厚生労働科学研究費補助金 平成19年度



(政策科学推進研究事業)

11 国際比較パネル調査による少子社会の要因と政策的対応に関する総合的研究(平成17 〜 19 年度)

(1) 研究目的

 本研究は,平成14 年度から16 年度まで3 年間実施してきた「「世代とジェンダー」の視点からみた少子高 齢社会に関する国際比較研究」プロジェクトを踏まえた上で,新たにパネル調査の実施や政策効果に関する 研究を行う総合的研究を企図したものである。すなわち,国連ヨーロッパ経済委員会(UNECE)人口部が企画・ 実施している国際比較研究「世代とジェンダーに関する国際共同プロジェクト(GGP プロジェクト)」に参加 し,日本で実施するパネル調査のミクロ・データと家族・雇用・労働政策などの日本の少子化を取り巻く制 度面などに関するマクロ・データの分析を通じて,パートナー関係や親子関係について先進国間の共通性と 日本的特徴を把握し,日本の未婚化・少子化の要因分析と政策提言に資することを目的とする。

(2) 研究方法・実施状況

 日本では少子化の急速な進行にともない,年金や医療といった社会保障制度の根幹が揺るぎつつあり,少子 化の背景を明らかにし,実効性のある少子化対策を行うことが重要な政策課題となっている。少子化は程度 の差こそあれ先進諸国で共通して見られる現象であり,各国とも少子化対策を実施している。このような少 子化対策の効果は各国で必ずしも一様ではなく,他の先進国との比較は日本の少子化対策を考える上で有益 である。また,日本をはじめとする先進諸国における少子化は家族の変化(世代関係・ジェンダー関係)と 密接に関連しており,社会経済に加え家族のあり方の変化という視点からも,少子化問題を考える必要があ る。このような観点から先進諸国の少子化の要因と政策的対応を国際比較するために,本研究では「結婚と 家族に関する国際比較研究会」を組織し,国連ヨーロッパ経済委員会(UNECE)人口部が企画・実施してい る国際研究プロジェクト「世代とジェンダーに関する国際共同プロジェクト(GGP プロジェクト)」に参加し ている。本研究では,この国際共同プロジェクトの中核部分であるパネル調査(「世代とジェンダーに関する パネル調査(GGS)」)を日本でも実施し,そこから得られる少子化のミクロ的側面に関するパネル・データ と雇用・労働政策や家族・子育て支援政策といった少子化のマクロ的側面に関するコンテキスト・データを 連結させて因果関係を分析する新手法を用いて,未婚化や晩婚化といったパートナー形成(ジェンダー関係) と少子化(次世代育成・世代関係)の日本的特徴を明らかにし,同時に,他の参加国との比較を通じて諸政 策との関連を検討する。
 本研究は,日本の少子化の要因について,(a)時間軸と( b )空間軸の幅を拡げた研究枠組みにより通常の ある一時点での一地域におけるクロスセクションデータを用いた分析からは得られない知見を引き出すこと を主眼とする。その特徴は,時間軸としては同一調査対象者に対して平成16( 2004 )年と平成19( 2007 )年 の2 回の調査(パネル調査)を行なった点にあり,空間軸としては国際的なGGP プロジェクトに参加するこ とで日本を含む複数の先進諸国の間で同一の調査項目をもつ同じ時期の調査結果を比較可能にした点にある。
 本研究では,日本とイタリア,ドイツなどのミクロ・データとマクロ・データを用いた多変量解析の分析 結果に基づいて,未婚化や少子化の特徴と要因について多面的に検討した。平成19 年度のおもな研究経過は 以下の通りである(プロジェクト最終年度)。
 第一に,日本の第二回パネル調査を西日本地域で行い,第二回パネル調査を完了した。この調査は,平成 16( 2004 )年に実施した第一回パネル調査の回答者を対象にフォローアップ調査として実施したものである。 平成18 年度には東日本地域での調査を実施したが,平成19 年度は西日本地域についても調査を行うことで, 日本の第二回パネル調査を完了した。調査終了後はデータ・クリーニングならびに調査項目の比較対照,選択 肢の統一を図るためのコーディングを行い,第一回調査と第二回調査の結果を結合したパネル・データ・セットを作成した。これを用いて,因果関係の分析を行うことができるパネル・データの特性を活かした分析を 進め,最終年度の報告書を作成した。
 第二に,日本とヨーロッパ諸国のミクロ・データを用いて国際比較分析を行った。平成19 年度は,日本と 同様に超低出生率国であるドイツのGGS データを主に用いて比較分析を行った。ドイツのGGS データは, 質問票検討委員会の中心メンバーの一つであるマックスプランク人口研究所によって調査されたものである。 そのため,質問票検討委員会が作成したGGS コア調査票と多くの調査事項が合致するものとなっている。分 析にあたっては,GGS コア調査票(第一回・第二回)と日本版GGS(第一回・第二回),ドイツ版GGS(第 一回),ならびに平成18 年度に分析を進めたイタリア版GGS(第一回)の調査項目の比較検討を行い,調査 項目の対照表を独自に作成した。そして,イタリア,ドイツのデータセットを利用した三カ国比較の分析結 果も最終年度の報告書に加えた。
 第三に,GGP マクロ・データ・ベース委員会が提示した共通フレームに基づき,日本のコンテキスト・デー タの収集,入力作業を行い,データ・ベースの構築を行った。コンテキスト・データは,1 6 領域(人口,経済環境, 雇用・労働,育児休業,年金,保育,兵役,失業,税制,住宅,家族法制,教育制度,保健衛生,介護,政治制度, 文化)に大別された広範囲の変数について,国レベルの長期時系列データ(約100 件)と地域データ(約60 件), 制度・政策に関する記述的データ(約50 件)を収集するものとされている。フランス国立人口研究所やマッ クスプランク人口研究所が中心となって制定されたGGP コンテキスト・データ・ベースの変数の一覧は,西 欧社会のマクロ・コンテキストを前提としている部分があり,すべての変数を日本で収集することはできない。 そのため平成19 年度は,平成18 年度までに収集を進めた人口,経済環境,労働・雇用,失業,税制などの分 野について,変数の定義に完全に合致するものを入手することができない場合でも国際比較可能な類似の変 数が入手できるかを調査し,さらに16 に大別されたすべての領域について主に都道府県レベルの変数を中心 にデータ・ベースの整備を進めた。また,2007 年1 月にスロベニアで開催されたGGP 国際会議の後,コンテ キスト・データ・ベースの整備が各国で精力的に進められ,平成19 年度までに9 カ国のデータ・ベースがマッ クスプランク人口研究所のインターネットサイトで公開された。これら9 カ国の整備状況を整理し,ミクロ・ パネル・データとマクロ・コンテキスト・データを有機的に連関させた国際比較研究を今後効率的に進める ための調査を行った。特に,9 カ国のうちカナダとノルウェーについて,本研究で整備した日本版データ・ベー スとともに,基礎データの検討を行い,最終報告書に成果の一部を掲載した。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
西岡八郎(人口構造研究部長)
分担研究者
福田亘孝(人口構造研究部第1 室長),阿藤 誠(早稲田大学人間科学学術院特任教授),
津谷典子(慶應義塾大学経済学部教授)
研究協力者
菅 桂太(客員研究員),岩間暁子(和光大学人間関係学部准教授),
田渕六郎(上智大学総合人間科学部准教授),吉田千鶴(関東学院大学経済学部准教授)
星 敦士(甲南大学文学部准教授)

