厚生労働科学研究費補助金 平成20年度



(政策科学推進研究事業)

11 男女労働者の働き方が東アジアの低出生力に与えた影響に関する国際比較研究 (平成18〜20 年度)

(1) 研究概要

 2000 年代に入って東アジアの高度経済国・地域は急激な出生率低下を経験し,2004 年の合計出生率は日本 が1.29,韓国が1.16,台湾が1.18 となった。このうち韓国・台湾の出生率は,ヨーロッパでも匹敵する国が 稀なほど極端に低い水準である。このような低出生率の重要な決定因として,男女労働者の働き方の影響を 分析する。たとえば欧米に比べ長い労働時間は,男性の家事・育児参加を阻害し,伝統的性役割意識を保存 する方向に作用しているものと思われる。日本の長期不況や韓国の経済危機は,多くの若年労働者の経済的 自立を挫折させ,また家計の将来に対する不安感を増幅し,結婚・出産意欲を減退させたと推測される。出産・ 育児休暇,家族看護休暇,フレックスタイム制度等のファミリーフレンドリー施策の導入の遅れも,東アジ アの出生率低下を加速させと考えられる。良質な保育サービス供給の不足も,妻の就業と出産・育児の両立 を阻害し,やはり少少子化をもたらしたと思われる。本研究は,こうした働き方に関する諸要因が東アジア の出生率低下に与えた影響を分析する。

(2) 研究計画

 第3 年度は,マイクロ・データの分析を通じて,働き方に関わる諸要因と出生促進策の効果に関する定量 的分析を完成させる。これを地方レベル,国・地域レベル,および国際比較から得られた知見と組合せ,政 策提言をまとめる。また韓国・台湾の出生促進策を評価し,日本が参考とすべき点を整理する。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
鈴木 透(企画部第4 室長)
分担研究者
小島 宏(早稲田大学社会科学総合学術院教授),伊藤正一(関西学院大学経済学部教授)





12 社会保障の制度横断的な機能評価に関するシミュレーション分析 (平成18 〜 20 年度)

(1) 研究目的

 本研究は,@制度横断的に社会保障の機能を分析し,家族形態や就労形態の変化に対応した社会保障の機 能を考察し,A社会保障の機能評価に関するシミュレーション分析を通して,政策の選択肢が社会保障の機 能に与える影響を評価する。あわせて,有識者に対してヒアリングを行い,有識者の想定する社会保障の将 来像を反映した形でシミュレーション分析を行う。1 年目は,社会保障の各種機能について,個別制度ごとに 検討を行うと同時に,制度横断的な検討を行った。2 年目は,介護保険制度の機能についての定量的な評価分 析を行った。また,有識者に対するヒアリングでモデル用パラメータの収集が終わった。3 年目は,有識者の 社会保障観を具現化するシミュレーション分析を行い,それを題材にワークショップの開催を計画している。 また,社会保障の機能に関して,@年金,医療,介護におけるリスク・プーリング機能はどう違うのか,A社 会保障における「子育て支援」機能の検討,B社会連帯の構成要素(所得再分配の程度,リスクの分配;再分配) C公私の役割分担,D個人のライフサイクルと社会保障を検討する。

