一般会計プロジェクト



1 社会保障調査・研究事業

・平成16年度社会保障給付費の推計

(1) 研究目的

 平成16 年度社会保障給付費推計(OECD 社会支出統計,新ILO 基準社会保障費統計を含む。)を行い,研究および行政資料として公表する。

(2) 研究計画

  1. 平成16 年度推計作業を例年どおり行う。また,『季刊社会保障研究』『海外社会保障研究』の誌上で財源を含めた推計結果の分析を公表する。
  2. 平成16 年度社会保障給付費のデータを基に,平成16 年度(2004 年度)までのデータをOECD 基準で再計算した結果を整備する。

(3) 研究組織の構成

担当部長
本田達郎(企画部長)
所内担当
勝又幸子(企画部第3 室長),米山正敏(同部第1 室長),
菊池 潤(客員研究員)
研究協力者
佐藤裕亮(厚生労働省政策統括官政策評価官室長補佐),庄司浩章(同室調査総務係)

(4) 研究結果の公表予定

  1. 一般配布資料「平成16 年度社会保障給付費」の作成
  2. 研究所ホームページへの和文および英文による結果の掲載
  3. 社会保障費データベースの更新・電子媒体化および関係部署への提供
  4. 季刊社会保障研究における社会保障費用の推計結果の公表と分析
  5. 海外社会保障研究における国際比較データに関する解説と分析
  6. 社会保障研究資料第6 号「平成18 年版社会保障統計年報」の作成





2 将来人口推計新システムの開発事業

 国立社会保障・人口問題研究所は,国が行う社会保障制度の中・長期計画ならびに各種施策の立案に資するために,@全国人口に関する将来人口推計,A地域将来人口推計,ならびにB全国と都道府県の世帯に関する将来世帯数・世帯人員数推計を定期的に実施し,公表してきている。平成17 年には,各将来人口推計の基礎となる国勢調査が実施され,新たに推計手法と仮定設定を見直したのち,平成18 年の国勢調査結果公表数値に基づき,各種推計の改訂を行い順次公表する予定である。これらの推計結果は,現在審議されている年金財政再計算の前提として活用されるなど,国,自治体の各種中長期計画等に広く利用されている。少子高齢化が急速に進行するなかで,これら各種の将来推計人口結果の信頼性と精度向上は極めて重要な課題であり,信頼性と精度向上は将来の財政計画や各種施策の正確性を支えるものとなる。したがって,上記各種推計システムを改善し,各種新人口推計を公表することは極めて重要な研究事業である。そのため,平成16 年度から平成18 年度にわたって現行推計システムの評価改善と開発を行なっているところである。

・ 全国人口推計

(1) 研究概要

 各将来人口推計の基礎となる国勢調査が平成17 年に実施された。平成18 年度においては,前年度から引き続き新たに推計手法と仮定設定を見直したのち,国勢調査結果の公表数値に基づき,各種推計の改訂を行い公表に向けての作業を行う。

(2) 研究組織の構成

担当部長
金子隆一(人口動向研究部長)
所内担当
石井 太(企画部第4 室長),三田房美(同部主任研究官),
石川 晃(情報調査分析部第2 室長),佐々井 司(人口動向研究部第1 室長),
岩澤美帆(同部主任研究官),守泉理恵(同部研究員)

・地域人口推計(都道府県別人口推計,市区町村別将来人口推計)

(1) 研究概要

 市町村合併にともなうデータの組み替え作業など基礎的なデータの整備・確認作業を行う。また,各将来人口推計の基礎となる平成17 年国勢調査の公表に即して,前回推計結果の評価を行い,新たに推計手法と仮定設定を見直したのち,地域別将来推計人口モデルの開発と推計シミュレーションを行い,推計結果の精度を高めるための効果的なシステムの開発を行う。

(2) 研究組織の構成

担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
小池司朗(人口構造研究部主任研究官),山内昌和(同部研究員),菅 桂太(客員研究員)
所外委員
江崎雄治(専修大学助教授)

・世帯推計(全国推計,都道府県別推計)

(1) 研究の概要

 基礎的なデータの整備・確認作業を行い,世帯関係の国勢調査結果の公表後,前回推計結果の評価・検討を行う。人口動態をはじめとする現状のモニタリング,既存の推計手法,結果の評価とともに,全国および都道府県別世帯数の将来推計モデルの開発・改善と推計シミュレーションの実施などを行い,推計結果の精度を高めるための効果的なシステムの開発を企図する。