(4) 研究成果の公表

 本プロジェクトの研究成果は,平成19 年度総括研究報告書,平成17 〜 19 年度総合研究報告書にとりまと めた。また各研究者が国内外の学会,学術雑誌等で研究成果を発表した。厚労科研費の本プロジェクトに対 する研究助成は19 年度で終了した。しかし,国連ヨーロッパ経済委員会(UNECE)人口部が企画・実施し ている国際比較研究プロジェクト「世代とジェンダーに関する国際共同プロジェクト(GGP プロジェクト)」 は継続している。日本の研究グループは引き続き同プロジェクトに参加し,研究成果を世界に発信していく 予定である。






12 少子化関連施策の効果と出生率の見通しに関する研究(平成17 〜 19 年度)

(1) 研究目的

 わが国の出生率は,昭和45( 1970 )年代の半ばから持続的な低下が続き,平成元( 1989 )年に合計特殊 出生率は1.57 を記録し,昭和41( 1966 )年に記録した歴史的最低値であった「丙午」年の1.58 を下回った。 政府は出生率低下に対する強い危機感を示し,平成2( 1990 )年8 月に「健やかに子どもを産み育てる環境 づくりに関する関係省庁連絡会議」を発足させ,「少子化対策」をスタートさせた。
 平成6( 1994 )年には「エンゼルプラン」が策定され,緊急保育対策等5 カ年事業(平成7( 1995 )〜 11 ( 1999 )年度)が実施に移された。そして平成11( 1999 )年末には少子化対策推進関係閣僚会議において「少 子化対策推進基本方針」を策定し,平成12( 2000 )〜 16( 2004 )年度の少子化対策である「新エンゼルプラン」 を策定した。その後も保育所の「待機児童ゼロ作戦」や,「少子化対策プラスワン」が策定された。しかしな がら出生率の低迷は続き,政府は少子化の急速な進展をふまえ,平成15( 2003 )年に「次世代育成支援対策 推進法」や「少子化社会対策基本法」の立法化,平成16( 2004 )年に「少子化社会対策大綱」を閣議決定し, 従来の「子育て支援」政策から「出生率上昇」政策へとより積極的に少子化問題への取り組みを始めてきている。 平成16( 2004 )年12 月には「新新エンゼルプラン」とも呼ばれる「子ども・子育て応援プラン」が策定され, 平成17( 2005 )〜 21( 2009 )年度に講じる具体的な施策内容と目標が提示された。一方で,こうした少子 化対策については,その政策の効果を評価し,より一層効果的な施策展開をしていくことが強く求められて いる。それゆえ,国・地方自治体・民間企業の様々な段階で取り組まれている少子化対策について,その及 ぼす影響効果を科学的な実証研究により明らかにする必要性がある。
 そこで,本研究事業は,少子化関連施策の効果を人口学,社会学,経済学ならびに保健福祉学などの見地 から評価し,今後の少子化対策のあり方や将来の出生率の見通しについて調査し,少子化対策などの施策の 立案に資することを目的として実施した。

(2) 研究計画

 本研究は平成17 年度から19 年度にわたる研究で,次の五つの研究分担領域をおき研究を進めた。第一に, 「少子化関連施策(家族・労働政策)の効果に関する研究」,第二に,「社会経済要因が出生行動に及ぼす影響 に関する研究」,第三に,「地域の少子化要因と対策に関する研究」,第四に,「少子化の見通しに関する有識 者デルファイ調査」,そして第五に,「次世代育成支援に関する自治体調査」である。
 第一の少子化関連施策(家族・労働政策)の効果に関する研究では,少子化対策として実施されてきた家族 政策(保育キャパシティの拡大や児童手当の増額,適用年齢の拡大等の諸政策)や労働政策(短時間就業率 や正規就業率,非正規賃金の変化によって観察される効果)の出生率へのインパクトをマクロ計量経済モデ ルによりシミュレーション分析し,この結果に基づいて人口構造への影響を把握した。第二の社会経済要因 が出生行動に及ぼす影響に関する研究では,上述の家族・労働政策のもととなる,出生行動に影響を及ぼす 社会経済環境と出生行動の実証的な諸関係を明らかにし,家族・労働政策の妥当性を検証した。第三の地域 の少子化要因と対策に関する研究では,全国的なデータのみならず,地域に密着した調査研究で得られたデー タも活用して少子化過程における家族・労働政策の意義を検証した。そして第四の課題である「少子化の見 通しに関する有識者デルファイ調査」では,有識者の持つ少子化に関する見通しをデルファイ調査により把 握し,平成17 年国勢調査に基づく将来人口推計の検討段階における見通し議論への資料提供を行った。そし て第五の「次世代育成支援に関する自治体調査」では,各地方自治体が次世代育成支援法に基づいて取り組 んでいる子育て支援行動計画の実施状況を把握し,分析を行った。

(3) 研究実施状況

 本研究プロジェクトは,次の五つの研究課題ごとに研究を実施した。

@ 少子化関連施策(家族・労働政策)の効果に関する研究

 『就業構造基本調査』,『国勢調査』,『人口動態統計』,『労働力調査』,『賃金センサス』等のデータを用 いて,計量経済学手法による構造的な連立方程式によるモデルを構築し,シミュレーションによる政策 の影響効果分析を行った。少子化対策変数としての家族政策変数と労働政策変数の操作的変化が出生率 におよぼす影響について同モデルによりシミュレーション分析を行い,あわせてこの変動効果が将来人 口に及ぼす影響を人口推計モデルにより評価した。

A 社会経済要因が出生行動に及ぼす影響に関する研究

 出生率に影響を及ぼす社会経済的な背景要因の研究では,出生動向基本調査(国立社会保障・人口問 題研究所全国調査)の個票データを用い,社会経済要因と結婚・出生行動のクロスセクショナルならび にハザード分析などの多変量回帰分析を行った。さらに,賃金調査等の集計データを用いて結婚や出生 の機会費用を推定し,少子化現象の国民経済的な損失について推定を行った。

B 地域の少子化要因と対策に関する研究

 地域別の人口及び社会経済指標のマクロデータを用いて,地域間の出生率格差及びその変化パターン の差異に関する分析,ならびにアンケート調査の結果を用いた定量的分析を実施した。自治体の少子化 対策が,他の施策や地域の様々な環境条件との組み合わせで,自治体単位の出生率にどのように変化や 地域的差異が生じているのかについて,人口学的要因分解法や本プロジェクト先行研究で収集した自治 体調査デ−タの多変量解析から検証した。また,具体的な特定地域の保健福祉学的な研究として,和歌 山県,静岡県,ならびに岡山県において得られた調査データをもとに,母親の就労と父親(夫)の育児 サポートの果たす役割について多変量回帰分析を行った。

C 少子化の見通しに関する有識者デルファイ調査

 少子化の見通しに関する有識者調査では,有識者の予測の方向性を明確に見出すため,デルファイ法 を採用した。デルファイ法とは,多数の人に同一のアンケート調査を複数回行い,回答者の意見を収斂 させる調査方法である。平成17 年度に第1 回の調査を実施し,平成18 年度に第2 回目の調査を実施し, その結果をまとめた。

