ページ内を移動するためのリンクです。


国立社

会保障・人口問題研究所

  • 文字サイズ


 

13 児童福祉

 

1.1980年代の動向

1980年代の児童福祉政策の中心的課題は、a. 保育、b. 児童手当、c. 国と地方の役割分担と費用負担、であった。ここでは、a. 保育を中心に概観することにする[1]

 

1.保育

1980年代の動向としては、以下の2点が重要である。第1に、認可外施設への対応が形成された。1980(昭和55)年3月以降、ベビーホテル問題がマスコミで取り上げられるようになり、さまざまな団体や政党から意見が表明された。例えば、全国保育団体連絡会「声明『ベビーホテル』問題について」(1981(昭和56)年)、自民党「ベビーホテル問題についての対策試案」(1981(昭和56)年)などである[2]。このような国民的議論を経て、1981(昭和56)年の児童福祉法改正によって、認可外施設に対する厚生大臣・都道府県知事の報告徴収および立入調査権限が設定された。第2に、多様化する保育需要への対応が主たる課題となった。入所措置児童数が1980年を頂点に減少に転じたため、中央児童福祉審議会「今後の保育対策の推進について意見具申(案)」(1988(昭和63)年)などが示すように[3]、その後は乳児保育、延長保育、夜間保育、障害児保育、そして一時的保育等の充実が課題と認識された。

なお、古典的課題である「幼保一元化」については、「それぞれの制度の中で整備充実を進める」とされ[4]、一元化に向けた議論は成熟しなかった。

 

2.その他の動向

障害児者施策については、1981年の国際障害者年を受けて、中央児童福祉審議会障害関係三特別部会「心身障害児(者)福祉の今後のあり方について」(1982(昭和57)年)がまとめられ、在宅福祉重視の方針等が打ち出された。また、母子保健については、臨時行政改革推進審議会「国と地方の関係等に関する答申」(1989(平成1)年)に基づき、1991(平成3)年に母子保健法が改正され、一部の事務が都道府県から市町村に移譲された。なお、国際的な動向としては、1989(平成1)年に「児童の権利に関する条約」が採択され、児童福祉の基本的視点が提示された。

 

2.1990年代の動向

1990年代の児童福祉政策については、主たる論点である、a. 少子化対策、b. 児童福祉法改正、c. 児童虐待、の3点を中心に概観する。なお、a. 少子化対策については、保育・育児相談・育児休業に焦点を絞る[5]

 

1.少子化対策1:保育

保育の動向としては、以下の2点が重要である。第1に「保育所のあり方」が政策議論の俎上に載せられた。まず1993(平成5)年に、保育所の地域開放や保育料徴収に応益原則を加味する必要性が指摘された(これからの保育所懇談会「今後の保育所のあり方について」)。また、1994(平成6)年には、「措置制度の維持・拡充」「直接入所制度の導入」という2つの利用方式が提示され、今後の検討が求められた(「保育問題検討会報告書」)。この報告書は、児童福祉法改正(後述)を導いただけでなく、社会福祉全体における措置制度見直しの途を開くことになった。第2に、1980年代から指摘されていた「多様な保育需要」への対応が本格化した。これは、いわゆる「1.57ショック」以降、少子化対策が重大な政策課題であると認識されたことによる。まず1994(平成6)年には、「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」が策定され、さらにエンゼルプランの具体化の一環として、「当面の緊急保育対策等を推進するための基本的考え方(緊急保育対策等5か年事業)」(1994(平成6)年)がまとめられた。この5か年事業では、低年齢児保育・延長保育・一時的保育の数値目標が明確に掲げられた。さらに、5か年事業の最終年度である1999(平成11)年には、「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について(新エンゼルプラン)」が策定され、低年齢児の保育所受入枠の拡大や延長保育の推進等に取り組むこととされた。

 

