(1) 研究概要
2000 年代に入って東アジアの高度経済国・地域は急激な出生率低下を経験し,2004 年の合計出生率は日本 が1.29,韓国が1.16,台湾が1.18 となった。このうち韓国・台湾の出生率は,ヨーロッパでも匹敵する国が 稀なほど極端に低い水準である。このような低出生率の重要な決定因として,男女労働者の働き方の影響を 分析する。たとえば欧米に比べ長い労働時間は,男性の家事・育児参加を阻害し,伝統的性役割意識を保存 する方向に作用しているものと思われる。日本の長期不況や韓国の経済危機は,多くの若年労働者の経済的 自立を挫折させ,また家計の将来に対する不安感を増幅し,結婚・出産意欲を減退させたと推測される。出産・ 育児休暇,家族看護休暇,フレックスタイム制度等のファミリーフレンドリー施策の導入の遅れも,東アジ アの出生率低下を加速させと考えられる。良質な保育サービス供給の不足も,妻の就業と出産・育児の両立 を阻害し,やはり少少子化をもたらしたと思われる。本研究は,こうした働き方に関する諸要因が東アジア の出生率低下に与えた影響を分析する。(2) 研究計画
第3 年度は,マイクロ・データの分析を通じて,働き方に関わる諸要因と出生促進策の効果に関する定量 的分析を完成させる。これを地方レベル,国・地域レベル,および国際比較から得られた知見と組合せ,政 策提言をまとめる。また韓国・台湾の出生促進策を評価し,日本が参考とすべき点を整理する。
(3) 研究組織の構成
(1) 研究目的
本研究は,@制度横断的に社会保障の機能を分析し,家族形態や就労形態の変化に対応した社会保障の機 能を考察し,A社会保障の機能評価に関するシミュレーション分析を通して,政策の選択肢が社会保障の機 能に与える影響を評価する。あわせて,有識者に対してヒアリングを行い,有識者の想定する社会保障の将 来像を反映した形でシミュレーション分析を行う。1 年目は,社会保障の各種機能について,個別制度ごとに 検討を行うと同時に,制度横断的な検討を行った。2 年目は,介護保険制度の機能についての定量的な評価分 析を行った。また,有識者に対するヒアリングでモデル用パラメータの収集が終わった。3 年目は,有識者の 社会保障観を具現化するシミュレーション分析を行い,それを題材にワークショップの開催を計画している。 また,社会保障の機能に関して,@年金,医療,介護におけるリスク・プーリング機能はどう違うのか,A社 会保障における「子育て支援」機能の検討,B社会連帯の構成要素(所得再分配の程度,リスクの分配;再分配) C公私の役割分担,D個人のライフサイクルと社会保障を検討する。
(2) 研究計画
研究班全体として本年度は,4 月に役割分担の確認,7 月にワークショップ向けのモデル作成,9 月にワー クショップの開催,2 月に結果報告,報告書作成である。今年度,府川は社会保障の機能に関して,@年金,医療,介護におけるリスク・プーリング機能はどう違うのか,A社会保障における「子育て支援」機能の検討, B社会連帯の構成要素(所得再分配の程度,リスクの分配;再分配),C公私の役割分担,D個人のライフサ イクルと社会保障を検討する。佐藤は18 年(財政ブロック,社会保障ブロック),19 年(変数変更回路の設置) と開発してきたマクロ計量モデルをワークショップ用に改訂する。山本は,18 年(年金支給方法の変更,年 金支給開始年齢の引き上げ等),19 年(パートタイマーの年金適用拡大)と開発してきた保険数理モデル(年 金,医療)をワークショップ用に改訂する。菊池は介護保険,障害福祉サービスの長期推計モデルを構築し, 利用者数,費用等に関する長期推計を行う。なお,山本と菊池の保険数理モデルは佐藤のマクロ計量モデル と接合されて,社会保障制度改正と実体経済の関係を考察する。ワークショップの後は,モデルを総合した 世代会計を作成し,個人のライフサイクルと社会保障について検討する。野口は19 年度に引き続き「消費生 活に関するパネル調査」(財家計経済研究所)を用いて,女性の人的資本としての「健康」と社会経済的状況 との関係性を実証的研究する。酒井は「消費生活パネル」(財家計経済研究所)で昨年度に試みた分析を継続・ 発展させる。具体的には,就業変化と社会保険の未加入行動との関係について個票に基づいた分析を行い,昨 年度明らかにされなかった部分の解明を行う。