(2) 研究計画

研究班全体として本年度は,4 月に役割分担の確認,7 月にワークショップ向けのモデル作成,9 月にワー クショップの開催,2 月に結果報告,報告書作成である。今年度,府川は社会保障の機能に関して,@年金,医療,介護におけるリスク・プーリング機能はどう違うのか,A社会保障における「子育て支援」機能の検討, B社会連帯の構成要素(所得再分配の程度,リスクの分配;再分配),C公私の役割分担,D個人のライフサ イクルと社会保障を検討する。佐藤は18 年(財政ブロック,社会保障ブロック),19 年(変数変更回路の設置) と開発してきたマクロ計量モデルをワークショップ用に改訂する。山本は,18 年(年金支給方法の変更,年 金支給開始年齢の引き上げ等),19 年(パートタイマーの年金適用拡大)と開発してきた保険数理モデル(年 金,医療)をワークショップ用に改訂する。菊池は介護保険,障害福祉サービスの長期推計モデルを構築し, 利用者数,費用等に関する長期推計を行う。なお,山本と菊池の保険数理モデルは佐藤のマクロ計量モデル と接合されて,社会保障制度改正と実体経済の関係を考察する。ワークショップの後は,モデルを総合した 世代会計を作成し,個人のライフサイクルと社会保障について検討する。野口は19 年度に引き続き「消費生 活に関するパネル調査」(財家計経済研究所)を用いて,女性の人的資本としての「健康」と社会経済的状況 との関係性を実証的研究する。酒井は「消費生活パネル」(財家計経済研究所)で昨年度に試みた分析を継続・ 発展させる。具体的には,就業変化と社会保険の未加入行動との関係について個票に基づいた分析を行い,昨 年度明らかにされなかった部分の解明を行う。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
分担研究者
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2 室長)山本克也(同部第4 室長),
佐藤 格(同部研究員),酒井 正(同部研究員),菊池 潤(企画部研究員)
研究協力者
山田 武(千葉商科大学商経学部教授),宮里尚三(日本大学経済学部専任講師)





13 低所得者の実態と社会保障の在り方に関する研究(平成19 〜 21 年度)

(1) 研究目的

 本研究の目的は,日本における低所得者を,貧困,相対的剥奪,社会的排除などの新しい概念を含めた定 義で捉え,その実態を把握するとともに,彼らの社会保障制度との関わり合いを分析した上で,社会保障制 度が低所得者に対する施策をどのように構築するべきかを検討することである。

(2) 研究計画

 本研究は3 カ年計画で行われる。研究では,以下にあげる3 つのトピックごとに研究チームを立ち上げ,独 自の分析を進めるとともに,制度横断的な検討を行うため,合同の研究会を行う。
 @ 低所得層の実態の把握 (低所得者調査を中心とする分析)
 平成20 年度は,既存研究で把握することが難しい「子どもの貧困」に焦点をあてた調査を行う。調査 においては,親の経済状況や社会保障制度との関わりが,子どもの生活水準にどのように影響しているか を分析する。調査においては,社会保険への加入を始め,実際の医療,介護,サービスの利用状況,剥奪・ 社会的排除などの概念を用いた実質的な生活水準などについても調査する。また,昨年度から行われて いる貧困・剥奪(デプリベーション)の日豪(+英米)比較を継続して行う。この結果は,8 月に予定さ れている国際学会にて報告される。さらに,昨年度に発掘し,電子媒体に入力された1970,1980 年代に 行われた社会保障研究所「掛川調査」(紙ベース)のデータを比較対象として,社会保障制度の発展と人々 (特に高齢者)の生活水準,剥奪,社会的排除の状況がどのように変化したかの分析を行う。
 A 社会保険の減免制度,自己負担のあり方と給付に関する研究(国民年金・国民健康保険の未納・未加 入問題,パート労働者などの社会保険適用問題,障害年金の所得保障機能など)
 現行の社会保障制度には,様々な低所得者措置が盛り込まれている。しかし,国民年金を例にとると, 減免制度が用意されているにもかかわらず未納問題は依然として深刻である。平成19 年度は,「社会保 険の未加入・未納についての研究会」を立ち上げ,既存調査からの実態把握を行った。平成20,2 1 年度は,1 ) 半額(多段階)免除制度の効果(財政面+未納率)の推計,2 )未納から納付への転換,納付から未納へ の転換など,パネルデータを使って個人のライフヒストリーに着目した分析,3 )厚生年金からの脱落の分析を分析対象とし,可能であれば4 )将来の無年金者数の推計まで行う。
B 公的扶助を始めとする低所得者支援制度のあり方に関する研究(生活保護制度,児童扶養手当,児童 手当など)
 平成20 年度は,厚生労働省が行った『社会保障生計調査』の分析を中心に,生活保護制度の被保護世 帯と一般低所得者世帯の貧困・社会的排除・剥奪の比較分析を行うことにより,生活保護制度を始めと する公的扶助制度への示唆を得る。また,個別の研究対象として,ホームレス問題を取り上げる。ホー ムレスに対しては「ホームレスの自立支援等に関する特別措置法」の中間年として見直しを検討するに あたって厚生労働省が全国調査を行ったところであるが,本研究にては,上記調査の目的外使用申請を 行い,ホームレスに対する既存施策の効果や課題を分析する。また,住宅制度などにも視野を広め,低 所得者支援制度を包括的に捉えた上で,それらのあり方を検討する。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
阿部 彩(国際関係部第2 室長)
研究分担者
西村幸満(社会保障応用理論研究部第2 室長),菊地英明(社会保障基礎理論研究部研究員),
山田篤裕(慶應義塾大学経済学部准教授)
研究協力者
西山 裕(政策研究調整官),上枝朱美(東京国際大学経済学部准教授),
田宮遊子(神戸学院大学経済学部准教授)

