由」が30.7%と最も高い。しかし、「入学・進学」も26.0%と引き続き大きな移動理由となっている。 25歳から34歳では、「結婚・離婚」が30〜31%を占め、最も多い理由となっている。35歳から74歳では一貫して「住宅」による移動が最も多い。 75歳以上では移動者数、割合共に非常に低くなるため、安定的な傾向は把握しにくいが、この年齢層では「住宅」と「親や子との同居・近居」の二つの理由が大きい。

 (2)女性

 各年齢階級における最も大きな移動理由は、概ね、男性と共通している。異なるのは15歳から19歳時点での最も多い移動理由で、男性では「入学・進学」であったのに対し、女性では「住宅を主とする理由」(39.1%)となっている。 「入学・進学」による移動は、この年齢層において最も高くなっているが、それでも15.6%であり、男性の半分程度である。20歳から24歳では男性同様「職業上の理由」(27.8%)が最も多い理由となっている。 この年齢層では、男性は「入学・進学」による移動も26.0%と高い数値を示していたが、女性では9%に満たず、変わりに「結婚・離婚」が20.9%と高い。25歳から34歳の年齢層では「結婚・離婚」が最も大きな移動理由である。 特に25歳から29歳では、結婚による移動が非常に多く、過去5年間の間に現住居へ移動した女性の約半分は「結婚・離婚」によるものである。35歳から74歳では、「住宅」による移動が最も大きな移動理由となり、一貫して4割から5割を占めている。 75歳以上では、男性同様、移動者数、移動者割合ともに低く、「住宅を主とする理由」と「親や子との同居・近居」が主要な移動理由となっている。
 前回の割合との比較で目立つのは、男性では、15〜19歳、20〜24歳での「入学・進学」の上昇(それぞれ+15.0%、+10.9%)、30〜54歳での「職業上の理由」の低下(例えば、30〜34歳で-12.0%)、30〜39歳での「結婚・離婚」の上昇(30〜34歳で+8.3%)などであった。 他方、女性では、45〜54歳での「親や子と同居・近居」の上昇(50〜54歳で+8.7%)、25〜49歳での随伴移動の低下(30〜34歳で-14.9%など)、30〜39歳での「結婚・離婚」の上昇(30〜34歳で+6.7%)などであった。また、60歳代より上になると、男女ともサンプル数が小さくなるため、明確な傾向はつかみづらいが、男女とも、「親や子との同居・近居」の割合が、前期高齢者(65〜69、70〜74歳)で低下し(例えば70〜74歳では、男性-8.1%、女性-13.1%)、75〜79歳で上昇している。 本調査では、社会福祉施設等は調査対象になっていないので、ここでのデータは高齢移動全般の傾向を反映しているわけではない。ただし、子どもと同居する高齢者の割合は年々低下していることから、今回の前期高齢者の移動傾向も、高齢者をめぐる最近の一般的な状況を反映したものとも考えられる。


 5.前住地別移動理由

 表V-4は、前住地を「現住所と同一区市町村内」、「同じ県の他区市町村内」、「他県」、「外国」の四つに分類し、前住地と移動理由の関係を示したものである。県内の移動をみると、男女ともに「住宅を主とする理由」が占める割合は、同一区市町村の場合は半分、他区市町村の場合は、3割程度とほぼ共通している。一方、他県や外国からの長距離の移動を伴う移動理由には、男女の間で顕著な違いがみられる。 他県からの現住居への移動理由は、男性では「入学・進学」(11.6%)、「職業上の理由」(51.5%)が多いのに対し、女性では「入学・進学」は5.2%、「職業上の理由」は17.1%とそれほど多くはなく、「親や配偶者の移動に伴って」(30.5%)が最も多い移動理由となっている。外国からの移動にも同様の傾向が見られる。 男性では、外国からの移動の半分弱が「職業上の理由」であるのに対し、女性では「親や配偶者の移動に伴って」が半分弱を占めている。外国からの移動数は少ないので注意を要するが、移動距離が長くなるほど、男女間の移動理由の違いが大きくなることが示唆される。
 前回の割合と比較すると、男性では、同一区市町村内、および同じ県の他区市町村の「住宅を主とする理由」が大きく低下した(それぞれ-5.9%、-8.5%)。 また、他県の「親や配偶者の移動に伴って」も低下したが(-6.4%)、同じ県の他区市町村の「結婚・離婚」は上昇した(+5.3%)。女性では、他県の「職業上の理由」が上昇したが(+6.0%)、同じ県の他区市町村と他県の随伴移動は大きく低下している(それぞれ-7.2%、-15.6%)。前住地が外国のケースはサンプル数が小さく、明確な傾向をつかむことは難しい。




