厚生労働科学研究費補助金 平成21年度



(政策科学推進研究事業)

11 低所得者の実態と社会保障の在り方に関する研究(平成19 〜 21 年度)

(1) 研究目的

 本研究の目的は,日本における低所得者を,貧困,相対的剥奪,社会的排除などの新しい概念を含めた定 義で捉え,その実態を把握するとともに,彼らの社会保障制度との関わり合いを分析した上で,社会保障制 度が低所得者に対する施策をどのように構築するべきかを検討することである。

(2) 研究計画

    @ プロジェクト全体
     本研究は3 カ年計画で行われている。研究では,以下にあげる3 つのトピックごとに研究チームが立ち上 げられており,平成19 年,20 年度はそれぞれの分析を行った。平成21 年度は,最終年度であるため,こ れらの研究成果を横断的に検討する。特に,平成20 年度に本プロジェクトにて行われた「2008 年社会生活 調査」の集計および分析を行う。
    1 ) 低所得層の実態の把握
    2 ) 社会保険の減免制度,自己負担のあり方と給付に関する研究(国民年金・国民健康保険の未納・未 加入問題,パート労働者などの社会保険適用問題,障害年金の所得保障機能など)
    3 ) 公的扶助を始めとする低所得者支援制度のあり方に関する研究(生活保護制度,児童扶養手当,児 童手当など)

    A プロジェクトのスケジュール
    1 ) 平成 21 年5 月   中間報告 (社会政策学会第119 回大会,日本大学)
     社会政策学会にて,本プロジェクトのテーマ別分科会(分科会名「最低生活保障の在り方:データ から見えてくるもの」)を設け,研究代表者,分担研究者,研究協力者らによる本プロジェクトのこれ までの成果が報告される予定である。本分科会で報告される内容は,「生活保護受給者と低所得者の生 活実態」「消費の社会的強制と最低生活水準」「高齢期における低所得リスクの規定要因」「住居の状況 による生活満足度の違い」「貸付制度と生活保護」「低所得就業世帯の規定要因」と,どれもさまざま な既存のデータを駆使して国が保障すべき「最低生活」をどのように決定すべきかというテーマを分 析する先駆的な研究である。
    2 ) 平成 21 年6 月〜 12 月
     「2008 年社会生活調査」の集計および分析を行う。本分析では,貧困・相対的剥奪・社会的排除とラ イフサイクルのイベント,過去の職歴や幼少期の生活状況などとの関連,低所得層の社会保障制度と のかかわりの実態を把握する。具体的には,社会保険(医療や介護サービス)の利用時点における費 用の面から,低所得者と社会保険のあり方を検討する。
    3 ) 平成 22 年1 月
     上記の分析を基に,ワークショップを行い,行政・学会の有識者による,本プロジェクト全体の成 果を検討する。

    B 継続して行う作業

(3) 研究組織の構成

研究代表者
阿部 彩(国際関係部第2 室長)
研究分担者
西村幸満(社会保障応用分析研究部第2 室長),菊地英明(武蔵大学社会学部准教授),
山田篤裕(慶應義塾大学経済学部准教授)
研究協力者
西山 裕(政策研究調整官),上枝朱美(東京国際大学経済学部准教授),
田宮遊子(神戸学院大学経済学部講師)

(4) 研究成果の公表予定

 本研究の成果は,平成21 年度報告書に掲載される予定のほか,社会政策学会(平成21 年5 月)にて報告 される。






12 所得・資産・消費と社会保険料・税の関係に着目した社会保障の給付と 負担の在り方に関する研究(平成19 〜 21 年度)