(4) 研究成果の公表

研究の成果は,学会報告,機関紙などの場で公表される。






14 所得・資産・消費と社会保険料・税の関係に着目した社会保障の給付と 負担の在り方に関する研究(平成19 〜 21 年度)

(1) 研究目的

 持続可能な社会保障制度を構築するためには,社会経済の変化に応じて絶えず社会保障の給付と負担の在り 方を検討していく必要がある。2008 年開始の後期高齢者医療制度の財源は1/2 が公費負担であり,基礎年金 の国庫負担は2009 年までに1/2 に引き上げることが予定されている。このように,社会保障財政における税 負担の割合が高まる可能性がある今日,社会保険料と税に着目して社会保障の給付と負担の在り方を検討す ることは,緊急の課題である。とくに,所得・資産格差の拡大が危惧されている今日,給付と負担の在り方 については,社会保障給付と税制それぞれの再分配効果に関する検証に基づく検討が必要である。また,所 得は現役時代に増加し引退期に減少し,資産は所得格差に応じて引退期にも増減少するなど,ライフサイク ルの段階ごとに負担賦課の対象は変化するので,給付と負担の在り方を探るためには,ライフサイクルにお ける負担と給付の関係の変化も加味する必要がある。
 したがって,本研究では,格差是正とライフサイクルにおけるニーズの変化に対応できる持続可能な社会 保障制度の構築に資するために,所得・資産・消費と社会保険料・税の関係に着目した社会保障の給付と負 担の在り方に関する研究を,所得・資産・消費に関する実証分析と制度分析と合わせて総合的に行う。初年 度,「国民生活基礎調査」調査票再集計の許諾を得てこれに基づく実証分析と国際比較研究を行った。2 年目 は,このような実証分析,国際比較研究,制度分析に加え,ライフサイクルのニーズ変化を把握するため健康・ 引退に関するパネルデータ作成を行う。3 年目に研究成果全体のとりまとめと普及を行う。これによって,所 得・資産・消費の格差是正,ニーズに応じた給付を支える社会保険料と税との望ましい組み合わせ,および 給付と負担に資産を活用する方法の可能性を示すことなど,政策的判断の資料となるエビデンスを提供する ことが期待できる。

(2) 研究計画

 本研究では,研究目的で示した問題意識のもとに,所得・資産・消費の実態把握のために「所得再分配調 査」「国民生活基礎調査」等の使用申請に基づく再集計を行い,所得等の分布の変化と人々のライフサイクルに着目した実証分析を行う。なお,これらの統計では補足できないが所得・資産・消費に影響を及ぼす事項, 例えば引退過程と健康状況等との関係については,アンケート調査を実施する。また,わが国の所得・資産・ 消費の実態を客観的に評価するため,OECD や税財源による社会保障制度を持つカナダとの研究協力を行うと ともに,成長著しく所得変動の大きい東アジア諸国との比較を行う。
 さらに,負担賦課の対象として所得・消費・資産のいずれを選択するかを社会保険料と税との関係に着目 する分析には,実証分析のみならず,制度分析・社会保障法学の応用が不可欠である。制度分析においても, カナダの連邦児童給付制度の変遷と意義について分析を深化させ,払戻型税額控除の理念とその意義,わが 国への導入の是非及び児童手当と併存させることの是非等について我が国への示唆を得るための比較研究を 行う。さらに,負担能力を考慮して消費税の活用を図る方法としての軽減税率の動向や,社会保険料と公費 負担,税の控除制度と給付との関係,年金給付等と保険料負担との関係等についても,実態把握と社会保障 法学的な考察等に留意しつつ,制度分析を行う。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
金子能宏(社会保障応用分析研究部長)
分担研究者
東 修司(企画部長),米山正敏(同部第1 室長),
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),山本克也(同部第4 室長),
酒井 正(同部研究員),小島克久(社会保障応用分析研究部第3 室長),
尾澤 恵(同部主任研究官),岩本康志(東京大学大学院経済学研究科教授)
小塩隆士(神戸大学大学院経済学研究科教授)
田近栄治(一橋大学大学院経済学研究科教授)
チャールズ・ユウジ・ホリオカ(大阪大学社会経済研究所教授)
稲垣誠一(年金シニアプラン総合研究機構研究主幹)
山田篤裕(慶應義塾大学経済学部准教授),八塩裕之(京都産業大学経済学部専任講師)
研究協力者
京極宣(所長),西山 裕(政策研究調整官),宮島 洋(早稲田大学法学部教授)
島崎謙治(政策研究大学院大学政策研究科教授),長江 亮(早稲田大学高等研究所助教)
濱秋純也(東京大学大学院経済学研究科),宮島 洋(早稲田大学法学部特任教授)