W.出生県へのUターン移動


 「Uターン移動」の用語は、帰還移動の表現として広く定着している。県を単位とする比較的簡単な移動パターン、すなわち出生地と現住地の2時点、およびこの2時点間の移動過程(移動体験)から、出生県を起点とするUターン移動を観察する。 出生県、現在の居住県とも同じ県の場合、個々人の現在(調査時点)までの移動歴で他県への転出経験がなければ県内定住とする。この間に他県への転出経験があれば出生県へのUターン移動として扱う。 出生県と現住県が別の県である場合は、これを県外移動(流出)者(Iターン移動)として扱った。したがって、ここで取り上げたUターン移動は、地方から大都市圏へ移動した者が出生県へ帰還するUターン移動のみを扱うものではない。
 世帯主とその配偶者を対象に、年齢別に県へのUターン移動を概観する(表W-1)。調査時点で、出生後一度も出生県以外で居住したことのない県定住者は、男子44.9%、女子51.4%と女子の方が男子よりも高い。これは、どの年齢をみても例外なく女子の方が県外の居住経験は少なく県内定住率が高い。 逆に、出生県以外の居住者を含めた県外へ転出した経験があることを示す県外他出率をみると、全体では男子55.1%、女子48.6%、年齢層別にもいずれも男子で高く女子で低い。男女の移動距離にみられる特徴は、男子が長距離移動、女子は近距離移動が多いとされることに一致する。 男子では30歳未満の年齢層で県外他出経験がもっとも高く、65〜69歳、70〜74歳の高齢では県外への他出経験者は50%を切る。女子の場合、60歳代前半までは年齢による差はあまり明確でなく50%程度で推移するが、男子同様、65〜69歳、70〜74歳で40%前後まで低下する。
 県外移動経験者のうち現在も出生県以外の他県に居住する者、すなわち県外流出者の割合(Iターン率)は、男子では全体で68.2%、若い年齢層から年齢の上昇に即して低下し、40歳代後半、50歳代前半を底にして50歳代後半から60歳代まで再び高齢期に向かい反転上昇している。50歳代後半以降の世代で他県流出割合が高く出身県への再移動率が低くなっている。 女子の場合、県外への他出経験率は全体で72.6%と男子に比べ低い。しかし、一度県外へ他出するとそのまま他県で居住する県外流出率は男子に比べ高い。年齢別には、30歳代前半をピークに40歳代前半まで低下し、その後反転60歳代後半まで逆に上昇している。
 つぎに、県外他出経験者のうち出生県へ帰還移動した県Uターン者割合(県Uターン率)は、全体では男子で31.8%、女子では27.4%を示している。県への帰還移動者は、県外移動経験者のうち県外定住者の余数であり、男子の方が女子に比べ出生県への帰還移動率は高い。 男女とも40歳代をピークにして60歳代後半を底に、高年世代に向かって順に割合が低下している。Uターン移動率が低い世代は高度経済成長期に地方から大都市圏へ大量に移動した世代で、そのまま都市に定着した都市第一世代が多く含まれているものと考えられる。




X.親元からの離家、離家理由


 1.離家経験

 本調査では世帯主と配偶者のみを対象として離家の経験、離家年齢、離家理由を尋ねている。離家経験者とは、「親元から離れて暮らした経験がある」者とする。表X-1は離家経験、離家年齢について、世帯主・配偶者の性別、出生コーホート別、居住地を大都市圏・非大都市圏別に示している。
 男子の場合、1939年以前生まれの世代では、大都市・非大都市とも7〜8割前後の離家経験率であったが、1940年以降の世代ではいずれも8割を超え、1950年代生まれは9割程度、1960年代、1970年代では95%を超えている。離家経験のないまま結婚後も親元で暮らす割合は急激に減少している。 戦後子ども数の減少で長男割合が上昇したにもかかわらず、離家経験率が上昇していることは、きょうだい関係に囚われず、長男であっても親元を離れて世帯分離をするのが普通の状態であることを示している。女子の場合、婚姻は他出のケースが普通であるため、離家経験率では男子を上回っている。 1950年以降の出生世代では、離家経験率はいずれも90%を超え、1960年代、1970年代の出生世代では大多数が離家を経験している。