(2) 研究組織の構成

担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
鈴木 透(国際関係部第3 室長),小山泰代(人口構造研究部第3 室長),山内昌和(同部研究員)





3 第13 回出生動向基本調査(分析)

(1) 調査目的

 出生動向基本調査は,他の公的統計では把握することのできない結婚ならびに夫婦の出生力に関する実態と背景を定時的に調査・計測し,関連諸施策ならびに将来人口推計に必要な基礎資料を提供することを目的としている。第13 回目にあたる分析結果のより高い信頼性を確保するために,基礎事項の国勢調査結果との比較が可能となるよう,従来の調査時期を2 年早めて2005(平成17)年6 月に実施したものである。

(2) 調査実施と分析状況および公表

 夫婦調査票配布数(調査客体数)7,976 票に対して,回収数は7,296 票であり,回収率は91.5%であった(前回調査92.9%)。回収票のうち記入状況の悪い460 票は無効票として集計対象から除外し,有効票数は6,836 票,有効回収率は85.7%であった(同87.8%)。したがって,概ね回収状況は維持されており,これは一般に見られる調査環境悪化の状況下では良好な結果であり,標本の代表性と分析結果の信頼性は従来と同様に確保されたものと考えられる。独身者調査では,調査配布数は12,482 票,回収数は9,900 票であり,回収率は79.3%(前回84.6%)であった。こちらは回収率の低下が見られる。夫婦調査,独身者調査ともに1 次分析の結果は,本年度前半において順次公表される。分析,公表の対象となる調査事項は,概ね以下に分類される。
  1. 結婚過程,および結婚意欲の計測
  2. 結婚過程,および結婚意欲の社会経済的要因,意識要因(男女観・結婚観)の把握
  3. 夫婦完結出生力,出生過程の計測
  4. 夫婦完結出生力,出生過程の社会経済的要因,意識要因(家族観)の把握
  5. 出生意欲(理想・予定子ども数など)の計測と社会経済的要因,意識要因の把握
  6. 出生抑制手段・行動,女性の健康
  7. 就業,育児資源(家族支援,制度・施設)など子育ての環境
 これにより,結婚過程の変化の実態,夫婦出生力の変化の実態などが定量的に示されることになる。なお,今年度は基本集計を終えたのち,基本的な分析を行い,結果の概要を公表した。今後,報告書を刊行する予定である。

(3) 研究組織の構成

担当部長
金子隆一(人口動向研究部長)
所内担当
佐々井 司(人口動向研究部第1 室長),釜野さおり(同部第2 室長),
三田房美(企画部主任研究官),岩澤美帆(人口動向研究部主任研究官),
守泉理恵(同部研究員)





4 第5 回世帯動態調査(事後事例)

(1) 研究概要

 本年度は,昨年度までに作成したデータ・セットを用いて分析を行い,結果概要の公表を早い段階で行い,公表後は報告書を作成する。また,個別のテーマについて詳細な分析を行い,成果報告を行う。第5 回世帯動態調査の分析と併せて,調査の対象となった地域の実態を把握し,次回調査の調査設計に資するためにヒアリング調査を実施する。できれば,前年度全国家庭動向調査で実施した沖縄県でヒアリング調査を継続して行いたい。

(2) 研究組織の構成

担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
鈴木 透(国際関係部第3 室長),小山泰代(人口構造研究部第3 室長),
清水昌人(同部第2 室長),山内昌和(同部研究員)





5 第3 回全国家庭動向調査(分析)

(1) 研究概要

 子育てや高齢者ケアなど家族変動の影響を大きく受ける社会サービス施策の重要性が高まっているなかで,わが国の家族の構造や機能の変化,それに伴う子育てや介護の実態の変化とその要因や動向を正確に把握することがますます重要になっている。本調査の結果は,他の公式統計ではとらえることのできない出産・子育て,老親の扶養・介護などの家庭機能の変化要因や動向を示す有用な資料として,厚生労働白書等をはじめとする行政の各分野において広く利用されている。本年度は,結果の公表をなるべく早い段階で行い,公表後は個別のテーマについて分析を行い,成果を報告する。

(2) 研究組織の構成

担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
小山泰代(人口構造研究部第3 室長)
所外委員
星 敦士(甲南大学講師)





6 第6 回人口移動調査(実施)

