V 推計の方法と仮定
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3.出生率の仮定

  コーホート要因法によって将来の人口を推計する際、各年次の出生数がその後の当該コーホートの人口の出発点となる。各年次の出生数は、その年に再生産年齢(15〜49歳)にある女性たちが各年齢で生んだ出生数の合計として求める。女性たちの各年齢における出生数は、その年齢の女性人口(年間の平均的人口)に対して、対応する年齢別出生率を乗じて算出される。以下では女性の年齢別出生率の推計方法について説明する。ただし、出生率の将来推計は結婚・出生に関わる行動に関するいくつかの仮定に基づいてなされ、その仮定設定にあたっては、近年の結婚・出生動向が基本的な前提となっている。したがって、まず近年の結婚・出生動向、ならびにこれに基づく今後の見通しのポイントについて見ておく。

(1) 近年の出生動向

 わが国の出生数は、1970年代前半の第2次ベビーブームの終息以降は減少傾向にあり、1990年代に人口規模の大きな第2次ベビーブーム世代が親となることで一時的に横ばいとなったものの、平成12(2000)年以降は再び減少傾向に転じている。すなわち、昭和48(1973)年には209万を超えていた出生数は、1990年代の120万前後を経て、平成7(2005)年には人口動態統計史上最小の106万にまでほぼ半減した。その後はやや回復を示したものの、平成22(2010)年に107万にとどまっている4)。また、出生数の変動に先行する初婚数についても、第2次ベビーブーム世代の結婚が一段落することによって、近年は減少傾向が続いている(図V-3-1)。

 合計特殊出生率5)は、昭和48(1973)年以降年々低下を続け、昭和57(1982)〜59(1984)年に一旦上昇を示したものの再び低下し、平成元(1989)年にはそれまで人口動態統計史上最も低かった丙午(ひのえうま)の年(昭和41年)を下回り1.57を記録した。その後もわずかな変動を示しながら低下が続き、平成17(2005)年には過去最低の水準である1.26を記録した。その後はやや回復を示し、平成22(2010)年には1.39に至っている(図V-3-1)。


厚生労働省『人口動態統計』による.ただし、初婚数は同居年別にみたもので、妻(日本人)の同居年齢を15〜49歳に限定し、同居年の翌年以降に届出られた「届出遅れ」を補整した推計値である.

 婚姻外の出生が少ないわが国において6)、出生の盛んな年齢層の有配偶率の低下は、直接出生率低下に結びつく。有配偶率が下がる直接の要因としては、未婚化離別・死別の増加のいずれかが考えられる。

 近年における有配偶率低下は、主に未婚率の上昇によって引き起こされてきたが(図V-3-2)、1970年代後半以降、20歳代を中心に未婚率の急増が見られたことから、当初、晩婚化すなわち結婚年齢の上昇がその主要な原因と見られていた。しかし1980年代以降、30歳代以上においても上昇が見られるようになったことから、同時に非婚化すなわち生涯未婚率上昇も重要な要素となってきていると見られる。すなわち、近年の結婚変化においては、晩婚化と非婚化が同時に進行しているとみるのが妥当である。



 結婚した夫婦の子どもの産み方については、かつては比較的安定しているとみられていた。しかしながら、1980年代後半から90年代以降に結婚した夫婦については、子どもの産み方にも変化が現れている。ほぼ5年ごとに実施されている出生動向基本調査の結果をみると、いずれの結婚持続期間でも夫婦の出生子ども数が近年減少傾向にあることが確認できる。ほぼ子どもを生み終えたと考えられる結婚持続期間15〜19年の夫婦の出生児数をみると、1970年代から30年以上続いてきた安定水準の2.2が、2005年調査で2.09へと低下し、2010年調査では1.96とはじめて2人の水準を下回った(表V-3-1)。



 以上の分析から、今後の出生率を見通す上では、第1に晩婚化あるいは非婚化についての見通し、第2に離婚・死別再婚による影響、そして第3に結婚後の夫婦の出生行動の変化を見込むことが必要となる。以下では、本推計において必要となる将来年次の年齢別出生率の仮定をどのように設定したのかについて、まず(2)において出生率推計の枠組みを概説した後、(3)において個々の要因の仮定設定の方法について説明する。さらに(4)において、それら仮定値から将来年次の年齢別出生率を求める方法について述べる。


4) 出生数は人口動態統計による日本人の出生数である。ただし本将来推計は総人口(外国人を含む)を対象としていることから、推計結果による出生数は特別な記載がない限り外国人を含む数である。
5) ある年次に観察された女性の年齢別出生率を合計した数値。与えられた年齢別出生率にしたがって女性が出生過程を過ごした場合に生むと想定される生涯の平均出生児数に相当する。
6) 平成22(2010)年における全出生に占める婚外子(嫡出でない子)の割合は2.14%である。


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