(1) 研究目的

 持続可能な社会保障制度を構築するためには,社会経済の変化に応じて絶えず社会保障の給付と負担の在 り方を検討していく必要がある。2008 年開始の後期高齢者医療制度の財源は1/2 が公費負担であり,基礎年 金の国庫負担は2009 年度に1/2 に引き上げることが予定されている。このように,社会保障財政における税 負担の割合が高まる傾向にある今日,社会保険料と税に着目して社会保障の給付と負担の在り方を検討する ことは,緊急の課題である。とくに,所得・資産格差の拡大が危惧されている今日,給付と負担の在り方に ついては,社会保障給付と税制それぞれの再分配効果に関する検証に基づく検討が必要である。また,所得 は現役時代に増加し引退期に減少し,資産は所得格差に応じて引退期にも変化するなど,ライフサイクルの 段階ごとに負担賦課の対象は変化するので,給付と負担の在り方を探るためには,ライフサイクルにおける 負担と給付の関係の変化も考慮した検証が必要である。
 したがって,本研究では,格差是正とライフサイクルにおけるニーズの変化に対応できる持続可能な社会 保障制度の構築に資するために,所得・消費・資産と社会保険料・税の関係に着目した社会保障の給付と負 担の在り方に関する研究を,所得・消費・資産に関する実証分析と制度分析とを合わせ総合的に行う。初年度, 「国民生活基礎調査」調査票再集計の許諾を得てこれに基づく実証分析と国際比較研究を行う。2 年目は,こ のような実証分析,国際比較研究,制度分析に加え,ライフサイクルのニーズ変化を把握するため健康・引 退に関するパネル・データ作成を行う。3 年目に研究成果全体のとりまとめと普及を行う。これによって,所 得・消費・資産の格差是正,ニーズに応じた給付を支える社会保険料と税との望ましい組み合わせ,および 給付と負担に資産を活用する方法の可能性を検討するなど,政策的判断の資料となるエビデンスを提供する ことが期待できる。

(2) 研究計画

 本研究では,研究目的で示した問題意識のもとに,所得・資産・消費の実態把握のために「所得再分配調査」 「国民生活基礎調査」等の使用申請に基づく再集計を行い,所得等の分布の変化と人々のライフサイクルに着 目した実証分析を行う。初年度は,「国民生活基礎調査」調査票再集計の許諾を得てこれに基づく実証分析を 行った。なお,公的統計では必ずしも十分に補足できないが所得・資産・消費に影響を及ぼす事項,例えば 引退過程と健康状況等との関係については,アンケート調査を3 年計画で実施しパネル・データを構築する。
 また,わが国の所得・消費・資産の実態を客観的に評価するため,OECD や税財源による社会保障制度を持 つカナダ等の国々との研究協力を行うとともに,成長著しく所得変動の大きい東アジア諸国との比較を行う。 初年度は,「国民生活基礎調査」調査票再集計の許諾を得て,OECD の所得比較研究プロジェクトに協力する 情報提供を行う。
 さらに,負担賦課の対象として所得・資産・消費のいずれを選択するか社会保険料と税との関係に着目し て行う分析には,実証分析のみならず,制度分析・社会保障法学の応用が不可欠である。制度分析では,カ ナダの連邦児童給付制度の変遷と意義について分析を深化させ,払戻型税額控除の理念,意義,わが国への 導入の是非など,児童手当と併存させることの是非等について我が国への示唆を得るための比較研究を行う。 この論点に関連して,社会保障国民会議で給付と負担の透明性の確保や低所得者への免除制度の活用等が今後の課題として示されたことに対応して,社会保険料・税の負担の世代内への影響と世代間への影響に関す る分析,給付と控除制度の再分配効果の比較に関する分析なども行う。
 さらに,負担能力を考慮して消費税の活用を図る方法としての軽減税率の動向や,社会保険料と公費負担, 税の控除制度と給付との関係,年金給付等と保険料負担との関係等についても,実態把握と社会保障法学的 な考察等に留意しつつ,制度分析を行う。
 これらの各分野を通じて,社会保障研究の分析手法の新たな展開を把握するために,所外の有識者・研究 者等からのヒアリングと意見交換により,本研究に資する新たな研究手法の蓄積に努める。とくに,3 年目に 当たり,研究成果をとりまとめ一般に公開するために,研究報告書に加えて,研究協力者等を含めたワーク ショップやセミナーの開催,研究所のディスカッション・ペーパーや機関誌等を活用して,国民への成果普 及に努める。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
金子能宏(社会保障応用分析研究部長)
研究分担者
西山 裕(政策研究調整官),東 修司(企画部長),米山正敏(同部第1 室長),
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),山本克也(同部第4 室長),
酒井 正(同部研究員),小島克久(社会保障応用分析研究部第3 室長),
尾澤 恵(同部主任研究官),
岩本康志(東京大学大学院経済学研究科教授),小塩隆士(一橋大学経済研究所教授),
田近栄治(一橋大学副学長),
チャールズ・ユウジ・ホリオカ(大阪大学社会経済研究所教授),
八塩裕之(京都産業大学経済学部准教授),山田篤裕(慶應義塾大学経済学部准教授),
稲垣誠一(年金シニアプラン総合研究機構審議役),
濱秋純哉(内閣府経済社会総合研究所研究官)
研究協力者
京極宣(所長),白瀬由美香(社会保障応用分析研究部研究員),
宮島 洋(早稲田大学法学部特任教授),
島崎謙治(政策研究大学院大学政策研究科教授),
長江 亮(早稲田大学高等研究所助教)