(3) 研究組織の構成
(1) 研究目的
本研究の目的は,日本における低所得者を,貧困,相対的剥奪,社会的排除などの新しい概念を含めた定 義で捉え,その実態を把握するとともに,彼らの社会保障制度との関わり合いを分析した上で,社会保障制 度が低所得者に対する施策をどのように構築するべきかを検討することである。(2) 研究計画
本研究は3 カ年計画で行われる。研究では,以下にあげる3 つのトピックごとに研究チームを立ち上げ,独
自の分析を進めるとともに,制度横断的な検討を行うため,合同の研究会を行う。
@ 低所得層の実態の把握 (低所得者調査を中心とする分析)
平成20 年度は,既存研究で把握することが難しい「子どもの貧困」に焦点をあてた調査を行う。調査
においては,親の経済状況や社会保障制度との関わりが,子どもの生活水準にどのように影響しているか
を分析する。調査においては,社会保険への加入を始め,実際の医療,介護,サービスの利用状況,剥奪・
社会的排除などの概念を用いた実質的な生活水準などについても調査する。また,昨年度から行われて
いる貧困・剥奪(デプリベーション)の日豪(+英米)比較を継続して行う。この結果は,8 月に予定さ
れている国際学会にて報告される。さらに,昨年度に発掘し,電子媒体に入力された1970,1980 年代に
行われた社会保障研究所「掛川調査」(紙ベース)のデータを比較対象として,社会保障制度の発展と人々
(特に高齢者)の生活水準,剥奪,社会的排除の状況がどのように変化したかの分析を行う。
A 社会保険の減免制度,自己負担のあり方と給付に関する研究(国民年金・国民健康保険の未納・未加
入問題,パート労働者などの社会保険適用問題,障害年金の所得保障機能など)
現行の社会保障制度には,様々な低所得者措置が盛り込まれている。しかし,国民年金を例にとると,
減免制度が用意されているにもかかわらず未納問題は依然として深刻である。平成19 年度は,「社会保
険の未加入・未納についての研究会」を立ち上げ,既存調査からの実態把握を行った。平成20,2
1 年度は,1
)
半額(多段階)免除制度の効果(財政面+未納率)の推計,2 )未納から納付への転換,納付から未納へ
の転換など,パネルデータを使って個人のライフヒストリーに着目した分析,3 )厚生年金からの脱落の分析を分析対象とし,可能であれば4 )将来の無年金者数の推計まで行う。
B 公的扶助を始めとする低所得者支援制度のあり方に関する研究(生活保護制度,児童扶養手当,児童
手当など)
平成20 年度は,厚生労働省が行った『社会保障生計調査』の分析を中心に,生活保護制度の被保護世
帯と一般低所得者世帯の貧困・社会的排除・剥奪の比較分析を行うことにより,生活保護制度を始めと
する公的扶助制度への示唆を得る。また,個別の研究対象として,ホームレス問題を取り上げる。ホー
ムレスに対しては「ホームレスの自立支援等に関する特別措置法」の中間年として見直しを検討するに
あたって厚生労働省が全国調査を行ったところであるが,本研究にては,上記調査の目的外使用申請を
行い,ホームレスに対する既存施策の効果や課題を分析する。また,住宅制度などにも視野を広め,低
所得者支援制度を包括的に捉えた上で,それらのあり方を検討する。
(3) 研究組織の構成
(4) 研究成果の公表
研究の成果は,学会報告,機関紙などの場で公表される。
(1) 研究目的
持続可能な社会保障制度を構築するためには,社会経済の変化に応じて絶えず社会保障の給付と負担の在り 方を検討していく必要がある。2008 年開始の後期高齢者医療制度の財源は1/2 が公費負担であり,基礎年金 の国庫負担は2009 年までに1/2 に引き上げることが予定されている。このように,社会保障財政における税 負担の割合が高まる可能性がある今日,社会保険料と税に着目して社会保障の給付と負担の在り方を検討す ることは,緊急の課題である。とくに,所得・資産格差の拡大が危惧されている今日,給付と負担の在り方 については,社会保障給付と税制それぞれの再分配効果に関する検証に基づく検討が必要である。また,所 得は現役時代に増加し引退期に減少し,資産は所得格差に応じて引退期にも増減少するなど,ライフサイク ルの段階ごとに負担賦課の対象は変化するので,給付と負担の在り方を探るためには,ライフサイクルにお ける負担と給付の関係の変化も加味する必要がある。(2) 研究計画
