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国立社

会保障・人口問題研究所

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4 薬価・診療報酬

 

1.診療報酬の改正

日本の診療報酬体系は、1927(昭和2)年に健康保険法が施行されてから幾度かの変遷を経てきたが、現在は1958(昭和33)年に導入された「新医療費体系」が基本となっている。そこでは、物と技術を分離し(薬価、医療材料は別に定める)、医療行為ごとに全国一律の点数(診療報酬点数表。医科、歯科、調剤の3つの点数表がある)を定め、1点10円で評価される(点数単価方式)。また、新医療費体系は当初、技術料に重点をおいた甲表と旧来の点数表を踏襲した乙表が設けられたが、1994(平成6)年に一本化された。

診療報酬の改定は、厚生労働大臣が中央社会保険医療協議会(以下、中医協)に諮問し、その審議を経て決定され、告示される。改定は、単価を固定したまま、点数を改めることよって行われる。具体的な診療報酬の算定に当たっては、原則として、いわゆる「出来高払い方式」を基本としており、実際に行った医療行為ごとの点数を合算して算定している。

診療報酬は1970年代に、石油危機後のいわゆる狂乱物価のもとで大幅な引き上げが行われた。とくに1974(昭和49)年には2度にわたる改定で35.0%も引き上げられ、76年には9.0%、78年には11.6%の引き上げが行われた。それにともなって、国民医療費も大幅に増大した。1980年代に入って、国の予算編成では社会保障関係費の抑制策が講じられるようになったが、医療保険においても医療費の増加の抑制が大きな課題となり、診療報酬についても引き上げ幅の抑制策が進められた。

1981(昭和56)年度の診療報酬改定率は、予算編成の折衝で8.1%となったが、これは81年度予算の目玉として打ち出された「医療費適正化対策」の影響によるものであった。この改定では手術などの技術料を重視する一方、過剰な投薬や検査の費用抑制が求められ、自動装置化された検査では包括した点数が設定された。

1982(昭和57)年に老人保健法が制定されたが、その「老人診療報酬」については当初、老人に慢性疾患が多いことをふまえ、出来高払い方式ではない方式とし、老人保健審議会で定めることが企図されていた。ところが、法案審議の段階で、診療側の要求により中医協で一般の診療報酬と一体で審議することになった。1982年9月厚生大臣から諮問を受けた中医協は、9月から老人の診療報酬について集中的な審議を進め、12月に答申を行い、1983(昭和58)年2月に、高齢者に対する新たな診療報酬体系が施行された。そこでは、出来高払い方式を基本としながらも、入院患者に対する過剰な投薬、点滴、検査等を防止するため、点滴注射料が入院時医学管理料に包括化され、新たに設けられた特例許可老人病院では老人注射料が1カ月定額とされ、また、特例許可外老人病院で血液化学検査(T)等の検査が包括化されるなど、包括化が図られた[1]

また、一般の診療報酬では、ICU・CCUにおける集中的な治療体制を評価するため、入院時医学管理料の加算として特定集中治療室管理加算が新設されたほか、老人保健法の施行にともなう微調整が行われ、1982年度は0.3%の引き上げが行われた。

1984(昭和59)年度から1986(昭和61)年度の間に診療報酬の改定が3回行われた。その主な内容は、以下の通りである。(1)病院については入院医療、診療所については外来診療の点数が引き上げられ、患者の紹介料が新設された。(2)在宅医療の推進に向けて在宅医療関係の指導料の評価等が行われ、また老人保健の診療報酬について寝たきり老人訪問診療料等が新設された。(3)救急医療の良質かつ安定的供給を確保する観点から、特定入院料として救命救急入院料が新設された。(4)乙表で処方料・入院注射料の包括、老人保健で老人検査料・老人注射料・老人処置料の包括などが行われた。(5)1984年の健康保険法等改正で特定療養費制度が創設されたことにともない、特定承認保険医療機関の承認、高度先進医療の承認等を中医協が行うこととなった。なお、診療報酬改定率は、1984年3月2.8%(医科3.0%、歯科1.1%、調剤1.0%)、85年3月3.3%(医科3.5%、歯科2.5%、調剤0.2%)、86年4月2.3%(医科2.5%、歯科1.5%、調剤0.3%)であった。