(4) 研究成果の公表

 本研究の成果は,報告書としてとりまとめて厚生労働省に提出するとともに,関係団体および研究者に配 布する。なお,本研究の成果の一部は,『季刊社会保障研究』第44 巻第3 号〈特集:「格差」社会と所得再分配〉 において公表する予定である。






15 医療・介護制度における適切な提供体制の構築と費用適正化に関する実証的研究 (平成19 〜 21 年度)

(1) 研究目的

 医療・介護制度を持続可能なものとするためには,適正な資源配分を確保する必要がある。近年の介護保険, 健康保険,医療,の各法の改正により医療・介護提供体制改革の端緒が開かれた。しかし,改革を実効的にす るには,その成果について継続的に実証的検証を行い,その結果をその後の改革に活かす「PDCA サイクル」 を確立する必要がある。
 本研究では,医療・介護制度改革等の成果について実証的検証を行う。分析内容は,@平均在院日数短縮 の推進,A医療機能の分化・連携の促進,に関する分析が中心となる。@及びAは具体的な課題に細分される。 これらの検討結果を参照しつつ,B医療制度改革の有効な実施方法に関する理論的検討・分析を行う。
 本研究では@及びAの制度改革の効果について「2 つの軸」による分析を行う。ひとつめの軸は日本全体に 影響を及ぼす改革の効果の測定である。マクロ的な改革の効果は地域により異なることが予想される。地域 の提供体制の相違によりマクロ的な改革の効果に地域差が発生する場合である。この点の検証がふたつめの軸となる。改革のマクロ効果測定と提供体制の違いによる改革効果の違いを同時に測定することにより,医 療費適正化策において国・地方の適正化策それぞれの効果,提供体制の相違の影響,に区別された情報を得 ることを目的とする。