(1) 調査概要

  1. 調査の目的

     人口移動の動向と要因を明らかにするとともに,将来の人口移動の傾向を見通すことを目的として,平成13 年の第5 回調査に引き続き,第6 回の人口移動調査を行う。この調査ではこの5 年間で都道府県レベルの人口移動傾向がどのように変化したかを明らかにすることは当然であるが,さらに以下の点に重きを置く。
    第1 に,平成の市町村大合併が市区町村間人口移動に及ぼす影響を明らかにする。
    第2 に,「団塊の世代」の大量定年退職開始がUターン移動に及ぼす影響を明らかにする。
    第3 に,人口分布変動に影響を与える移動を取り出し,その要因を明らかにする。
    第4 に,近い将来にどの地域に居住しているかという見通しを明らかにすることによって地域人口の将来推計に必要な資料を得る。
    第5 に,国際人口移動に関する基礎情報を得る。

  2. 調査対象

     全国の世帯主および世帯員を対象とし,平成18 年国民生活基礎調査で設定された調査地区内より無作為に抽出した300 調査地区内のすべての世帯の世帯主および世帯員を調査の客体とする。

  3. 調査期日

     平成18 年7 月1 日

  4. 調査事項

     世帯・世帯主・世帯員の属性,世帯主・世帯員の居住歴と将来の居住地域見通し等

  5. 調査結果の公表

     平成19 年5 月頃(予定)

(2) 研究組織の構成

担当部長
小島 宏(国際関係部長)
所内担当
西岡八郎(人口構造研究部長),千年よしみ(国際関係部第1 室長),
清水昌人(人口構造研究部第2 室長),小池司朗(同部主任研究官)





7 第1 回社会保障実態調査(企画)

(1) 調査概要

  1. 調査の目的

     社会保障の持続可能な発展のために負担と給付のバランスが求められている今日,団塊の世代の人々が引退期に入った後の社会保障給付の伸びを可能な範囲でどのように調整していくのか,また負担をどのように公平に分かち合うべきか,重要な課題となっている。この課題に応えるためには,社会保障の給付は,家族による相互扶助の在り方に影響を及ぼす可能性がある一方,本人の職業履歴や引退後の備えに依存しているという相互関係に着目して,個人・家族の世代間扶助の実態と社会保障の機能に関する実態状況を把握することが必要である。
     これらの課題に応えるために,親世代と子世代との連携が重要な機能を果たす日本社会において,家族による相互扶助と社会保障の給付と負担との間の関連性について,3 世代間(20 〜 70 歳)において把握し,団塊の世代のインパクト(消費・貯蓄行動の変化,年金給付や医療費の増大等)に対応できる今後の社会保障を構築しうる基礎資料を作成することは,厚生労働行政にも資するところが大きい。

  2. 調査対象

     全国の世帯主および世帯員(20 〜 70 歳)を対象とし,平成19 年国民生活基礎調査で設定された調査地区内より無作為に抽出した300 調査地区内のすべての世帯の世帯主および世帯員を調査の客体とする予定である。

  3. 調査期日

     平成19 年7 月

  4. 調査事項

     世帯・世帯主・世帯員の属性,世帯主・世帯員の転職回数と職業履歴,引退後のための備えに対する意識,社会保障給付等の受給状況等(予定)

  5. 調査結果の公表

     平成20 年10 月頃(予定)

(2) 研究組織の構成

担当部長
金子能宏(社会保障応用分析研究部長)
所内担当
西村幸満(社会保障応用分析研究部第2 室長),阿部 彩(国際関係部第2 室長)





8 社会保障総合モデル事業(平成16 〜 18 年度)

研究要旨

 経済成長の鈍化,高齢化のさらなる進展など社会保障を巡る環境は依然厳しいままである。平成16 年度には大きな年金制度改正がなされた。また平成17 年度には介護保険制度の見直し,平成18 年度には医療保険法の改正が行われる。
 社会保障制度のあり方を考えると,短期的には財政収支の動向ももちろん重視されるべきであるが,しかしより長期的な視点から安定した制度を模索し,改革の方向性を議論していくことが欠かせない。そのためには,経済社会の動きと社会保障制度の動向を整合的に分析するツールが必要である。マクロ計量モデル,重複世代モデル,マイクロシミュレーション手法などはこうした目的に添った有効な分析手法であり,長期的な社会保障制度のあり方を研究する際には,モデルを用いて議論することが不可欠である。
 平成16 〜 18 年度のプロジェクトの特徴は,今までの蓄積をもとに,社会保障制度の抜本改革(年金制度の積立制や租税方式の導入など)の実現可能性について重複世代モデルなどによる検討を行うとともに,保険料の企業負担変更がもたらす諸影響(国際競争力や設備投資などへの影響)を探るため,マクロモデルを拡張し,海外市場や労働市場などを含めた広範囲な分野との連関を重視した改良を行うことである。さらに,重複世代モデルやマイクロシミュレーションなどを用いて,分配面への影響についても詳細な検討を行うことにある。