1988(昭和63)年には、厚生省の「国民医療総合対策本部」の「中間報告」を受けて、医療の構造面に踏み込んだ改定が行われた。すなわち、(1)長期入院の是正(入院時医学管理料の逓減等)、(2)在宅医療の推進(一般患者を対象とした在宅患者訪問診療料等の導入など)、(3)検査の適正化(検査回数による逓減制等)、(4)大学病院等の高度専門医療機関としての位置づけの明確化(紹介外来制の導入等)などが図られた。また、医療機関の看護需要が高まっている状況に対応して、(5)看護職員をより多く配置した「特3類看護」を新設するとともに、(6)看護料全体の体系を見直して「基本看護料」を新設し、それベースとする看護料の再編を行った。また、(7)一般病棟と結核・精神病棟の看護料体系を区分した看護料体系を設定した。(8)老人保健施設の創設にともない、老人保健施設療養費制度が導入された。(9)特例許可老人病院(病棟)の看護料は老人診療報酬のなかで設定することとし、老人病院の看護料を社会保険診療報酬から区分して、介護に重点をおいた類型を設定した[2]。また、診療報酬改定のサイクルについて、薬価基準の改定が2年に1回とすることが中医協で建議されたことから、それに連動して行うことが暗黙の了解となった。なお、1988年度の診療報酬改定率は3.4%(医科3.8%、調剤1.7%)、歯科は6月から1.0%の引き上げであった。

1990(平成2)年度の改定では、老人医療の見直しに関連して、いっそうの医療費の包括化が図られた。すなわち、(1)老人の入院医療のあり方として、投薬・検査よりも看護・介護の重要性が指摘され、老人診療報酬において看護・介護・投薬・注射・検査等を包括した「入院医療管理料」が新設され、選択制ではあるが、特例許可老人病院について入院医療費の定額払いが導入された。(2)末期がん患者に係る緩和ケア病棟入院料が新設され、入院医療費をすべて包括化した。その他、(3)結核・精神病棟の看護料体系を見直し、一般病棟と同様に基本看護料をベースとした看護料の再編成が行われた。(4)医療従事者の確保と隔週週休二日制の導入など労働条件改善のため、看護料が引き上げられた。なお、90年度の改定率は3.7%(医科4.0%、歯科1.4%、調剤1.9%)であった。

この頃から、バブル経済の崩壊による経済の低迷が医療保険財政にも大きな影響を及ぼす一方、医療技術の目覚ましい進展、医療ニーズの高度化・多様化が顕著になった。こうしたなかで、診療報酬の改定が単に医療費の水準を決定するだけではなく、新しい医療技術の導入、拡大・多様化する医療ニーズへの対応、そして医療費の増加の抑制という要請に対応していくため、診療報酬の改定を通じて、医師・医療機関の診療行動や医療内容そのもののあり方を政策的に誘導していくような役割が模索されるようになった。そこで中医協は1991(平成3)年7月、「診療報酬基本問題小委員会」を設置し、新たな診療報酬体系の、構築を目指して検討を行うこととなった。

1992(平成4)年度の改定では、「良質な医療の効率的な供給」を基本に、技術料を重視しながら診療報酬の合理化を推進するとの観点から、(1)甲・乙点数表の差違縮小、(2)病院の入院機能、診療所の外来機能の重点評価、(3)夜勤回数・週休2日制等勤務条件に応じた評価、(4)スタッフ数に応じた評価、(5)看護婦による在宅療養指導料の新設、(6)診察料・処置料・手術料の引き上げ、(7)往診・訪問診療の引き上げ、(8)病院の介護機能の充実、(9)老人訪問看護制度の導入などが行われた。1992年度の改定率は5.0%(医科5.4%、歯科2.7%、調剤1.9%)であった。

1993(平成5)年9月、「診療報酬基本問題小委員会報告書」がまとめられた。報告書は、(1)診療報酬体系のあり方、(2)診療報酬改定ルールのあり方、(3)技術料評価のあり方、(4)医療機関の機能・特質に応じた診療報酬のあり方、(5)診療報酬の適正化、(6)患者ニーズの高度化・多様化への対応、(7)その他から成り、それぞれの見直し検討課題が指摘された。また、医療法の改正で療養病棟が設定されたことにともない、療養型病床群入院医療管理料(看護料、投薬料、注射および検査料の包括化)が新設された