13 医療・介護制度における適切な提供体制の構築と費用適正化に関する実証的研究 (平成19 〜 21 年度)

(1) 研究目的

 医療・介護制度を持続可能なものとするためには,適正な資源配分を確保する必要がある。改革を実効的 にするには,その成果について継続的に実証的検証を行い,その結果をその後の改革に活かすPDCA サイク ルを確立する必要がある。
 政府の適正化策や地域差に関する研究は数多く行われているが,マクロ的施策の効果の地域差,国や地域 の適正化策の相乗・減殺効果については全く検討されていない。これらは今後の国と地方の役割分担を検討し, より効果的な医療・介護の適正化方策を具体化するために解明される必要がある。
 そこで,本研究では,医療・介護制度における@費用適正化策,A供給体制の確保策,に分類される個別 施策内容について分析し,これらについての検討結果を参照しつつ,B制度改革の有効な実施方法について 理論的に明らかにすることが目的となる。

(2) 研究計画

 平成21 年度は研究事業の最終年度であるため,各研究分担者がこれまで担当してきた分担課題についての 分析内容に関する補足的な調査・分析等を実施しつつ,主任研究者のみならず,研究分担者相互に連携して 総合的なとりまとめを行う。
 研究成果のとりまとめの柱は次の通りである。
    1 ) 日本の実情に合わせたプライマリー・ケア導入方策の検討
    2 ) 連携を踏まえた急性期病院のあり方の検討
    3 ) 医療・介護の連携のあり方の検討
    4 ) 国・地方の施策連携のあり方に関する検討
    5 ) ライフサイクルを踏まえた人的資源確保策の検討
    6 ) 医療提供体制を踏まえた公立病院のあり方の検討

(3) 研究組織の構成

研究代表者
泉田信行(社会保障応用分析研究部第1 室長)
研究分担者
東 修司(企画部長),川越雅弘(社会保障応用分析研究部第4 室長),
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),菊池 潤(企画部研究員),
郡司篤晃(聖学院大学大学院教授),島崎謙治(政策研究大学院大学政策研究科教授),
橋本英樹(東京大学大学院医学系研究科教授),
西田在賢(静岡県立大学経営情報学部教授),
宮澤 仁(お茶の水女子大学文教育学部准教授),田城孝雄(順天堂大学医学部准教授)
研究協力者
山田篤裕(慶應義塾大学経済学部准教授),石井加代子(医療経済研究機構研究員),
稲田七海(大阪市立大学GCOE 研究員)

(4) 研究成果の公表予定

・刊行物
 厚生労働科学研究費補助金政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業)『医療・介護制度における適切 な提供体制の構築と費用適正化に関する実証的研究』報告書として刊行する予定。




14 家族・労働政策等の少子化対策が結婚・出生行動に及ぼす効果に関する総合的研究 (平成20 〜 22 年度)