本研究では,研究目的で示した問題意識のもとに,所得・資産・消費の実態把握のために「所得再分配調 査」「国民生活基礎調査」等の使用申請に基づく再集計を行い,所得等の分布の変化と人々のライフサイクルに着目した実証分析を行う。なお,これらの統計では補足できないが所得・資産・消費に影響を及ぼす事項, 例えば引退過程と健康状況等との関係については,アンケート調査を実施する。また,わが国の所得・資産・ 消費の実態を客観的に評価するため,OECD や税財源による社会保障制度を持つカナダとの研究協力を行うと ともに,成長著しく所得変動の大きい東アジア諸国との比較を行う。(3) 研究組織の構成
(4) 研究成果の公表
本研究の成果は,報告書としてとりまとめて厚生労働省に提出するとともに,関係団体および研究者に配 布する。なお,本研究の成果の一部は,『季刊社会保障研究』第44 巻第3 号〈特集:「格差」社会と所得再分配〉 において公表する予定である。
(1) 研究目的
医療・介護制度を持続可能なものとするためには,適正な資源配分を確保する必要がある。近年の介護保険, 健康保険,医療,の各法の改正により医療・介護提供体制改革の端緒が開かれた。しかし,改革を実効的にす るには,その成果について継続的に実証的検証を行い,その結果をその後の改革に活かす「PDCA サイクル」 を確立する必要がある。(2) 研究計画
研究にあたっては,医療・介護関連諸制度の改革が進捗していることもあり,それらの改革に対して研究成 果が提供できるように研究を進めていく。分析の対象となる主たる課題とその研究の進め方は次のとおりで ある。(3) 研究組織の構成
(1) 研究目的
本研究では,3 つの切り口から課題に接近する。第一に,少子化に影響を及ぼす社会経済要因に関して理論 的・実証的研究を行う。第二に,それらを土台に家族・労働政策として行われる諸政策と現実の社会経済的 諸条件が結婚や出生行動に及ぼす影響について,シミュレーションモデルによる分析を行い,今後の出生率 動向に及ぼす政策要因の効果を統計的に把握する。具体的には,このシミュレーションモデルによって個別 の家族政策,例えば投入する児童手当の水準が出生率にどの程度の変化を引き起こすかといった効果をマク ロの観点から把握する。第三に,すでに2005 年から全国の自治体で実施されている次世代育成支援対策推進 法に基づく行動計画について,特定の自治体( 2 カ所を予定)の協力を得て調査を行い,行動計画が提供す るサービスと両親の育児ニーズとの整合性や,策定された行動計画の有効性と妥当性を評価する。特に,行 動計画作成段階から実施段階における問題点や改善点,計画の進捗状況について質問紙調査とヒアリング調 査により分析を行い,行動計画の評価方法に関するモデルを作成する。これら3 つの観点から研究を遂行し, 効率的な少子化対策のあり方を提言する。(2) 研究計画
研究代表者らの先行研究で開発した出生率の計量経済学的シミュレーションモデルの成果を踏まえ,この モデルに投入する政策変数の拡張を行い,家族政策・労働政策の内容項目別にその量的・質的な推進・展開 が将来の出生率に及ぼす効果をシミュレーションし,評価分析を行う。さらに,地域の少子化対策に関する 評価研究について,自治体の協力を得て次世代育成支援行動計画の進捗状況とその実態について調査し,行 動計画の政策評価の手法のモデル化を試みる。(3) 研究組織の構成
(1) 研究目的
わが国はまもなく恒常的人口減少過程に入り,世界一となった人口高齢化はなお急速なペースで進行して いる。今後の人口動態ならびに人口構造の歴史的転換は,わが国の社会経済を基盤から揺るがすものとなり, これに対応する社会保障分野を始めとする社会経済制度の改革が急務となっている。したがって,それら改革 に必要な定量的指針を与えるものとして,将来人口推計はかつてない重要性を帯びている。しかし一方では 前例のない少子化(出生率低下),長寿化(平均寿命の伸長),国際化(国際人口移動の増大)は,人口動態 の見通しを不透明としており,これらの新たな事態に対する知見の集積や技術の開発が急がれている。本研 究では,こうした状況を踏まえ,将来人口推計手法の先端的技術と周辺諸科学の知見・技術を総合すること により,人口動態・構造変動の詳細なメカニズムの解明,モデル化,推計の精密化を図ることを目指す。こ れまで難しいとされてきた人口動態〜社会経済との連関を考慮した人口推計技術についてのアプローチを含 め,実績統計データの体系化と新たな技術の総合化を目指す。(2) 研究計画
