(1)研究目的
本研究ではわが国との比較を交えながら,アジアNIESにおける少子化と少子化対策の動向と内外の格差について比較分析をするともに,少子化対策の潜在的効果を分析し,わが国の政府・地方自治体における少子化対策の策定・実施・評価に資することを目的とする。そのため,利用可能なデータの分析と並行して,アジアNIESと日本国内(少子・多子の地域・階層)において収集したデータによって内外の地域間・階層間格差を分析し,少子化の要因と少子化対策の潜在的効果を明らかにするとともに,わが国にとっての対策の選択肢を提示しようとするものである。
(2)研究計画
本研究は平成14年度から3年間にわたり実施したが,初年度は国内における文献・理論研究と専門家からのヒアリングを行って出生力変動の分析枠組みを設定し,マクロデータを収集するとともに,形式人口学的分析枠組みに基づいて韓国と日本(およびヨーロッパ)に関する若干の予備的比較分析を行うとともに,ミクロデータに基づいて日本と台湾における意識の予備的分析を行った。また,韓国,シンガポール,香港で現地調査を実施した。また,推進費で韓国とシンガポールの専門家を招聘し,少子化と少子化対策に関するワークショップを開催し,韓国・台湾・香港における少子化の動向に関する調査の委託に伴って来訪した専門家によるワークショップも開催した。
また,第2年度は国内における資料・データ収集,専門家からのヒアリングを引き続き行い,文献研究と各国についてマクロデータに基づく分析を行うとともに,ミクロデータに基づく若干の比較分析を拡張し,韓国,台湾,シンガポールで現地調査を実施した。また,定性的研究の寄稿を得て補完を試みたほか,推進費でフィリピンの専門家を招聘し,少子化対策としての国際人口移動に関するセミナーを開催した。
第3年度は国内における資料・データ収集,文献研究,マクロデータに基づく分析を引き続き行うとともに,ミクロデータに基づく比較分析を政策志向的なものに拡張し,韓国,台湾,シンガポール,香港で現地調査を実施した。また,韓国・台湾・シンガポールの研究者の寄稿による補完を試みる一方,推進費で韓国の専門家を招聘して講演会等を開催するだけでなく,研究成果の集大成を発表するための公開ワークショップ「東アジアの少
子化と少子化対策」も開催した。
(3)研究会の構成員
(4)研究会の開催状況
8月30日本年度の研究計画
12月3日本年度研究中間結果の報告
なお,さらに,平成16年度も平成17年1月に恩賜財団母子愛育会を通じた推進事業により韓国から金斗燮(KIM Doo-Sub)漢陽大学社会学科教授を招聘し,当研究所内の特別講演会(1月7日)と関西学院大学経済学部(1月11日)で“Theoretical Explanations of Rapid Fertility Decline in Korea”と題された講演とお茶の水女子大学(1月13日)で“Sex Ratio at Birth in Korea: Changing Trends and Regional Differentials”と題された講演をしていただいた。また,最終年度であることから平成17年3月14日に3年間の研究成果を発表するための公開ワークショップ「東アジアの少子化と少子化対策」を当研究所で開催し,外国人研究協力者の全廣煕(JUN Kwang-Hee)忠南国立大学社会学科教授が,講演“Local Government’s Population Policy to Cope with Low Fertility in South Korea:A Preliminary Status Report”を行い,研究所内外から多数の参加があった。
(5)研究成果の公表
3年間の研究成果は厚生科学研究費補助金政策科学推進研究事業の平成14〜16年度総合研究報告書として公表した。また,平成14年度の招聘外国人による報告論文改訂版は当研究所のウェッブジャーナルJournal of Population and Social Security: Population Study のA Supplement to Volume 1<
・小島 宏「アジアの少子化と少子化対策」店田廣文編『アジアの少子高齢化と社会・経済発展』早稲田大学出版部, pp.70?88, 2005年2月.
・小島 宏「日本と台湾における結婚行動の規定要因―NFRJ-S01とTSCS-2001の比較分析―」熊谷苑子・大久保孝治編『コーホート比較による戦後日本の家族変動の研究(全国調査「戦後日本の家族の歩み」報告書No.2)』日本家族社会学会・全国家族調査(NFRJ)委員会,pp.45?59,2005年5月.
・小島 宏“Determinants of Gender Preference for Children in Japan: A Comparison with Korea,” 36th World Congress of International Institute of Sociology, Beijing, 2004年7月9日.
