利用の手引き

 本統計資料集は国立社会保障・人口問題研究所が毎年公表している社会保障給付費のデータすなわちILO基準(第18次調査までの基準)による社会保障費用の定義と枠組みを基礎としている。ILO基準による社会保障費用は以下のすべての基準を満たす社会保障制度における費用と定義できる。

  1. 制度の目的が治療的ないし予防的医療を提供するもの、所得保障を行うもの、あるいは扶養家族に対して補足的給付を提供するものであること。
  2. 制度が法律によって定められ、それによって特定の個人に権利が付与され、あるいは公的、準公的、若しくは独立の機関に特定の責任が課せられるものであること。
  3. 制度が公的、準公的、若しくは独立の機関によって管理されていること。
    ただし、業務災害補償は、その責任が直接事業主に課せられているので、上記(3)を満たさないが社会保障に含める。
《費用の定義》
費用には財源としての「収入」と給付としての「支出」がある。なお、給付費とは支出のうち対人に直接給付される費用と定義される。したがって、支出には給付以外の支出と管理費を含む。

【収入の定義】

ILO基準による収入の分類は、拠出(@被保険者・A事業主)B国庫負担 C他の公費負担 D資産収入 Eその他 F移転収入、である。

@被保険者・A事業主は、社会保険制度における拠出金で保険料と同義語である。公務員制度で事業主が国である場合は、国が事業主として拠出した金額はたとえ国庫支出金であっても、事業主拠出に計上する。(地方公務員制度についても同様)

B国庫負担は、中央政府が支出する金額、即ち国庫が負担している金額が計上される。(ただし、公務員制度で国が事業主として拠出する場合はこれに含めない)

C他の公費負担は、都道府県と市町村が支出する金額の合計である。事業によって、負担率が法律に定められている場合とそうで無い場合があるが、両者を含む。

D資産収入は、利子、利息、配当金、一部の制度については、施設利用料、賃貸料、財産処分益、償還差益等が含まれる。積立金を有する制度(年金・雇用保険等)においては特にこの資産収入が大きい。

Eその他は、受取延滞金、損害賠償金、手数料、分担金、繰入金、繰越金、雑収入等、残余の支出である。

F移転収入は、ある特定の給付に対する負担を複数の保険者で分担している拠出金制度において、他の保険者から受け入れる拠出金又は交付金のことである。これには、次のようなものがある。

(1)医療保険制度関係
国民健康保険 ← (退職者医療にかかる拠出金)
政府管掌健康保険 ←(日雇特別被保険者にかかる拠出金)日雇特例被保険者を使用する事業主の設立する健康保険組合等
老人保健 ←(老人保健にかかる拠出金)各医療保険保険者
(2)年金保険制度関係
国民年金(基礎年金勘定)←(基礎年金相当分にかかる拠出金)各年金保険者 
厚生年金(制度間調整勘定)←(制度間調整にかかる拠出金)各被用者年金保険者
 (注)制度間調整にかかる拠出金制度は平成8年廃止された。

【支出の定義】

ILO基準による支出の分類は、@医療 A年金 Bその他現物 Cその他現金 D管理費 Eその他 F移転支出である。

@医療とは、現物給付形態(サービス給付)で給付される医療給付費のことである。一般に人々(被保険者及びその被扶養者)が診療を受けた時、自己負担以外は医療機関から保険者に請求されるが、その請求額を表している。ただし、自己負担額が規定額以上になった場合の高額医療費等については、償還払いとなって実際には現金が支払われるが、これも従来から保険給付の一種であり、医療に含む。業務災害で診療・治療を受けた場合の医療費もこれに含まれる。現行の業務災害補償制度で医療サービスを受けた場合、自己負担は無い。また、原爆被爆者援護法による医療給付や法定伝染病に関する医療給付などは、保険適用とされず全額公費負担で給付されるが、それも公費負担医療として医療給付費となる。

A年金とは、現金給付のうち年金として給付されるものを表している。年金とは、老齢、障害、遺族の3種類の年金給付とそれに付随する附加給付を表している。業務災害補償制度において支払われる給付で、本人に対する障害補償給付やその家族に対する遺族補償給付などで年金の形態をとる給付も含む。年金の形態とは、一時金のように一度にまとめて支払われる場合または有期限で支給される現金ではなく、生涯または受給資格を満たす間は無期限で給付される現金給付である。

Bその他現物には、サービス給付が分類されている。例えば、児童手当の一部として計上されている児童育成事業費補助金のうち時間延長型保育サービス事業費に要する費用の補助がこれにあたる。また、社会福祉では、ほとんどの事業の補助金及び負担金が含まれている。児童保護費の大半を占める児童保護費等負担金も、児童福祉施設(保育園・心身障害児施設等)における医療支出部分以外はすべてこのBその他現物に計上される。なお、平成12年度決算から計上される公的介護保険からの介護給付もまたこのBその他現物にあたる。

Cその他現金は、医療保険制度においては傷病手当や埋葬費などの現金給付を、年金保険制度においては、脱退一時金等の有期限または一度限りの給付を、雇用保険においては失業給付等の所得保障給付を、家族手当では児童手当等の費用を、生活保護においては、所得保障にかかわる生活・住宅・教育・生業・埋葬料等の扶助金である。社会福祉の場合は、災害弔慰金や特別障害者手当等給付金である。