 2.離家年齢

 戦後進行した晩婚化、高学歴化等の要因は、親との同居期間を長くし、離家年齢を上昇させてきた。もともと離家のタイミングは、女子の方が結婚まで親元にいる場合が多いため遅いとされる。居住する地域別には大都市圏の方が非大都市圏に比べ離家の年齢は高い。 例えば、1960〜1969年代出生の女子では、非大都市圏では21.2歳であるのに対し、大都市圏では22.2歳となっている。ここでは、結婚をしている世帯主、配偶者のみを対象としており、若い世代では今後離家する可能性のある者が現在は含まれていない。 したがって、今後離家年齢は上昇するものと考えられる。


 3.離家理由

 離家理由は、入学・進学、就職・転職・転勤、結婚、住宅事情・通勤通学、親からの自立・独立などである(表X-2)。
 男子では、1940年代までの出生世代では入学・進学での離家は20%を切る程度であったが、1950年以降の世代は大学への進学率が上昇し、進学をきっかけとする離家割合は30%を超えるまでに上昇している。 地域別には1950年代以降の出生世代では、非大都市圏の方が進学を理由とした離家割合で大都市圏を数パーセント程度上回っており、1970年代の出生世代では40%を超えている。
 非大都市圏居住の男子の場合、1930、40年代の出生世代では6割程度が就職・転職を理由とする離家が最大であった。1960年代以降の出生世代では、就職等と進学を理由とするケースが相拮抗するようになり、1970年代の出生世代では進学が離家の第一理由となっている。(1970年代の出生世代、進学42.0%,就職等33.9%)。 大都市圏男子でも就職等による離家が最大であったが、1950年代の出生世代以降進学離家が割合を増加させており、1970年代の出生世代では、離家理由の1位となっている。また、1960年代の出生世代以降親からの独立・自立が1割を超えている。
 女子の場合、非大都市圏では就職等と結婚による離家から、次第に就職等をきっかけとした離家が増加、1950年代の出生世代では離家理由の1位となるが、1960年代出生世代では、再び結婚が最大となり、1970年代の出生世代では、結婚と進学がほぼ同じ割合で並んでいる(進学30.9%、結婚29.9%、就職等24.8%)。 大都市圏の女子の場合をみると、1950年以前生まれの世代では、継続的に就職等と結婚による理由が8割以上を占め、とくに結婚を理由とする離家のウエイトが大きい。 1950年以降生まれの世代でも結婚が離家理由の1位である基本的なパターンに変化はないが、進学を理由とした離家も増加しており、1970年代出生世代では、離家理由の2位となり、就職による離家の割合を初めて超えた(結婚44.5%、進学22.2%、就職等17.9%)。また、親からの自立・独立を離家理由とする者も10.8%に達している。