(1) 研究目的

 国立社会保障・人口問題研究所では,平成10 年度から,社会保障改革の効果を定量的に分析・評価するために必要なモデルの開発・運用を行ってきた。平成10 年度から12 年度にかけては独自のモデルを構築し2050 年度までの社会保障財政の展望を行うとともに,いくつかのマクロ経済環境の想定によるシミュレーションを実施した。平成13 年度から15 年度にかけては新たな人口推計の結果を取り入れ,また世代間分配や年金制度改革の効果を分析するモデル等を開発し,新たな長期展望とともにそのとりまとめを行ったところである。これらの成果は報告書や学会報告など幅広い場で公表を行い,また社会保障改革論議の参考になっている。
 社会保障制度のあり方を考えると,短期的には財政収支の動向ももちろん重視されるべきであるが,しかしより長期的な視点から安定した制度を模索し,改革の方向性を議論していくことが欠かせない。そのためには,経済社会の動きと社会保障制度の動向を整合的に分析するツールが必要である。従前のプロジェクトでは,マクロ計量モデル,重複世代モデル,マイクロシミュレーション手法などを開発し,定量的な分析・改革評価を行ってきた。しかしながら,今後予定される年金・医療等をはじめとする様々な改革を分析するにはモデルをさらに詳細化・精密化することが必要である。また,モデルの拡充を通じて,公的分野と民間分野のすみわけや,社会保障制度の変更が民間企業の行動に及ぼす影響といった新しい課題にも対応していくことが不可欠である。

(2) 研究計画

 本研究では,研究目的にあるような状況を踏まえ,社会保障総合モデル事業においては,従前のプロジェクトでは行ってきた年金制度改革の評価に加え,医療制度改革の方向性や介護保険の動向などの分析を行うとともに,年金の財政方式の抜本的改革に関する議論や労働市場等への影響,さらには年金積立金の運営が金融市場に及ぼす影響などを研究していくことを予定している。
 平成17 年度は,以下の3 つの項目に重点を置いて研究を重ねてきた。
  1. 基本データベースの構築等

     介護保険導入や年金制度改革等の状況変化を反映するような最新の社会保障関連データベースを構築するとともに,諸モデルに用いる金融市場・財投関連諸データの整備を行った。とりわけ,コーホート・ベースのデータを整理して,今回の年金制度改正を踏まえた給付と負担に関するシミュレーション実施の準備を行った。

  2. 既存のマクロモデル拡充の検討

     既存の長期マクロモデルを改訂するとともに,将来の人口減少に関連するいくつかのシミュレーションを実施するとともに,労働市場や海外市場等と連関した企業行動の分析が行えるような総合的なモデルへの拡充が可能かどうかについて,幅広い視点から検討した。

  3. OLG モデル等の整備

     OLG モデルについては,パートタイム労働への厚生年金適用拡大が次期改正の課題となったこと,及びフリーターなど不安定就労を余儀なくされることの多い若年層の国民年金加入問題などが認識されるようになったことを踏まえて,労働供給の側面をより現実的に改良したOLG モデルを作成して,年金改革の影響を世代間の公平性と所得分配への効果を視点にシミュレーション分析をおこなった。
     また,医療サービスが健康資本から人的資本を通じて労働供給に及ぼす影響を織り込むようにOLG モデルを改良し,医療保険改革の分析が可能となるOLG モデルの構築による総合的な分析を試みた。

平成18 年度

社会保障財政の将来展望
年金・医療・介護保険制度に関して提案されている給付と負担のあり方に関する代替的な諸政策について,今まで開発してきた諸モデルを用いて定量的な評価を行う。とりわけ,年金制度に関しては積立方式や財源の消費税移行などを視野に入れ,社会保障財政などの視点から現行制度との比較を試みるとともに,企業行動を通じた民間経済への影響などについても分析を深める。さらに,分配の視点から捉えた年金制度改革の効果についても一定の見解を整理する。また,医療・介護保険制度については,マクロモデルのシミュレーションやマイクロシミュレーションモデルの成果などから,抜本改革の選択肢に関する可能性を検討する。

