・平成14年度社会保障給付費の推計
(1)推計の方法
本研究所では,毎年我が国の社会保障給付費を推計公表している。社会保障給付費とは,ILO(国際労働機関)が定めた基準に基づき,社会保障や社会福祉等の社会保障制度を通じて,1年間に国民に給付される金銭またはサービスの合計額である。社会保障給付費は,国全体の社会保障の規模をあらわす数値として,社会保障制度の評価や見直しの際の基本資料となるほか,社会保障の国際比較の基礎データとして活用されている。
「平成14年度社会保障給付費」は平成16年9月27日に公表した。
(2)推計結果の概要
@平成14年度社会保障給費の概要以上の「平成14年度社会保障給付費」は,本研究所のホームページ(https://www.ipss.go.jp/)で公表資料と同じものが掲載され,PDFファイルでも提供されている。「平成14年度社会保障給付費」英語版“The Cost of Social Security in Japan FY2002”も英語ホームページ(https://www.ipss.go.jp/index-e.html)より同様に入手できる。また,『季刊社会保障研究』(第40巻第3号)において,「平成14年度社会保障費―解説と分析―」を担当者(勝又幸子・米山正敏・佐藤雅代)で執筆した。
(3)担当者
○社会保障給付費の国際比較研究
動向「OECD社会支出データベース2004年版」『海外社会保障研究』(第149号)にて,平成14年度社会保障給付費の公表資料において国際比較参考資料として掲載を開始したOECD基準による社会支出について,解説を行い,基礎データを翻訳して公表した。
○平成16年版社会保障統計年報の編纂と刊行
社会保障研究資料第4号として社会保障統計年報平成16年版を編纂し刊行した。本年報は,平成13年1月の省庁再編によりそれまで同資料を編纂・刊行していた社会保障制度審議会事務局が廃止となったため国立社会保障・人口問題研究所が編集を引き継ぎ,平成15年3月にはじめて研究所編が刊行されたが,社会保障調査・研究事業の成果として位置づけられ研究資料番号を付与したのは平成14年版からであり,今後継続的に本資料の編纂と刊行を行い,社会保障研究の基礎資料として役立てていく。なお,社会保障統計年報の主要な統計情報については,研究所ホームページにおいてデジタルデータを随時公開し利用者の便利に配慮している。
国立社会保障・人口問題研究所は,国が行う社会保障制度の中・長期計画ならびに各種施策立案の基礎資料として,@全国人口に関する将来人口推計,A都道府県別将来人口推計,ならびにB世帯に関する将来世帯数推計(全国・都道府県)を定期的に実施し,公表してきている。平成16年度は,これまでの各種推計の評価改善を行い,次回推計の準備研究を進めてきた。
○全国人口推計
平成16年度においては,前年度に引き続き平成14年推計の人口指標に関するモニタリング研究を行い,推計結果の評価検討を継続して行った。
(1)研究概要
推計に関連する人口統計資料を作成し,推計仮定値ならびに推計結果を人口学的手法により評価研究を実施した。またあわせて,推計に関連する基礎データ,すなわち,人口動態統計のデータ更新にともなう出生順位別出生数,年齢別初婚数などの基礎データの収集とそのデータベース整備を行った。
(2)担当者
○地域人口推計(都道府県別将来人口推計,市区町村別将来人口推計)
(1)研究概要
都道府県別人口推計については,平成14年3月推計として推計結果を公表し,平成14年9月には推計結果,参考推計結果,仮定値を含めた報告書を刊行した。公表後は,推計のモニタリングを行い仮定値設定の適切さ等の検証,バックデータとして用いた資料によって第二次分析を進めた。平成16年度は推計に関連する種々の分析結果・資料の整理を実施した。
市区町村別将来推計人口の結果については,平成15年12月推計として推計結果を公表し,平成16年度は,推計結果,参考推計結果,仮定値を含めた報告書を刊行した(10,000ページを超える大部となったためCD-ROM付とした。研究所としては初めてのことである。平成16年8月)。また,仮定値の設定手法について日本人口学会で成果報告を行った。推計結果については,地域ブロック別,都道府県別,市郡別,都市圏別などの観点から分析し,日本人口学会,日本地理学会等でそれぞれ発表した。同時に,推計に関連する種々の分析結果・資料の整理を実施し,住民基本台帳データ等をもとに推計のモニタリングを行い,推計の評価を継続的に行った。