(1) 研究目的

 本研究では,3 つの切り口から課題に接近する。第一に,少子化に影響を及ぼす社会経済要因に関して理論 的・実証的研究を行う。第二に,それらを土台に家族・労働政策として行われる諸政策と現実の社会経済的 諸条件が結婚や出生行動に及ぼす影響について,シミュレーションモデルによる分析を行い,今後の出生率 動向に及ぼす政策要因の効果を統計的に把握する。具体的には,このシミュレーションモデルによって個別 の家族政策,たとえば投入する児童手当の水準が出生率にどの程度の変化を引き起こすかといった効果をマ クロの観点から把握する。第三に,すでに2005 年から全国の自治体で実施されている次世代育成支援対策推 進法に基づく行動計画について,特定の自治体の協力を得て調査を行い,行動計画が提供するサービスと両 親の育児ニーズとの整合性や,策定された行動計画の有効性と妥当性を評価する。とくに,行動計画作成段 階から実施段階における問題点や改善点,計画の進捗状況について質問紙調査とヒアリング調査により分析 を行い,行動計画の評価方法に関するモデルを作成する。これら三つの観点から研究を遂行し,効率的な少 子化対策のあり方を提言する。
 本年度は3 年計画の2 年目であり,初年度に引き続き少子化要因に関する文献レビューや社会経済分析の 研究を進めるとともに,政策効果を検討するためのシミュレーションモデルの精緻化を試みる。また,地方 自治体と連携した質問紙調査および自治体の子育て支援行動計画に関するヒアリング調査を継続して行う。

(2) 研究計画

 研究代表者らの先行研究で開発した出生率の計量経済学的シミュレーションモデルの成果を踏まえ,この モデルに投入する政策変数の拡張を行い,家族政策・労働政策の内容項目別にその量的・質的な推進・展開 が将来の出生率に及ぼす効果をシミュレーションし,評価分析を行う。さらに,地域の少子化対策に関する 評価研究について,自治体の協力を得て次世代育成支援行動計画の進捗状況とその実態について調査し,行 動計画の政策評価の手法のモデル化を試みる。
 上述の目的を達成するため,第一に計量経済学的なマクロ・シミュレーション・モデルによる少子化対策 の影響評価研究を行う。第二に,出生動向基本調査(国立社会保障・人口問題研究所)や就業構造基本調査 等の調査データを利用し,結婚・出生行動に関する社会経済的な規定要因について実証分析を行う。第三に, 地方自治体の協力のもと,出産・子育てのニーズと施策対応に関する質問紙調査および次世代育成支援行動 計画に関するヒアリング調査を実施し,少子化対策の評価手法の開発を行う。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
高橋重郷(副所長)
研究分担者
佐々井 司(人口動向研究部第1 室長),守泉理恵(同部主任研究官),
中嶋和夫(岡山県立大学保健福祉学部教授)
研究協力者
別府志海(情報調査分析部主任研究官),鎌田健司(客員研究員),
安藏伸治(明治大学政治経済学部教授),大淵 寛(中央大学名誉教授),
大石亜希子(千葉大学法経学部准教授),加藤久和(明治大学政治経済学部教授),
君島菜菜(大正大学兼任講師),桐野匡史(岡山県立大学保健福祉学部助手),
工藤 豪(埼玉学園大学非常勤講師),金 潔(岡山県立大学保健福祉学部准教授),
増田幹人(東洋大学兼任講師),仙田幸子(東北学院大学教養学部准教授),
永瀬伸子(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授)





15 人口動態変動および構造変化の見通しとその推計手法に関する総合的研究 (平成20 〜 22 年度)

(1) 研究目的

 わが国はすでに恒常的人口減少過程に入り,世界一となった人口高齢化はなお急速なペースで進行してい る。今後の人口動態ならびに人口構造の歴史的転換は,わが国の社会経済を基盤から揺るがすものとなり,こ れに対応する社会保障分野をはじめとする社会経済制度の改革が急務となっている。こうした中,それら改 革に必要な定量的指針を与えるものとして,将来人口推計はかつてない重要性を帯びている。しかし一方で は前例のない少子化(出生率低下),長寿化(平均寿命の伸長),国際化(国際人口移動の増大)は,人口動 態の見通しを不透明としており,これらの新たな事態に対する知見の集積や推計技術の開発が急がれている。 本研究では,こうした状況を踏まえ,将来人口推計手法の先端的技術と周辺諸科学の知見・技術を総合する ことにより,人口動態・構造変動の詳細なメカニズムの解明,モデル化,推計の精密化を図ることを目指す。 これまで難しいとされてきた人口動態〜社会経済との連関を考慮した人口推計技術についてのアプローチを 含め,実績統計データの体系化と新たな技術の総合化を目指す。