D 次世代育成支援に関する自治体調査

 本研究課題は,平成19 年に有識者デルファイ調査の後継調査として行った調査である。調査は,次世 代育成支援対策に関する自治体担当者への郵送調査ならびに特定の地域(埼玉県秩父市,岐阜県多治見 市および東京都品川区)の少子化対策の現状に関するヒアリング調査を行い,地域の施策効果の検証を 行った。

(4) 研究組織の構成

主任研究者
高橋重郷(副所長)
分担研究者
佐々井 司(人口動向研究部第1 室長),守泉理恵(同部第1 室研究員),
中嶋和夫(岡山県立大学保健福祉学部教授),安藏伸治(明治大学政治経済学部教授)
研究協力者
北林三就(企画部主任研究官),別府志海(情報調査分析部研究員),
大淵 寛(中央大学経済学部名誉教授),大石亜希子(千葉大学法経学部准教授)
仙田幸子(千葉経済大学経済学部准教授),
永瀬伸子(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授)
和田光平(中央大学経済学部教授),尹 靖水(梅花女子大学教授),
加藤久和(明治大学政治経済学部教授),新谷由里子(武蔵野大学兼任講師),
君島菜菜(大正大学兼任講師),福田節也(明治大学兼任講師),
君島菜菜(大正大学兼任講師),福田節也(明治大学兼任講師),
鎌田健司(明治大学政治経済学部助手)

(5) 研究成果の公表

 本年度の研究成果は,平成19 年度報告書としてとりまとめたほか,平成17 〜 19 年度の3 カ年にわたる研 究成果を総合報告書としてまとめた。






13 将来人口推計の手法と仮定に関する総合的研究(平成17 〜 19 年度)

(1) 研究目的

 少子高齢化が進み人口減少が始まった現在,社会経済施策立案に不可欠な将来推計人口の重要性はかつて ない高まりを見せている。しかしながら,前例のない少子化,長寿化は人口動態の見通しをきわめて困難な ものとしている。本研究では,こうした中で社会的な要請に応え得る科学的な将来推計の在り方を再検討し, 手法および人口の実態の把握と見通しの策定(仮定設定)の両面から推計システムを再構築することを目的 とする。

(2) 研究計画

 本研究においては,第一に,人口推計手法の枠組みとして従来から最も広く用いられているコーホート要因 法の再検討を行い,新たな手法としての確率推計手法やシミュレーション技法等の有効性を検討した。第二 に人口動態率(出生率,死亡率及び移動率)の将来推計に関する先端的な手法について国際的な議論を踏まえ, 推計手法及び将来の動向に関する理論について,従来の方法・理論との比較,有効性と限界の検証等を行った。 第三に人口状況の実態の測定と分析,出生,死亡,国際人口移動の見通し策定に関する科学的方法論につい て検討し,わが国ならびに諸外国の人口状況と動向の国際的,横断的把握,データ集積及びデータベース化 を行い,上記において開発されたモデル,手法を適用することにより,人口動態率の今後の見通しに関する 把握と提言を行った。

(3) 研究実施状況

 本研究においては,第一に公的将来推計人口策定の理論・モデル・手法の枠組みの再検討を行った。第二 に人口動態率(出生率,死亡率および移動率)の将来推計に関する先端的な手法について,国際的な議論を 踏まえ,従来の方法との比較・検討が行われ,公的な推計システムに対して,いくつかの新たな機構が導入 された。第三に,人口状況の実態の測定と分析,出生,死亡,国際人口移動の見通し策定に関する科学的方 法論について検討し,わが国ならびに諸外国の人口状況と動向の国際的,横断的把握,データ集積及びデー タベース化を行った。それらによる分析結果を人口動態率の見通し策定に関するモデル・理論研究に投入す ることによって,将来人口推計における仮定設定に関する研究を行った。

(4) 研究組織の構成

主任研究者
金子隆一(人口動向研究部長)
分担研究者
石井 太(企画部第4 室長),岩澤美帆(情報調査分析部第1 室長)
研究協力者
石川 晃(情報調査分析部第2 室長),佐々井 司(人口動向研究部第1 室長),
三田房美(企画部主任研究官),守泉理恵(人口動向研究部研究員),
国友直人(東京大学経済学部教授),稲葉 寿(東京大学理学部准教授)
堀内四郎(ロックフェラー大学準教授),
大崎敬子(国連アジア太平洋経済社会委員会社会部人口・社会統合課長),
エヴァ・フラシャック(ワルシャワ経済大学教授)
スリパッド・タルジャパルカ(スタンフォード大学教授)






14 男女労働者の働き方が東アジアの低出生力に与えた影響に関する国際比較研究(平成18 ? 20 年度)

(1) 研究目的

 2000 年代に入って東アジアの高度経済国・地域は急激な出生率低下を経験し,2004 年の合計出生率は日本 が1.29,韓国が1.16,台湾が1.18 となった。このうち韓国・台湾の出生率は,ヨーロッパでも匹敵する国が 稀なほど極端に低い水準である。このような低出生率の重要な決定因として,男女労働者の働き方の影響を 分析する。たとえば欧米に比べ長い労働時間は,男性の家事・育児参加を阻害し,伝統的性役割意識を保存する方向に作用しているものと思われる。日本の長期不況や韓国の経済危機は,多くの若年労働者の経済的 自立を挫折させ,また家計の将来に対する不安感を増幅し,結婚・出産意欲を減退させたと推測される。出産・ 育児休暇,家族看護休暇,フレックスタイム制度等のファミリーフレンドリー施策の導入の遅れも,東アジ アの出生率低下を加速させと考えられる。良質な保育サービス供給の不足も,妻の就業と出産・育児の両立 を阻害し,やはり少少子化をもたらしたと思われる。本研究は,こうした働き方に関する諸要因が東アジア の出生率低下に与えた影響を分析する。

(2) 研究計画

 本研究では,働き方に関する諸要因が出生率に与える影響を,文献研究及び専門家インタビュー,マクロ・ データ分析,マイクロ・データ分析の各段階を踏んで分析を進める。そのような分析を通じて,労働時間や 勤務形態のフレクシビリティー,家庭内分業の実態,若年労働者の経済的自立度将来の見通し,企業のファ ミリーフレンドリー施策の導入努力,地域の保育サービス供給の量といった諸側面が,どのように結婚率・ 出生率に影響するかを定量的に調べることを目的とする。それぞれの側面における改善がどの程度の出生促 進効果を持つかの見極めを通じて,政策の優先順位等に関わる政策提言が得られる。現在まであまりはかば かしい成果が得られていない日本の出生促進策を考える上でも,日本より急激に出生率が低下している韓国・ 台湾との比較研究は不可欠である。
 本研究は,こうした働き方に関する諸要因が東アジアの出生率低下に与えた影響を,文献研究および専門 家インタビュー,マクロ・データ分析,マイクロ・データ分析の各段階を踏んで分析する。第2 年目の平成 19 年度は文献研究および専門家インタビューを継続するとともに,マクロ・データ分析を通じて三国の状況 を比較検討した。また台湾の人口政策白書草案の出生力対策部分を翻訳し,日本・韓国と比較した。
? 研究会
  第1 回 平成19 年8 月1 日  今年度研究計画,マクロ・データの収集について
  第2 回 平成20 年2 月12 日 進捗状況,マクロ及びマイクロ・データの利用,来年度計画について

(3) 研究組織の構成

主任研究者
鈴木 透(企画部第4 室長)
分担研究者
小島 宏(早稲田大学社会科学総合学術院教授),伊藤正一(関西学院大学経済学部教授)

(4) 研究成果の公表

 本年度の研究成果は,平成19 年度総括研究報告書として取りまとめた。本報告書以外に各研究者が発表し た成果は以下の通りである。
 ・Suzuki, Toru,“ Nuptiality and Fertility Declines in Japan, ” paper presented at International Seminar on Low Fertility and Policy Responses in Selected Asian Countries, November 7, 2007, Korea Institute for Health and Social Affairs, Seoul, Korea.
 ・鈴木 透「韓国の低出生力と政府の対応」『都市問題研究』第59 巻第4 号,pp.83-87,2007.
 ・小島 宏「(住みよい少子化社会の形成:論点の背景)科学的根拠のある少子化対策を」『NIRA 政策レビュー』 18,pp.6-8,2007.





