一般会計プロジェクト 平成22年度



1 社会保障情報・調査研究事業

・ 平成20年度社会保障給付費の推計等

(1) 研究目的

 平成20年度社会保障給付費推計(OECD社会支出統計を含む。)を行い,研究及び行政資料として公表 する。

(2) 研究計画

    @ 平成20年度社会保障給付費推計
     平成20年度推計作業を例年どおり推計を行うとともに,『季刊社会保障研究』の誌上で財源を含めた推計結果と分析を公表する。
    A OECD Social Expenditure(SOCX:社会支出)の推計
     平成20年度社会保障給付費のデータを基に,2008年度までのデータをOECD基準で再計算した結果を整備するとともに,『海外社会保障研究』の誌上でその結果と分析を公表する。
    B 社会保障給付費の基幹統計化に向けての検討
     各種国際基準に関する情報収集,比較を行い,基幹統計化に向けての社会保障給付費の検討作業を進める。
    C 社会保障統計年報の作成,公表
     制度所管部局よりデータ提供協力を得つつ,数値等を更新して,平成22年社会保障統計年報を刊行する。

(3) 研究組織の構成

担当部長
東 修司(企画部長)
所内担当
勝又幸子(情報調査分析部長 企画部第3室長併任),
佐藤 格(社会保障基礎理論研究部研究員),竹沢純子(企画部研究員)
研究協力者
厚生労働省政策統括官付政策評価官室長補佐,同室調査総務係

(4) 研究成果の公表予定

    @ 一般配布資料「平成20年度社会保障給付費」の作成
    A 研究所ホームページへの和文および英文による結果の掲載
    B 社会保障費データベースの更新・電子媒体化および関係部署への提供
    C 季刊社会保障研究における社会保障費用の推計結果の公表と分析
    D 海外社会保障研究における国際比較データに関する解説と分析
    E 社会保障研究資料「社会保障統計年報平成22年版」の作成





2 将来人口推計のための調査分析ならびにシステム開発事業

 国立社会保障・人口問題研究所は,@全国人口に関する将来人口推計,A都道府県及び市区町村別将来人口推計,ならびにB全国及び都道府県の家族類型別将来世帯推計を定期的に実施している。これらは各種社会保障制度の中・長期計画をはじめとする国または地方自治体における各種施策の立案の基礎資料として用いられている。これらの推計を実施するには,人口動態ならびに世帯動態に関するデータの収集と分析,モデルの研究開発,さらに推計システムの構築が必要である。本事業では,これらを段階的に開発,改善を行 う。平成22年度は,平成18年12月以降に公表された推計結果の検証・評価等を継続して行うとともに,人口動向の分析ならびに次回推計に向けてのデータの収集・整備と手法の検討を行う。

・ 全国将来人口推計

 平成18年12月に公表された「日本の将来推計人口−平成18年12月推計」に関する各種指標のモニタリングと評価を継続して行う。また,近年の人口動向に関する分析を行なう。また,次回推計に向けてのデータの収集・整備と手法の検討を行う。

(1) 研究概要

 人口動態統計や国際人口移動統計などの人口推計ならびにモニタリングに必要な基礎データの収集・整備を行う。それらを用いて推計に関連する人口指標を作成し,推計仮定値ならびに推計結果に対して人口学的手法により評価を行うとともに,内外の人口推計の手法に関する研究情報を収集し,推計手法の評価や新たな手法の検討,開発を行う。

(2) 研究組織の構成

担当部長
金子隆一(人口動向研究部長)
所内担当
石井 太(国際関係部第3室長),三田房美(企画部主任研究官),
石川 晃(情報調査分析部第2室長),別府志海(同部主任研究官),
佐々井司(人口動向研究部第1室長),岩澤美帆(同部第3室長),
守泉理恵(同部主任研究官)

・ 地域別将来人口推計(都道府県別人口推計・市区町村別人口推計)

(1) 研究概要

 都道府県別人口推計・市区町村別人口推計とも,これまでの推計作業を通じて得たバックデータが多く存在する。推計関連の資料は人口研究全般において有用であると考えられるため,今後はこうした資料を活用した研究成果を報告する予定である。
 また本年10月には国勢調査が実施されるため,都道府県別人口推計・市区町村別人口推計とも推計結果と国勢調査の実績値との突き合わせを行い,男女年齢別人口を含めた詳細なモニタリングを行う。都道府県別人口推計では,住民基本台帳人口移動報告などの資料も併用しながら,主に純移動率を中心とした仮定値設定の妥当性について検討する。市区町村別人口推計については,推計誤差を地図化するなどして誤差の分布傾向を分析し,次回推計に向けた検討材料とする。さらに人口規模の少ない自治体や人口急変自治体に対 しては別途仮定値設定を行ったが,それらの基準についても誤差分析等から精査を行う。