2.少子化対策2:育児相談

育児相談は、核家族化や都市化の進行等による家庭や地域の子育て機能の低下を背景に、その必要性が高まってきた。まず1989(平成1)年には「家庭支援相談等事業実施要綱」が定められ、児童相談所における電話相談事業等が実施された。また、前述の「緊急保育対策等5か年事業」の一環として、地域子育て支援センターの設置が進められ、育児不安についての相談指導や子育てサークルへの支援が実施された。なお、子育て支援センターの整備は、1999(平成11)年の「新エンゼルプラン」にも継続され、具体的な数値目標を掲げて取り組まれている。さらに、1997(平成9)年の児童福祉法改正により、児童養護施設等に附置される児童家庭支援センターが創設された[6]。このセンターも、児童・家庭・地域住民からの相談に応じ、必要な助言・指導を行うことを目的としている。

 

 

3.少子化対策3:育児休業

育児休業については、1992(平成4)年に「育児休業等に関する法律」が施行され、労働者は事業主に申し出て、1歳に満たない子を養育するための育児休業を取れるようになった。また、1994(平成6)年には「雇用保険法等の一部を改正する法律」が成立し、翌年から育児休業給付が支給されることになった。さらに、育児休業期間中の厚生年金保険料や健康保険料等の本人負担額の免除が、1995(平成7)年4月から実施された。

 

4.児童福祉法改正

児童や家庭を取り巻く社会経済環境の変化に対応した見直しが必要という認識から、1996(平成8)年3月に、中央児童福祉審議会に児童家庭福祉体系を検討するための基本問題部会が設置された[7]。同年12月に、3つの中間報告がまとめられた(「少子社会にふさわしい保育システムについて」、「少子社会にふさわしい児童自立支援システムについて」、「母子家庭の実態と施策の方向について」)[8]。これを受けて作成された児童福祉法改正案は、1997(平成9)年3月に国会に提出され、6月に成立した[9]。改正の主な内容は、以下の5つである。すなわち、それは、a. 保育制度の改正(利用者の選択制の導入、保育料負担を応能負担から均一的な負担方式に)、b. 児童福祉施設の名称および機能の見直し、c. 地域における相談支援体制の強化(児童家庭支援センターの創設)、d. 放課後児童健全育成事業の法制化、e. 児童相談所の機能強化である。

 

5.児童虐待

児童相談所に寄せられる虐待に関する相談件数は、1990年代後半から急速に増え続け、2000年度は1万7千件を超えた。このように急増する児童虐待に対し、当初は通知による指導の強化によって対応していたが[10]、より適切に対応するために、2000(平成12)年には「児童虐待の防止等に関する法律」が成立した[11]。この法律では、児童虐待の定義が明確にされ、国・地方公共団体の責務、虐待の発見・通告・措置・立入調査などの手続き、親権等が規定された。

 

(岩永公成)



[1] b・cについては、「児童手当」「社会福祉」を参照されたい。

[3]全国保育協議会「保育制度研究委員会報告」(1987(昭和62)年)など。

[4]臨時教育審議会第4次答申(1987(昭和62)年)。その他、一元化問題については、幼稚園及び保育所に関する懇談会「幼稚園及び保育所に関する懇談会報告」(1981(昭和56)年)、全国保育協議会「こんにち提起されている保育所・幼稚園問題(一元化論)に反論する」(1982(昭和57)年)、「緊迫化する保育所問題」(1984(昭和59)年)を参照のこと。

[5] a. 少子化対策のうち、全般的動向は「人口」を、児童手当については「児童手当」を参照されたい。

[6]児童家庭支援センターの設置運営について」(1998(平成10)年、児発第397号)を参照のこと。

[7]厚生省児童局「現行の児童家庭福祉体系の見直しについて」(1996(平成8)年)を参照のこと。

[8]中央児童福祉審議会基本問題部会中間報告書について」(1996(平成8)年)を参照のこと。

[10]児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について」(1997(平成9)年)、「児童虐待に関し緊急に対応すべき事項について」(1998(平成10)年)など。

[11]『児童虐待の防止等に関する法律』の施行について」(2000(平成12)年)を参照のこと。