15 社会保障の制度横断的な機能評価に関するシミュレーション分析 (平成18 〜 20 年度)

(1) 研究目的

本研究は,@制度横断的に社会保障の機能を分析し,家族形態や就労形態の変化に対応した社会保障の機 能を考察し,A社会保障の機能評価に関するシミュレーション分析を通して,政策の選択肢が社会保障の機 能に与える影響を評価する。あわせて,有識者に対してヒアリングを行い,有識者の想定する社会保障の将 来像を反映した形でシミュレーション分析を行う。1 年目は,社会保障の各種機能について,個別制度ごとに 検討を行うと同時に,制度横断的な検討を行った。2 年目は,介護保険制度の機能についての定量的な評価分析をおこなった。また,有識者に対するヒアリングでモデル用パラメータの収集が終わった。3 年目は,有識 者の社会保障観を具現化するシミュレーション分析を行い,それを題材にワークショップの開催を計画して いる。また,社会保障の機能に関して,@年金,医療,介護におけるリスク・プーリング機能はどう違うのか, A社会保障における「子育て支援」機能の検討,B社会連帯の構成要素(所得再分配の程度,リスクの分配; 再分配),C公私の役割分担,D個人のライフサイクルと社会保障を検討する。

(2) 研究計画

 研究班全体として本年度は,4 月に役割分担の確認,7 月にワークショップ向けのモデル作成,9 月にワー クショップの開催,2 月に結果報告,報告書作成である。今年度,府川は社会保障の機能に関して,@年金, 医療,介護におけるリスク・プーリング機能はどう違うのか,A社会保障における「子育て支援」機能の検討, B社会連帯の構成要素(所得再分配の程度,リスクの分配;再分配),C公私の役割分担,D個人のライフサ イクルと社会保障を検討する。佐藤は18 年(財政ブロック,社会保障ブロック),19 年(変数変更回路の設置) と開発してきたマクロ計量モデルをワークショップ用に改訂する。山本は,18 年(年金支給方法の変更,年 金支給開始年齢の引き上げ等),19 年(パートタイマーの年金適用拡大)と開発してきた保険数理モデル(年 金,医療)をワークショップ用に改訂する。菊池は介護保険,障害福祉サービスの長期推計モデルを構築し, 利用者数,費用等に関する長期推計を行う。なお,山本と菊池の保険数理モデルは佐藤のマクロ計量モデル と接合されて,社会保障制度改正と実体経済の関係を考察する。ワークショップの後は,モデルを総合した 世代会計を作成し,個人のライフサイクルと社会保障について検討する。野口は19 年度に引き続き「消費生 活に関するパネル調査」(財家計経済研究所)を用いて,女性の人的資本としての「健康」と社会経済的状況 との関係性を実証的研究する。酒井は「消費生活パネル」(財家計経済研究所)で昨年度に試みた分析を継続・ 発展させる。具体的には,就業変化と社会保険の未加入行動との関係について個票に基づいた分析を行い,昨 年度明らかにされなかった部分の解明を行う。

(3) 研究実施状況

? 研究会
 研究班全体として19 年度は,4 月に役割分担の確認,9 月に中間報告,2 月に結果報告というスケジュール であった。5 人の有識者の将来の社会保障像に関するヒアリングは,平成19 年11 月16 日,11 月30 日,12 月19 日,12 月25 日,平成20 年1 月17 日に行われた。また,平成19 年10 月23 日Dr. Dean Hyslop(New Zealand Treasury ) 氏セミナー,“The Dynamic Effects of an Earnings Subsidy for Long-term Welfare Recipients: Evidence from the SSP Applicant Experiment ”, (with David Card) を開催した。

(4) 研究組織の構成

主任研究者
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
分担研究者
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),山本克也(同部第4 室長),
佐藤 格(同部研究員),酒井 正(同部研究員),菊池 潤(企画部研究員)
研究協力者
山田 武(千葉商科大学商経学部教授),宮里尚三(日本大学経済学部専任講師)

(5) 研究成果の公表

? 平成19 年度報告書
社会保障の制度横断的な機能評価に関するシミュレーション分析
 「社会保障の機能と将来像に関する研究」府川哲夫
 「社会保障へのニーズに対する要因分析〜女性の健康と世帯所得・資産との関わりについて〜」 野口晴子
 「社会保険の非加入行動と就業変動の関係」酒井 正
 「パート労働者の厚生年金保険適用のシミュレーション分析」山本克也
 「障害福祉サービス受給者数の長期推計」菊池 潤
 「社会保障制度改革に関するマクロ計量モデル(プロトタイプモデル)の開発」佐藤 格

? 論文
 山本克也「所得再分配調査」を用いたBasic Income の検討」,『海外社会保障研究』第157 号,pp.48-59( 2006年12 月)
 Katsuya Yamamoto.,“ The Assessment of the Public Pension Reform in 2004 by the Actuarial Model of the Employees’ Pension Insurance”, The Japanese Journal of Social Security Policy, Vol.6, No.2 pp.171-184 (Nov.2007)
 山本克也「施設サービスの複合化・多機能化―特に経営の観点から―」,『季刊社会保障研究』第43 巻第 4 号,pp343-353( 2008 年3 月)





16 低所得者の実態と社会保障の在り方に関する研究(平成19 〜 21 年度)

(1) 研究目的

 本研究の目的は,日本における低所得者を,貧困,相対的剥奪,社会的排除などの新しい概念を含めた定 義で捉え,その実態を把握するとともに,彼らの社会保障制度との関わり合いを分析した上で,社会保障制 度が低所得者に対する施策をどのように構築するべきかを検討することである。

(2) 研究計画

 本研究は3 カ年計画で行われる。研究では,以下にあげる3 つのトピックごとに研究チームを立ち上げ,独 自の分析を進めるとともに,制度横断的な検討を行うため,合同の研究会を行う。
  1. 低所得層の実態の把握(低所得者調査を中心とする分析)

     日本における低所得者の把握(貧困率など)は,既存の大規模調査(厚生労働省「国民生活基礎調査」,「所 得再分配調査」,総務省「全国消費実態調査」など)が用いられることが多い。これらは,全国規模でサ ンプル数も多いことから利点もあるものの,低所得者の生活実態を把握するには不十分である。その理 由は,低所得者がそもそもサンプルから除外されている可能性があること,所得・消費などの項目は詳 細に調べているものの,物品的剥奪や社会的排除など,生活実態に関する項目が少ないことである。そ のため,低所得者に関しては独自の調査を行うことが望ましい。本研究では,既存の調査の利点・欠点 を洗い出し,また,厚生労働省の縦断調査や既存社会調査(社会保障研究所「掛川調査」など)の再分 析も視野に含めながら,必要であれば独自の調査を行う。そして,低所得層として,どのような属性の人々 が浮かび上がるのか,また,彼らがどのように現在社会保障制度と接点をもっているのかを明らかにする。