(2) 研究計画

 本研究においては,第一に人口変動の元となる国民生活やライフコース・家族の変容・健康や寿命に関す るデータを体系化し,いち早く正確に捉えるための分析システムの開発を行なう。すなわち,既存の人口統 計ソースである国勢調査データ,人口動態統計データ,全国標本調査データの体系的な再集計・分析システ ムの構築を行い,モニタリング体制の確立に取り組んでいる。第二にそれらのシステムと既存の将来推計人 口技術を確率推計手法,多相生命表手法をはじめとする構造化人口動態モデルなどの先端的技術と融合させ, これらの新しい技術の実用化への発展を図るものとする。さらに第三として,社会経済変動との連動など広 い視野を持った研究の基礎として,エージェント技術などに代表される革新的な技術を用いたモデル,なら びにシステムの開発に着手した。これらは,今後予想される人口動態と社会経済との相互関係の複雑化に対 応するものであり,各国の指導的研究者と連携して研究を展開している。
 第2 年次にあたる本年度は,第1 年次の成果を踏まえて,調査データ,人口動態統計データ(含目的外申請), 全国標本調査データの体系的な集積,再集計,分析システムの構築を進め,効率化を目指す。また,確率推 計手法,多相生命表手法,構造化人口動態モデルなどの先端的技術の実用化に取り組み,数理的理論の整備を図る。さらに人口〜社会経済〜社会保障の相互関係のシステム分析のためエージェントモデル等を開発し, 推計等に対する応用の検討を行う。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
金子隆一(人口動向研究部長)
研究分担者
石井 太(国際関係部第3 室長),佐々井 司(人口動向研究部第1 室長),
岩澤美帆(同部第3 室長),守泉理恵(同部主任研究官),
稲葉 寿(東京大学大学院准教授)
研究協力者
石川 晃(情報調査分析部第2 室長),別府志海(同部主任研究官),
三田房美(企画部主任研究官),国友直人(東京大学経済学部教授),
堀内四郎(ニューヨーク市立大学ハンター校教授),
大崎敬子(国連アジア太平洋経済社会委員会社会部人口・社会統合課長),
エヴァ・フラシャック(ワルシャワ経済大学教授),
スリパッド・タルジャパルカ(スタンフォード大学教授)





16 東アジアの家族人口学的変動と家族政策に関する国際比較研究 (平成21 〜 23 年度)

(1) 研究目的

 東アジアではかねてから出生促進策を採ってきたシンガポールや日本に加え,2000 年代に入って急激な出 生力低下を経験した韓国・台湾も出生促進策に急旋回した。これらは出生促進策を中心としながらも,子ど もの福祉向上,若者の経済的自立,多様化するニーズへの対応等を含む包括的な家族政策パッケージになっ ている。一方で東アジアの極端な出生力低下の要因に対しては,北西欧や英語圏先進国と異なる家族パター ンの重要性が指摘されている。この点で,結婚制度の衰退や不安定化,成人移行の遅れ,世帯規模の縮小と 世帯構造の多様化,国際結婚の増加といった家族人口学的変動の中に出生力低下を位置づけることが,きわ めて重要な意味を持つことになる。本研究は,日本を含む東アジアの低出生力国における家族人口学的変動 と家族政策の展開を比較分析し,それらを通じて得られた知見からわが国の今後の家族変動と家族政策に対 する示唆点を得ようとするものである。