・小島 宏“Determinants of Attitudes toward Children in Japan and Taiwan: A Comparative Analysis of JGSS-2000/2001/2002 and TSCS-2001,” 36th World Congress of International Institute of Sociology, Beijing, 2004年7月9日.
・小島 宏「日本・台湾・韓国における子どもに対する意識の規定要因」第14回日本家族社会学会大会,日本大学文理学部,2004年9月11日.
・山内昌和・西岡八郎「1980〜2000年における日本の地域出生力とその要因」日本人口学会東日本地域部会,北海道東海大学,2004年10月30日.
・鈴木 透「韓国の出生力低下の分析」第77回日本社会学会大会,熊本大学,2004年11月21日.
・鈴木 透「韓国の極低出生力」第57回日本人口学会大会,神戸大学,2005年6月5日.
・小島 宏「東アジアにおける宗教と出生意識」第57回日本人口学会大会,神戸大学,2005年6月5日.
・佐々井 司「アジア低出生地域における少子化要因と人口政策」第57回日本人口学会大会,神戸大学,2005年6月5日.
・小島 宏“Gender Preference for Children in Japan, Korea and Taiwan: A Comparative Analysis of JGSS, KNFS and TSCS” Women’s World 2005; 9th International Interdisciplinary Congress on Women, June 19?24, 2005, Seoul Korea Ewha Women’s University, Seoul, Korea, 2005年6月22日.
(1)研究目的
本研究の目的は,家族構造や就労形態等の変化が社会保障を通じて所得分配に及ぼしている影響を把握し,社会経済的格差が生じる要因を分析することを通じて,効果的な社会保障のあり方を展望することにある。具体的には@家族構造・就労形態等の変化が所得分配に及ぼす影響,A生涯を通じた社会保障の所得分配に及ぼす影響,B人々の不平等感と不平等度との関係―の3つのテーマについて分析する。
(2)研究計画・実施状況
いずれの課題についても研究会を組織し,1年目(平成14年度)は先行研究のサーベイを行うとともに,分析に用いる統計調査データの整備および目的外使用申請作業を行い,後半から分析作業に着手した。
2年目(平成15年度)は,@研究協力者を米国に派遣し,文献サーベイや専門家などへのインタビューを通じて米国の福祉改革の成果と問題点を調査し,A厚生労働省『国民生活基礎調査』,『所得再分配調査』ほかのマイクロデータを使用して1年目のアプローチをさらに発展させた実証分析を行ったほか,B機会の平等について理論的検討を行うとともに,社会階層や階層意識について国際比較を行った。
3年目(平成16年度)は,@実証分析の結果についてさらに頑健性を高めるために研究会にて検討を行った上で,A米国コーネル大学のリチャード・バークハウザー教授およびオランダ・エラスムス大学のヤン・ネリッセン教授を招聘し,平成17年1月に国際ワークショップを開催してOECD諸国の所得分布状況や社会保障政策と所得再分配の関係について議論を行い,報告書をとりまとめた。
(3)研究会の構成員
(4)研究成果の公表
本事業の研究成果の一部は『季刊社会保障研究』その他の学術雑誌や書籍として既に公表された。また,3年分の研究成果については,平成17年2月15日の政策科学推進研究事業公開シンポジウムにおいて報告し,一般への普及に努めた。本研究のその他の研究成果についても,積極的に普及・啓発を図る予定であり,今後,ワーキングペーパーやThe Japanese Journal of Social Security Policy,また,書籍等の形態で国内外に公表する予定である。
(1)研究目的
介護サービスの量的・質的な充実は必要不可欠である。他方,介護サービスの供給体制の充足は利用者の行動を変化させ,長期的に日本の家族・世帯構造を変化させ,それがさらにまた供給構造の変化を促す可能性がある。今後における介護保険制度のあり方,介護サービスのあり方等を検討するに当たっては,介護保険制度の導入が介護サービスの普及等を通じて世帯や地域にどのような影響を与えてきたか,また,個人の介護サービス利用行動がどのような要因によって決定されてきたか等について,介護保険制度の導入前後を比較して実証的に分析することが必要である。