(2) 研究計画

 研究にあたっては,医療・介護関連諸制度の改革が進捗していることもあり,それらの改革に対して研究成 果が提供できるように研究を進めていく。分析の対象となる主たる課題とその研究の進め方は次のとおりで ある。
    @ 適正化策の分析
    1 ) 脳卒中治療における医療・介護連携の効果の分析
     昨年度日本脳卒中協会および国立循環器病センターの協力により作成したデータベースの解析をす る他,海外調査により医療・介護の連携に必須な多職種協働の在り方について知見を得ることとする。
    2 ) 適正化策の効果の地域差に関する分析
     政府管掌健康保険受診率・医療費の月次データの他,『病院報告』や『医療施設(動態)調査』個票デー タの再集計などにより供給側のデータを同様に整備し,需給の長期的関係を時系列分析の手法により 検討する。また個別地域・事例について補足的な調査・分析等を実施する。
    3 ) 平均在院日数適正化策の効果分析
     昨年度公表統計等により準備的な作業を行った。それを踏まえて,『患者調査』・『医療施設調査』の 個票を接続し,制度改正前後の病院属性別の平均在院日数変化とその要因を測定する。急性期病院に ついてはDPC 病院に関する分析結果なども参照する。
    4 ) 既存統計による医療の質に関する分析
     使用データは@の3 )と同様である。医療費適正化策の評価のためには,医療費を抑制による医療の 質の低下の有無を捉える作業が必要となる。質を表す変数として両調査から構造やアウトカムに関す る変数を得る。プロセスに関する変数について別途検討する。
    5 ) 連携実施の実態把握
     今年度は順天堂大学医学部関連病院,特に竹田綜合病院などをフィールドとし,医療連携の実施に よる平均在院日数への効果を検討する。同病院は会津地域のみならず南会津地域もカバーする民間病 院であり,県立病院改革の影響などもふまえた分析を実施する。
    A 供給体制確保策の分析
    1 ) 施設の病床(定員)選択に与える要因の実証的検討
     @の3 )のデータにさらに『介護サービス施設・事業所統計調査』の個票を利用し,施設の形態や定 員数の選択に与える影響,について分析する。
    2 ) 医療・介護サービス提供の地理的範囲に関する実態分析
     『人口動態統計』の再集計による市町村単位の在宅死亡率を用いた分析や転院先選択など患者の動態 について分析を行う。
    3 ) 公立病院改革に関する実態分析
     市町村に依頼し,加入者の医療費・介護認定・介護給付データを患者ID によって連結したデータを 作成する。これにより,患者の受診動態を把握し,公立病院の利用のされ方の基礎的なデータとして 分析を行う。
    4 ) 従事者確保に関する分析
     昨年度実施したヒアリングにおいて,公立病院において医師・看護師の確保が困難であるのみなら ず介護施設において介護職確保の困難事例が見られた。これら専門職の就業状況は基本的な実態が明 らかでなく,専門職養成機関と事業所に対してヒアリング調査を実施するなどにより,人材確保施策 のあり方について知見を得る。
    B 医療制度改革の有効な実施方法に関する理論的分析
     包括ケアの実施においてはプライマリー・ケアの確保が重要であるとされている。海外調査等を行い,プライマリー・ケアのみならず高齢者医療制度や特定健診などの現在の制度が直面している課題につい て検討する。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
泉田信行(社会保障応用分析研究部第1 室長)
分担研究者
東 修司(企画部長),川越雅弘(社会保障応用分析研究部第4 室長),
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),菊池 潤(企画部研究員)
郡司篤晃(聖学院大学大学院教授),島崎謙治(政策研究大学院大学政策研究科教授)
橋本英樹(東京大学大学院医学系研究科教授)
宮澤 仁(お茶の水女子大学文教育学部准教授),田城孝雄(順天堂大学医学部准教授)
研究協力者
山田篤裕(慶應義塾大学経済学部准教授),西 律子(お茶の水女子大学)
稲田七海(大阪市立大学GCOE 研究員)





16 家族・労働政策等の少子化対策が結婚・出生行動に及ぼす効果に関する総合的研究 (平成20 〜 22 年度)

(1) 研究目的

 本研究では,3 つの切り口から課題に接近する。第一に,少子化に影響を及ぼす社会経済要因に関して理論 的・実証的研究を行う。第二に,それらを土台に家族・労働政策として行われる諸政策と現実の社会経済的 諸条件が結婚や出生行動に及ぼす影響について,シミュレーションモデルによる分析を行い,今後の出生率 動向に及ぼす政策要因の効果を統計的に把握する。具体的には,このシミュレーションモデルによって個別 の家族政策,例えば投入する児童手当の水準が出生率にどの程度の変化を引き起こすかといった効果をマク ロの観点から把握する。第三に,すでに2005 年から全国の自治体で実施されている次世代育成支援対策推進 法に基づく行動計画について,特定の自治体( 2 カ所を予定)の協力を得て調査を行い,行動計画が提供す るサービスと両親の育児ニーズとの整合性や,策定された行動計画の有効性と妥当性を評価する。特に,行 動計画作成段階から実施段階における問題点や改善点,計画の進捗状況について質問紙調査とヒアリング調 査により分析を行い,行動計画の評価方法に関するモデルを作成する。これら3 つの観点から研究を遂行し, 効率的な少子化対策のあり方を提言する。
 本年度は3 年計画の1 年目であり,少子化要因に関する社会経済分析の基礎研究を進めるとともに,シミュ レーションモデルの精緻化を試みる。また,質問紙・ヒアリング調査の具体的設計を行って,調査を実施する。