(3) 今年度の研究課題と進め方

  1. 既存のマクロモデル拡充の検討

     既存マクロモデルのメンテナンス(データ更新・方程式等の再推定など)を行うとともに,異なる将来人口シナリオ(合計出生率の改善など)の下で,昨年度までに行えなかったシミュレーションを展開する。

  2. OLG モデル等の整備

     社会保障審議会「今後の社会保障改革の方向性に関する意見書」が就業形態の多様化に対して対応しうる社会保障制度について総合的に検討することを指摘したことを踏まえて,パートタイム労働をモデル化して組み込むようにOLG モデルを拡張して,年金改革のシミュレーション分析を行う。パートタイム労働への厚生年金適用拡大については,企業側の負担増に対する反対意見もあることから,年金制度における企業負担のあり方を,国庫負担の財源となる法人税負担の変更と労使折半の変更とを組み合わせた複数の選択肢を想定して,制度横断的なシミュレーション分析を試みる。
     また,医療保険・介護保険に関連した本格的なシミュレーション分析も行う予定である。2000 年からデータの整備は進められてきたが,計量モデル分析に耐えうるデータの蓄積がやっと整いつつある。医療・介護については,1)代替関係と2)介護自体の需給を考慮に入れたモデルの定式化を行う。1)に関しては平成16 年に病床区分が明確になり,病院機能の分化がいっそう促進されていることを明示したモデル・モジュールを組み込む。2)に関しては,要介護度の推移確率に関する研究や介護予防に関する研究成果の蓄積を受けたシミュレーション・プログラムの作成を予定している。

  3. マイクロシミュレーション

     今年度は,最終年度であるがマイクロシミュレーションの開発にも着手する。マイクロシミュレーションとは,個人の生涯にわたる政策の効果を評価する手法である。例えば,年金政策の変更は,ある個人の若年期の負担を増加させるが,老年期における便益を大幅に増加させるかもしれない。1 時点だけで評価するのではなく,生涯で政策を評価することが適切であろう。

  4. ヒアリングの実施

     前記で述べた計画に沿って,学識経験者などから積極的にヒアリングを行う。具体的には,予防が医療費の軽減に役立つのか否か等である。

なお,研究成果については随時研究所ディスカッションペーパーに掲載する予定である。また,12 月中旬〜1 月中旬にワークショップを開催する。

(4) 研究組織の構成

担当部長
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
所内担当
金子能宏(社会保障応用分析研究部長),山本克也(社会保障基礎理論研究部第4 室長),
佐藤 格(同部研究員)
所外委員
大林 守(専修大学商学部教授),藤川清史(甲南大学経済学部教授),
加藤久和(明治大学政治経済学部助教授),上村敏之(東洋大学経済学部助教授),
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部助教授),熊谷成将(近畿大学経済学部助教授),
中田大悟(経済産業研究所研究員),稲垣誠一(農業者年金基金数理情報技術役),
佐倉 環(武蔵大学講師)





9 職場・家庭・地域環境と少子化との関連性に関する理論的・実証的研究(平成18 〜 20 年度)

(1) 研究目的

 少子化の要因として晩婚化・非婚化及び夫婦出生力の低下があげられている。その背景として結婚・出産・育児に伴う機会費用の存在が指摘されてきた。しかし,機会費用低下を目的とした育児休業等の就業継続に関する諸施策の実施にも関わらず低出生率は継続している。
 このような状況の背景には子育て支援のニーズは,支援を必要とする者がおかれている環境により極めて多様であるにもかかわらず,施策体系の総合性・包括性や使い勝手の面で不十分な面があることが指摘されている。また,企業や地方自治体による取り組みの違いも指摘されている。
 本研究では,職場・家庭・地域のそれぞれの環境が出生選択に与える影響について被用者とその家族の行動に関するデータを収集して実証的に検討する。