そこで,本研究計画では以下の点について検討する。@家族介護の実態把握,A施設入所(院)・家族介護の選択に与える,世帯構造等の要因分析,B遠距離介護の実態把握,C介護サービス利用と就業選択の分析,D介護サービス事業者とボランティア組織の役割分担の実態把握,からなる。これらは厚生労働行政に直結する内容である。このように,本研究は介護保険導入後の介護の実態把握をもとに,これからの介護保障のあり方を考えるための有効な基礎資料を作成し,厚生労働行政に対する貢献を通じて国民の福祉の向上に資するものとすることを目的とする。
(2)研究計画・実施状況
平成14年度(3)研究会の構成員
(4)研究会の開催状況
(5)研究成果の公表
研究成果については,平成17年2月15日の政策科学推進研究事業公開シンポジウムにおいて報告し,一般への普及に努めた。報告書全文については厚生科学研究費補助金政策科学推進研究事業報告書として公表した。
(1)研究目的
わが国における少子高齢化の急激な進行は社会保障制度全般に大きな影響を及ぼしつつあるが,この問題は先進諸国におおむね共通する。少子化の背景,少子高齢化の影響は広義の家族・家族観と密接に関わっており,少子高齢化問題全体の広がり,深さを知り,適切な政策対応をとるためには,家族・家族観の変化を国際比較を含めた広い視野から検討する必要がある。
この時期に,先進諸国の大部分をカバーする国連ヨーロッパ経済委員会(UNECE)の人口部が,ヨーロッパ諸国の少子高齢化問題と家族・家族観の変化とを,世代とジェンダーという2つの視点から関連づける「世代とジェンダー・プロジェクト(GGP)」を発足させ,幸いにも,ヨーロッパ経済委員会域外の主要な先進国である日本にも参加を呼びかけてきた。本研究は,この呼びかけに積極的に応え,GGPの企画・設計段階から参加し,国際比較研究のメリットを享受するとともに,日本からの独自の研究貢献を目指すものである。GGPは,参加国共通の分析フレームに従い,人口・経済・社会・社会保障に関するマクロデータを収集するとともに,共通の調査票を用いた「世代ジェンダー調査(GGS)」を実施する。後者は,パートナー関係,出生力,家族ネットワーク,ジェンダー,高齢者ケア,家計と社会保障に関する調査項目を含む,家族に関する包括的調査であり,この分野ではおそらく日本では初めての国際比較調査である。
本研究は,日本を含む国際比較可能なマクロ・ミクロ両データの分析に基づいて,結婚・同棲などを含む男女のパートナー関係,子育て関係,高齢者扶養問題の先進国間の共通性と日本的特徴を把握し,これによって,日本における未婚化・少子化の要因分析と政策提言,高齢者の自立と私的・公的扶養のあり方に関する政策提言に資することを目的とする。
(2)研究実施状況
本プロジェクトの研究実施状況は以下のとおりである。
まず第一に,本研究では,国際比較研究を行うにあたって,@婚姻行動・家族形成に関する研究A出生行動に関する研究を中心にして既存研究の整理・検討を行った。婚姻行動,家族形成に関する研究では,定位家族からの離家,多様化したパートナーシップ,婚外出産と一人親世帯,パートナーシップの解消,夫婦関係,親子関係といったテーマについて,実証研究の結果と問題点の整理を行った。また,日本では家族に関する多面的な情報を含むミクロデータが少なく,また,国際比較研究を念頭に置いて調査が設計されていないことが多いために,国際比較研究を困難にしていることが明らかになり,日本がGGPに参加し調査を実施することの意義と,そこから得られる研究成果の重要性を確認した。他方,出生行動に関する研究の検討では,先進国に焦点を当て,社会経済の状況と出生パターンがどのように関連しているかについて既存研究を整理,検討を行い,先進国間における女性就業や女性学歴と出生パターンの関連を吟味するには,国際比較可能なパネルデータの収集が必要であり,GGPによってもたらされる調査データと分析の重要性が明らかにされた。
第二に,本研究では,GGPへの参加国や国連ヨーロッパ経済委員会と協調を図りながら,国際比較調査(GGS調査)を日本で実施した。この調査の実施に際しては,まず最初に,国連ヨーロッパ経済委員会と国連人口部から提示された70ページにも上る膨大な英語版GGS調査票の質問項目を一つ一つ詳細に吟味し,自記式留置調査にとって適当な分量になるように項目を取捨選択し,さらに,日本語として不適切な表現や言い回しの修正を行い,GGS調査日本語調査票を作成した。そして,この調査票を用いて,東京,仙台でプリテストを行い,調査員と回答者に対してヒアリングを行った。このプリテストとヒアリングに基づき,調査票の質問文のワーディング,選択肢,レイアウトに関して問題点がないかを再び検討し,若干の修正を施した上で最終的なGGS調査票日本語版を完成させた。そして,全国の18歳〜69歳の男女,15,000人を対象に2004年3,4月にかけて調査を実施した。