(2)担当者
○世帯推計(都道府県別世帯推計)
(1)研究概要
都道府県別世帯推計では,全国将来推計人口(2002年1月推計),都道府県別推計人口(2002年3月推計),全国世帯推計(2003年10月推計)の公表をうけ,平成12年国勢調査を基準とした新都道府県別世帯数の将来推計を行うことを目的としているが,本年度は推計方法とシナリオ設定,仮定値設定等の作業を行った。
推計手法は世帯主率法を用いる。また,推計期間は2000年〜2025年までの25年間とする。これまで4回にわたって都道府県別世帯数の将来推計を行っているが,前々回(1995年公表)から世帯主の男女・年齢階級・家族類型別に世帯数を推計する形式をとっている。すなわち,世帯主の区分は男女・年齢5歳階級(15歳以上15区分)・家族類型別(5区分)とし,それぞれの世帯数を都道府県別に求めている。今回も前回同様の家族類型でよいかどうかの検討を進めた。また,仮定値の設定においては,都道府県ごとに,世帯主率の各区分について,全国値における世帯主の年齢5歳階級・家族類型別世帯主率との相対的な関係の過去の趨勢を将来に延長する方法を用いて作業を行った。世帯主率の観察においては,1980年〜2000年の国勢調査による5時点の値を用いて作業を行っている。
(2)担当者
(1)調査概要
日本の都道府県・市町村では,すでに人口減少がはじまっている地域は少なくない。一般に,日本全体では,人口の増減はおおむね出生と死亡のバランスにより決まるが,地域レベルでは,人口移動も依然として重要な役割を果たしている。最近では,大都市での「都心回帰」現象や,大都市圏の転入超過の再拡大など,人口移動の新しい傾向も観察されている。国立社会保障・人口問題研究所は,人口移動の動向とそれが与える社会的な影響をあきらかにするため,ほぼ5年ごとに全国調査を行ってきた。5回目にあたる今回は,厚生労働省大臣官房統計情報部,都道府県,保健所を設置する市・特別区および保健所の協力を得て,平成13(2001)年7月1日に調査を実施した。調査の対象母集団は,全国の世帯主および世帯員である。調査対象者の抽出にあたっては,平成13年国民生活基礎調査で設定された調査地区(5,240地区)より300調査地区を無作為に選び,その調査地区内に住むすべての世帯の世帯主および世帯員を調査の客体とした。調査票の配布・回収(密封)は調査員が行い,調査票への記入は原則として世帯主に依頼した。主な調査事項は,世帯員の居住歴,将来の居住地域,居住経験のある都道府県,離家経験などである。
今回,調査票を配布した世帯は14,735世帯であり,うち13,610世帯から調査票が回収された(配布票に対する回収率92.4%)。このなかから,白票や記入状況の悪い票を除いた12,594世帯を有効票として分析の対象とした。配布票に対する有効回収率は85.5%であった。
2005年1月に調査結果の概要を公表,同3月に報告書を刊行した。結果の概要は研究所ホームページにも掲載した。今後は,機関誌等で成果を公表する。
(2)結果概要
調査結果の主なポイントは以下の通りである。世帯主と配偶者について,居住経験のある都道府県の数をみると,平均数は2.13であった(国外での居住経験は1カ所として県数に含む)。また居住経験のある地域ブロックの割合をみると,現住地域がどのブロックの場合でも,1割以上の人に東京圏に住んだ経験があった。世帯員全員について,現住ブロックごとに出生地域ブロック別の人口割合をみると,同一地域ブロック出身者の割合が低いのは,東京圏や大阪圏,逆に高いのは東北や北海道,四国であった。
過去5年間に現住地へ移動してきた人の移動理由で最も多いのは,「住宅を主とする理由」(35.7%),「結婚・離婚」(15.7%),「職業上の理由」(13.0%)であった。男性で多い移動理由は「住宅を主とする理由」(35.1%),「職業上の理由」(18.6%),「結婚・離婚」(13.4%)であった。女性で多い移動理由は「住宅を主とする理由」(35.9%),「結婚・離婚」(18.1%),「親や配偶者の移動に伴って」(14.8%)であった。