(2) 研究計画

 就業している男女(既婚・未婚双方)について,就業状況・家庭状況・雇用形態・所得・出生に関する考え方等の情報を収集し分析に供する他,各種の既存統計の再集計,企業や地方自治体の次世代育成支援行動計画の内容の分析等を行うことにより,下記の内容を明らかにする予定である。@企業の雇用政策が国の政策にどのように影響を受けているか,A「子育てに優しい企業」の労務管理政策が夫婦の出生力に対してどのような影響を与えているか,B全ての企業が「子育てに優しい企業」に変わるインセンティブの与え方,C人的資本の格差が結婚・出産・育児の選択の差異に与える効果,D「教育競争」が子育て費用の増加に与える効果及びそれが少子化に与える影響の実態,E子育て以外の世帯を取り巻く環境のうち就業と子育ての両立を断念させる影響の大きい要因の特定等,について基礎資料が与えられる。
 これらの分析から「子育てに優しい社会」が精神的に豊かな社会であると同時に,効率的・生産的な経済社会であるための条件が明らかにされる。

(3) 研究組織の構成

担当部長
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
所内担当
本田達郎(企画部長),泉田信行(社会保障応用分析研究部第1 室長),
酒井 正(企画部研究員)
所外委員
樋口美雄(慶應大学商学部教授),駿河輝和(神戸大学大学院国際協力研究科教授),
武石恵美子( 法政大学キャリアデザイン学部助教授),
安部由起子(北海道大学経済学部助教授),大石亜希子(千葉大学法経学部助教授),
田中隆一(東京工業大学助教授),角方正幸(リクルートワークス研究所主幹研究員),
坂本和靖(家計経済研究所研究員)

(4) 研究結果の公表予定

  1. 研究事業報告書の作成
  2. 社人研ディスカッションペーパーの利用
  3. 学術研究誌への投稿
等を考えている。




10 少子化の要因としての離婚・再婚の動向,背景および見通しに関する人口学的研究(平成17 〜 19 年度)

(1) 研究目的

  1. 離婚・再婚の動向が出生力に及ぼす影響についての分析

     これまでわが国では離婚・再婚が少なく,かつ大きな変化がみられず,さらに初婚夫婦の結婚経過年数別出産パターンも安定していた。そこで従来の将来人口推計においては,出生動向基本調査による夫婦の出生数と人口動態統計に基づく出生数の差から導かれた数値が離死別効果係数として用いられた。しかし近年離婚・再婚が著しく増加し,女性の出産パターンも大きく変化していることから,次回将来人口推計においては離婚・再婚と出生の関係を詳しく検討して,離死別効果係数の決定に反映させたい。

  2. 離婚・再婚の動向が世帯構造変化に及ぼす影響についての分析

     世帯の変動は一般に出生,死亡,同居,別居の4 要素によって決まる(出生と同居は世帯への参入,死亡と別居は世帯からの離脱)。離婚・再婚は同別居の直接的要因として,また出生さらには死亡の間接的要因として重要であるが,従来あまり研究されてこなかった。しかし,ここ30 年ほどの間にわが国の離婚率は,総人口当たりでもほぼ倍増し,年齢構造や配偶関係の変化(人口高齢化や未婚化)の影響を除くと約5 倍に増えており,再婚数もほぼ倍増している。また離婚・再婚パターンも大きく変化している。本研究は,年次別,年齢別,結婚持続期間別など人口学的特性別にみた離婚・再婚の動向が世帯類型構造(とりわけ単身世帯,ひとり親世帯など)の変化に及ぼす影響などについても併せて研究する。

  3. わが国の離婚・再婚研究の基盤づくり

     わが国における離婚・再婚の研究は,質的研究やケース・スタディが主で,全国人口についてのマクロ的研究はあまりなされていない。その理由の一つは人口統計学的な基本資料の整備が進んでいないことにある。本研究プロジェクトは2000 年国勢調査人口および2005 年国勢調査人口について配偶関係別生命表,結婚の生命表,結婚の多相生命表などを作成し,全国人口における離婚・再婚の動向を明らかにする。またイベント・ヒストリー分析など最新の統計学的手法を取り入れて,離婚・再婚の行動学的特性や要因について基本的知見を得る。本研究により作成された資料は,離婚・再婚研究の基盤として他の研究者などに広く提供され,人口学のみならず,経済学,社会学,医学・公衆衛生,福祉など多くの分野で新たな研究や政策提言を生み出すシーズとなることが期待される。

(2) 研究計画

  1. 離婚・再婚の動向の人口統計学的分析(初年度および2 年度)