第三に,上述の日本の調査データと,イタリア,オーストリア,カナダ,ドイツ,ノルウェー,フランスのミクロデータを用いて,婚姻,出生などの家族形成について国際比較分析を行った。これにより,日本では,結婚や家族,男女の家庭役割をめぐる意識の男女差が若い人ほど大きくなる傾向があり,男女の間で結婚や家族形成に対する期待や理想に関してジェンダー・ギャップが大きいという特徴が明らかになった。また,女性の就業や学歴と婚姻・出生パターンとの関係は,国ごとに異なっており,これらの社会経済要因の婚姻,出生などの家族形成に対する影響は,各国の社会的コンテキストにも左右されることが明らかになった。この知見は,仮に政策によって社会的コンテキストが変化した場合には,婚姻・出生行動が変化する可能性があることを示唆するとともに,今後,本研究をパネル調査として継続,発展させることにより,有効な少子化対策を提示できる可能性があることを示している。
第四にコンテキスト・データ・ベース構築のための基礎研究を行った。GGPでは,参加国の@社会経済A政策B制度の3つの領域についてのマクロなコンテキスト・データをできるだけ共通な形式で時系列に収集することになっており,本プロジェクトでも,日本のナショナル・レベルのマクロ・データの利用可能性について調査,及びデータの収集を行った。これにより,上記の3つの領域について日本で利用可能なデータのタイプ,形式,利用可能な期間などを明らかにし,日本のデータと他のGGP参加国のデータとを比較検討した。これと並行して,利用可能な時系列データそれぞれについては,可能な限り漸次,収集を行った。さらに,ナショナル・レベルだけでなく,都道府県レベルについても,上記の3つの領域の地域データ利用の可能性について調査,検討した。
本研究では,日本と先進諸国との国際比較分析を行い,日本の未婚化や少子化の特徴を明らかにした。しかし,注意しなければならないのは,本研究で用いたデータは一時点におけるクロス・セクショナルな調査から得られたものであるため,政策介入による社会的コンテキストの変化が,実際に未婚化や少子化にどの程度の効果をもたらすかを検証することは,データの性質上,困難であるという点である。こうした政策の影響を吟味し,有効な少子化対策を提示するためには,同一の調査対象者を一定の期間,繰り返して追跡調査するパネル調査を実施する必要がある。従って,本研究によって示唆された政策による婚姻や出生への促進効果の検証については,パネル調査による研究の継続が必要であり,今後の課題としたい。
(3)研究者の組織
(1)研究目的
出生率低下における新たな局面,すなわち結婚した夫婦の出生率低下傾向について,その動向と要因を探るとともに,今後の結婚や出生動向を人口学,社会学ならびに経済学などの学問的見地から解析し,少子化への対応について家族労働政策の視点から効果的な施策メニューを提言することを目的としている。
具体的には,@出生率の持続的な低下と夫婦出生力の低下という少子化の新たな局面について,人口学的,社会経済学的な要因分析を進めるとともに,将来の出生率を予測するための人口学的,計量経済学的モデル開発を行い,経済成長や社会意識の変化に伴う出生率の見通しなどを検討する。A女子の労働供給をはじめとする労働市場の環境や結婚の動向をマクロとミクロのデータから検証し,その構造的要因を明らかにし,今後の少子化対策への政策提言を行う。B少子化に関する意識を把握し,有効な少子化対策のメニューを構築するためのアンケート調査を行うとともに,地域における少子化の実態を把握し,今後の少子化対策のあり方を検討した。
(2)研究計画ならびに研究実施状況
本研究プロジェクトは,高橋重郷(主任研究者)のもと,2人の分担研究者と多くの研究協力者の参加を得て三つの研究班を組織し,以下のように研究活動を実施した。本研究班は,1)年齢別初婚率や年齢別出生率など人口学的マクロデータの数理モデル研究,2)マクロデータに基づく計量経済学的モデル研究,ならびに3)国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査個票データを利用した多変量解析によって研究が進められた。これらの研究は,定期的に開催される研究会を通じて,結果の評価を行い,研究成果を取りまとめた。
上記課題は,樋口美雄(分担研究者)のもとで研究班が組織され,研究が進められた。全国約3400自治体のうち,統計資料の収集が可能であった675市・東京23区について,1998年,2000年,2002年の出生ならびに社会経済変数等のデータを収集・リンクし,分析用データベースを作成して育児支援策や育児休業制度等の地域間の分析が行われた。