(2) 研究組織の構成

担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
小池司朗(人口構造研究部第1室長),山内昌和(情報調査分析部第1室長),
菅 桂太(人口構造研究部研究員)
所外委員
江崎雄治(専修大学文学部教授)

・ 世帯推計(全国推計,都道府県別推計)

(1) 研究概要

 人口動態を中心とする現状のモニタリング,既存の推計手法,結果の評価とともに,将来推計モデルの改善と推計シミュレーションの実施などを行い,推計結果の精度を高めるための効果的なシステムの開発を企図する。また,同時に各方面から要望のある居住状態別の将来推計(全国・都道府県別)を行うための人口学的モデルを構築(高齢者の居住状態予測モデルなど)するための作業を進める。

(2) 研究組織の構成

担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
鈴木 透(企画部第4室長),小山泰代(人口構造研究部第3室長),
山内昌和(情報調査分析部第1室長),菅 桂太(人口構造研究部研究員)





3 第7回人口移動調査調査(企画)

(1) 調査概要

 わが国は本格的な人口減少社会を迎え,人口移動が地域人口の変動を左右する傾向を一層強めている。こうした傾向を踏まえ,近年の人口移動の動向と要因を明らかにするとともに,将来の人口移動の傾向を見通すことを目的として,平成18年度の第6回調査に引き続き,平成23年度に第7回人口移動調査を行う。
 本年度は,主として予算要求,調査票の設計,作成などを行う。

(2) 研究組織の構成

担当部長
佐藤龍三郎(国際関係部長),西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
千年よしみ(国際関係部第1室長),小島克久(同部第2室長),
清水昌人(人口構造研究部第2室長),小池司朗(同部第1室長)





4 第14回出生動向基本調査(実施)

(1) 調査概要

    @ 調査の目的
     出生動向基本調査は,他の公的統計では把握することのできないわが国の結婚ならびに夫婦の出生力に関する実態と背景を定時的に調査・計測し,関連諸施策ならびに将来人口推計に必要な基礎資料を提供することを目的とする。
     出生動向基本調査は,初回を戦前の1940(昭和15)年に行い,戦後はほぼ5年おきに実施してきた。近年のわが国における出生率の低下傾向は深刻であり,このままの傾向が継続すれば,著しい人口高齢化の進展や若年労働力の減少などにより,社会保障制度をはじめとするわが国社会経済の基盤に与える影響は計り知れない。このため国は少子化対策を含む次世代育成支援を最優先課題と位置づけ,様々な重点戦略を掲げている。これらの施策の前提として,全国の出生動向を正確に把握し,その要因,背景等に関する詳細な科学的知見が必要とされている。そうした中で,全国における結婚過程ならびに夫婦出生力について全国的かつ時系列的に捉えることのできる調査は,わが国では出生動向基本調査が唯一のものとなっている。このような施策上の重要性に鑑み,また同様に重要となる将来推計人口の実施に対して基礎的データを提供するため,平成22年度において第14回出生動向基本調査を実施する。
     今回の調査では,現在進行する少子化が若い世代の結婚の動向(晩婚化,未婚化および非婚化)と,結婚した夫婦における出生力低下の両面から生じていることを踏まえ,結婚過程のタイミングと頻度,結婚意欲とその要因,ならびに夫婦の各段階における出生子ども数,出生意欲とその要因を中心に,その実態と需要面(意欲)ならびに供給面(社会経済環境,出生抑制,健康)にわたる背景を探ることとした。

    A 調査対象
     本調査は全国標本調査であり,全国に住む
     1)妻の年齢50歳未満(満49歳以下)の夫婦
     2)18歳以上50歳未満(満49歳以下)の独身男女
    を対象とする。具体的には,平成22年国民生活基礎調査地区内より無作為に抽出した840調査地区内の1)および2)の該当者すべてを調査客体とする。
    B 調査期日
     平成22年6月25日。ただし,調査内容は平成22年6月1日現在の事実。
    C 調査事項
     1)「夫婦票」
    @夫婦の社会経済的属性 A夫婦の結婚過程に関する事項
    B夫婦の妊娠・出産歴に関する事項 C子ども数についての考え方に関する事項
    D妊娠・出産に関わる健康および不妊に関する事項
    Eライフコース・家族・男女に対する意識に関する事項
     2)「独身者票」
    @社会経済的属性に関する事項 A両親に関する事項
    B結婚についての考え方に関する事項 C子ども数についての考え方に関する事項
    Dライフコース・家族・男女に関わる意識に関する事項
    D 調査結果の公表予定
     平成23年度

