社会保障費用統計について



 ILO基準の社会保障給付費とOECD基準の社会支出は、ともに国際機関が定める費用統計であり、
本統計ではこれらを総称して社会保障費用統計と呼んでいる。以下では集計開始時期が早いILOか
ら説明する。

1.ILO基準社会保障給付費

 ILO(国際労働機関)は、1949年以来社会保障費用について18回の調査を実施してきており、
結果は刊行物として公表されてきた。そこにおいては、収入と支出は、社会保障の最低基準に
関するILO条約No.102(1952年)とILO勧告No.67(1944年)及びNo.69(1944年)の枠組みにお
いて集められてきた。我が国は、1957年国際連合に加盟して以降、ILOの調査に協力し政府機関
(当初は旧労働省、のちに旧厚生省そして現在は国立社会保障・人口問題研究所)において費用
の取りまとめを行い報告してきた。その後社会経済情勢の変化に伴い、社会保障の概念は、拠出
や雇用の実態に関わらず、全ての国民に対する一般的な援助を提供する社会保護の枠組みを含む
まで拡張された。そこで、1997年に実施された第19次調査よりILOは次の9つのリスクやニーズを
カバーする制度の収支を収集する枠組みへと移行した。我が国では「社会保障給付費」として長
年ILO基準で集計したものを公表してきたため、2000年度公表から、第18次調査までの枠組みを残
しつつ、第19次調査にも対応した集計を行い公表してきた。

 第18次ならびに19次調査におけるILOの基準では、以下の3つの基準を満たすものを社会保障制度
として定義している。

@制度の目的が、次のリスクやニーズのいずれかに対する給付を提供するものであること。
 (1)高齢 (2)遺族 (3)障害 (4)労働災害 (5)保健医療 (6)家族 (7)失業
 (8)住宅 (9)生活保護その他

A制度が法律によって定められ、それによって特定の権利が付与され、あるいは公的、準公的、
 若しくは独立の機関によって責任が課せられるものであること。

B制度が法律によって定められた公的、準公的、若しくは独立の機関によって管理されていること。
 あるいは法的に定められた責務の実行を委任された民間の機関であること。

 なお、ILOでは第18次までの社会保障費用調査は“The Cost of Social Security” として公開し、
それ以降についてはSSI(社会保障調査)として新たなデータベースの構築を進めているところであるが、
定期的な更新に至っていない。
(http://www.ilo.org/public/english/protection/secsoc/areas/stat/css/index.htm)

 ILOの基準に基づく「社会保障給付費」は、政策立案に資する基礎資料をはじめとして、幅広い分野で
利用されてきた。個人に帰着する給付やその財源を全体把握することは、今後一層その重要性を増すと
考えられるため、本統計でも引き続き必要な集計を行うが、諸外国のデータについては必ずしも定期的に
更新されている状況にはない。

 このため、本統計が2012年7月に、統計法上の基幹統計に指定されたことを契機に、諸外国のデータが
定期的に公表されているOECD(経済協力開発機構)の基準に基づく「社会支出」の集計を充実させること
を通じて、社会保障費用統計としてその国際比較性を向上させることとした。


2.OECD基準社会支出

 OECD(経済協力開発機構)は、1996年より社会支出統計の公表を開始した。OECDの基準に基づく
「社会支出」はその範囲を「人々の厚生水準が極端に低下した場合にそれを補うために個人や世帯
に対して財政支援や給付をする公的あるいは私的供給」としている。ただし、集計する範囲は、制
度による支出のみを社会支出と定義し、人々の直接の財・サービスの購入や、個人単位の契約や移転
は含まない。

 制度を含むかどうかの判断は「社会的」かどうかによる。「社会的」という意味は、まず、その給付
が一つまたは複数の社会的目的をもっており、制度が個人間の所得再分配に寄与しているか、または
その制度への関与が公的な強制力をもって行われているかによって判断される。

 社会支出では、社会的目的を次の9つの政策分野に分けている。

 (1)高齢 (2)遺族 (3)障害、業務災害、傷病 (4)保健 (5)家族 (6)積極的労働市場政策
 (7)失業 (8)住宅 (9)他の政策分野

 社会支出には、現金給付(例えば、年金、産休中の所得保障、生活保護など)、サービス(現物)
給付(例えば、保育、高齢者や障害者の介護など)を含む。

 OECD基準に基づく「社会支出」は、ILOの基準に基づく「社会保障給付費」に比べて、その範囲が
広く、施設整備費など直接個人には移転されない費用も計上されるという違いがある。また、9つの
政策分野別に、諸外国のデータが定期的に更新され、比較的新しい年次まで公表されている。社会
保障費用を諸外国と比較するという観点から、重要な指標となるものである。続く本編では、OECD
社会支出における「公的支出」と私的部門により運営されるが法令により定められた「義務的私的
支出」に係る集計結果を公表している。

 なお、本統計に掲載した諸外国の社会支出データは、OECD Social Expenditure Database 2012 ed.による。
(http://www.oecd.org/els/social/expenditure)

 最後に、前述した通り、本統計は2012年7月に統計法上の基幹統計として指定されたことを契機と
して、UN(国際連合)の基準に基づくSNA(国民経済計算)との関係性についても、社会保障費用統計
との比較という観点から、必要な解説を加えることとした。さらに、幅広いユーザーの利用に資する
ため、本統計における集計内容を把握する上で重要となるILO、OECD基準の主な用語について、簡潔な
解説を付することとした(いずれについても、詳細は「巻末参考資料」参照)。




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