この調査は,安藏伸治(分担研究者)のもとで研究班が組織され,調査項目の検討と質問紙の作成が行われた。調査の実施と回収ならびに基本集計は調査会社へ委託し,品川区・千葉県印旛郡栄町・秩父市・岐阜県多治見市,東京都八王子市ならびに神奈川県秦野市において調査を実施した。研究班では,得られた個票データを用いて,テーマ別の分析を行った。
初年度(平成14年度)において,本研究の基礎的研究を展開したが,平成15年度の研究2年次は,実施したアンケート調査の解析をすすめるとともに,家族労働政策に基づく少子化対策関連の実証分析を進めた。また,人口学的モデル研究ならびに計量経済学的モデル研究ではモデルの開発を行うとともに,モデル研究から得られた知見に基づき少子化対策の効率的なメニューの提示を試みた。さらに,平成14年に実施された最新の出生動向基本調査の解析を通じ,夫婦出生の動向と社会経済属性別の出生行動,ならびに独身者の結婚に対する意識を各回調査の比較を通じ,その傾向を分析した。
平成16年度は研究最終年度にあたり,実施したアンケート調査の解析を進めるとともに,労働経済学的な知見から得た少子化の要因等を整理する。計量モデルについては将来見通しを可能とするような実用レベルにまで研究を進め,平成16年度報告書ならびに総合報告書を作成した。
研究の成果は研究報告書ならびに機関誌『人口問題研究』に特集論文として公表している。
(3)研究会の構成
(1)研究の目的
本研究の目的は,中期的視野にたち今後10年にわたり日本で行うべき少子化政策とはどのような社会状況を想定して立案すべきなのかを検討する基礎資料を提供することにある。社会調査においては,私的な移転の実態を明らかにすることが重要である。従来の政策は,実施主体,財源,施行の実際においても公的な制度を枠組みとして検討されてきたが,経済成長の鈍化によって,あらゆる分野で公的な役割分担の見直しが進められている現在,少子化対策も例外ではなく,政策の財源や実行可能性を広い分野にもとめる必要がある。近年日本では「豊かな高齢者VS経済的に苦しい子育て世帯」の対照的イメージだけが先行し,公的老齢年金の給付水準引き下げや年金課税の見直しなど,高齢者の公平な負担のために改正の必要性が議論されている。一方,景気刺激策として生前相続における親世帯から子世帯の非課税枠の拡大などが行われ,豊かな親を持つ子供は住宅購入等に多額の所得移転を親世帯から得ている。数の減った孫にたいする経済的,協力的支援も同様である。祖父母世帯と孫のいる成人子世帯の間の協力関係は,言い換えれば経済的に苦しい子育て世帯への「私的移転」と位置づけられるだろう。この私的移転が,単に親世帯の経済的状況に左右されるのであれば,それを得られる子世帯と得られない子世帯,ひいては祖父母の手厚い支援を受けて育つ子どもとそうでない子どもの間に大きな不公平を生むことになるだろう。本来,公的な制度は,私的移転の補完的役割を果たすと同時に,私的な移転の行われにくい対象や状況にもてる資源を集中させて配分する配慮が必要である。このように,私的移転の実態をあきらかにすることで,より効果的な公的移転の方法を模索することが可能となるのである。(2)研究計画
社会調査は2カ年に分けて実施する。初年度(平成15年度)は,0〜6歳の孫のいる高齢者世帯を対象にして,協力的移転の実態調査を郵送法で実施した。2年目(平成16年度)は,0〜6歳の子どものいる世帯を対象とした調査を郵送法で実施する。初年度におこなった高齢者の孫に対する経済的移転と比較しながら,2つの調査結果を利用して総合的な分析を行いたい。調査項目の例としては,まず,世帯間の経済的移転の実態を次のような分野で調査する。@祖父母から孫に対する小遣い,物品の購入A住居費の補助(家賃の補助,購入資金の補助)また世帯間の子育て協力関係の実態を調査する。調査項目の例としては,@子守の頻度とその費用(経常的な助けと何らかの必要ができたときの助け)A交流の頻度(旅行や外食など)とその費用等を尋ねている。調査結果を使った分析において,検討する予定の仮説は以下の通りである。祖父母の援助状況の違いによって,成人子の子ども数が異なるのか,また,たとえ同じ数の子どもを持っていても,祖父母から孫への私的移転によって,その子どもたちの生活水準がどのように異なるのかを分析することである。データは成人子票のものを用い,経済的・人的・精神的援助状況,齢や収入,居住距離など各種属性によって祖父母のタイプを識別し,成人子の子ども数や,その子どもの生活水準(通っている学校,家庭教育の状況など)にどのように影響を与えているか分析する。個票データを用いて,贈与(土地・住宅資金贈与,生活資金援助,結婚資金贈与を含む)を与えている親世帯だけではなく,贈与を受ける子供世帯側の視点を考慮して,生前贈与の実態と動機を綿密に解明する。さらに,同データベースを用いて,親世帯からの住宅資金援助が成人子供世帯の住宅取得行動(頭金貯蓄,住宅取得の時期,住宅の購入価格)に係る影響について分析を試みる。こども世帯へのレジャー費用と孫へのプレゼントに関して,高齢者世帯と成人子世帯の属性等との関係を分析する。また,親から育児支援を受ける可能性の高い成人子世帯の特徴を,成人子の配偶者(夫)の就労形態,家事参加との関係から探る。なお,調査は関東および関西の都市部で行っていることから,地域特性についても考察したい。本年度実施の調査の結果と概要を前年に実施した調査の結果と概要に併せて年度後半に公表する。