(2) 研究組織の構成

担当部長
金子隆一(人口動向研究部長)
所内担当
佐々井司(人口動向研究部第1室長),釜野さおり(同部第2室長),
岩澤美帆(同部第3室長),石井 太(国際関係部第3室長),
三田房美(企画部主任研究官),守泉理恵(人口動向研究部主任研究官),
鎌田健司(客員研究員)





5 第6回世帯動態調査(分析)

(1) 調査概要

 第6回世帯動態調査は,他の公的統計調査では得られない前回調査(2004年)以降の世帯変動の実態と 要因を明らかにするとともに,時系列に精緻なデータを蓄積することによって,世帯数の将来推計の精度を 高めるための基礎データを収集することを目的とした調査で,平成21(2009)年7月1日に実施した。回 収された調査票はすでにデータ入力,データクリーニング作業が終了しており,平成22年度は,合成変数 の作成が終了次第,基本集計を行い,なるべく早い時期に調査結果をとりまとめ公表する。その後,順次, 報告書の刊行,研究成果を公表する予定である。

(2) 研究組織の構成

担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
鈴木 透(企画部第4室長),小山泰代(人口構造研究部第3室長),
清水昌人(同部第2室長),山内昌和(情報調査分析部第1室長),
菅 桂太(人口構造研究部研究員)





6 第4回全国家庭動向調査(分析・公表)

(1) 調査概要

 全国家庭動向調査は,他の公的統計調査では得られない家庭機能の実態や動向を明らかにすることを目的 とした調査で,調査は平成20(2008)年7月1日に実施した。第4回目の調査となる。回収された調査票 はすでにデータ入力,データ洗浄等を経て集計表の作成まで終了しており,平成22年度のなるべく早い時 期に結果の概要を公表し,その後,報告書の刊行,研究成果を順次公表して行く。

(2) 研究組織の構成

担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
小山泰代(人口構造研究部第3室長),千年よしみ(国際関係部第1室長),
釜野さおり(人口動向研究部第2室長),山内昌和(情報調査分析部第1室長),
菅 桂太(人口構造研究部研究員)
所外委員
星 敦士(甲南大学文学部准教授)





7 持続可能な地域ケアの在り方に関する総合的研究(平成20 〜 22 年度)

(1) 研究目的

 地域包括ケア研究会が平成22年3月にとりまとめた報告書でも指摘されるように,家族同居と独居の高齢者全てが住み慣れた地域で人生を送れるようにする「地域ケア」の重要性は一層高まっており,現在,各都道府県において,地域ケア体制整備構想に基づくサービス提供体制整備が進められているところである。また,今後の後期高齢者の増加等を背景に高齢者ケアの長期化・重度化・複合化が一層見込まれることから,いわゆる地域包括ケアの展開とそれが十分に機能する条件整備が急務であるとの指摘もある。
 他方,経済協力開発機構(OECD)においても,要介護高齢者への費用のトレンドとその適正化をはかる介護・ケアの在り方やケア労働者の構成(公的及び家族NPO等インフォーマル部門の変化,ケア労働者の受入れ国と送出し国との関係)等に関する国際比較研究が実施されており,我が国の地域ケア等を通じた介護保険改革の成果に対する関心が高まっている。
 こうした状況を踏まえて,本研究においては,持続可能なサービス提供体制の構築という観点から,特に,@高齢者の多様な特性と住まい方の関係性等を踏まえつつ,利用者の動向やサービス需要,提供体制等の在り方に関する分析を行うことA OECD諸国におけるケアシステムの実情とケア労働者の多様性を,高齢者の特性や住まい方との関係性を含めて把握することにより,わが国との比較分析を行うことを中心的なテーマとして取り組むとともに,これらの2つの分析から得られる政策的インプリケーションがわが国の地域ケ アの在り方全体に与える影響の評価を通じて,持続可能な地域ケアの在り方に関する総合的な研究を実施するものである。

