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国立社会保障・人口問題研究所

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調査実施の概要と結果の要約

T-1.結婚という選択>

1. 調査の目的と沿革

 国立社会保障・人口問題研究所は2015(平成27)年6月、第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)を実施した。この調査は他の公的統計では把握することのできない結婚ならびに夫婦の出生力に関する実状と背景を定時的に調査・計量し、関連諸施策ならびに将来人口推計をはじめとする人口動向把握に必要な基礎資料を得ることを目的としている。本調査は、戦前の1940(昭和15)年に第1回調査、ついで戦後の1952(昭和27)年に第2回調査が行われて以降、5年ごとに「出産力調査」の名称で実施されてきたが、第10回調査(1992年)以降名称を「出生動向基本調査」に変更して今回に至っている。第8回調査(1982年)からは夫婦を対象とする夫婦調査に加えて、独身者を対象とする独身者調査を同時実施している。本報告は、この第15回調査の独身者調査および夫婦調査の結果についてとりまとめたものである。


2. 調査実施の概要

 本調査の独身者調査は年齢18歳以上50歳未満の独身者を対象に、夫婦調査は妻の年齢が50歳未満の夫婦を対象(回答者は妻)とした全国標本調査であり、以下に述べる要領で実施された。

(1)調査の時期

 平成27年6月1日現在の事実について調査された。

(2)標本設計(調査対象と標本抽出)

 全国の18歳以上50歳未満の独身者および50歳未満の有配偶女性を母集団とし、国勢調査地区を抽出単位とする層化無作為二相集落抽出法により標本抽出を行った。具体的には、平成27年国民生活基礎調査(厚生労働省実施)の調査地区1,106 地区(平成22年国勢調査区から層化無作為抽出)の中から層化無作為抽出法により900地区を抽出し、この地区内の全ての世帯に居住する18歳以上50歳未満の全ての独身者を独身者調査の客体に、50歳未満の有配偶女性を夫婦調査の客体とした[1]

[1]本調査の調査対象地区に含まれる世帯の内、平成27年国民生活基礎調査の所得票調査対象単位区に含まれる世帯は本調査の対象外としている。

(3)調査の方法

 調査方法は配票自計、密封回収方式によった。

(4)調査の手順

 調査対象の調査地区が設定されたのち、厚生労働省大臣官房統計情報部、政令指定都市、各保健所の協力を得て調査員の選任、指導、説明などの調査準備を行った。調査実施日に先だって調査員は受け持ち調査地区の全世帯を訪問し世帯名簿を作成し調査客体の確認を行い、調査対象者に「調査票」、「調査のお願い」、「調査票回収用封筒」を配布して調査票記入を依頼した
 調査員は調査日に調査対象者を再訪問し、回収用封筒に密封された調査票を回収した。回収票は直ちに国立社会保障・人口問題研究所に送付され、そこで全ての調査票について整理・点検された後コンピュータによる集計・解析が行われた。

(5)調査票の回収状況

 独身者調査については、調査票配布数(調査客体数)11,442票に対して、回収数は9,674票であり、回収率は84.5%であった(前回調査80.6%)。ただし、記入状況の悪い922票を無効票として集計対象から除外し、有効票数は8,752票、効回収率は76.5%となった(同74.3%)。夫婦調査については、調査票配布数(調査客体数)7,511票に対して、回収数は6,867票であり、回収率は91.4%であった(同91.2%)。同じく、回収票のうち記入状況の悪い269票は無効票として集計対象から除外し、有効票数は6,598票、有効回収率は87.8%となった(同86.7%)。一般における調査環境が困難を呈するなか、この種の調査としては高い回収率をあげることができた。調査関係機関各位の御努力に感謝したい。調査において高い回収率を得ることは、標本の代表性を維持するために重要であり、これまでも各種の努力を行っているところである(参考図表1)。