D管理費とは、業務取扱費、事務費、事務所費、総務費、基金運営費、業務委託費、組合会費、旅費等である。診療報酬の支払い事務を支払基金に委託している場合の委託費も管理費と考える。

Eその他とは、給付以外の支出で施設整備費や設備整備費などの費用をはじめとして他に分類できない諸支出金を含む。

F移転支出とは、ある特定の給付に対して複数の保険者で負担を分担するための拠出金のことである。したがって拠出する制度からすると支出であるが、給付費として見た場合、既に他制度に計上されているものである。これには、次のようなものがある。

(1)医療保険制度関係
各被用者保険者(退職者医療にかかる拠出金)→ 国民健康保険
日雇特例被保険者を使用する事業主の設立する健康保険組合等(日雇特別被保険者にかかる拠出金)→ 政府管掌健康保険
各医療保険保険者(老人保健にかかる拠出金)→ 老人保健
(2)年金保険制度関係
各年金保険者(基礎年金相当分にかかる拠出金)→ 国民年金(基礎年金勘定)  (注)JR、JT共済の財政支援のために行われてきた「制度間財政調整事業」にかかる拠出金(制度間調整勘定への拠出)は平成8年廃止されたが、9年度10年度は精算額が計上されている。また、平成9年4月のJR・JT共済の厚生年金統合後は、新たな財政支援として「年金保険者拠出金」が導入された。

【制度に関する説明】

1.医療保険 
1)被用者保険
(1)民 間:政府管掌健康保険、組合管掌健康保険、船員保険(疾病)、日雇労働者健康保険、私立学校教職員共済組合(短期給付)
(2)公務員:国家公務員共済組合(短期)、旧公共企業体職員等共済組合(短期)、地方公務員等共済組合(短期)、旧令共済組合等(医療)
2)地域保険:国民健康保険
2.老人保健
老人保健 医療およびヘルス事業
3.年金保険
1)被用者保険
(1)民 間:厚生年金保険、厚生年金基金等、農業者年金基金等、船員保険(年金)、農林漁業団体職員共済組合、私立学校教職員共済組合(長期)
 (注)船員保険は昭和60年度分まで年金に含める。それ以降老齢年金は厚生年金保険に統合されたので、年金として残っているのは業務災害の年金給付だけで、5.業務災害補償(1)に含まれる。
(2)公務員:国家公務員共済組合(長期)、旧公共企業体職員等共済組合(長期)、地方公務員等共済組合(長期)、旧令共済組合等(年金)
2)地域保険:国民年金保険

4.雇用保険等: 雇用保険、船員保険(失業)

5.業務災害補償
(1)社会保険:労働者災害補償保険、船員保険(年金)
(注)船員保険(年金)は昭和61年度分からで、昭和60年度までは含まない。
(2)公務員:国家公務員災害補償、地方公務員等災害補償、旧公共企業体職員業務災害

6.家族手当: 児童手当法による給付、社会福祉の児童扶養手当と特別児童扶養手当

7.生活保護: 生活保護

8.社会福祉: 社会福祉(児童扶養手当と特別児童扶養手当を除く)

9.公衆衛生: 公衆衛生(老人保健ヘルス事業を除く)

10.恩  給: 国家公務員恩給、地方公務員恩給、旧軍人遺族等年金

11.戦争犠牲者援護: 旧軍人遺族等年金を除く戦争犠牲者

(注意)公営企業の民営化によって、旧公共企業体職員等共済組合や旧令共済組合等などは、「民間」として整理すべきところであるが、本資料では過去の経緯から公務員制度と同じ扱いにした。 旧公共企業体職員等共済組合は平成9年(1997年)4月に廃止された。その後は、「存続組合等」として既裁定者の年金給付の一部を所轄している。

【各制度の内訳】

「厚生年金基金等」:厚生年金基金・石炭鉱業年金基金
「農業者年金基金等」:農業者年金基金・国民年金基金
「旧公共企業体等共済組合」:日本鉄道共済組合(JR)・日本電信電話共済組合(NTT)・ 日本たばこ産業株式会社共済組合(JT)
「地方公務員等共済組合」:地方公務員共済・地方議会議員共済会
「旧令共済組合等」:旧令共済組合等交付金・日本製鉄八幡共済組合・国家公務員等共済 組合連合会医療施設費補助金
「地方公務員等災害補償」:地方公務員災害補償・消防団員等公務災害補償
「旧公共企業体職員業務災害」:国鉄精算事業団・日本電信電話株式会社(NTT)・ 日本たばこ産業株式会社(JT)
「戦争犠牲者援護」:戦傷病者援護にかかる費用と旧軍人遺族等恩給費
「公衆衛生」:大項目で以下12項目の費用が計上されている。保健衛生諸費・保健衛生施設整備費・結核医療費・原爆障害対策費・精神保健費・国立病院特別会計病院勘定への繰入・国立病院特別会計療養所勘定への繰入・沖縄保健衛生等対策諸費・検疫所・国立ハンセン療養所・科学研究費・厚生本省(毒ガス障害者調査委託費)
「社会福祉」:大項目で以下11項目の費用が計上されている。身体障害者保護費・老人福祉費・婦人保護費・社会福祉諸費・社会福祉施設整備費・災害援助等諸費・児童保護費・特別児童扶養手当等給付諸費・母子福祉費・児童扶養手当給付諸費・国立更生援護機関


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