(2) 研究計画

 平成20年度は,@医療・介護サービスの需要動向A小規模多機能と居住機能の現状Bリハビリテーションスタッフ養成の現状C成年後見人等の選任における自己決定の尊重と本人保護の理念D OECD 諸国におけるケアシステムの実情および拡大EUの医療・介護支出の将来推計に関する研究を,平成21年度は,@高齢者の生活支援ニーズA OECD加盟国等におけるインフォーマルケアの状況B介護関係職種の再教育プログラムCイギリスのコミュニティ・ケアの現状分析D WHOによるセーフコミュニティ提唱の動向に関する研究を実施した。
 最終年度にあたる本年度は,75歳以上高齢者がほぼピークを迎える2025年をターゲットとして,@最新データ(患者調査等)に基づく医療・介護需要の将来推計A将来需要に対応した医療・介護サービス提供体制の提示B医療・介護費用の将来推計C医療・介護従事者の必要量の推計と現行養成状況の妥当性検証D保険/保険外サービスの役割分担のあり方E高齢者の所得と負担のあり方の検証を通じて,複数モデルに対する需要・供給体制・負担のあり方の全体像を提示する。

(3) 研究組織の構成

担当部長
阿部 彩(社会保障応用分析研究部長)
所内担当
金子能宏(社会保障基礎理論研究部長),川越雅弘(企画部第1室長),
白P由美香(社会保障応用分析研究部研究員),黒田有志弥(同部研究員),
小島克久(国際関係部第2室長),野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2室長),
山本克也(同部第4室長)
所外委員
島崎謙治(政策研究大学院大学政策研究科教授),
高橋紘士(国際医療福祉大学大学院教授),
三浦研(大阪市立大学大学院生活科学研究科・生活科学部准教授),
備酒伸彦(神戸学院大学総合リハビリテーション学部准教授),
瀧澤透(八戸大学人間健康学部准教授),
竹内さをり(甲南女子大学看護リハビリテーション学部講師)

(4) 研究成果の公表予定

 本研究の成果は,研究事業報告書としてとりまとめるとともに,各研究者の所属する学会,研究会などで の発表,及び学術誌への投稿等を予定している。




8 少子化の要因としての成人期移行の変化に関する人口学的研究(平成20 〜 22 年度)

(1) 研究目的

 従来わが国では青年層が人口学研究の対象になることは稀であった。しかし少子化,晩婚・非婚化の傾向が一層顕著になる中で,青年期から成人期への移行(transition to adulthood)に関する様々なライフコース事象を一体的にとらえる研究枠組みの重要性が高まってきた。  成人期移行とは,ライフコースにおける「こども」から「おとな」への移行の過程を包括的に捉える概念であるが,ここで目印となるライフコース事象は,@学校から仕事へという側面では,(最終学校)卒業,(終身)就職,A親から独立し自身の家族形成という側面では,離家,パートナーシップ行動(異性交際,同棲,初婚),第1子出産などであり,親からの経済的独立も目安の一つといえる。またこれらの行動に伴うB地域移動も注目されるところである。年齢的には10代から30代前半くらいまでが対象となる。本研究 により,未婚化・少子化問題や若者問題に対する政策のあり方に新しい観点から示唆が得られることが期待される。

(2) 研究計画

 本研究は,3年間のプロジェクトを通して,以下の研究課題に取り組む。
    @ 欧米におけるこれまでの研究を(方法論,知見の両面で)レビューし,その成果を取り入れる。
    A 日本(家族社会学など)におけるこれまでの研究をレビューし,人口学的研究課題を設定する。
    B 日本における成人期移行の変化(遷延)について,マクロ統計,ミクロ統計の両面から分析する。後者,とりわけライフコース分析においては,各事象のタイミング(経験年齢),順序,回数などの変化として数量的に把握する。
    C 関連する人口・社会・経済現象の変化を数量的に把握し,その相互の関係について分析する。リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の視点も含める。
    D 成人期移行の変化(遷延)の要因について検討する。その際,統計面だけでなく,戦後の日本における「若者文化」の形成といった歴史的視点からも考察する。
    E 成人期移行の変化(遷延)が出生力に及ぼす影響について分析する。
    F 以上の課題について,日米欧の比較により,その共通性と差異を探る。
    G 成人期移行に関連した政策的課題について検討する。すなわち,超少子化の日本で若者対策を社会政策や公共政策の体系の中にどう組み入れるかといった課題も視野に入れる。本研究により,少子化問題や若者問題に対する政策立案に示唆が得られることが期待される。