     先行研究についてレビューをおこなったのち,国勢調査,人口動態統計などマクロ人口統計データを用いて,コーホートごとの年齢別結婚持続期間別の有配偶率を推定する。その際,生命表モデルを用い,配偶関係別生命表,結婚の生命表,結婚の多相生命表などを作成する。

  2. 離婚・再婚の社会経済的背景と将来見通しについての検討(初年度及び2 年度)

     社会学,経済学などの視点も含めて,離婚・再婚の背景,将来の動向について分析する。その際,ミクロ的ライフコース・モデル,マクロ的人口・社会・経済モデルの両面からアプローチする。

  3. 離婚・再婚の動向が出生力に及ぼす影響についての分析(2 年度)

     上記を踏まえて,離婚・再婚を含めた包括的な出生力モデルを作成し,少子化の動向に及ぼす影響について分析する。具体的には,コーホートごとの年齢別結婚持続期間別の有配偶出生率,離婚者・再婚者の出生率等を推定する。

  4. 離婚・再婚の動向が世帯構造変化に及ぼす影響についての分析(3 年度)

     世帯類型構造(とりわけ単身世帯,ひとり親世帯など)の変化に及ぼす影響について分析する。

(3) 今年度の研究課題と進め方

 初年度の研究活動を通して,先行研究すなわち日本の離婚・再婚に関する人口学的研究が非常に少ないことが確認された。近年の離婚率の動向についても十分説明されていない。本研究課題に迫るには,基本的な人口統計分析の積み重ねが必須であり,順次進めているところである。特に今年度は,2000 年国勢調査,人口動態統計などマクロ人口統計データを用いた分析に加えて,出生動向基本調査データを用いた再婚者及び離死別者の分析をおこなう。また離婚・再婚の社会経済的背景に関して,社会学,経済学のアプローチを含めて検討し,モデル化をめざす。

(4) 研究組織の構成

担当部長
佐藤龍三郎(情報調査分析部長)
所内担当
石川 晃(情報調査分析部第2 室長),白石紀子(同部第3 室長),
別府志海(同部研究員)
所外委員
安藏伸治(明治大学政治経済学部教授),加藤彰彦(明治大学政治経済学部助教授),
加藤久和(明治大学政治経済学部教授),
ジェームズ・レイモ(ウィスコンシン大学社会学部助教授)

(5) 研究結果の公表予定

 プロジェクト報告書は中間(2006 年7 月)および最終(2008 年3 月)の2 回作成を予定している。またこれらの報告書以外にも学会発表等予定している。




11 非正規就業の増大に対応した社会保障制度の在り方に関する研究(平成17 〜 19 年度)

(1) 研究目的

 1990 年代後半以降,国際競争の激化や社会保険料の増大等を背景に,企業(求人側)にとっては労務費軽減という経済的誘因もあって非正規就業者が増大しており,それが(就業者数全体が増加しているにもかかわらず)厚生年金と健康保険の被保険者数の減少をもたらし,また,国民年金の未加入・未納問題の原因にもなっているなど,我が国の社会保険制度の大原則である皆年金・皆保険の在り方を考える上で大きな問題となっている。非正規就業の典型例としては,フリーターに象徴される若年者の不安定就労と,世帯主の賃金上昇率の低下に伴う家計補助のための(女性)パートタイム労働が挙げられるが,これらを含む就業形態の多様化に対して社会保障制度が総合的に対応すべきことは,社会保障審議会「今後の社会保障改革の方向性に関する意見書」(平成15 年6 月)が指摘するところであり,既に具体的な制度改正の検討が行われているもの((女性)パートタイム労働に対する厚生年金の適用拡大)や,政府としての対処の必要性が指摘されているもの(若年世代の非正規就業について社会生活基盤欠如の問題としてとらえて対処する必要性の指摘(「青少年育成施策大綱」(内閣府,平成15 年12 月)))もある。しかしながら,これまで働く側と企業の側の両方から非正規就業が社会保障制度に及ぼす影響を把握することは,必ずしも十分には行われてこなかった。
 したがって,本研究では,非正規就業者が増大する中で社会保障制度の持続的発展を図るために,若年者の不安定就労と(女性)パートタイム労働の性質の違いにも配慮しつつ,非正規就業者の実態やその抱える問題を把握・分析し,非正規就業者が将来に対して抱く意識やライフスタイルに応じて受け入れられやすい社会保障制度の在り方を考察することを目的とする。そのために,非正規就業者の実態と意識に関する既存調査及び企業と非正規就業者との関係に関する既存調査を収集・整理してデータ・アーカイブを構築し,これを利用して非正規就業者が不安定就労に留まる諸要因を考察する。その上で,それらの諸要因を踏まえつつ,非正規就業者が社会保障制度によってカバーされかつその担い手となることを通じて社会保障の持続的発展を導く諸条件を見いだすための分析を行うとともに,それらを前提とした社会保障制度の姿を示すシミュレーション分析を行い,社会保障政策の基礎的資料を提供する。