参考図表1 調査票配布数、回数票数、有効票数および回収率


(6)本報告の集計対象

 本調査の独身者調査における独身者の概念には、18歳以上50歳未満の未婚者、離別者、死別者が含まれる。一般に結婚や出産に対する意識や行動は、離死別経験者と未婚者では大きく異なっているため、分析にあたってはこれらを別に扱うことが妥当である。そこで、本報告では、原則として未婚の男女についての分析に限定した。また、第9回調査(1987年)までの調査では調査対象を35歳未満の独身者に限定していたため、本報告においても時系列的な比較の都合上分析の対象として18歳以上35歳未満の未婚男女を中心に行った。ただし、必要に応じて35歳以上の未婚者も分析に含める場合があり、その際はその旨を明記している。
 一方、夫婦調査では、原則として夫妻が初婚どうしの夫婦5,334組について集計・分析が行われている。再婚を含む組み合わせの夫婦を除いて集計したのは、再婚者の結婚・出生行動が初婚者のそれと異なるため、途分析を行うことが望ましいからである。ただし、分析対象を分けることによって、標本には選択バイアスがかかることがある。たとえば、対象を初婚どうし夫婦に限定することによって結婚持続期間が長いほど安定的な結婚が選択的に残存しているから、調査項目の結婚持続期間に沿った変化は、行動・意識変化ばかりではなく、この結婚安定性に関する対象集団の構成変化も存在していることに注意する必要があるだろう。
 なお、本報告書の対象となる未婚者と初婚どうし夫婦の客体の基本属性別構成を参考図表2、3に示した。

参考図表2 性・年齢別未婚者数 (独身者調査)


参考図表3 基本属性別初婚どうしの夫婦数(夫婦調査)

(7)標本の代表性

 第15回出生動向基本調査の標本の代表性について調べるため、本調査の客体と総務省統計局「平成27(2015)年国勢調査」との年齢構成の比較を行った。本調査の調査実施時期は平成27年6月1日であり、国勢調査と実施月に4カ月のずれはあるものの、比較検証対象としては望ましいものと考えられる。
 独身者調査の未婚者について、性別年齢構成の比較を行ったものが参考図表4、5である。これによれば、男女とも25〜29歳の階級では本調査の客体が国勢調査に比べてやや割合が高く、男性で1.1% ポイント、女性で2.2% ポイントの差となっているが、概ね両調査の年齢別分布は一致している。一方、夫婦調査について、年齢構成の比較を行ったものが参考図表6、7である。これによれば、本調査(総数)は34歳以下の年齢層では国勢調査に比べて構成割合がやや低く、最も差が大きい30〜34歳で2.0% ポイントの差となっている。35歳以上の年齢層では本調査の方が国勢調査に比べて構成割合はやや高くなっており、最も差が大きい40〜44歳で3.2% ポイントの差となっているが、やはり概ね両調査の年齢別分布は一致していると見ることができよう。国勢調査結果自体も誤差を含んでいるため厳密な検証は難しいものの、これらの結果はこの種の標本調査としては比較的良好な代表性が保たれていることを示していると考えられる。したがって、本標本の分析は母集団の定量的属性に関して、有効な結果をもたらすと判断できる。ただし、精密な結果が求められる分析においては、年齢をはじめとする属性を統制することによって、これが正確に実現されるよう工夫する必要があろう。

参考図表4 第15回出生動向基本調査(独身者調査)未婚者客体と国勢調査未婚者の性別年齢構成の比較(%)


参考図表5 第15回出生動向基本調査(独身者調査)未婚者客体と国勢調査未婚者の性別年齢構成の比較(%)


参考図表6 第15回出生動向基本調査(夫婦調査)客体と国勢調査有配偶女性の年齢構成の比較(%)


参考図表7 第15回出生動向基本調査(夫婦調査)客体と国勢調査有配偶女性の年齢構成の比較

(8)精度評価(標本誤差評価)

 本調査は標本調査であるため、推計値の持つ誤差の一つとして標本抽出に起因する標本誤差が ある。出生動向基本調査の標本抽出は、国民生活基礎調査の中間年調査と同じ構造を有している と考えられることから、ここでは国民生活基礎調査の中間年調査と同じ方法により標本誤差等を 推定し、精度評価を行うこととした[2]。標本誤差の大きさは調査項目の種類によって異なるが、ここでは、代表的な項目として、独身者調査については未婚者の生涯の結婚意思と未婚者の希望子ども数、夫婦調査については、平均理想子ども数、平均予定子ども数、完結出生児数についての結果を示した。
 標本誤差の評価方法は以下の通りである。