  2. 社会保険の減免制度,自己負担のあり方と給付に関する研究(国民年金・国民健康保険の未納・未加 入問題,パート労働者などの社会保険適用問題,障害年金の所得保障機能など)

     現行の社会保障制度には,様々な低所得者措置が盛り込まれている。しかし,国民年金を例にとると, 減免制度が用意されているにもかかわらず未納問題は依然として深刻である。近年の減免制度の改正に ついても,どれほどの効果があったのか実証研究はまだなされていない。本研究では,このような問題 をトピック的にいくつか選出し,それらの分析を行う。

  3. 公的扶助を始めとする低所得者支援制度のあり方に関する研究(生活保護制度,児童扶養手当,児童 手当など)

     日本の低所得者に対する社会保障制度の中でも,もっとも研究が進んでいるのが生活保護制度である。 また,児童扶養手当を始め,母子世帯に対する施策にも多くの質的分析がなされている。しかし,現在, もっとも改革が推し進められているのもこの2 制度である。本研究では,改革が進む中で,当事者がど のように変わっていくか,インタビュー調査などの手法をもって検討するものである。

(3) 研究実施状況

 本年度は,計8 回の研究会を行うと共に,各主任,分担研究者,研究協力者が独自の研究を行った。また, 旧社会保障研究所が行った一連の掛川調査の入力および児童必需品調査の入力を並行して行った。研究会の 開催は以下の通り行った。
  1. 第1 回 平成19 年4 月17 〜 24 日
    ピーター・サンダーズ氏(New South Wales 大学教授,オーストラリア)来日
    18 日研究会:「オーストラリアの所得格差・貧困の動向」
    19 日研究会:「日豪比較可能なデータの検討」
    24 日研究会:「オーストラリアの貧困・剥奪」京都同志社大学
  2. 第2 回 平成19 年7 月27 日
    内容:「社会保険の未加入・未納問題研究会(立ち上げ)」
  3. 第3 回 平成19 年11 月5 日
    報告1:山村りつ氏(同志社大学)
    「精神障害者への就労支援と障害者自立支援法:就労支援事業移行の実態調査を通して」
    報告2:中原耕氏(同志社大学)
     「『障害者』の就労と所得保障:その現状と問題点」
  4. 第4 回 平成19 年11 月22 日
    報告:阪東美智子氏(国立保健医療科学院)
     「日本におけるホームレスと低所得者住宅政策」
  5. 第5 回 平成19 年12 月18 日13:00 〜 15:00
    報告:菊地英明氏 
     「ベーシック・インカム論がわが国の公的扶助に投げかけるもの:就労インセンティブをめぐって―」
  6. 第6 回 平成20 年1 月25 日
    報告:山田篤裕氏
     「国民年金未納問題:就業形態の多様化と申請免除利用」
  7. 第7 回 平成20 年2 月15 日
    報告:岩永理恵氏(神奈川県立保健福祉大学)
     「保護基準と実施要領の構築にみる<最低生活>:生活保護制度の歴史的検討」
  8. 第8 回 平成20 年3 月25 日
    研究会:「日本の貧困動態研究の今:これまでにわかったこと,これからの課題」
    報告:@パネルデータを使った日本の貧困研究の比較(阿部 彩)
       A日本の貧困動態研究:ディスカッション
  9. データ整備:
    1 )掛川調査データ整備
    平成19 年 8 月 データ使用申請を国立社会保障・人口問題研究所に提出・承認
    9 〜 11 月 調査票の搬出・搬入,調査票の整理,マッチング作業
    12 月 データ入力会社の選択,発注,打ち合わせ
    平成20 年 1 月 データ入力開始
    3 月 データ納品,内容確認,集計表の作成
    2 )児童必需品意識データ整備
    平成20 年 1 月 必要項目の検討
    2 月 データ整備の発注先検討,発注,打ち合わせ
    3 月 データ納品,集計表の作成

(4) 研究組織の構成

主任研究者
阿部 彩(国際関係部第2 室長)
分担研究者
西村幸満(社会保障応用理論研究部第2 室長),菊地英明(社会保障基礎理論研究部研究員),
山田篤裕(慶應義塾大学経済学部准教授)
研究協力者
西山 ??(政策研究調整官),上枝朱美(東京国際大学経済学部准教授)
周 燕飛(労働政策研究・研修機構研究員)

(5) 研究成果の公表

? 刊行物
 阿部 彩「貧困のリスク」橘木俊詔編『経済からみたリスク』岩波書店,2007 年10 月4 日,pp.65-94
 阿部 彩「第4 章国民年金の未加入・未納問題と生活保護」阿部 彩・國枝繁樹・鈴木亘・林 正義『生 活保護の経済分析』東京大学出版会,2008 年3 月31 日,pp.113-143
 阿部 彩「マイクロ・シミュレーションを用いた税額控除の検討」森信茂樹編『税と社会保障の一体化 の研究会報告書』東京財団,2008 年3 月31 日
 菊地英明「貧困の測定」武川正吾・三重野卓編『公共政策の社会学――社会的現実との格闘』東信堂, 2007 年11 月30 日,pp.185-212
 菊地英明「ベーシック・インカム論がわが国の公的扶助に投げかけるもの―就労インセンティブをめぐっ て―」武川正吾編『シティズンシップとベーシックインカム』法律文化社(近刊)
 ピーター・サンダーズ「繁栄の時代におけるオーストラリア平等主義の変容」『海外社会保障研究』第 159 号,2007 年6 月25 日,pp.4-20





17 所得・資産・消費と社会保険料・税の関係に着目した社会保障の給付と負担の在り 方に関する研究(平成19 〜 21 年度)

(1) 研究目的

 持続可能な社会保障制度を構築するためには,社会経済の変化に応じて絶えず社会保障の給付と負担の在 り方を検討していく必要がある。平成20( 2008 )年開始の後期高齢者医療制度の財源は1/2 が公費負担であり, 基礎年金の国庫負担は平成21( 2009 )年までに1/2 に引き上げることが予定されている。このように,社会 保障財政における税負担の割合が高まる可能性がある今日,社会保険料と税に着目して社会保障の給付と負担 の在り方を検討することは,緊急の課題である。とくに,所得・資産格差の拡大が危惧されている今日,給 付と負担の在り方については,社会保障給付と税制それぞれの再分配効果に関する検証に基づく検討が必要 である。また,所得は現役時代に増加し引退期に減少し,資産は所得格差に応じて引退期にも増減少するなど, ライフサイクルの段階ごとに負担賦課の対象は変化するので,給付と負担の在り方を探るためには,ライフ サイクルにおける負担と給付の関係の変化も加味する必要がある。
 したがって,本研究では,格差是正とライフサイクルにおけるニーズの変化に対応できる持続可能な社会 保障制度の構築に資するために,所得・資産・消費と社会保険料・税の関係に着目した社会保障の給付と負 担の在り方に関する研究を,所得・資産・消費に関する実証分析と制度分析と合わせて総合的に行う。初年 度,「国民生活基礎調査」調査票再集計の許諾を得てこれに基づく実証分析と国際比較研究を行った。2 年目 は,このような実証分析,国際比較研究,制度分析に加え,ライフサイクルのニーズ変化を把握するため健康・ 引退に関するパネルデータ作成を行う。3 年目に研究成果全体のとりまとめと普及を行う。これによって,所 得・資産・消費の格差是正,ニーズに応じた給付を支える社会保険料と税との望ましい組み合わせ,および 給付と負担に資産を活用する方法の可能性を示すことなど,政策的判断の資料となるエビデンスを提供する ことが期待できる。