(2) 研究計画

 社会保障制度が総合的に対応すべき非正規就業の実態把握は,フリーターあるいはパートというカテゴリーごとに個別に調査が実施されている。また供給側(就労)と需要側(企業)にも個別化して調査が行われている。本事業はこの4 つの次元を社会保障制度の立場から包括して分析を行うために,既存調査を集中的に利用しその再検討を行う。
 また,分析に利用すべきあるいは資料的価値のため収集すべきデータを選択すること,これらのデータを利用する際の新しい分析手法の検討を行うため,有識者と所内担当者からなる委員会を組織し,これらの論点の検討と外部有識者からのヒアリングを行う。  平成17 年度:上述のデータ・アーカイブを構築しつつ,それを用いて2 次分析を行うことにより,非正規就業者が不安定就労に留まる理由(例:将来に対して不安があるものの他に選択肢が無い状況なのか,あるいは将来の目標実現のための過渡期として意識しているのか等)を詳細に把握することを通じて,非正規就業者への社会保障制度のあるべき姿(例:独立したリスクに対する所得保障として構築すべきなのか,正規就業者になった場合との接続性を考慮した社会保険の適用拡大としてとらえるべきなのか等)について検討する。
 平成18 年度:既存調査の収集とデータ・アーカイブ化を続け,初年度と本年度のアーカイブを利用して,非正規就業者の意識と収入面での実態を把握することを通じて,制度の適用拡大を行う際の保険料賦課に係る望ましい手法(例:段階保険料とするか比例的賦課とするか等)を明らかにする。
 平成19 年度:2 年度に渡り構築したデータ・アーカイブの分析に基づき,非正規就業者が,正規就業者と同等に機会が保障される社会保障制度によってカバーされかつその担い手となることを通じて社会保障の持続的発展を導く諸条件を見いだすための分析を行うとともに,それらを前提とした社会保障制度の姿を示すシミュレーション分析を行い,社会保障政策の基礎的資料を提供する。
 本年度は,3 年計画の2 年目にあたるため,データ・アーカイブについては,検討作業の基盤構築となるため,非正規就業層への一貫した実態把握と調査の散逸・消失保護の観点から,引き続き地方自治体・法人レベルの既存調査(1 次)の収集・整理を行う。そして,既存調査実施の個別の背景を踏まえ,本研究の目的に基づいた2 次分析研究会を運営し,成果を統合して非正規就業の実態把握に努める。1 年目は若年層の非正規就業者 を対象とした2 次分析を行ったのに対して,2 年目は,この年齢層よりも上の年齢層のパートタイム労働に着目した2 次分析を行う。また,若年層の意識調査の2 次分析を踏まえて,教育現場や職場における年金教育や年金情報の改革動向や健康増進のための情報提供などの身近な医療改革の動向に着目し,実務担当者や学識経験者からのヒアリング等も行いながら,今後の社会保障の在り方について検討する。
 なお,データ・アーカイブは,個人情報を含む可能性のある調査を収集・整理するので,その取り扱いには十分に配慮する。

(3) 研究組織の構成

担当部長
金子能宏(社会保障応用分析研究部長)
所内担当
西村幸満(社会保障応用分析研究部第2 室長),菊地英明(社会保障基礎理論研究部研究員),
酒井 正(企画部研究員),稲田七海(客員研究員)
所外委員
岩木秀夫(日本女子大学大学院人間社会研究科教授),
松繁寿和(大阪大学大学院国際公共政策研究科教授),
首藤若菜(山形大学総合政策科学科講師),
新谷康浩(横浜国立大学教育学部助教授),
大井方子(県立高知短期大学社会科学科助教授)

(4) 研究結果の公表予定

 研究成果については,『季刊社会保障研究』Vol. 42 No. 2 <特集:社会保障と非正規就業研究>において公表する。また,随時研究所ディスカッションペーパーに掲載し,ワークショップやセミナーなどの開催により,一般にも情報提供する予定である。


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