個票データを用いた分析及び考察については,分担研究者が各自,学会等の場で個人名で発表し,そこでの批評や意見を踏まえて,本研究の平成16年度総括報告書に論文としてまとめた。
(3)研究会の開催状況
本年度は,成人子調査の終了から始まった。2年を通じて収集した調査データの整備と解析分析を中心に,各研究者による独自研究を行った。前半においては,成人子調査のデータクリーニング及びクロス表の作成を分担して実施した。
11月26日には,ワークショップ「子育て世帯の社会保障」を開催し,本研究参加研究者に加えて,外部からの参加を得て,コメンテーター付きの研究会を開催した。
本調査の主体となった「親子世帯間の援助に関する研究会」は参加研究者で分担した分析結果をもちより調査の概要と分析を小冊子にまとめた。本調査の概要報告と,他の分担及び協力研究者の個人研究について年度末にまとめ報告会を開催した。報告会で公表された報告論文については,コメントを参考に改訂され平成16年度総括研究報告書に収載した。
(4)研究会の構成員
(5)研究結果の公表
平成16年度に総合報告書をとりまとめた。本研究事業で2カ年にわたり実施した調査「親子世帯間の援助の実態と意識に関する調査」(高齢者世帯調査・成人子世帯調査)については,結果の概要を広く公表していく。
また,分担及び協力研究者は個人の資格で本調査データを使った研究報告を学会等で随時行い,調査の意義と研究の重要性について理解を得るように努める。
(1)研究目的
本研究は,社会保障と私的保障とのかかわりに着目し,公私の役割分担を明確にした社会保障パッケージのあり方を以下の4つの視点から考察することを目的としている。具体的な研究テーマは以下の通り。@企業年金と公的年金のすみ分けに関する研究,A企業による福祉と社会保障の関係に関する研究,B公的年金が労働供給に及ぼす影響と所得保障のあり方に関する研究,C非正規労働者への社会保険適用に関する分析。
(2)研究計画・実施状況
第1に,海外の研究動向を把握するために平成15年6月に分担研究者を米国のEBRI他に派遣してヒアリング調査等を実施した。第2に,公的年金に関連したテーマについては,平成15年9月に研究者と行政関係者からなる「公的年金ワークショップ」を国立社会保障・人口問題研究所で開催し,研究成果を発表するとともに内容について議論を行ったほか,平成16年度には諸外国の年金改革の動向や日本におけるキャッシュ・バランス型年金の実状について分析した。第3に,企業負担の実態把握方法について,平成15年6月〜16年3月にかけて日本経団連,生命保険文化センター,(株)帝国データバンク,厚生労働省年金局企業年金国民年金基金課などを対象にヒアリングを実施した後,平成16年度にはアンケート調査を実施した。第4に,非正規労働者の中でも近年増加が著しい請負労働者の実態把握も行った。第5に,未納・未加入問題についても,予備的な実証分析を行った。
(3)研究会の構成員
(4)研究成果の公表
本事業による平成16年度までの研究成果の一部は『季刊社会保障研究』第39巻第3号,第40巻第3号の特集として発表した。
(1)研究目的
本研究は,医療政策の目標(医療の質・アクセス・効率性の向上)に照らし,高齢社会における医療等の提供体制のあるべき姿を明示した上で,その実現に向けた具体的な政策手段を明らかにすることを目的とする。具体的には,医療供給体制の総合化・効率化に関する理論的研究に加え,比較的成功している自治体等を選定して実地調査を行い,医療・介護等に関する課題を包括的に検討する。こうした過程を通じ,各政策手段等の優劣や実現可能性も視野に置いた分析を行い,グランドデザインの提示と併せ,具体的な政策提言を行う政策指向型の研究である。
(2)研究実施状況