(2) 研究計画

 研究代表者らの先行研究で開発した出生率の計量経済学的シミュレーションモデルの成果を踏まえ,この モデルに投入する政策変数の拡張を行い,家族政策・労働政策の内容項目別にその量的・質的な推進・展開 が将来の出生率に及ぼす効果をシミュレーションし,評価分析を行う。さらに,地域の少子化対策に関する 評価研究について,自治体の協力を得て次世代育成支援行動計画の進捗状況とその実態について調査し,行 動計画の政策評価の手法のモデル化を試みる。
 上記の目的を達成するため,第一に計量経済学的なマクロシミュレーション・モデルによる少子化対策の影 響評価研究を行う。第二に,出生動向基本調査(国立社会保障・人口問題研究所)や就業構造基本調査等の 調査データを利用し,結婚・出生行動に関する社会経済的な規定要因について実証分析を行う。第三に,地 方自治体の協力のもと,出産・子育てのニーズと施策対応に関する質問紙調査ならびにヒアリング調査を実 施し,少子化対策の評価手法の開発を行う。
 マクロ計量経済モデルによる少子化対策要因の出生率におよぼす影響評価研究では,政策評価のためのシ ミュレーションモデルを改訂・拡張し,家族・労働政策関連変数,特に待機児童の解消率,保育需要規模と 充足数,出産育児の機会費用(女性就業の制約改善による育児コストの低減)等の施策要因が将来の合計特 殊出生率の動向にどのような効果を及ぼすか測定評価する。初年度の研究では,モデル構造の再評価を行い,基本設計の改訂を行う。研究2 年度目においては,女性就業の施策展開(両立支援策)と出産育児の機会費 用の関係についてモデルを拡張し,より詳細な評価を行う。研究3 年度目においては,税制・年金制度等の 施策変化が出生率動向に及ぼす影響の推定を試みる。
 結婚・出生行動の規定要因分析では,初年度にこれまで多く行われてきている研究知見に関する文献サー ベイや基本的なデータ分析など,基礎研究を進める。2 年度目以降に,本格的に多変量解析などを用いた実証 分析を行っていく。
 地方自治体の少子化対策に関する効果研究では,初年度と2 年度目において,自治体の協力を得て質問紙 調査とヒアリング調査を行う。研究3 年度目には,自治体関係当局と共同で,次世代育成支援行動計画の総 合評価を行う。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
高橋重郷(副所長)
研究分担者
佐々井 司(人口動向研究部第1 室長),守泉理恵(同部研究員),
中嶋和夫(岡山県立大学保健福祉学部教授)
研究協力者
別府志海(情報調査分析部研究員),大淵 寛(中央大学名誉教授),
安藏伸治(明治大学政治経済学部教授),加藤久和(明治大学政治経済学部教授),
永瀬伸子(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授)
工藤 豪(敬愛大学非常勤講師),大石亜希子(千葉大学法経学部准教授)
仙田幸子(東北学院大学教養学部准教授),君島菜菜(大正大学非常勤講師),
増田幹人(東洋大学非常勤講師),矢嶋裕樹(岡山県立大学兼任講師)
鎌田健司(明治大学兼任講師)





17 人口動態変動および構造変化の見通しとその推計手法に関する総合的研究 (平成20 〜 22 年度)

(1) 研究目的

 わが国はまもなく恒常的人口減少過程に入り,世界一となった人口高齢化はなお急速なペースで進行して いる。今後の人口動態ならびに人口構造の歴史的転換は,わが国の社会経済を基盤から揺るがすものとなり, これに対応する社会保障分野を始めとする社会経済制度の改革が急務となっている。したがって,それら改革 に必要な定量的指針を与えるものとして,将来人口推計はかつてない重要性を帯びている。しかし一方では 前例のない少子化(出生率低下),長寿化(平均寿命の伸長),国際化(国際人口移動の増大)は,人口動態 の見通しを不透明としており,これらの新たな事態に対する知見の集積や技術の開発が急がれている。本研 究では,こうした状況を踏まえ,将来人口推計手法の先端的技術と周辺諸科学の知見・技術を総合すること により,人口動態・構造変動の詳細なメカニズムの解明,モデル化,推計の精密化を図ることを目指す。こ れまで難しいとされてきた人口動態〜社会経済との連関を考慮した人口推計技術についてのアプローチを含 め,実績統計データの体系化と新たな技術の総合化を目指す。