1994(平成6)年度の診療報酬改定は、この報告書をふまえるとともに、10月の健康保険法等改正に関連して4月と10月の2段階で行うこととし、総額で4.8%(うち10月分は1.5%。内訳は医科5.2%、歯科2.3%、調剤2.1%)の引き上げが決められた。改定の主な内容は、(1)甲・乙点数表の一本化、(2) 特定療養費の拡充、(3) 室料・寝具・給食の三基準の見直し、(4)健康保険法等改正による入院時給食制度の見直し(患者一部負担の導入)・付添看護介護の廃止(療養担??当規則の改正)・在宅医療の推進にともなう、入院時療養費の設定、付添看護介護業務の院内化(新看護体系の創設)に係る点数改定、訪問看護療養費の対象拡大、(5)かかりつけ医機能、診療情報提供機能の評価の見直し、(6)医療技術の評価の見直し等となっている[3]

1996(平成8)年度の改定は、1995(平成7)年12月に出された中医協の意見書をふまえ、医療機関の機能分担と連携を促進するとともに、診療報酬の包括化を推進することに重点がおかれた。主な改定内容としては、(1)一般病院から療養型病床群への転換の促進、(2)小児外来の包括化、(3)慢性疾患に対する運動療法、リハビリ等を評価する「運動療法指導管理料」の新設、(4)患者に対する情報提供の評価、(5)初・再診料の引き上げ、(6)療養病棟・老人病等の入院時医学管理料の逓減性の緩和と一般病棟における逓減性の強化、(7)老人の慢性疾患の外来医療について指導・検査・投薬・注射を1カ月単位で包括した「老人慢性疾患外来総合診療料」の新設、(8)精神科の入院医療費を包括化した精神科急性期治療病棟入院料の新設などがあげられる。改定率は3.4%(医科3.6%、歯科2.2%、調剤1.3)であった。

1997(平成9)年度の改定は、消費税率の引上げにともなう臨時特例的な措置として行われるとともに、あわせて診療報酬の合理化への対応として長期入院の是正と急性期入院医療への充実が図られた。改定率は1.70%(医科1.31%、歯科0.75%、調剤1.15%)で、そのうち消費税引き上げにともなう改定が0.77%、診療報酬の合理化をはかるための改定が0.93%とされた。具体的な改定は、消費税引き上げへの対応として、病院関係では入院環境料と入院時食事療養費、診療所関係では各種指導料、検査判断料等が引き上げられた。また、合理化対応としては、長期入院の是正のため、入院診療計画加算・退院指導料の引き上げ、平均在院日数30日を基準とした入院時医学管理料の二分化等などの対策が講じられた。

1997年は、いわゆる医療保険制度の抜本改革に向けて、4月に与党医療保険制度改革協議会(与党協)が「医療制度改革の基本方針」を発表し、続いて8月には厚生省が「21世紀の医療保険制度」(厚生省案)、与党協が「21世紀の国民医療―良質な医療と皆保険制度確保への指針―」(与党協案)を発表したのをはじめ、関係団体等からも多くの改革案が提示された年であった。それらの改革案にはいずれも診療報酬制度の改革が取り上げられていた。政府の抜本改革の検討は、新設された医療保険福祉審議会の制度企画部会で行われることとなり、当部会では与党協案を叩き台に4分野について改革案をとりまとめることとしたが、その1つに「診療報酬体系の改革」が取りあげられた。改革案は2000年度の実施に向けて検討されることとなり、1997年には当面の財政対策を盛り込んだ健康保険法等の改正が行われたが、国会では、現行の出来高払い中心の診療報酬制度を見直し、慢性期医療等に対する包括払いの活用を図ることなどが附帯決議された。

1998(平成10)年度の診療報酬改定について中医協の審議がまとまらず、1997年12月に支払側、診療側、公益側の三者の意見を併記した「審議報告」を提出した(中医協「中央社会保険医療協議会の審議報告」)。1998年度の予算編成にあたり、与党協・厚生大臣・大蔵大臣の折衝などにより、人件費・物件費の上昇に相当するものとして1.5%(医科1.5%、歯科1.5、調剤0.7%)の引き上げが行われた。これに関連して、改正案が中医協に諮問され、了承されたが、異例の改定であった[4]

