序  文

本資料集は、旧社会保障研究所が1995年に編集刊行した『社会保障費統計の基礎と展望』(有斐閣)「第1部社会保障費の給付と負担の統計分析−時系列整備による展望−」と第3部資料編「制度別社会保障費系列表」について、直近の公表年度(平成10年度)まで時系列表を延長したものである。基本的に1995年の分析方法を踏襲しながらも、1998年社会保障費統計資料集第294号(平成9年度遡及版)において改訂した数値を基に再計算した。

本資料の後半に掲載した「制度別社会保障費系列表」は、社会保障制度を大きく11種類に分類している。その制度区分はILOが第18次調査まで採用していた制度区分を基本としているが、社会保険をさらに5分割したことが特徴である。すなわち「医療保険」「老人保健」「年金保険」「雇用保険」「業務災害補償」の5つである。従来のILO集計表では、社会保険の下部集計として決算単位の制度を計上してきた。その場合、短期給付(医療給付)と長期給付(年金給付)の両方を所轄している共済組合や医療・年金・失業を総合的に行ってきた船員保険があるため、医療・年金・福祉等といった政策分野別の資金の流れを知ることが困難だった。この特殊事情を考慮して、共済組合の各会計単位において収入支出ともに短期と長期に2分割(船員保険では3分割)したうえで再集計することで医療保険、年金保険別の集計が可能になった。ここでは、先行研究「社会保障費用の資金の流れに関する調査研究」(平成3年度) において提案された手法を継承し推計した。

近年社会保障の負担と給付のあり方の議論が活発になっている。国立社会保障・人口問題研究所でも平成10〜12年度において「社会保障の社会経済への効果分析モデル開発事業」を実施した。また、平成13年1月中央省庁の再編によって創設された首相を議長とする経済財政諮問会議では、社会保障の国民負担のあり方を考えるマクロ経済モデルの作成が進められている。従来、研究者が手がけたモデル分析やシミュレーション分析では、年金は厚生年金と国民年金、医療は政府管掌健康保険や組合管掌健康保険、国民健康保険などの代表的な社会保険制度のみを当てはめることで、データ制約を所与のものとしてきたが、「制度別社会保障費系列表」を利用することで、より実態に沿った分析が可能となる。

本資料の前半では、時系列による各種費用の表を整理掲載している。社会保障費用の収入および支出構造は、制度の変更・景気の変動および人口構造の変化など多くの要因によって変化してきたと考えられる。本資料によってそのような変化を過去30年間の費用変化の観点から分析することが可能となった。本資料が社会保障研究の様々な分野で活用されることが望まれる。この統計資料の作成は総合企画部第3室(勝又幸子室長)が担当した。

2001年3月31日

国立社会保障・人口問題研究所長
 阿藤 誠


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