(2) 研究計画

 本研究では,研究目的で示した問題意識のもとに,所得・資産・消費の実態把握のために「所得再分配調 査」「国民生活基礎調査」等の使用申請に基づく再集計を行い,所得等の分布の変化と人々のライフサイクル に着目した実証分析を行う。なお,これらの統計では補足できないが所得・資産・消費に影響を及ぼす事項, 例えば引退過程と健康状況等との関係については,アンケート調査を実施する。また,わが国の所得・資産・ 消費の実態を客観的に評価するため,OECD や税財源による社会保障制度を持つカナダとの研究協力を行うと ともに,成長著しく所得変動の大きい東アジア諸国との比較を行う。
 さらに,負担賦課の対象として所得・資産・消費のいずれを選択するかを社会保険料と税との関係に着目 する分析には,実証分析のみならず,制度分析・社会保障法学の応用が不可欠である。制度分析においても, カナダの連邦児童給付制度の変遷と意義について分析を深化させ,払戻型税額控除の理念とその意義,わが 国への導入の是非及び児童手当と併存させることの是非等について我が国への示唆を得るための比較研究を 行う。さらに,負担能力を考慮して消費税の活用を図る方法としての軽減税率の動向や,社会保険料と公費 負担,税の控除制度と給付との関係,年金給付等と保険料負担との関係等についても,実態把握と社会保障 法学的な考察等に留意しつつ,制度分析を行う。

(3) 研究実施状況

? 研究会等
 第1 回 平成19 年5 月16 日 所内研究交流会
 第2 回 平成19 年11 月16 日 若林 緑(大阪府立大学経済学部准教授)
 第3 回 平成20 年2 月18 日 ジェームス・ティエッセン(ライアーソン大学准教授) 外国研究者招聘事業研究報告
 第4 回 平成20 年3 月3 日 分担研究者・研究協力者研究報告

(4) 研究組織の構成

主任研究者
金子能宏(社会保障応用分析研究部長)
分担研究者
東 修司(企画部長),米山正敏(同部第1 室長),
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),山本克也(同部第4 室長),
酒井 正(同部研究員),尾澤 恵(社会保障応用分析研究部主任研究官)
岩本康志(東京大学大学院経済学研究科教授)
小塩隆士(神戸大学大学院経済学研究科教授),
田近栄治(一橋大学大学院経済学研究科教授),
チャールズ・ユウジ・ホリオカ(大阪大学社会経済研究所教授)
研究協力者
京極宣(所長),西山 ??(政策研究調整官),小島克久(社会保障応用分析研究部第3 室長),
宮島 洋(早稲田大学法学部教授),島崎謙治(政策研究大学院大学教授),
尾形裕也(九州大学医学研究員教授),
稲垣誠一(年金シニアプラン総合研究機構研究部研究主幹)
芝田文男(企業年金基金連合会企画振興部長),本田達郎(医療経済研究機構研究主幹)
八塩裕之(京都産業大学経済学部専任講師)

(5) 研究成果の公表

? 研究成果報告会
 平成20 年2 月16 日平成20 年カナダ日本韓国3 カ国社会保障研究シンポジウム
 「多様化する高齢社会における医療,仕事と家庭の両立および所得再分配の在り方」
 キース・バンティング(クイーンズ大学教授),
 スーザン・マックダニエル(米国ユタ大学教授),
 イト・ ペング(トロント大学教授),
 ジェームス・ティエッセン(ライアーソン大学准教授),
 スンマン・クォン(ソウル国立大学教授),
 リ・ヘギョン(延世大学教授),
 ウンヨン・チョイ(清州 国立大学教授),
 尾形裕也,白波瀬佐和子,小島克久




18 医療・介護制度における適切な提供体制の構築と費用適正化に関する実証的研究 (平成19 ? 21 年度)

(1) 研究目的

 医療・介護制度を持続可能なものとするためには,適正な資源配分を確保する必要がある。近年の介護保険, 健康保険,医療,の各法の改正により医療・介護提供体制改革の端緒が開かれた。しかし,改革を実効的にす るには,その成果について継続的に実証的検証を行い,その結果をその後の改革に活かす「PDCA サイクル」 を確立する必要がある。
 本研究では,医療・介護制度改革等の成果について実証的検証を行う。分析内容は,@平均在院日数短縮 の推進,A医療機能の分化・連携の促進,に関する分析が中心となる。@及びAは具体的な課題に細分される。 これらの検討結果を参照しつつ,?医療制度改革の有効な実施方法に関する理論的検討・分析を行う。
 本研究では@及びAの制度改革の効果について「2 つの軸」による分析を行う。ひとつめの軸は日本全体に 影響を及ぼす改革の効果の測定である。マクロ的な改革の効果は地域により異なることが予想される。地域の提供体制の相違によりマクロ的な改革の効果に地域差が発生する場合である。この点の検証がふたつめの 軸となる。改革のマクロ効果測定と提供体制の違いによる改革効果の違いを同時に測定することにより,医 療費適正化策において国・地方の適正化策それぞれの効果,提供体制の相違の影響,に区別された情報を得 ることを目的とする。

(2) 研究計画

 研究にあたっては,医療・介護関連諸制度の改革が進捗していることもあり,それらの改革に対して研究成 果が提供できるように研究を進めていく。分析の対象となる主たる課題は次のとおりである。

 @ 平均在院日数の動向に関する検討

   1 ) 平成17 年10 月及び平成18 年10 月に実施された介護施設給付と療養病床入院患者の負担引き上げ 等の効果の分析
   2 ) 急性期病等の平均在院日数規定要因と影響の大きさに関する分析
   3 ) 脳卒中治療における医療・介護連携の効果の分析

A 医療機能の分化・連携の促進

   1 ) 医療連携実施状況の実態把握
   2 ) 医療連携実施機関等の平均在院日数の変化に関する分析
   3 ) 療養病床再編による患者の医療・介護受給パターンの変容に関する分析
   4 ) 医療・介護のサービス利用パターンに関する実態調査・分析
   5 ) 医療・介護サービス提供の地理的範囲・提供内容範囲に関する実態調査・分析

B 医療制度改革の有効な実施方法に関する理論的な検討・分析

 これらの分析課題の分析内容にあわせてデータを準備・作成していく。具体的には,『国民健康保険の 実態』(国民健康保険中央会)及び介護関連データ(『介護サービス施設・事業所調査』の再集計データ 含む)などの既存統計,『病院報告』,『医療施設調査』,『患者調査』,『介護サービス施設・事業所調査』 などの既存統計の個票データ,保険者や医療機関に作成を依頼する個票データ,ヒアリング調査などを, 疫学的研究の倫理指針や個人情報保護にかかる法令を遵守して,入手し使用する。

(3) 研究実施状況

 平成19 年度は脳卒中治療に関するデータベース作成等やヒアリング調査の実施などを中心に研究基盤の構 築を行いつつ既存統計による分析などを進めた。ヒアリング調査地の一部は20 年度のフィールド調査の対象 地となる予定である。