(2) 研究計画

 本研究では,東アジアの低出生力国の家族人口学的変動と家族政策の展開を,文献・理論研究および専門 家インタビュー,マクロおよびマイクロデータの分析,将来予測の各段階を踏んで分析を進める。そのよう な分析を通じて,東アジアにおける家族人口学的変動の特徴を明らかにし,それがどのような家族政策を発 現させ,そうした政策が過去にどの程度の効果を及ぼし,また将来及ぼし得るかを明らかにする。
 第一年目の文献・理論研究では,東アジアの低出生力国における出生力低下を含む家族人口学的変動と,そ の社会経済的要因に関する既存研究を収集し,日本や欧米先進国から得られた知見と比較・検討する。また 各国における出生促進策を中心とする家族政策パッケージの展開について調査し,その特徴を明らかにする。 アカデミックな文献調査と専門家インタビューを中心に情報を収集するが,それに限定せず,家族変動や家 族政策に関する議論や言説を新聞・雑誌等からも幅広く集める予定である。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
鈴木 透(企画部第4 室長)
研究分担者
菅 桂太(人口構造研究部研究員),伊藤正一(関西学院大学経済学部教授),
小島 宏(早稲田大学社会科学総合学術院教授)





(障害保健福祉総合研究事業)

17 障害者の自立支援と「合理的配慮」に関する研究―諸外国の実態と制度に学ぶ障害 者自立支援法の可能性―(平成20 〜 22 年度)

(1) 研究目的

 目的は障害者自立支援法の理念である自立と完全社会参加と平等を理論的及び実践的に捉えながら,将来日 本が「障害者権利条約」を批准するための条件整備に必要な要件を明らかにすることである。本研究の特徴 は理論的には「社会モデル」の実践への応用を試みることで,「合理的配慮」の政策面への反映を目標にする ところである。障害者の自立生活運動の実態や,諸外国における居宅生活支援政策の実態について調べ,日 本との比較を行う。また,『障害者生活実態調査』の分析から,障害者の暮らす世帯の状況から,経済面,身 辺介助・援助面・就労での障害者の自立支援のあり方を検討する。

(2) 研究計画

 1 年目と同様に,専門家のヒヤリングを随時企画し,広く情報を得る。各研究者は研究代表者に提出した研 究計画に沿って研究を進め,年度後半に研究成果を報告し,研究会のメンバーからの意見を参考に研究をよ り高度なものにしていく。勝又幸子研究代表者は,モニタリングの実際について国際的動向の調査を中心と し研究を行う。また,国内においては,委託研究において地域主導の障害者支援政策の調査を行い,自治体 におけるモニタリングの実際と可能性を考察する。
 岡部分担研究者は1 年目に引き続き,米国・カリフォルニア州のパーソナルアシスタントの重度知的・発 達障害者の制度について,福祉政策と支給決定システムの詳細について調査を進める。土屋分担研究者は1 年目に引き続き,自立生活を実践している障害当事者の生活支援について,総合的な支援の必要についてケー ススタディを行う。遠山分担研究者は障害者雇用について,雇用における差別禁止の政策や法について欧米 各国の調査や研究についてサーベイをおこなう。また,国内外における雇用実態に関するデータを収集・分 析し,海外での差別禁止法施行後の障害者の就業率や健常者との格差を明らかにするよう研究を行う。星加 分担研究者は,前年度の分析を踏まえ,a )「合理的配慮」規定に付随している「過度な負担」という免責要 件について,社会モデルの観点から分析・評価し,b )「合理的配慮」を越えるアファーマティブアクション 施策に関する規範的正当性と実行可能性についてさらなる検討を行う。
 研究協力者については,自立生活における介護サービスの質の調査を,サービス利用者と介助者の双方へ のインタビュー調査によって明らかにする研究や,カナダにおける知的障害者の直接現金給付制度の実際を 調べる研究や,海外におけるダイレクトペイメントの日本への導入の可能性を検討する研究,脱施設化の意 義を権利条約から検討する研究,社会的事業所の研究を発展させ,独自の保護雇用に補助制度をもっている 自治体の調査研究など,さまざまな研究が1 年目から発展させた議論として提案されている。
 研究方法では,ケーススタディにおいては当事者の同意を得て個人情報に留意して実施される。フィール ドリサーチについては,団体や自治体の協力を得て,事業の支障とならないように実施される。 他の研究は,内外の文献情報の調査に基づく研究である。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
勝又幸子(情報調査分析部長)
研究分担者
岡部耕典(早稲田大学文学学術院文化構想学部准教授),
土屋 葉(愛知大学文学部人文社会学科准教授),
遠山真世(立教大学コミュニティ福祉学部助教),
星加良司(東京大学先端科学技術研究センター社会学特任助教)
研究協力者
西山 裕(政策研究調整官),白瀬由美香(社会保障応用分析研究部研究員),
磯野 博(静岡福祉医療専門学校教員),
大村美保(東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科院生),
木口恵美子(東洋大学社会学部助教),
佐々木愛佳(自立生活センター日野コーディネーター),
中原 耕(同志社大学大学院社会学研究科院生),山村りつ(同研究科院生)