(2) 研究計画

 第一に人口変動の元となる国民生活やライフコース・家族の変容に関するデータを体系化し,いち早く正確 に捉えるための分析システムの開発を行う。すなわち,既存の人口統計ソースである国勢調査データ,人口 動態統計データ,全国標本調査データの体系的な再集計・分析システムの構築を行い,モニタリング体制の 確立を行う。第二にそれらのシステムと既存の将来推計人口技術を確率推計手法,多相生命表手法を始めと する構造化人口動態モデルなどの先端的技術と融合させ,これらの新しい技術の実用化への発展を図る。さ らに第三として,社会経済変動との連動など広い視野を持った研究の基礎として,エージェント技術などに 代表される革新的な技術を用いたモデル,ならびにシステムを開発する。これらは,今後予想される人口動 態と社会経済との相互関係の複雑化に対応するものである。これらは,各国の指導的研究者と連携して研究を展開する。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
金子隆一(人口動向研究部長)
研究分担者
岩澤美帆(情報調査分析部第1 室長),佐々井 司(人口動向研究部第1 室長),
守泉理恵(同部研究員),稲葉 寿(東京大学大学院准教授)
研究協力者
石井 太(国際関係部第3 室長),石川 晃(情報調査分析部第2 室長),
三田房美(企画部主任研究官),国友直人(東京大学経済学部教授)
堀内四郎(ニューヨーク市立大学ハンター校教授),
大崎敬子(国連アジア太平洋経済社会委員会社会部人口・社会統合課長)
エヴァ・フラシャック(ワルシャワ経済大学教授),
スリパッド・タルジャパルカ(スタンフォード大学教授)





(障害保健福祉総合研究事業)

18 障害者の自立支援と「合理的配慮」に関する研究―諸外国の実態と制度に学ぶ障害 者自立支援法の可能性―(平成20 〜 22 年度)

(1) 研究の目的

目的は障害者自立支援法の理念である自立と完全社会参加と平等を理論的及び実践的に捉えながら,将来日 本が「障害者権利条約」を批准するための条件整備に必要な要件を明らかにすることである。本研究の特徴 は理論的には「社会モデル」の実践への応用を試みることで,「合理的配慮」の政策面への反映を目標にする ところである。障害者の自立生活運動の実態や,諸外国における居宅生活支援政策の実態について調べ,日 本との比較を行う。また,『障害者生活実態調査』の分析から,障害者の暮らす世帯の状況から,経済面,身 辺介助・援助面・就労での障害者の自立支援のあり方を検討する。

(2) 研究計画

 本研究は3 年計画である。基本的研究方法としては,参加研究者の研究計画に沿った個別研究に加え,委 託研究による情報収集を行う。外国の調査については,分担研究者の発案をもとに予算制約の中で実施する。 2 年目は,コミュニティケア・ダイレクトペイメント制度による障害者の社会参加について,イギリスから研 究者・実践者を招聘すべく外国人研究者招へい事業の申請を予定している。招聘が実現したときには,障害 当事者を含む一般を対象にした,シンポジウムの開催も実現したい。
 「合理的配慮」概念の有する理論的射程と実践的有効性を明らかにすることで,障害者権利条約批准後の障 害者政策の方向性や重点課題についての示唆を与えるとともに,それを様々な場面で有効に機能させるため の社会的・制度的条件に関する知見を得ることができる。 地域で暮らす,重度障害者の生活自立について介助の質など重要な課題について整理し,自立生活を進め ていく上で,政策として誰の何を支援していく必要があるのかまとめる。障害当事者の実態についてはヒヤ リング調査等により把握に努める。パーソナルアシスタントやダイレクトペイメントといった,諸外国にお ける先駆的な制度やプログラムについても,調査し情報としてまとめていく。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
勝又幸子(情報調査分析部長)
研究分担者
岡部耕典(早稲田大学文学学術院社会福祉学客員准教授専任扱い)
土屋 葉(愛知大学文学部人文学科助教),
遠山真世(立教大学コミュニティ福祉学部助教)
星加良司(東京大学先端科学技術研究センター社会学特任助教)
研究協力者
西山 裕(政策研究調整官),磯野 博(静岡福祉医療専門学校教員)
永井順子(旭川大学保健福祉学部コミュニティ学科准教授)
百瀬 優(早稲田大学大学院商学研究科院生)
大村美保(東洋大学大学院福祉社会デザイン研究科院生),
木口恵美子(同研究科院生),佐々木愛佳(自立生活センター日野コーディネーター)
中原 耕(同志社大学大学院社会学研究科院生),山村りつ(同研究科院生)