第一に人口変動の元となる国民生活やライフコース・家族の変容に関するデータを体系化し,いち早く正確 に捉えるための分析システムの開発を行う。すなわち,既存の人口統計ソースである国勢調査データ,人口 動態統計データ,全国標本調査データの体系的な再集計・分析システムの構築を行い,モニタリング体制の 確立を行う。第二にそれらのシステムと既存の将来推計人口技術を確率推計手法,多相生命表手法を始めと する構造化人口動態モデルなどの先端的技術と融合させ,これらの新しい技術の実用化への発展を図る。さ らに第三として,社会経済変動との連動など広い視野を持った研究の基礎として,エージェント技術などに 代表される革新的な技術を用いたモデル,ならびにシステムを開発する。これらは,今後予想される人口動 態と社会経済との相互関係の複雑化に対応するものである。これらは,各国の指導的研究者と連携して研究を展開する。(3) 研究組織の構成
(1) 研究の目的
目的は障害者自立支援法の理念である自立と完全社会参加と平等を理論的及び実践的に捉えながら,将来日 本が「障害者権利条約」を批准するための条件整備に必要な要件を明らかにすることである。本研究の特徴 は理論的には「社会モデル」の実践への応用を試みることで,「合理的配慮」の政策面への反映を目標にする ところである。障害者の自立生活運動の実態や,諸外国における居宅生活支援政策の実態について調べ,日 本との比較を行う。また,『障害者生活実態調査』の分析から,障害者の暮らす世帯の状況から,経済面,身 辺介助・援助面・就労での障害者の自立支援のあり方を検討する。(2) 研究計画
本研究は3 年計画である。基本的研究方法としては,参加研究者の研究計画に沿った個別研究に加え,委 託研究による情報収集を行う。外国の調査については,分担研究者の発案をもとに予算制約の中で実施する。 2 年目は,コミュニティケア・ダイレクトペイメント制度による障害者の社会参加について,イギリスから研 究者・実践者を招聘すべく外国人研究者招へい事業の申請を予定している。招聘が実現したときには,障害 当事者を含む一般を対象にした,シンポジウムの開催も実現したい。(3) 研究組織の構成
(1) 研究目的
厚生労働省は国民生活について国が講ずるべき施策検討の基礎資料を得るために,国民の生活やライフコー ス上の各種事象の規定要因の特定,施策の効果測定等を主眼として,21 世紀縦断調査を実施している。縦断 調査は行政ニーズの把握や施策効果の測定に有効な調査形態であるが,その活用には横断調査と異なる独自 のデータ管理と分析手法が必要である。しかし上記の調査は日本の政府統計上初のパネル調査であり,管理・ 分析法に関する知識,経験の蓄積が不十分である。(2) 研究計画
研究は平成20,21 年度の2 カ年で行うものとし,初年度はすでに構築されたパネル情報ベースのコンテン ツを充実するための国内外のパネル調査に関する概要や分析手法の情報収集を行い,同様にすでに構築され たデータ管理,分析システムの実装と実用下における課題とその解決のための方策の検討を行う。また,調 査テーマとその分析手法の体系化の準備作業を行い,さらに脱落等データ特性に関する研究の追加等を行う。 第2 年度は情報ベースの拡張,分析システムについて検討された方策についての開発と確立,ならびに分析 手法の高度化,体系化された調査テーマに沿った事例研究によるデータ特性ならびに分析手法の検討などを 行う。これら2 カ年の研究を通して開発されたシステムは実用性を強化し,本格的な分析の実効ある支援が 可能なものとする。本事業の成果として,年々蓄積されて行く縦断調査データに対し,縦断調査特有のデー タ管理から高度統計分析までを統合化するシステムを開発することにより,速やかで質の高い結果公表に資 することと,方法論,分析結果の双方において国際的に価値の高い貢献が得られることが期待される。(3) 研究組織の構成