V 推計の方法と仮定
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3.出生率の仮定

(3) コーホート出生指標の仮定設定
 1) 仮定設定の方法と参照コーホート

 すでに述べたように、ある程度出生過程を終えたコーホートについては、出生の数理モデルを適用することにより、その全出生過程(年齢別出生率)を統計的に推定することができる。しかし、まだ出生率過程の浅いコーホートや出生実績がまったく得られないコーホートについては、統計的手法によって将来値を決めることはできず、何らかの外生的な仮定を与える必要がある。本推計では、いくつかの出生力の要素について個別に見通しを調べることにより出生率の仮定値を設定する方法をとっている。その際、特定のコーホートに焦点を絞って仮定値を設定し、他のコーホートについてはそのコーホートとの関連で設定を行うこととしている。

本推計では、この要となるコーホートのことを参照コーホートと呼んでいる。本推計においては、1995年生まれの女性コーホートを参照コーホートとした。このコーホートは推計時点で満15歳であり、出生過程の入り口にあるとともに、各種出生力指標の実績データの趨勢の延長として見通せるほぼ限界に位置する。以下ではこの参照コーホートを中心に仮定設定の方法について説明を行う。


 女性コーホートの出生率は、年齢別初婚率に従って発生する既婚女性の割合と、初婚後の出生行動によって決まると考えることができる。将来的に実現される出生率水準、すなわち長期のコーホート合計特殊出生率を仮定するには、参照コーホートについて年齢別初婚率夫婦完結出生児数を推定する必要がある。前者すなわち初婚については、今後も晩婚化、非婚化の進展が見込まれること、また後者すなわち夫婦完結出生児数については、結婚出生力の低下傾向を見込む必要が生じていることは、それぞれの近年の動向に関連して述べたとおりである。さらに、離婚が増加していることから、コーホート出生率に対する離死別再婚の効果についても可変とする枠組みが必要である。
 コーホート合計特殊出生率CTFRは、これらの出生力要素を取り入れた形式によって表現することとし、次の算定式によって与えられる。



 生涯未婚率γ女性50歳時の未婚者割合(50歳までの死亡の影響を除去した割合)であり、コーホートの年齢別初婚率を49歳まで累積した値(累積初婚率)の補数である。夫婦完結出生児数CEB有配偶女性(初婚どうし夫婦の妻)の50歳時平均出生児数である。離死別再婚効果係数δは、離婚、死別、再婚の出生力に対する効果を表す係数であり、初婚どうし夫婦の出生力とこれを含む既婚女性全体の出生力との比を表す。 算定式に示したとおり、コーホート出生率は、これらの3要素の積として表される。さらに夫婦完結出生児数CEBは、期待夫婦完結出生児数CEB*(afm)と結婚出生力変動係数κの積として分解できる。 期待夫婦完結出生児数CEB*(afm)とは、平均初婚年齢afmによって規定される初婚年齢分布とすべてのコーホートに共通の初婚年齢別夫婦完結出生児数によって算出される夫婦の理論的出生力であり、一方の結婚出生力変動係数κは、夫婦の出生行動の変化を表す指標である。夫婦出生力の成り立ちについては、「3)夫婦完結出生児数の推定」において詳しく説明する。

 本推計の出生仮定設定は、参照コーホート(1995年生まれコーホート)に対して、上記のコーホート合計特殊出生率の各要素について、実績データを踏まえた見通しを策定することによって行った。この参照コーホートにおけるコーホート出生率と、実績データを元に数理モデルによって得た出生率の統計的推定結果とを結ぶことによって、本推計に必要なコーホートの全出生過程(年齢別出生率)に関する仮定値が得られることになる12)。なお、出生率ならびにその要素の変化は参照コーホート以降も続く可能性が高いため、2010年出生コーホートまでは趨勢が持続するものとした。それ以降の出生コーホートは、推計時点で生まれていない世代であり、彼女らが生涯を通して経験する結婚・出生行動を現在の状況から見通すことは困難である。したがって本推計では、2010年以降に生まれるコーホートの出生力は、2010年生まれコーホートの水準で一定に推移するものとした。

 出生率の将来推移は不確実であることから、出生仮定については3つの仮定(中位、高位、低位)を設け、それぞれについて将来人口の推計を行うこととした。これにより出生変動にともなう将来人口の変動幅に関する見通しを与えるものとしている。

 以下、コーホート出生力の各要素の仮定設定について説明する。なお、以下に記述する結婚、出生に関する指標は、すべて日本人女性に発生する結婚、出生に関するものである。

12) ここに説明したコーホート合計特殊出生率は、実際には出生順位別に分解されたモデルによって構成される。すなわち、出生順位nの生涯出生確率をCTFRnとすると、 CTFRn=(1-γ)・CEB*n(afm)・κn・σnであり、CTFR=Σ4+n=1CTFRnとなる。ただし、添字nのついた変数は出生順位別に測定されたものであることを示す。CTFRnは、前出の年齢別出生率のモデル(脚注11)のパラメータCnの設定値として用いられ、年齢別出生率と結びつけられる。


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