Y.5年後の居住地と移動理由


 1.今後5年間の移動の見通し

 前回調査に引き続き、今回の調査でも今後5年間の移動の見通しについての調査項目を設けた。当然ながら、特に転勤や結婚による移動は見通しが立てづらいなどの理由により、見通しが実際とは異なるケースが少なからずあり得るが、将来の人口移動傾向を把握するための情報として、有用なデータであると考えられる。
 まず、今後5年間に移動するか否かの見通しについては、全体で16.4%が移動する見通しとなっている。これは前回調査と比較して大幅に低く、移動の鎮静化傾向を伺わせるが、留意すべき事項が2点ある。 一つは、移動するか否かが不詳の割合が11.0%(前回4.1%)にのぼっている点である。これら不詳の分が移動するか否かによって、移動率は大きく変化しうる。もう一つは、今回調査による過去5年間の移動実績が24.4%であり、前回調査による5年後に移動する見通しである割合20.5%をかなり上回っている点である。 サンプルが異なるため単純な比較はできないが、一般に、数年前には見通しが立たない移動が往々にして発生することを想定すると、実際の移動率は見通しよりも高くなる可能性がある。 今後調査を重ねていくうち、見通しと実際の移動率との関係も明らかになっていくであろうが、いずれにしても鎮静化傾向を裏付けるには、少々検討を要するであろう。
 続いて、年齢別の集計結果をみる(図Y-1)。過去5年間と今後5年間とを比較するが、過去と将来の年齢別移動を比較可能にするために、図Y-1では期末年齢を統一した形で表した。また上記のように、今後5年間については不詳分の割合も高いため、「現在と異なる住所」に「不詳」を含んだ割合と含まない割合とを併記した。 「不詳」がすべて「現在と異なる住所」となれば前者、逆にすべて「現在と同じ住所」となれば後者になり、今後5年間における移動割合は概ねこの範囲に落ち着くものとみられる。図Y-1によるとほとんどの年齢区分において、過去5年間の移動割合が、5年後「現在と異なる住所」に「不詳」を含んだ割合と含まない割合のレンジに収まっている。 裏を返せば、全体的には今後5年間の年齢別移動は過去5年間の年齢別移動と大差なく推移していくであろうと考えられる。しかし本図を少し詳細にみると、全体的に比較的若い年齢層において過去5年間の割合が「不詳」を含んだ割合に接近している。 とりわけ期末年齢が25〜29歳と30〜34歳では過去5年間の割合が「不詳」を含んだ割合を上回っており、今後5年間の移動割合が過去5年間よりも低下する可能性が高い。この年齢層は第二次ベビーブーム世代を含む1970年代の出生コーホートに概ね相当し、大都市圏生まれの割合が高くなっている。 20歳代〜30歳代の移動には就職や転職に伴うUターン移動が多く含まれていると考えられるが、大都市圏生まれの割合が高いことはUターン移動率の低下と関連すると思われるため、その点でここに示された5年後の移動見通しは合理的といえるだろう。 一方期末年齢が40歳代以上については、移動割合が概ね横這いで推移するものと考えられる。 老年層では不詳の割合も高まるため、実際にどのような移動率パターンになるかは流動的といえるが、40歳代〜50歳代にかけては、主として住宅事情や生活環境が原因となる比較的短距離の移動が、移動性向を支えているものと推察される。


 2.地域別にみた移動の見通し

 ここでは、現在の居住ブロック別に移動性向をみる。5年後が「現在と異なる住所」という回答割合がもっとも高いのは東京圏の19.2%、もっとも低いのは北関東の9.8%であり、「現在と異なる住所」に移動するか否かが不詳を含めた割合は名古屋圏が30.7%でもっとも高く、東北が21.7%でもっとも低くなっている(図Y-2)。 不詳の割合が高いため、ブロック間の差異は必ずしも明瞭ではないが、前回調査においても東北・北関東では低い割合となっており、これらブロックにおける継続的な移動性向の低さが認められる。
 次に、ブロックを大都市圏と非大都市圏に分けてパターン別の移動をみる(注1)。過去5年間との比較を可能にするために、過去5年に関しては「移動あり」のうち移動元が「不詳」と「外国」を除いたもの、今後5年に関しては「現在と異なる住所」のうち移動先が「わからない」「不詳」と「外国」を除いたものをそれぞれ移動総数とし、4パターン別の占める割合を算出した(表Y-1)。 市区町村内移動まで移動総数に含まれているため、当然ながら、過去・将来とも大都市圏内移動と非大都市圏内移動の割合が高く、大都市圏・非大都市圏間移動の割合は低い。大都市圏内移動と非大都市圏内移動の過去と将来との比較では、大都市圏内移動の割合はほぼ横ばいであるが、非大都市圏内移動の割合は若干低下傾向となっている。 これには様々な要因があり得るが、 大都市圏内では主に住み替えによる移動性向が高い反面、非大都市圏では若年層割合の減少が全体としての移動性向の低下に少なからず影響していると考えられる。また、大都市圏・非大都市圏間移動については、非大都市圏から大都市圏への移動割合が低下する一方、大都市圏から非大都市圏への移動割合は増大し、過去と今後で値が逆転している。 これをもって今後非大都市圏への人口移動が卓越すると即断することはできないものの、近年大都市圏のみならず非大都市圏における少子化傾向も著しく、それが大都市圏への人口移動ポテンシャルを弱める方向に作用していることは間違いないであろう。 しかし、前回調査による今後5年間の移動見通しを同類型別に集計すると、大都市圏→非大都市圏が8.2%、非大都市圏→大都市圏が4.5%となっており、大都市圏→非大都市圏の割合も前回調査と比較すれば低下している。今回調査における大都市圏居住者の分析対象者割合の低さが一つの要因として考えられるものの、大都市圏・非大都市圏間移動パターンは流動的であり、今後、移動の見通しと実際の移動との関連性を明らかにしていくことが不可欠といえる。