本研究では,医学,看護学,経済学,社会学,法学等の学際的な観点から,高齢社会における医療等の提供体制のあるべき姿(グランドデザイン)を明示した上で,諸外国における医療改革の成果との比較検証やわが国のフィールドワークを通じ客観性・現実妥当性の評価を行いつつ,その実現に向けた具体的な政策手段と各政策選択肢の優劣・実現可能性等について検討し,政策提言を行うものである。本年度の活動は,メンバー全体で総合的に討議する研究会(計11回),およびサブ・グループを単位として行う分担調査研究により進められた。研究会には,医療従事者や研究者等の専門家を招き,実務と研究の両サイドからの活発な議論が行われた。また,サブ・グループでは,地域における取り組みに関するヒアリング(計11回),海外の事例に関するヒアリング等を実施し,情報収集・整理を行った。
(3)研究会の構成員
(4)研究成果の公表
本研究の成果は,平成16年度報告書としてとりまとめて厚生労働省に提出するとともに,関係団体および研究者に配布した。なお,各研究者はそれぞれの所属する学会および学術雑誌への投稿等を行い,積極的な成果の普及に努めている。
(1)研究目的
本研究は,先進諸国等における国際人口移動と移動者の社会的統合の実態・政策,それに伴って必要となる社会保障政策との連携に関する分析を行い,各国の実態・政策の比較検討を行うことにより,人口減少に直面するわが国における国際人口移動政策と社会保障政策の連携の可能性を検討することを目的とする。
(2)研究計画
本研究は,平成16年度から3年間にわたり,@先進諸国等における国際人口移動と移動者の社会的統合・社会保障制度利用(医療・労働保険,年金等)についての実態・政策に関する資料収集と分析,A先進諸国等における国際人口移動政策と社会保障政策の連携に関する資料収集と分析,B以上を踏まえた,わが国における国際人口移動と移動者の社会的統合・社会保障制度利用についての実態・政策,国際人口移動政策と社会保障政策との連携に関する比較分析と政策的含意導出の三者を目的として実施する。
初年度の平成16年度は一部の先進諸国等と国内における国際人口移動と移動者の社会的統合の実態・政策に関する資料収集,外国人労働者の社会保障制度加入を中心とする国際人口移動政策と社会保障政策の連携に関する資料収集,それらに基づく文献レビューを行うとともに,その結果を踏まえて国内における外国人IT技術者の小規模調査を実施した。また,マクロデータと既存ミクロデータの予備的分析も行った。さらに,国際比較においては,ドイツを中心に,欧州の移民・外国人労働者政策と社会的統合政策,及び社会保障政策との連携状況について国際比較を行うとともに,EU及び関係各国における社会的統合及び社会保障をめぐる最先端の議論を現地調査等に基づいて整理した。
(3)研究会の開催状況
(4)研究会の構成員
(5)研究成果の公表
・Yoshimi Chitose, “Transitions into and out of Poverty: A Comparison between Immigrant and Native Children.” Journal of Poverty, 9(2), 2005, pp. 63-88.
・井口 泰「東アジアにおける国際的な人の移動の決定要因と外国人労働者政策の効果」関西学院大学経済学部研究会『経済論究』2004年, 58(3), pp.461-486
・井口 泰「少子高齢化と外国人労働力問題」『生活経済政策』2005年1月, pp38?45
・Hiroshi Kojima, “Augumentation rapide des musulmans au Japon” Communication presente au Colloque internationale de AIDELF (Association Internationale de Demographes de Langue Francaise) Budapest, Hongrie, 20-24 septembre 2004. ・Hiroshi Kojima, “Demographic Analysis of Muslims in Japan.” Paper presented at the meeting of the AFMA (Asian Federration of Middle Eastern Studies Association), Pusan, Korea, October 15-17, 2004. ・井口 泰「(基調報告)欧州統合と移民外国人政策の統合」2004年度経済史・経済政策学会大会,早稲田大学, 2004年10月17日
(1)研究目的
我が国における「社会的排除と包摂(ソーシャル・インクルージョン)」概念を確立し,社会保障制度の企画立案に係る政策評価指標として活用する可能性を探るものであり,その中で,@諸外国の経験を資料・文献・データから複眼的に捉え,その整理を行いつつ,A我が国の社会保障制度が発揮してきた効果を「社会的包摂」の観点から検証し,今後のより効果的な施策の立案に資するための提言を行う。