この改定では、長期入院の是正を図るため、(1)入院時医療管理料および看護料の届出要件である平均在院日数の短縮、(2)標準人員を満たさない医療機関について入院時医学管理料の減額措置の強化、(3)過剰検査を是正するため各種検体検査料の引き下げ、その他の対策が行われた(それらにより0.7%の診療報酬引下げ)。また、人件費の上昇への対応として、(4)初診料・再診料等の技術料の引き上げ、(2)救命救急入院料および特定集中治療管理料の引き上げ、(3)日帰り手術の対象範囲の拡大??、(4)乳幼児加算の引き上げ、(5)生体部分肝移植等の高度先進医療の保険導入、(6)新設された地域支援病院の評価、その他の対策を講じられた(それらにより2.2%の診療報酬引上げ)。

また、現行の医療機関体系にかわる新たな診療報酬体系の導入を検討するため、1998年11月8日から国立病院等10病院において急性期入院医療の「包括的定額支払方式(1件あたり定額払い方式)」の試行が開始された。

1998年9月の中医協全員懇談会において、以後の中医協審議は原則として公開で行われることが了承され、実施に移された。

診療報酬体系の抜本的見直しを検討していた医療保険福祉審議会制度企画部会は、具体的な見直し作業について、専門家や関係者で構成する作業チームに委ねることとした。検討対象となる作業項目は、以下の通りである。(1)技術料、「もの」代、ホスピタルフィーの評価:a)診療科の特性、技術の難易度、看護必要度をふまえた医療技術の評価、b)医療機関の機能を考慮したホスピタルフィーの評価、(2)医療機関の機能に応じた評価方法:a)医療機関の機能の分類方法、b)病院・診療所の機能に応じた評価、(3)疾病の特性に着目した評価方法:a)急性期医療、慢性期医療の区分と出来高払い、定額払いの組み合わせ方法、b)定額払いの包括の方法、範囲、c)医療の質の評価方法、(4)老人の心身の特性に応じた健康管理機能の評価、(5)その他:a)特定療養費制度のあり方、b)新たな診療報酬の改定の仕組み、(6)歯科の機能と特性をふまえた評価、(7)薬局の特性をふまえた評価。

1999(平成11)年1月、診療報酬体系の見直しを行っていた作業チームから、医療保険福祉審議会制度企画部会に対して「診療報酬体系見直し作業委員会報告書」が提出された。これを受けて制度企画部会は検討を進め、同年4月「診療報酬体系のあり方について」と題する報告書をまとめ、発表するとともに、具体的な検討を中医協に委ねた。こうした審議会での検討と並行して、自民党の医療基本問題調査・社会部会において、1999年10月「医療制度抜本改革の基本的考え方」がまとめられ、診療報酬についても改革案が示された。

中医協ではこれらの提案をふまえ、2000(平成12)年度の診療報酬改定のなかで取り組むべき事項、2000年度以降継続して検討していく事項を整理し、改革に向けての第一歩を踏み出した。中医協では、2000年度の診療報酬改定にどのような改革を盛り込むかを議論し、1999年12月「診療報酬体系(医科・歯科・調剤)のあり方に関する審議の中間報告」をとりまとめた。続いて、具体的な改定内容の取りまとめ作業に入り、2000年1月に「医療制度抜本改革の進め方について」をまとめ、診療報酬体系の改革についてもその進め方を示した後、3月には「平成12年度社会保険診療報酬改定等の概要」を発表し、2000年改定についての「診療報酬改定(答申)」を行った。

その主な内容は、以下の通りである。(1)従来の入院管理料、看護料、入院時医学管理料を統合し、ホスピタルフィー的部分を明確にした「入院基本料」を病棟種類別に新設した、(2)病院の機能分化を図り、大病院の紹介外来を推進するため、200床以上の病院の外来および入院の評価の見直しを行った(外来の再診料に代えて、簡単な検査等を包括した外来診療料の新設、紹介率等に応じた評価の新設等)、(3)一般病棟の逓減性の見直し、(4)急性期特定病院加算の新設、(5)長期療養患者への医療の確保(対象患者の平均在院日数の算定からの除外等)、(6)回復期リハビリテーション病棟入院料の新設、(7)小児医療の充実(小児入院医療管理料の新設、時間外・休日・深夜の加算の引き上げ)、(8)難易度や人件費構成等から手術に係る点数体系の相対関係を調整した、(9)短期滞在手術基本料を新設し、基本診療料、検査料、画像診断料、麻酔料の全部または一部を包括した、(10)歯科診療報酬の見直し(かかりつけ歯科医初診料・再診料等の新設、歯周治療の評価の見直し等)、(11)調剤報酬の見直し(多剤投与の減額措置の拡大、長期投与の見直し等)、その他の改定を行った。