(4) 研究組織の構成

主任研究者
泉田信行(社会保障応用分析研究部第1 室長)
分担研究者
東 修司(企画部長),川越雅弘(社会保障応用分析研究部第4 室長)
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),菊池 潤(企画部研究員),
郡司篤晃(聖学院大学大学院教授),島崎謙治(政策研究大学院大学教授),
橋本英樹(東京大学大学院医学系研究科教授),
宮澤 仁(お茶の水女子大学文教育学部准教授),田城孝雄(順天堂大学医学部講師)
研究協力者
稲田七海(客員研究員)





(長寿科学総合研究事業))

19 介護予防の効果評価とその実効性を高めるための地域包括ケアシステムの在り方 に関する実証研究(平成18 〜 19 年度)

(1) 研究目的

 本研究は,介護予防に関する3 年後の見直しを念頭に置いた上で,@制度改正前後のケアマネジメント/ サービス提供状況/要介護度の変化の実態把握(全国ベース)A制度改正前後での包括的パネル・データ(生 活機能/介護/医療/健診等)の構築と,これを用いた,アウトカム面(新規申請者の減少等),費用面(医 療/介護費),高齢者の生活機能面(日常生活活動状況等),歩行/栄養/口腔機能面等からみた,介護予防 の多面的な効果評価(モデル地区)B効果的な介護予防サービスの在り方の検証C介護予防の実効性を高め るための地域包括支援センターの在り方の検証を通じて,制度改正の議論に資する総合的なデータの提供と, 介護予防及び地域包括ケアシステムの在り方に関する政策提言を行うことを目的としたものである。

(2) 研究計画

 制度改正3 年後の見直しの議論に資するためには,平成19 年度には検証結果をまとめておく必要があるた め,本研究は2 年計画とした。
 平成18 年度は,@全国認定・給付データによる要介護度の自然歴の地域差分析,Aモデル地区の包括的パ ネルデータに基づく高齢者の生活機能や疾病構造などの実態解明,B運動機能測定を通じた高齢者の歩行パ ターンや転倒リスク要因の解明,C摂食機能に応じた食形態の開発と提供効果評価,Dケアプランの個別事 例検討による現在のケアマネジメントの課題の解明,E住民を巻き込んだ多職種協働のモデル試行による最 適な意思決定プロセスの在り方の検証,F兵庫県但馬地区やカナダオンタリオ州トロント市などの地域ケア の先行事例の検証などを実施した。
 平成19 年度は,@性・年齢階級・要介護度別にみた1 年後の機能低下の現状分析(全国認定データより), A新規認定申請者と非申請者間の生活機能の差異の検証(健診受診者ベース),B健診受診者と非受診者間の 生活機能の差異の検証,C運動器機能向上・リハビリテーション(以下,リハ)の介護予防効果の検証(訪 問リハ,通所介護,地域支援事業),D訪問介護の介護予防効果の検証,E思考過程のレベル向上を目指した 「介護予防ケアマネジメントの手引き」の作成などを実施した。

(3) 研究会等の実施状況

 各年度とも,まず,主任・分担研究者間で,研究方法・内容に関する合意形成を行った上で,それに沿う形で, 各分担研究者および研究協力者が,主任研究者と相談しながら研究を進める形とした。また,各年度の研究 成果を総括研究会にて報告し,総合討論を行った。なお,本研究では,データベース構築(全国およびモデ ル地区)および分析業務が重要な位置づけとなっていることから,データ提供元である厚生労働省や松江市 介護保険課と頻繁に打合せを実施した。また,制度改正への示唆を検討するため,モデルとなる地区の活動 状況のヒアリングも併せて実施した。

(4) 研究組織の構成

主任研究者
川越雅弘(社会保障応用分析研究部第4 室長)
分担研究者
金子能宏(社会保障応用分析研究部長),泉田信行(同部第1 室長),
信友浩一(九州大学医学研究院基礎医学部門医療システム学分野教授)
備酒伸彦(神戸学院大学総合リハビリテーション学部准教授),山本大誠(同学部助手)
研究協力者
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長),渡部律子(関西学院大学総合政策学部教授),
梶家慎吾(医療法人社団顕鐘会神戸百年記念病院チーフ理学療法士)
大浦由紀(デイサービスセンターリハ・リハ所長),
大里和彦(寝屋川市保健福祉部高齢介護室理学療法士)
竹内さをり(甲南女子大学看護リハビリテーション学部講師),
田中志子(医療法人大誠会介護老人保健施設大誠苑施設長)
黒田留美子(潤和リハビリテーション診療研究所主任研究員),
柴本 勇(国際医療福祉大学保健医療学部准教授),
津賀一弘(広島大学大学院医歯薬学総合研究科准教授),
鍋島史一(福岡県メディカルセンター保健・医療・福祉研究機構主任研究員)
大野 裕(慶應義塾大学保健管理センター教授),滝澤 徹(八戸大学人間健康学部准教授),
三浦 研(大阪市立大学大学院生活科学研究科准教授),
和田耕治(北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教),
村松智子(焼津市立総合病院地域医療連携室主査),
柴田知成(寝屋川市保健福祉部高齢介護室係長)

(5) 研究成果の公表

 本研究の成果は,報告書としてとりまとめて厚生労働省に提出するとともに,関係団体及び研究者に配布 した。なお,各研究者はそれぞれの所属する学会,研究会,学術誌への投稿等を行い,成果の普及に積極的 に努めた( 2 年間で10 の論文発表,11 の学会・研究会報告を実施した)。




(障害保健福祉総合研究事業)

20 障害者の所得保障と自立支援施策に関する調査研究(平成17 〜 19 年度)

平成19年度総括研究報告書及び平成17〜19総合研究報告書はここからZIPでダウンロードできます。

(1) 研究目的

 本調査の目的は,社会福祉基礎構造改革の理念である,障害者がその障害の種類や程度,また年齢や世帯 状況,地域の違いにかかわらず,個人が人として尊厳をもって地域社会で安心した生活がおくれるようにな るために必要な支援はなにか,その支援を続けるためにはどのような制度が必要なのかを検討するための基 礎データを得ることである。そして,得られたデータを活用し,経済学や社会学等の多分野の研究者と障害 者福祉に関する学際的研究の基盤を構築したい。

(2) 研究計画

 最終年( 3 年目)は,実地調査は行わず,2 回の調査データを統合したベースで各分担研究者が分析を進めた。 その成果を自主企画シンポジウム(日本社会福祉学会の全国大会)で発表した。
 研究者と障害当事者との意見交換を目的に公開研究集会を大阪で実施した。委託研究として日本障害者協 会に2 年目の調査の継続としてケーススタディを実施した。そこでは制度改正によって影響を強く受けた特 徴ある障害当事者への聞き取りによる実態把握を行った。
 障害者生活実態調査票の参考にした,国民生活基礎調査(平成16 年)の個票データを目的外使用申請で借 り出し,「手助けや見守りが必要」と回答した人を障害者実態調査の同回答者と比較した。
 基礎資料の収集としては,イギリスにおける障害者の社会サービス直接現金給付制度(ダイレクトペイメ ント)の文献サーベイと現地調査を実施した。年度内に合計9 回の研究会を開催し,教育や障害者職業リハ ビリテーションの分野からもヒアリングを行い,広く現状を把握することに努めた。