(統計情報総合研究事業)

18 パネル調査(縦断調査)に関する統合的高度統計分析システムの開発研究 (平成20 〜 21 年度)

(1) 研究目的

 厚生労働省は国民生活について国が講ずるべき施策検討の基礎資料を得るために,国民の生活やライフコー ス上の各種事象の規定要因の特定,施策の効果測定等を主眼として,21 世紀縦断調査を実施している。縦断 調査は行政ニーズの把握や施策効果の測定に有効な調査形態であるが,その活用には横断調査と異なる独自 のデータ管理と分析手法が必要である。しかし上記の調査は日本の政府統計上初のパネル調査であり,管理・ 分析法に関する知識,経験の蓄積は十分とはいえない。
 本研究では,この縦断調査について基礎分析から高度統計分析にいたる科学的な分析によって行政ニーズ の把握や施策効果の測定を行うためのデータ管理から統計分析手法の適用までを統合化するシステムを開発 するとともに,多様な分析法の相互の関係や位置づけが明確となるよう,3 調査における調査テーマならびに その分析手法の体系化を行うことを目的とする。また,標本脱落等の縦断調査データ特有の問題点やそれら の対処法についても検討する。以上によって,信頼性の高い調査分析結果を効率的に提供するためのインフ ラ構築を目指す。

(2) 研究計画

 研究は平成20,21 年度の2 カ年で行うものとし,初年度はすでに構築されたパネル情報ベースのコンテン ツを充実するための国内外のパネル調査に関する概要や分析手法の情報収集を行い,同様にすでに構築され たデータ管理,分析システムの実装と実用化における課題とその解決のための方策の検討を行なった。また, 調査テーマとその分析手法の体系化に取り組み,さらに脱落等データ特性に関する研究の追加等を行なった。 第2 年度は情報ベースの拡張,分析システムについて検討された方策についての開発と確立,並びに分析手 法の高度化,体系化された調査テーマに沿った事例研究によるデータ特性並びに分析手法の検討などを行う。 これら2 カ年の研究を通して開発されたシステムは実用性を強化し,本格的な分析の実効ある支援が可能な ものとする。本事業の成果として,年々蓄積されて行く縦断調査データに対し,縦断調査特有のデータ管理 から高度統計分析までを統合化するシステムを開発することにより,速やかで質の高い結果公表に資するこ とと,方法論,分析結果の双方において国際的に価値の高い貢献が得られることが期待される。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
金子隆一(人口動向研究部長)
研究分担者
釜野さおり(人口動向研究部第2 室長),北村行伸(一橋大学経済研究所教授)
研究協力者
阿部 彩(国際関係部第2 室長),石井 太(同部第3 室長),
岩澤美帆(人口動向研究部第3 室長),守泉理恵(同部主任研究官),
三田房美(企画部主任研究官),鎌田健司(客員研究員),
阿藤 誠(早稲田大学人間科学学術院特任教授),
津谷典子(慶應義塾大学経済学部教授),
中田 正(日興ファイナンシャルインテリジェンス年金研究所副理事長),
西野淑美(首都大学東京都市教養学部助教),
福田節也(マックスプランク人口研究所研究員),
相馬直子(横浜国立大学大学院国際社会科学研究科准教授),
元森絵里子(明治学院大学社会学部専任講師),
井出博生(東京大学医学部附属病院助教),
藤原武男(国立保健医療科学院生涯保健部行動科学室長)



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