[記号]

ただし、

また、比推定量に関する有限母集団中心極限定理が成立することを仮定し、

を95% 信頼区間とした[3]
精度評価の結果を示したものが参考図表8である。


参考図表8 第15回出生動向基本調査の精度評価結果

[2]詳細については、石井 太・岩澤 美帆(2014)「地域分析の観点から見た出生動向基本調査の精度評価」, 国立社会保障・人口問題研究所Working Paper Series (J), No.12.を参照されたい。

[3]「未婚者の生涯の結婚意思」については、正規近似による信頼区間が適切なものとならないことから、Korn and Graubard (1998)の方法に基づいて信頼区間を構成した。具体的な方法論については同様に石井・岩澤(2014) を参照されたい。


3. 本書の構成

 本書では、調査の分析結果を、第T部独身者調査の結果、第U部夫婦調査の結果、第V部独身者・夫婦調査共通項目の結果の3つの部に分け、さらに、それぞれの部において複数項目を取り上げ、それぞれ個別の章として報告している。序で調査の概要についてふれた後、第T部では、第1章で結婚という選択、第2章で異性との交際、第3章で希望の結婚像、第4章で未婚者の生活と意識、第U部では、第1章で夫妻の結婚過程、第2章で夫婦の出生力、第3章で、妊娠・出産をめぐる状況、第4章で子育ての状況、第V部では、第1章で子どもについての考え方、第2章で生活経験と交際・結婚・出生、第3章で結婚・家族に関する意識についてそれぞれ報告している。
 また、巻末に調査関係資料、ならびに単純集計表と本文中の分析に関連したクロス集計表を掲載した。なお、本書に示された結果には、統計法第32条に基づき調査票情報を二次利用したものが含まれている。


4. 結果の要約

第T部 独身者調査の結果

第1章 結婚という選択

  • いずれは結婚しようと考える未婚者の割合は男性85.7%(前回86.3%)、女性89.3%(同89.4%)で、依然として高い水準にある。
  • 結婚の利点として「経済的余裕が持てる」ことを挙げる未婚女性が増える傾向にある(前回15.1 → 20.4%)。
  • 独身生活の利点としては「行動や生き方の自由」が安定的に多数を占めている(男性69.7%、女性 75.5%)。
  • 結婚への障壁としては「結婚資金」が最多となっている(男性 43.3%、女性 41.9%)。

第2章 異性との交際

  • 異性の交際相手をもたない未婚者は引き続き増加し、男性69.8%(前回61.4%)、女性59.1%(同49.5%)となった。
  • 性経験のない未婚者の割合が2000年代後半より増加傾向にある(男性前回36.2 →42.0%、女性同38.7 → 44.2%)。
  • 30代前半の同棲経験割合は男性10.4%、女性11.9%。

第3章 希望の結婚像

  • 未婚者の平均希望結婚年齢はほぼ頭打ちで、男性30.4歳(前回30.4歳)、女性28.6歳(同28.4歳)。男性で同い年志向の増大が続く(前回35.8 → 41.8%)。
  • 未婚女性の予定ライフコースは専業主婦コースの減少が続き(前回9.1 → 7.5%)、代わって両立コースと非婚就業コースが増加した(両立前回24.7 → 28.2%、非婚就業前回17.7→ 21.0%)。
  • 結婚相手の条件で考慮・重視するのは、「人柄」が最も多く(男性95.1%、女性98.0%)、次いで「家事・育児の能力」(男性92.8%、女性96.0%)。

第4章 未婚者の生活と意識

  • 親と同居する未婚者の割合は安定して推移(男性 72.2%、女性78.2%)。
  • 未婚者男女とも「一人の生活を続けても寂しくない」の割合が増加(男性41.5 → 48.4%、女性28.7 → 36.2%)。結婚意思がないと7 割超(男性75.0%、女性71.7%)。


第U部 夫婦調査の結果

第1章 夫妻の結婚過程

  • 夫妻の平均出会い年齢は、夫26.3歳、妻24.8歳で、ともに上昇(前回 夫25.6歳、妻24.3歳)。平均交際期間も4.3年と伸長が続き、晩婚化が進行。
  • 戦前7割を占めた見合い結婚は戦後を通じて減少傾向にあり、1990年代半ば以降は一桁台で推移(最新2010〜2014年5.3%)。