(注)執筆者の意向で上記7と8段落の一部が更新された。(2016年7月14日)

2.薬価基準制度の改定

 薬価基準は、診療報酬点数表において保険者に請求できる薬剤の価格をいい、保険医療機関等において使用できる医薬品の品目表としての役割と、その医薬品を使用した場合に保険者に請求できる価格表としての役割をもっている。薬価基準は厚生労働大臣が定めることとされており、医療機関が実際に市場から購入する価格(実勢価格)を反映したものとするため、概ね2年に1回程度、改定が行われている。なお、実勢価格を調査するため、薬価基準に収載されている全医薬品について薬価調査が行われている。

 かねてから日本の医療の大きな特徴の1つとして、医療費に占める薬剤比率が高いことと(1979(昭和54)年は36.8%)、またその原因として薬価基準と実勢価格との差(薬価差)が大きいことが指摘されてきた。そのため、従来から、市場価格をできるだけ迅速、適格に薬価基準に反映させるための改定が行われてきたが、1978(昭和53)年に薬価基準への収載方式を統一限定方式(主成分の一般的名称で薬価を定める方式。市場価格の高い薬剤も低い薬剤も同じ価格になる)から銘柄別収載方式(個々の銘柄ごとに価格を定める方式)に改正された。また、薬価差が生ずる原因として、90%バルクライン方式(個別銘柄ごとに購入価格の安い方から並べて、総販売量の90%に達したときの価格を薬価基準とする方式。1950(昭和25)年に、医薬品の少ないときに医療機関等における安定的購入の保障という観点から導入された。当初は80%BL、1953(昭和28)年以降90%BL)が採られていることが指摘されていた。

 1981(昭和56)年6月に銘柄別収載方式による薬価基準の全面改定が行われ、薬価ベースで−18.6.%(医療費ベースで、−6.1%)という過去最高の引き下げ率となった。この改定で、収載品目数は6,891品目から13,654品目への大幅に増大した。

続いて、1982(昭和57)年9月の中医協答申に基づき、価格のばらつきの大きい品目については81%バルクライン方式(90%BLの高値10%部分をカット)で定めることとされた。また、薬価基準の改定について、部分改定を毎年、全面改定を少なくとも3年に1回行うこととされた。さらに、新医薬品の薬価算定基準についても検討が進められていたが、同答申では、同年5月に出された「懇談会報告書」にしたがって、「類似薬効比較方式」を原則として維持しつつ、先駆性加算、有用性加算および市場性加算の3つで補正加算する方式を採ることが適切とされた[5]。その後の改定の結果、1960(昭和35)年の薬剤比率は29.1%にまで低下した。

 しかし、薬剤比率や薬価差が依然として高いことから、1987(昭和62)年5月に中医協は、これまでの90%および81%のバルクライン方式は維持しつつ、加重平均方式を加味した算定方式(両方式の差が20%を越えないようにする)とし、また部分改正を廃止して2年に1回程度の全面改定を行うことを建議した(中医協「薬価算定方式のあり方について」)。これに基づいて行われた薬価基準の全面改正で、1988(昭和63)年に−10.2%(医療費ベースで−2.9%)、1990(平成2)年に−9.2%(医療費ベースで−2.7%)という引下げが行われた。