(2)研究計画
本研究では,以下の3つのサブテーマについて3年計画で研究を行う:@日本における社会的排除指標の作成,A社会保障制度による,社会的包摂効果の計測,B被排除者をめぐる既存の定性調査結果の再検討。平成16年度は,『社会生活調査』を用いて社会的排除指標を暫定的に定義,その動向と所得の関連等の分析を行った。また,既存の貧困・社会的排除に関する社会調査のサーベイとその問題点の整理等を行うとともに,被排除者と思われる人々についての研究に取り組んでいる研究者から報告を行い,最新の研究動向の摂取に努めた。
平成17年度は,以上の研究の蓄積を踏まえて,第一に,社会的排除−包摂概念を操作化し,我が国に最もふさわしいと思われる指標を設定する。第二に,その概念ないしは指標が妥当であるか否かを検証するために,フォーカス・グループ・インタビューなどを実施する。第三に,以上の手続きを踏まえて,質問紙を設計し,我が国の社会保障制度が社会的包摂に及ぼす効果について調査を行う。
(3)研究会の開催状況
(4)研究会の構成員
(5)研究結果の公表
平成16年度の研究成果は,平成17年3月に行われたワークショップにて報告された。ワークショップには外部の有識者を招き,本研究のプロジェクト・メンバーとの積極的な議論を行った。その一部は,平成16年度報告書としてまとめられている。研究の結果は,『季刊社会保障研究』(国立社会保障・人口問題研究所)や,学会などにて発表される予定である。
(1)研究目的
本研究では,「社会保障審議会意見書」(平成15年6月)の趣旨に沿って,我が国の所得・資産格差の現状と再分配政策の効果について実証分析を行い,その成果を踏まえつつ理論的考察とシミュレーション分析を行うことにより,@家計ベースでみた社会保障の給付と負担の在り方に関する政策の選択肢を示し,それぞれについて所得・資産格差の是正や世代別への影響および経済成長への影響等を視点に比較考量し,A経済環境の変化に対応して考慮すべき低所得者層の把握と低所得者層への新たな対応を含むセーフティネットとしての社会保障の給付と負担の在り方について考察する。そして,B比較考量の基準を得るため,再分配に関連する社会保障政策の動向に関して国際比較を行う。
経済環境の変化は所得・資産格差の変化をもたらすとともに,所得再分配政策の効果にも影響を及ぼす。したがって,社会保障制度を@社会経済との調和,A公平性の確保,B施策・制度の総合化を視点に発展させていくためには,国民一人あたりあるいは家計ベースを対象とした所得再分配効果の実態把握を行う必要があるのみならず,世帯類型別,コーホート別等からの比較,検討を行う必要がある。さらに,医療や介護の分野では経済力などに応じた応分の負担を求める方向で制度改正等が行われているが,OECD諸国の動向とOECDの新しい分析手法を参照しながら,所得階層別の年金給付と医療・介護の負担との関係に配慮しつつ,医療・介護サービスの利用状況を分析することで,所得格差のある社会における保健医療制度の在り方についても新たな知見を提示することができる。こうした点においても本研究を実施する意義は大きい。
(2)研究実施状況
@所得・資産格差の実態把握と再分配効果の計測,及びA家計ベースでみた社会保障負担の在り方の分析,及び低所得者層の実態把握を行うために,2年計画で「所得再分配調査」「国民生活基礎調査」等の使用申請を順次行うとともに,分析手法や既存研究を知るための有識者に対するヒアリングを行う。平成16年度は,使用が承認された「所得再分配調査」について,基本的な再集計等を行いその結果の検討を行った。以上のクロスセクション・データの分析を補完して,所得変動を考慮した場合の再分配効果を分析するために,アンケート調査を利用した2時点からなるパネル・データを作り分析を行う。平成16年は,パネル1年目の調査とし,所得変動の初期時点となるデータを調査した。国際比較研究については,OECDの所得格差に関する国際比較プロジェクトと協力して研究を行った。また,所得格差は資産格差や健康状態とも関連することに留意して,ルクセンブルグ所得研究(LIS),OECD等のデータを活用しながら,OECDにおける所得格差等の社会経済要因と医療・介護の実態に関する比較研究プロジェクトと情報交換等を行った。さらにカナダ日本社会保障政策研究円卓会議を活用した比較研究を行った。
(3)研究会の開催状況
(4)研究会の構成員
(5)研究成果の公表
本研究の成果は,平成16年度報告書としてとりまとめて厚生労働省の関係部局に提出するとともに,関係団体や研究者に配布する。なお,各研究者はそれぞれの所属する学会および学術雑誌への投稿等を行うなど,積極的な成果の普及に努めるものとする。