(3) 研究計画・実施状況

 平成18 年度は,まず,主任・分担研究者間で,研究方法・内容に関する合意形成を行った上で,それに沿う形で,各分担研究者および研究協力者が,主任研究者と相談しながら研究を進める形とした。また,本年度の研究成果を総括研究会にて報告し,総合討論を行った(平成19 年2 月13 日)。なお,本研究では,データベース構築(全国およびモデル地区)および分析業務が重要な位置づけとなっていることから,データ提供元である厚生労働省や松江市介護保険課と頻繁に打合せを実施した。また,制度改正への示唆を検討するため,モデルとなる地区の活動状況のヒアリング(カナダトロント市ほか)も併せて実施した。

(3) 研究会等の開催状況

? 研究会
第1 回 公開研究会『実態調査からみた障害者の生活状況』
  日時:平成19 年5 月21 日(月)13:00 〜 15:00
第2 回 研究会『諸外国の障害年金制度から見た日本の障害年金の課題』
  日時:平成19 年6 月25 日(月)14:00 〜 17:00
第3 回 研究会『障害者の所得保障と福祉施策の経済効果』
  日時:平成19 年7 月23 日(月)14:00 〜 17:00
第4 回 研究会『障害者の生活保障と自立〜理論と実証からのアプローチ』
  日時:平成19 年8 月6 日(月)14:00 〜 17:00
第5 回 関西公開研究集会『ひとりのための福祉・みんなのための福祉』
  日時:平成19 年9 月24 日(月)13:30 〜 16:30
  場所:大阪府福祉人権推進センター(ヒューマインド)
第6 回 研究会『一般就労する知的障害者の所得保障〜知的障害者通勤寮調査を手がかりに』『都立知 的障害者特別支援学校の進路指導』
  日時:平成19 年10 月29 日(月)14:00 〜 17:00
第7 回 研究会『発達障害者の就労支援〜職業リハビリテーションからみた支援の課題』
         『障害者自立支援法の影響に関する事例調査の実地及び結果のとりまとめ報告』
  日時:平成19 年11 月19 日(月)14:00 〜 17:00
第8 回 研究会『障害者の所得保障と自立支援施策に関する調査研究』
  分担研究者及び研究協力者による中間報告
  日時:平成19 年12 月10 日(月)13:00 〜 16:00
第9 回 研究会『障害者の所得保障と自立支援施策に関する調査研究』
  分担研究者及び研究協力者による最終報告,3 年間の研究事業の総括
  日時:平成20 年3 月31 日(月)14:30 〜 17:30
 (注)特に場所記載無き場合は国立社会保障・人口問題研究所

(4) 研究組織の構成

主任研究者
勝又幸子(情報調査分析部長)
分担研究者
本田達郎(財団法人医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構研究主幹),
福島 智(東京大学先端科学技術研究センター准教授),
遠山真世(立教大学コミュニティ福祉学部助教),
圓山里子(特定非営利活動法人自立生活センター新潟調査研究員),
土屋 葉(愛知大学文学部人文社会学科助教)
研究協力者
金子能宏(社会保障応用分析研究部部長),三澤 了(DPI 日本会議議長),
磯野 博(静岡福祉医療専門学校教員)

(5) 研究成果の公表

? 刊行物
 平成17 〜 19 年度総合研究報告書,平成19 年度総括研究報告書「障害者の所得保障と自立支援施策に 関する調査研究」(勝又幸子)
? 学会発表
 日本社会福祉学会第55 回全国大会自主企画シンポジウム『障害者の生活保障と自立』
  日時:平成19 年9 月23 日(日)14:10 〜 16:40
  場所:大阪市立大学杉本キャンパス
 北海道障害学研究会
  遠山真世『障害者生活実態調査:就労に関する部分について』
  日時:平成19 年12 月10 日(月)
  場所:公立はこだて未来大学






(統計情報高度利用総合研究事業)

21 パネル調査(縦断調査)に関する総合的分析システムの開発研究(平成18 〜 19 年度)

(1) 研究の目的

 厚生労働省は国民生活に関する諸施策の策定に必要な情報収集のために,政府統計初のパネル調査( 21 世 紀出生児縦断調査,成年者縦断調査,中高年者縦断調査)を実施し,従来の横断調査とは異なる因果関係に 着目した要因の把握を目指している。しかし,パネル調査はデータ管理法や分析方法において横断調査とは 異なる。本研究の目的は,パネル型データの有効で実際的な管理法と統計分析手法とを融合したシステムを 検討・開発し,21 世紀縦断調査に適用することによって,年々蓄積されるデータを適切に管理し,また有効 な分析結果を導くことである。

(2) 研究計画

 本研究は平成18,19 年度の2 カ年で行うものとし,主として初年度(平成18 年度)は,調査事例及び分 析法のサーベイを進め,情報ベースとして閲覧システムを整備し,標本設計ならびに統計的分析手法に関す る検討を進め,さらに標本の脱落・復活や移動等のデータの特性に関する検討を進めた。また,出生児調査, 成年者調査の主要な事項(出生児の成長,結婚・出生の意識・意欲と行動,家事育児・就業,健康リスク,地域) について,先行研究レビューを行い統計的分析の基礎となるデータ・変数等の整備を行い,基礎的分析を行っ た。第2 年度(平成19 年度)はシステムの検証と確立ならびにシステムを用いた主要事項に関する本格的な 統計分析を行った。

(3) 研究実施状況

 初年度の研究成果として,欧米中心に調査情報収集を進め,公開用閲覧システムを整備した。また,標本設 計,イベントヒストリー手法の基礎ならびにマイクロシミュレーション法を検討し,後者では基礎システムを 開発した。その他,得られた知見として,データの基礎特性については,脱落の特徴(父母が低年齢,低所 得など)が明らかとなり,また復活が比較的多く重要であること,多数回融合データでは回答者・保育者が 母親でないケースが想定外に多いこと,出生児の成長は横断調査結果と合致し,標本特性に問題がないこと などがわかった。分析事例では,第1 子出生遅延と婚前妊娠や就業などとの関係,出生意欲による出生予測 の可能性,夫の家事・育児時間が長いことが次の出生を促し,育児の経済的負担では実態と意識で齟齬があり, 低所得層で負担感が高いわけではなく,専業主婦,非正規就業,正規雇用の母親では負担感の内容が異なる こと,再就労は都市で少ないこと,低所得と出生年齢や喫煙の関係などがわかった。これら一連の成果は重 要なテーマの基礎を網羅しているため,次年度の統合的応用分析が期待される。自治体のヒアリングにおい ても,縦断調査の詳細な分析結果については,次世代育成支援見直し等への示唆を得ることへの期待が高い。

(4) 研究組織の構成

主任研究者
金子隆一(人口動向研究部長)
分担研究者
釜野さおり(人口動向研究部第2 室長),北村行伸(一橋大学経済研究所教授)
研究協力者
石井 太(企画部第4 室長),三田房美(同部主任研究官),
岩澤美帆(情報調査分析部第1 室長),守泉理恵(人口動向研究部研究員),
阿藤 誠(早稲田大学人間科学学術院特任教授),津谷典子(慶應義塾大学経済学部教授),
中田 正(日興ファイナンシャルインテリジェンス副理事長),
福田節也(明治大学兼任講師),西野淑美(日本女子大学人間社会学部助手),
鎌田健司(明治大学大学院政治経済学部助手),相馬直子(日本女子大学人間文化研究科),
元森絵里子(東京大学大学院総合文化研究科)



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