人口の高齢化が進行するとともに老人を含む世帯が急速に増加するなど,国民の生活単位である世帯は急速に変化しており,厚生行政を進める上で世帯の実態を正確に把握することは重要な課題となっている。
この調査は,各世帯がどのように形成されているかという世帯動態を明らかにし,福祉施策の基礎資料として役立てるとともに,国民が将来どのような世帯で暮らすかを推計するための基礎資料となるものである。 調査は,人口問題研究所の行う人口問題基本調査の一環として,過去2回(1985年,1989年)の世帯動態に関する調査に引き続いて,1994(平成6)年10月15日に厚生省大臣官房統計情報部,都道府県,政令指定都市および保健所の協力を得て行われた。 なお,過去2回の調査では,個人については主に世帯主を調査したが,今回は世帯に属する18歳以上の個人すべてを調査している。この他,今回の調査はいくつかの点で過去2回の調査と調査方法が異なる。
調査は,全国の世帯主および18歳以上の個人を対象とし,平成6年国民生活基礎調査(厚生統計親標本設定)で設定された1,048の国勢調査区から無作為に抽出した200調査区内のすべての世帯について調査した。調査票の配布・回収は調査員が行い,調査票への記入は世帯主および18歳以上の個人の自計方式による。
調査票は9,599世帯に配布され,世帯票は9,029票(94.1%)回収,個人票は22,553票配布,21,350票(94.7%)回収された。このうち有効票は世帯票8,578票,個人票20,788票,有効回収率はそれぞれ89.4%,92.2%である。
◇ 世帯の現状 ◇
〔各人の所属世帯〕[親との居住関係]
18歳以上の各人が属する世帯規模で最も多いのは「4人世帯」24.5%,続いて「3人世帯」21.1%である。
家族類型別にみると,「夫婦と子供から成る世帯」に属する人が41.2%で最も多く,続いて「親と子供夫婦と孫から成る世帯」19.4%である。
[子との関係]
18歳以上人口のうち,自分の親が少なくとも1人生存している人は64.1%である。
若い世代ほど男女とも結婚後,自分の親との同居率は低下し,25-29歳では男18.8%,女4.7%である。今後の親の加齢にともなう再同居を考慮しても,長男や姉妹のみの長女の割合の増大からみて,同居を選ぶ傾向は弱くなっているといえる。
配偶者の親と同居するものは,45歳以下ではおおむね若いほど少なく,25〜29歳の男では3.8%,女では20.6%である。
親との同居を継続同居と再同居に分けると,40歳以上ではおおむね再同居の方が多い。
親がいる50歳以上の人について,親が施設に入っている人の割合は,男では8.7%,女では12.0%で女の方がやや高い。
65歳以上の高齢者で子をもつ人の割合は94.1%,子と同居している人の割合(同居率)は58.3%,子と別居している人の割合(別居率)は35.8%である。 年齢別にみると,若い高齢者ほど子との同居率は低くなり,65〜69歳で52.1%である。
子との同居率は65歳以上の有配偶者では男50.3%,女52.2%であるのに対し,死別者では男66.1%,女73.1%と高くなる。 65歳以上の高齢者の息子との同居率は49%,娘との同居率は13%で,子と同居している高齢者の中での娘との同居の割合は21%である。
65歳以上の高齢者が同居している子の配偶関係は63.4%が有配偶である。
子との同居を「継続同居」と「再同居」に分けると,年齢別にみて高齢ほど「再同居」が多くなるが,「継続同居」の状態にある高齢者は25.5%〜29.6%で,ほとんど年齢による差がない。
◇ 世帯の変化 ◇
[世帯の継続・発生・合併世帯の変化][世帯への参入と退出]
過去5年間に継続して存在した世帯(「継続世帯」)は調査した全世帯の87.2%で,残る12.8%は新たに発生した世帯である。継続世帯は世帯主が変わらなかった世帯81.4%と世帯主が交代した世帯5.8%に分けられる。
[世帯規模の変化]
過去5年間に世帯員の参入があった継続世帯は17.0%,退出があった世帯は30.5%で,参入と退出は均衡せず,世帯を縮させる方に強く働いた。
誕生によって世帯員が参入してきた世帯は10.9%に対して,進学・就職・結婚によって世帯員が退出した世帯は22.0%で,縮小期にある世帯が多い。
過去5年間に結婚による退出は継続世帯の11.1%で生じたが,結婚による参入は3.8%でしか生じておらず,世帯の主な出発点である結婚の多くは新世帯の分離,発生として起こっており,世帯の拡大,継続として起こっているものは少ないといえる。