 3.移動理由

 5年後が「現在と異なる住所」と回答した人を対象に、移動理由の分布をみる。移動理由は、移動距離あるいは現住地の属性によって異なると思われるため、総集計のほか、現住地が「大都市圏」「非大都市圏」、また5年後の住所が「大都市圏」「非大都市圏」「わからない」の2×3 = 6パターン別に集計を行った。大都市圏・非大都市圏の区分は2と同じである。
 まず全世帯員の移動理由分布を表Y-2に示した。総数ベースでは、もっとも割合が高いのが「住宅事情」(18.0%)、次いで「結婚」(14.4%)、「随伴移動」(9.8%)の順となっている。さらにパターン別にみると、「住宅事情」の割合は「大都市圏内」と「非大都市圏内」で特に高く(それぞれ30.5%、20.2%)、近距離移動が主体であると同時に、5年後の住所「わからない」の割合が低いことから、移動先が比較的固まっていることが察せられる。 「結婚」については5年後の住所「わからない」が多く含まれているが、過去の移動理由別の移動パターンからみる限り「大都市圏内」あるいは「非大都市圏内」に落ち着く割合が高いものと思われる。
 移動パターン別にみると、「大都市圏→非大都市圏」では「随伴移動」(17.1%)、「親と同居等」(13.8%)の順で高く、世帯ごと移動するケースが多く想定される反面、「非大都市圏→大都市圏」では「入学・進学」(28.3%)、「就職」(22.0%)など、個人単位での移動が主体となっており、移動形態の違いがよく表れている。 5年後の住所「わからない」では、現住地が「大都市圏」「非大都市圏」ともに前述の「結婚」の割合がもっとも高い(それぞれ21.8%、17.5%)が、「就職」や「入学・進学」も非大都市圏からの移動において特に高くなっており、これらが実際にどのように動くかが興味深いところである。
 次に、移動主体として多くの場合実質的な権限を持つと思われる世帯主を抽出し、同様にパターン別集計を行った(表Y-3)。総数ベースでの移動理由一位は「住宅事情」(19.7%)で変わらないが、以下「転勤」(12.2%)、「生活環境上の理由」(9.4%)となっており(「不詳」を除く)、「随伴移動」(1.0%)は当然ながら低下する。 「転勤」や「転職」など、全成員についての移動理由より割合が大幅に高くなっている項目について、随伴移動が多く含まれるものと考えられる。
 大都市圏・非大都市圏間に注目すると、やはり「大都市圏→非大都市圏」の方が多いが、なかでも「転職」「定年退職」「親と同居等」などに非大都市圏志向が強く見受けられる。表Y-4は男性の定年世代を対象とし、前回調査と今回調査の移動理由分布を比較したものであるが、「定年退職」を理由とした移動の割合は全年齢層で軒並み上昇している。 全体として行き先は「わからない」がかなりの割合を占めているとはいえ、今後1940年代後半出生コーホートである第一次ベビーブーム世代の定年退職が本格化すると、コーホート効果が加わり、非大都市圏への移動数の増加も予想される。


注1図Y-2に記したブロックにおいて、北関東・東京圏・名古屋圏・大阪圏・近畿圏を大都市圏、その他を非大都市圏とした。

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