このようにして薬価基準の改定が行われたものの、薬剤比率は30%弱のまま高止まり状態が続いていた。その原因の1つとして、日本の製薬業界の研究開発は、薬価が高く、使用量の多い分野に偏る傾向があること、そしてより多くの薬価差が得られることを期待して新薬を多く使う傾向が高いこと(新薬シフト)などが指摘された。そうした問題に対応するため、1990(平成2)年11月に中医協は「薬価専門部会」を設置し、薬価問題の検討に入った。1991(平成3)年5月、中医協はその検討結果に基づき、バルクライン方式から「加重平均値一定価格幅方式」(銘柄別に計算した医薬品総販売額を総販売量で除した加重平均値に一定の価格幅を加算して薬価とする方式)への転換を建議した。一定価格幅(R幅)については、当初は15%とされた(その後、1994年度13%、1996年度11%、1997年度10%、そして1998年度5%へと引き下げられた)。また、1991(平成3)年の建議では、新薬の薬価算定について、類似薬効比較方式における補正加算のうち、画期的な新薬の開発を促すために、先駆性加算を廃止して画期性加算が導入された。そして、画期性加算、有用性加算??および市場性加算の3区分の加算率をそれぞれ20%、3%および3%を原則とし、薬価に応じて傾斜配分することが提言された[6]。1992年度から新方式による改正が行われ、1992年度は−8.1%(医療費ベースで−2.4%)、1994年度−6.6%(医療費ベースで−2.0%)、1996年度−6.8%(医療費ベースで−2.6%)の引下げとなった。

1997(平成9)年に厚生省、与党協等から提案された「医療制度の抜本改革案」をめぐって活発な議論が展開されたが、最初に抜本改革の焦点となったのが「薬価制度の見直し」であった。1998(平成10)年7月、医療保険福祉審議会制度企画部会に設置された作業チームの報告をもとに、厚生省は同年11月に薬価基準制度の見直しに関するたたき台をまとめて、制度企画部会に報告した。同部会で改革案を検討し、1999(平成11)年1月「薬剤給付のあり方について」と題する意見書を提出した。そこでは、薬価制度の機能、薬価基準制度の問題点、提案されている改革案の検討等を行ったうえで、薬価基準制度を廃止し、かわって「薬剤定価・給付基準額制(いわゆる日本型参照価格制)の導入が提案されていた。

しかし、この改革案に対して日本医師会、製薬業界、アメリカ政府等から激しい批判が寄せられた。また、いわゆる「自社さ」の与党協のときにはその改革案に好意的であった自民党が、連立の枠組みが代わったこともあって、1999(平成11)年4月に制度企画部会の改革案を支持しないことを決定した。さらに、いわゆる参照価格制はもとより、日本医師会、製薬業界等から提案されていた改革案はすべて白紙に戻され、改めて検討が始められることとなった。

1999(平成11)年9月、薬価制度改革案の検討の場が、医療保険福祉審議会制度企画部会から中医協に移され、薬価専門部会が設置された。同年12月、中医協は「薬価制度改革の基本方針」をまとめた。そこでは、(1)薬価算定組織の設置、(2)R幅方式の見直し、(3)新薬の価格算定方式の見直し(類似薬効選定の透明化等)、(4)薬価算定ルールの策定手続きの透明化、(5)原価計算方式に係る係数の適正化、(6)銘柄別収載方式の修正、(7)外国価格調整などが検討項目として盛り込まれていた。

次いで、2000(平成12)年3月、薬価専門部会で「平成12年度実施の薬価制度改革の骨子」がまとめられ、2000年度に行うべき改革事項と2000年度以降に継続して検討すべき事項に区分され、当面行うべき改革の内容とその実施時期が示された。それによると、新たな薬価算定方式として、先の方式を修正した「市場実勢価格加重平均値調整幅方式」が提案された。そこでの「調整幅」は、薬剤流通の安定を図るためのものとされ、2000(平成12)年における調整幅は、改訂前の薬価に2%を乗じた額としている。また、薬価算定過程の透明化を図るため、薬価算定組織を組織し、厚生省の行う類似薬の選定や有用性の認定などに関与し、その算定に不服のある業者等からの意見聴取を行うことや、算定の方式・経緯等について文書で明示することなどが提示されている。

2000(平成12)年3月、厚生省は診療報酬改定について中医協に諮問を行い、その答申を得て、改定を実施した[7]。また、中医協は同年3月に「平成12年度以降継続して検討すべき事項」をまとめ、発表した。これらの改定の経緯、改定内容、改革の方向等について、関係団体等から多くの批判、意見が出された。

 

(土田武史)



[2]中央社会保険医療協議会「老人保健施設療養費の算定について(諮問書)」を参照。

[6]中央社会保険医療協議会「新薬の薬価算定を含む薬価問題全般について(建議)」を参照。