(3) 研究組織の構成

担当部長
佐藤龍三郎(国際関係部長)
所内担当
石川 晃(情報調査分析部第2室長),白石紀子(同部第3室長),
鈴木 透(企画部第4室長),岩澤美帆(人口動向研究部第3室長),
別府志海(情報調査分析部主任研究官)
所外委員
宮本みち子(放送大学教養学部教授),加藤彰彦(明治大学政治経済学部准教授),
ジェームズ・レイモ(ウィスコンシン大学マディソン校社会学部教授),
福田節也 (マックスプランク人口研究所研究員),
松尾英子 (ルーヴァン・カトリック大学研究員)

(5) 研究成果の公表予定

・プロジェクト報告書
 第3報告書:2011年3月予定(所内研究報告)

・学会発表
 Sato, Ryuzaburo and Motomi Beppu, "The changing transition to adulthood in Japan : Delay,diversification and increasing atypical cases" at European Population Conference 2010(2010.9 Vienna)




9 社会保障計量分析モデル開発事業(平成21 〜 23 年度)

(1) 研究目的

 社会保障制度を構築するためには,実体経済との相互関係にも留意しつつ,年金等の所得移転に関わる給付(現金給付)と医療・介護・福祉等に関わるサービス(現物給付)のバランスを図りながら,社会保障給付をより効率的なものにしていく対応が求められている。具体的には,限られた社会保障財源の中で,年金等による所得保障と医療・介護・福祉等のサービス提供とをどのように組み合わせて実施していくのかという点が,今後の国民負担水準の動向や実体経済に与える影響との関係を含めて,重要な政策課題となってい る。
 特に,現物給付については,その実施に当たり多様なサービス提供主体が関わることとなるため,その実態に即した現実的な分析が重要であり,サービスを供給する側の事情やその行動によって社会保障給付がどのような影響を受けるのかといった点にまで踏み込んだ検討を深めることが必要である。このような供給側からのアプローチについて,近年めざましい発展を遂げている経済学的な分析手法(需要と供給の関係に関する理論的研究や,経済主体の行動原理に関する新たな分析手法等)を組み込むことは,これまでの社会保 障分析モデルでは無かった画期的な対応であり,新たに一層精緻な社会保障計量分析モデルを構築することができることとなる。
 他方,社会保障制度改革の効果と実体経済との相互間の影響を見ることも重要であり,こうした要請にも対応できる改善を加えることにより,計量分析モデルとしての実用性が大きく高まることから,政策研究機関としての当研究所における社会保障分野の研究基盤を強化することが可能となる。
 本研究では,このような問題意識に基づき,従来のような社会保障制度と国民経済との関係だけではなく,その内訳としての現金給付と現物給付の構成比の変化や制度的な要因も考慮した,多面的な分析に耐え得る社会保障計量分析モデルの構築を行うこととしており,社会保障と国民経済に関する現実的で応用範囲の広いモデルに基づく推計作業に着手することを通じて,今後のわが国の社会保障政策に寄与できるエビデンス及び政策的インプリケーションを提供しようとするものである。

(2) 研究計画

 平成22年度は社会保障制度改革と実体経済との相互関係を含む第一次シミュレーションの実施,供給側の影響を分析できるモデルの構築を行う。マクロ計量モデル及び保険数理モデル(両者の補完関係が構築されたもの),世代重複モデル,マイクロシミュレーションモデル等の「社会保障計量分析モデル」による第一次シミュレーションを実施する。また,前年度に文献サーベイ等を実施した成果を活用して,医療・介護・福祉等のサービス提供(現物給付)における供給側の影響を分析するための経済理論(プリンシパル・エー ジェント理論,インセンティヴ・コンパティビィティー理論)等に基づく分析モデルを構築するとともに,分析に必要な変数の選定や結果の妥当性の検証等を実施する。また,本年度は3年計画の中間年であるため,本年度の上半期には,学識経験者の意見を取り入れながら今までの事業の総括と今後の展望を得るためのワークショップを開催する。

(3) 研究組織の構成

担当部長
金子能宏(社会保障基礎理論研究部長)
所内担当
山本克也(社会保障基礎理論研究部第4室長),佐藤 格(同部研究員),
菊池 潤(社会保障応用分析研究部研究員)
所外委員
大林 守(専修大学商学部教授),加藤久和(明治大学政治経済学部教授),
府川哲夫(田園調布学園大学人間福祉学部客員教授),
川瀬晃弘(東洋大学経済学部講師),
中田大悟(経済産業研究所研究員),稲垣誠一(一橋大学経済研究所客員教授),
小黒一正(世界平和研究所研究員)

