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国立社

会保障・人口問題研究所

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14 児童手当

 

1.1980年代の制度改正

1972(昭和47)年に施行された児童手当制度では、支給対象は第3子以降、手当月額は3000円とされた。その支給期間については義務教育終了前までに限定され、同時に、給付に係る所得制限が導入されていた。費用負担を見ると、被用者については事業主7/10、国2/10、地方1/10、非被用者については国2/3、地方1/3の負担、公務員については全額所属庁の負担と定められた。

こうした規模でのスタートには、「小さく生んで大きく育てる」との期待が込められていた。しかし、1970年代後半に入ると、経済の低成長による財政の逼迫やその効果に対する疑問を理由として、当初の期待とは逆に、1979(昭和54)年の財政制度審議会報告など制度廃止をも含めた見直し議論が登場するようになっていた。

このような見直し議論の強まりに反論する形で、中央児童福祉審議会は1980(昭和55)年9月に意見具申(「児童手当制度の基本的あり方について」)を行った。その中では、児童手当の意義として、(1)世代間の信頼と連帯の醸成に資する、(2)社会の構成員全体の協力によって、児童の健全育成・資質の向上に資する、(3)児童養育家庭の経済的基盤の強化に資するという3点が指摘された。この意義に沿って、支給対象児童の拡大や所得制限の廃止などを実施することが提言されており、その財源を確保する方策として、税制の児童扶養控除との調整を検討すべきとした。

しかしながら、制度の現実の動向は、審議会の意見具申が求めた方向には進まなかった。むしろ、1981(昭和56)年の臨時行政調査会「行政改革に関する第1次答申」で、「児童手当制度については、公費負担に係る支給を低所得世帯に限定する等制度の抜本的見直しを行う」との指摘がなされ、これを受けて、行革関連特例法[1]により、1982(昭和57)年から3年間の特例措置として、児童手当制度の所得制限が強化されることになった。その一方で、これによって児童手当の支給を受けられなくなる被用者に対しては、非被用者との支給率の均衡を目的として、別途の所得制限による特例給付が全額事業主拠出により実施されるようになった[2]

行革関連特例法では、児童手当制度全般に関する検討を行い、特例措置の適用期限を目途にして必要な措置を講じるよう規定されていた。そのため、中央児童福祉審議会は、制度のあり方についての審議を1982年6月から開始し、その結果をもとに、1984(昭和59)年12月には、その時点で採りうる改革方策について意見具申(「児童手当制度の当面の改革方策について」)を行った。この意見具申は、年金制度の充実による高齢者の社会的扶養の進展に対応して、次代の生産年齢世代である児童についても、社会全体で、その養育に係る費用を公的に分担する制度を定着させる必要性を説き、子育てを行っている者が広く手当を受けられるように、制度改革を行うことを提言している。しかしながら、改革の具体的方向については、当時の財政上の制約などから、当面は、第1子からではなく、第2子からを支給対象とし、支給期間を絞り込むことで、給付の重点化を図らざるを得ないとした。

この意見具申を受けて行われた1985(昭和60)年の制度改正では、支給対象が第2子に拡大されるとともに、支給期間は段階的に義務教育就学前までに短縮されることとなった。手当月額については、1975(昭和50)年以降、第3子以降1人につき5000円となっていたが、この改正による支給対象の拡大に伴い、その額は第2子2500円、第3子以降5000円とされた。また、所得制限の強化と特例給付の実施を内容とする特例措置については、引き続き1991年5月まで延長されることが決まった[3]

 

2.1990年代の制度改正

1985年改正の際にも、法律上、制度の検討規定が置かれ、また、特例措置について一定の期限が設けられていたことから、引き続き、児童手当制度のあり方全般についての検討が行われることとなった。1988(昭和63)年には中央児童福祉審議会に児童手当制度基本問題研究会が設置され、翌年7月には「児童手当制度基本問題研究会報告書:今後の児童手当制度のあり方について」が発表された。中央児童福祉審議会は、この報告書を踏まえて審議を重ね、制度改革の方向性を示すため、1990(平成2)年12月に意見具申(「今後の児童手当制度の在り方について」)を行っている。意見具申では、改革の具体的内容として、(1)世代間扶養を通じた児童の健全育成および育児支援の観点から支給対象を第1子へと拡大すること、(2)経済的支援の必要性が高いと考えられる3歳未満の時期へ支給期間を重点化すること、(3)長期に渡って据え置かれてきた支給額を改善すること、(4)特例給付を当面の間継続することなどの提言が行われた。