[家族類型の変化]
継続世帯の世帯規模(世帯人員数)は5年間に14.6%の世帯で増加,24.3%の世帯で減少し,平均世帯規模は3.34人から3.24人に減少した。
[各人の世帯主歴]
継続世帯において世帯員の参入・退出によって,5年間に起こった変化のうちもっとも件数が多かったのは「親と子供から成る世帯」から「夫婦のみの世帯」への変化(全継続世帯の4.9%),いわゆる「空の巣化」であり,これらの変化の結果,全体として「夫婦のみの世帯」が14.8%から17.9%へ増える一方,「親と子供から成る世帯」が48.1%から45.1%に減少した。
[世帯主の交代]
18歳以上人口は世帯主41.8%と非世帯主58.2%に分けられ,5年間に新たに世帯主になった者(新世帯主)は7.8%,世帯主をやめた者は1.5%である。
新世帯主は男では20代後半,30代前半においてもっとも多い(28.6,24.0%)が,女では65歳以上で最も多い(5.3%)。
新世帯主を世帯主の交代によるもの(交代型)と交代によらないもの(新設型)に分けると,男の新世帯主では75.9%が新設型であるが,女の新世帯主は新設型が54.8%で,交代型(46.2%)も多い。
[子との同居の変化]
世帯主交代の発生した世帯(全世帯の5.8%)は,親世代以上から世帯主を継承した世帯(直系家族制的継承)3.1%と,夫の死により世帯主を妻が引き継いだ世帯(夫婦家族制的継承)2.3%とで大部分が構成される。
子を持つ人のうち,すべての子と別れて暮らしている「空の巣」にいる人は20.7%であるが,この5年間にその状態に移行した人は3.8%である。年齢別にもっともこの移行が多かったのは男では60代前半(18.8%),女では50代後半(19.9%)である。
◇ 家族的属性と家族ライフコース ◇
[きょうだい,出生,結婚][離家]
きょうだいの構成は1960年以後生まれではほぼ安定しており,きょうだい数(自分を含む)は2.48人,1人っ子の割合は6.5%,男性の中で長男の割合は68.1%,女性の中で男きょうだいを含まない姉妹のみの女性は42.9%,女性の中で姉妹のみの長女は23.2%である。
各自の子供数は1935〜49年生まれでは平均2.01人であるが,1950〜54年生まれでは1.91人,1955〜59年生まれは1.73人に減少している。子供を持っていない人の割合は,1955〜59年生まれ(30代後半)では20.0%に達している。
結婚期間5年ごとの有配偶女性の数を比較すると,ベビーブーム世代を含む結婚期間20〜24年の有配偶女性の数は,それ以後に結婚した,より若い世代に比べて約30%多い。
[親の死亡時の子の年齢と親死亡前の世帯状況]
親元を離れる離家の経験率は長男では次男以下に比べて小さいとみられ,戦後長男比率は上昇したにも関わらず,戦後生まれ世代の男では離家経験率は約80%でほぼ安定している。これは長男の離家経験率が上昇したことを意味している。
大学進学率の上昇に伴い,離家理由は男女とも進学の割合が上昇し,男子では就職と並ぶまでになったが,1960〜64年生まれの世代に至って男女とも大学進学率の停滞により進学理由の離家の割合の上昇は止まった。
戦後進行した晩婚化,高学歴化は離家を遅くし,離家年齢を上昇させてきた。1960〜64年生まれ世代で平均男20.54歳,女21.48歳となっている。
半数の者が父母の死亡を経験した年齢は,親世代の晩婚化と長寿化によって次第に高くなり,戦後世代の1945〜54年生まれでは父親については40〜44歳であるが,母親については55歳以後になるものと見込まれる。
死亡する3ケ月前の父母の世帯状況は,しだいに「自宅」が少なくなり,1986年以後の 死亡では,父母とも「病院・施設」が50%を超えた。「自宅」であった場合は,どの年次でもおおむね父では「夫婦世帯」が一番多く,母では子と同居などの「その他」が一番多かった。
(『第3回世帯動態調査結果の概要』より)
なお、本調査の内容を刊行物・報告書等にご利用になった場合は、参考のため その掲載紙などを一部本研究所世帯動態調査担当宛てお送りいただければ幸いです。
本調査の報告書で公表している巻末表データが、エクセルファイルでダウンロードできます。 本報告の内容に関するお問い合わせは下記まで 国立社会保障・人口問題研究所 電話 03-3595-2984(研究所代表) ※資料の閲覧等については当研究所図書室まで |