(4) 研究成果の公表予定

 本研究の成果は,研究事業報告書としてとりまとめるとともに,当研究所のディスカッション・ペーパーや機関誌・Web journal,各研究者の所属する学会,研究会などでの発表,及び学術誌への投稿等を予定している。 




10 家計の経済資源・人的資源と社会保障の機能の関連性に関する実証的研究(平成21 〜 23 年度)

(1) 研究目的

 従来,所得など家計の有する経済資源に着目して社会保障制度の効率化に関する議論が行われることは多かったが,健康や教育,技術・技能といった家計の人的資源という観点から社会保障制度との関連が検証されることは少なかった。本研究では,家計の経済資源のみならず,人的資源にも着目して社会保障制度との関連について分析することを目的とする。
 本研究を通じて,従来の経済資源のみならず新たに人的資源が及ぼす影響についても,社会保障制度との相互関連の中で把握することができる。例えば,高学歴で高い職業スキルを持ち健康状態も良好な女性や高齢者の場合,結婚や出産,定年退職等の様々なライフ・イヴェントにおける退職の機会費用が高まるため,保育サービスに対するニーズが高まる一方,老後の所得保障に対するニーズは働き方の実態に即したものになると考えられる。他方,社会保障制度におけるメタボリック・シンドローム対策や介護予防給付の実施は,家計の人的資源に直接働きかけることを通じて,将来的な医療・介護支出に影響を及ぼすことが考えられる。こうしたライフ・イヴェントにおける機会費用や社会保障政策の費用対効果を定量的に把握することにより,今後の持続可能な社会保障の在り方の検討に向けた多面的な研究成果を提供することが可能となる。

(2) 研究計画

 まず,家計の経済資源のみならず,人的資源にも着目した分析として,次のような研究を行う。@結婚・出産及び定年退職等の様々なライフ・イヴェントにおける就労等の経済活動に対して,人的資源や経済資源がどのように影響しているのか,A出産に伴う保育サービスや退職後の年金受給,医療・介護などのサービスの利用といった,社会保障に関する国民のニーズに対して,人的資源や経済資源がどのように影響しているのかについての定量的な分析。さらに,これらの分析も踏まえつつ,様々な社会保障サービスの供給が, 家計の人的資源や経済資源に対してどのような効果を与えているのかという相互関係についても,特に費用対効果分析の観点から分析を行うことにする。
 本研究における以上のような分析は,社会保障制度に対する国民のニーズをきめ細かく正確に把握するとともに,生活環境の多様化等を踏まえた,柔軟で機能的かつ効率的な社会保障制度の在り方を考える上で,重要な実証的エビデンスを提供することになる。さらに,わが国においては未だ,人的資源や経済資源の両面を網羅した,全国規模かつ長期間にわたるパネルデータが存在しないが,本研究では厚生労働省統計情報部の縦断調査等を活用しながら分析を進めることとしているため,その成果の提供を通じて,こうしたパネ ルデータの設計に向けた研究基盤の確立にも寄与することができる。

(3) 研究組織の構成

担当部長
金子能宏(社会保障基礎理論研究部長)
所内担当
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2室長),暮石 渉(同部研究員),
酒井 正(同部研究員),泉田信行(社会保障応用分析研究部第1室長),
菊池 潤(同部研究員)
所外委員
井堀利宏(東京大学大学院経済学研究科教授),阿部修人(一橋大学経済研究所准教授),
加藤竜太(国際大学大学院国際関係学研究科教授),
川口大司(一橋大学大学院経済学研究科准教授),坂本和靖((財)家計経済研究所研究員),
田中隆一(東京工業大学大学院情報理工学研究科准教授),
中嶋 亮(横浜国立大学大学院国際社会科学研究科准教授),
林 正義(一橋大学大学院経済学研究科/国際・公共政策大学院准教授),
府川哲夫(田園調布学園大学人間福祉学部社会福祉学科客員教授),
別所俊一郎(一橋大学大学院経済学研究科/国際・公共政策大学院講師)

(4) 研究成果の公表予定

 本研究の成果は,研究事業報告書としてとりまとめるとともに,当研究所のディスカッション・ペーパー や機関誌・Web journal ,各研究者の所属する学会,研究会などでの発表,及び学術誌への投稿等を予定し ている。


トップページへ