中央児童福祉審議会での見直し議論に対して、財界サイドからは、児童手当の存続に反対し、制度を存続する場合は全額公費で所得制限をより厳格にして行うべきという内容の意見書[4]が出されたものの、1991年(平成3)の制度改正では、中央児童福祉審議会の意見具申に沿って、支給対象の第1子への拡大、支給期間の重点化、支給額の倍増、特例給付の継続が行われた[5]

以上で見てきたような現金給付事業に加えて、児童手当制度では、1978(昭和53)年の制度改正以降、現金給付のための事業主拠出金の剰余金を原資として、児童厚生施設の整備や事業所内保育施設に対する助成などを内容とする福祉施設事業が行われてきた。1994(平成6)年の制度改正では、育児に関する多様なニーズに対応するために、事業の名称を児童育成事業に改めて、その内容を充実させるとともに、財源面では、当該事業を実施するための拠出金を徴収できることとした[6]

 

3.2000年の制度改正

1990年代に入ると、1989(平成元)年のいわゆる1.57ショック以降も引き続き出生率が低下したことなどから、少子化の動向とその影響に大きな注目が集まるようになり、その対策の推進は重要かつ緊急の課題となってきた。1999(平成11)年12月には、少子化対策推進関係閣僚会議において、政府が中長期的に進めるべき総合的な少子化対策の指針として、「少子化対策推進基本方針」が定められ、これに基づく具体的な実施計画として、厚生、労働などの関係六大臣合意による「新エンゼルプラン」が策定された。こうした少子化対策の進展のなかで、児童手当についても、子育て家庭の経済的負担の軽減を図るという観点から、少子化対策の一環として大幅な拡充が検討されることとなった。

また、1999年10月に発足した自由民主党、自由党、公明党の連立政権内部でも、2001年を目途に支給対象年齢や支給額の充実を含めた制度全体の見直しを行うこと、経過措置として、支給対象児童を小学校就学前まで引き上げることなどを内容とする合意が行われた[7]。一方、政府、連立与党による児童手当を拡充する方向での議論に対して、財界サイドからは、事業主負担を主な財源とする現行制度を前提とした拡充に反対し、児童育成事業も含めて児童手当の財源は全額税負担とすべきとの意見書が提出された[8]

こうした経過を経て行われた2000(平成12)年の制度改正では、3歳以上義務教育就学前の児童を対象として、新たに児童手当に相当する給付(就学前特例給付)が行われることとなり、実質的には支給対象年齢の延長が実現した。また、新たに支給対象となった部分に要する費用には事業主の拠出金は充てられず、全額公費で賄われることとなった。その財源を確保するために、所得税において、年少扶養控除の引き下げが行われた[9]

制度開始以来、数度の改正にもかかわらず、児童手当の支給対象児童数および支給総額は停滞してきたが、この改正によって、それぞれ大幅に増加している[10]。また、児童手当については、その後も制度の拡充が進められ、2001年に所得制限の緩和、2004年に支給対象年齢の引き上げ(小学校第3学年修了前まで)が行われている。

 (百瀬優)



資料:厚生労働省雇用均等・児童家庭局「児童手当事業年報」より作成



[1]「行政改革を推進するため当面講ずべき措置の一環としての国の補助金等の縮減その他の臨時の特例措置に関する法律」

[2] 1981年の制度改正については、社会保障制度審議会「児童手当制度の特例措置について(諮問書、要綱)」、同「児童手当制度に関する特例措置案について(答申)」を参照。

[3] 1985年の制度改正については、社会保障制度審議会「児童手当制度の改正について(諮問書、要綱)」、同「児童手当制度の改正について(答申)」、衆議院社会労働委員会「児童手当法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」、参議院社会労働委員会「児童手当法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」を参照。

[4]日本経営者団体連盟「児童手当制度の見直し問題に関する見解」を参照。

[5] 1991年の制度改正については、中央児童福祉審議会「児童手当制度の改正について(答申)」、社会保障制度審議会「児童手当制度の改正について(諮問書、要綱)」、同「児童手当制度の改正について(答申)」を参照。

[6] 1994年の制度改正については、中央児童福祉審議会「児童手当制度の改正について(答申)」、社会保障制度審議会「児童手当制度の改正について(諮問書、要綱)」、同「児童手当制度の改正について(答申)」を参照。

[7]自由民主党・自由党・公明党「児童手当等に関する合意書(抜粋)」を参照。

[9] 2000年の制度改正については、中央児童福祉審議会「児童手当制度の改正について(答申)」、社会保障制度審議会「児童手当制度の改正について(諮問書、要綱」、同「児童手当制度の改正について(答申)」、衆議院厚生委員会「児童手当法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」、参議院国民福祉委員会「児童手当法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」を参照。

[10]支給対象児童数および支給総額の推移については、次表を参照。