(統計情報高度利用総合研究事業)

19 パネル調査(縦断調査)に関する統合的高度統計分析システムの開発研究 (平成20 〜 21 年度)

(1) 研究目的

 厚生労働省は国民生活について国が講ずるべき施策検討の基礎資料を得るために,国民の生活やライフコー ス上の各種事象の規定要因の特定,施策の効果測定等を主眼として,21 世紀縦断調査を実施している。縦断 調査は行政ニーズの把握や施策効果の測定に有効な調査形態であるが,その活用には横断調査と異なる独自 のデータ管理と分析手法が必要である。しかし上記の調査は日本の政府統計上初のパネル調査であり,管理・ 分析法に関する知識,経験の蓄積が不十分である。
 本研究では,この縦断調査について基礎分析から高度統計分析にいたる科学的な分析によって行政ニーズ の把握や施策効果の測定を行うためのデータ管理から統計分析手法の適用までを統合化するシステムを開発 するとともに,多様な分析法の相互の関係や位置づけが明確となるよう,3 調査における調査テーマならびに その分析手法の体系化を行うことを目的とする。また,標本脱落等の縦断調査データ特有の問題点やそれら の対処法についても検討する。以上によって,信頼性の高い調査分析結果を提供する分析システムの構築を 目指す。

(2) 研究計画

 研究は平成20,21 年度の2 カ年で行うものとし,初年度はすでに構築されたパネル情報ベースのコンテン ツを充実するための国内外のパネル調査に関する概要や分析手法の情報収集を行い,同様にすでに構築され たデータ管理,分析システムの実装と実用下における課題とその解決のための方策の検討を行う。また,調 査テーマとその分析手法の体系化の準備作業を行い,さらに脱落等データ特性に関する研究の追加等を行う。 第2 年度は情報ベースの拡張,分析システムについて検討された方策についての開発と確立,ならびに分析 手法の高度化,体系化された調査テーマに沿った事例研究によるデータ特性ならびに分析手法の検討などを 行う。これら2 カ年の研究を通して開発されたシステムは実用性を強化し,本格的な分析の実効ある支援が 可能なものとする。本事業の成果として,年々蓄積されて行く縦断調査データに対し,縦断調査特有のデー タ管理から高度統計分析までを統合化するシステムを開発することにより,速やかで質の高い結果公表に資 することと,方法論,分析結果の双方において国際的に価値の高い貢献が得られることが期待される。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
金子隆一(人口動向研究部長)
研究分担者
釜野さおり(人口動向研究部第2 室長),北村行伸(一橋大学経済研究所教授)
研究協力者
府石井 太(国際関係部第3 室長),三田房美(企画部主任研究官),
岩澤美帆(情報調査分析部第1 室長),守泉理恵(人口動向研究部研究員),
阿藤 誠(早稲田大学人間科学学術院特任教授),津谷典子(慶應義塾大学経済学部教授),
中田 正(日興ファイナンシャルインテリジェンス副理事長),
黒田留美子(潤和リハビリテーション診療研究所主任研究員),
西野淑美(首都大学東京都市教養学部助教)
福田節也(マックスプランク人口研究所研究員),鎌田健司(明治大学兼任講師),
相馬直子(横浜国立大学大学院国際社会科学研究科准教授)
元森絵里子(日本学術振興会・特別研究員(東京大学大学院人文社会系研究科)),
井出博生(東京大学医学部付属病院助教)



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