第2章 夫婦の出生力

  • 夫婦の完結出生児数(最終的な出生子ども数の平均値)は、前回調査に続き2人を下回った(前回1.96 → 1.94人)。半数を超える夫婦が2人の子どもを生んでいる一方で(54.0%)、子ども1人の夫婦が増加している(前回15.9 → 18.6%)。
  • 出生過程途上の夫婦でも、結婚後5年以上経過した夫婦では出生子ども数に低下傾向が見られる。

第3章 妊娠・出産をめぐる状況

  • 夫婦の39.8%が避妊を実施しており、これは第7回(1977年)調査以降で最も低い実施率となる。
  • 不妊を心配したことがある夫婦は増加(前回31.1 → 35.0%)。子どものいない夫婦では55.2%で半数を超えている(前回52.2%)。不妊の検査治療を受けたことがある夫婦は全体で18.2%(同16.4%)、子どものいない夫婦では28.2%(同28.6%)である。
  • 流死産を経験したことのある夫婦の割合は全体で15.3%。

第4章 子育ての状況

  • 子どもの追加予定がある夫婦でも52.7%の妻が就業。追加予定がない夫婦では、末子が0〜2歳のとき47.3%、3〜5歳になると61.2%の妻が就業している。
  • 第1子出産前後の妻の就業継続率はこれまで4 割前後で推移してきたが、2010〜14年では53.1%へ上昇。
  • 第1子について、何らかの子育て支援制度・施設を利用した夫婦の割合は80.2%。出産後も妻が継続して正規雇用の場合には98.1%。
  • 第1子について、約半数の夫婦が夫方、妻方いずれかの母親(子の祖母)から子育ての手助けを受けている(2010年以降の出生で52.9%)。


第V部 独身者・夫婦調査共通項目の結果

第1章 子どもについての考え方

  • 未婚者の平均希望子ども数は、男女ともに低下し、男性では初めて2人を切った(男性前回2.04 → 1.91人, 女性同2.12 → 2.02人)。
  • 夫婦の平均理想子ども数、平均予定子ども数はいずれも低下し、過去最低となった(理想子ども数前回2.42 → 2.32人, 予定子ども数同2.07 → 2.01人)。
  • 夫婦の予定子ども数が理想子ども数を下回る理由として最も多いのは、依然として「子育てや教育にお金がかかりすぎる」(56.3%)、次いで「高年齢で生むのはいやだから」(39.8%)。
  • 夫婦が女の子に受けさせたい教育の程度は、第10回調査(1992年)では「短大・高専」が最多だったが(38.5%)、今回は「大学以上」が増え(34.3 → 59.2%)、「短大・高専」(10.6%)を大幅に上回った。

第2章 生活経験と交際・結婚・出生

  • 出会いのきっかけは、未婚者・夫婦ともに「職場」、「友人やきょうだいを通じて」、「学校」が7 割を占める(未婚男性66.9%、未婚女性66.2%、夫婦70.6%)。
  • 子どもとの「ふれあい経験」が多かった未婚者の希望子ども数は多い傾向にあり、とくに女性で差が大きい(「経験多」平均希望子ども数2.14人、「経験少」同1.89人)。
  • 結婚後10年未満の夫婦の平均理想・予定子ども数についても「ふれあい経験」の多い妻で高い傾向が見られた(「経験多」理想2.45人・予定2.32人、「経験少」理想2.36人・予定2.21人)。

第3章 結婚・家族に関する意識

  • 妻では「婚前交渉はかまわない」(87.5%)、「女らしさ男らしさは必要」(85.3%)、「結婚しても自分の目標を」(85.0%)、「最初の子どもを産むなら20代で」(81.9%)に対して支持が高い。
  • 結婚・家族に関して伝統的な考え方の妻(結婚持続期間0〜4年の夫婦)は、平均理想・予定子ども数が高い傾向にある。
  • 結婚することや子どもを持つことについては、妻よりも未婚女性の方が伝統的な考えを支持する傾向がある。一方、結婚後のあり方や出産に適した年齢については、妻の方が伝統的な考えを支持している。


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