出生後一度も出生県以外で居住したことのない県定住者は,男子44.9%,女子51.4%と女子の方が男子よりも高い。逆に,県外移動経験者は,男子55.1%,女子48.6%と男子の方が高い。他県への移動経験者のうち,そのまま他県で居住するIターン者は,男子68.2%,女子72.6%であるが,出生県へ帰還するJターン者は男子31.8%,女子27.4%であった。一度県外へ他出すると女子の方が出生県へ還流する率は低い。男子では他県への移動経験率は高いが,また出生県への帰還率も高い。
男子の場合,1939年以前生まれの世代では,大都市・非大都市とも7〜8割前後の離家経験率であったが,1940年以降の世代ではいずれも8割を超え,1970年代の出生世代では97.6%に達している。女子の場合,婚姻は他出のケースが多数であるため,離家経験率では男子を上回っている。1950年以降の出生世代では,離家経験率はいずれも90%を超え,1970年代の出生世代ではほぼ全員に離家経験がある。1950年までの出生世代では,男子の離家理由は就職等,女子では結婚が最大であったが,1950年以降の出生世代では,男女とも進学離家が増加し,男子では1970年代の出生世代でははじめて離家理由の一番目となっている。非大都市圏の女子でも進学離家が離家理由の1位となっている。大都市圏の女子の場合は,結婚による離家がその割合を徐々に低下させてはいるが一貫して最大である。
今後5年間に移動する見通しの人は全体の16.4%であり,過去5年間の移動実績(24.4%)や前回調査による今後5年間に移動する見通し(20.5%)を下回っている。年齢別では,5年後に20歳代後半〜30歳代後半となるコーホートにおいて,移動性向の低い傾向が表れている。全国を大都市圏と非大都市圏に二分した場合,非大都市圏を発地とする移動見通しの割合が低下しているが,これは非大都市圏における少子化・若年層の減少が影響しているとみられる。移動理由(見通し)をみると,全世帯員では「住宅事情」「結婚」といった比較的短距離の移動が中心と思われる要因が上位を占めている。一方世帯主の移動理由では,「転勤」や「転職」の割合が大幅に上昇し,地域移動パターンについては「転職」「定年退職」「親と同居等」などに強い非大都市圏志向がみられる。「定年退職」を理由とした移動については,男性の50歳代から60歳代前半で,前回にくらべ,割合がいずれの年齢層でも上昇している。今後1940年代後半出生コーホートである第一次ベビーブーム世代の定年退職が本格化すると,非大都市圏への移動が増加する可能性もあるが,地方の雇用の受け皿が増えることなども条件になる。
(3)担当者
(1)調査概要
単独世帯や夫婦世帯の増加など,人口構造の高齢化の進展とともにわが国の世帯構造は大きく変化している。世帯は国民の生活単位であることから,世帯構造の変化が与える影響は,国民一人一人の生活はもちろんのこと,社会全体に対しても極めて大きい。子育てや高齢者の扶養・介護といった社会サービス政策の重要性が高まるなか,その基礎となる世帯構造の実態とその変化を解明することは不可欠の課題である。また,各種の行政施策の立案や将来の行政需要を見通す上で,近年の世帯構造の変化を適切に把握することは極めて重要である。
本調査は,全国規模のサンプル調査で本格的に世帯構造の変化を把握した我が国唯一の調査であり,他の公式統計では捉えることのできない世帯の形成・拡大・縮小・解体の実態などを明らかにするものである。結果は,各種の行政施策の立案などのほか,国立社会保障・人口問題研究所が実施する世帯数の将来推計の基礎資料として活用される。
第5回目にあたる今回の調査は,厚生労働省大臣官房統計情報部,都道府県,保健所を設置する市・特別区および保健所の協力を得て,平成16(2004)年7月1日に調査を実施した。調査の対象母集団は,全国の世帯主および世帯員である。調査対象者の抽出にあたっては,平成16年国民生活基礎調査で設定された調査地区(5,280地区)より300調査地区を無作為に選び,その調査地区内に住むすべての世帯の世帯主および世帯員を調査の客体とした。調査票の配布・回収(密封)は調査員が行い,調査票への記入は原則として世帯主に依頼した。主な調査事項は,世帯の属性に関する事項,ライフコース・イベントと世帯内地位の変化,親の基本属性と居住関係,子の基本属性と居住関係などである。
調査は平成16年7月1日に実施され,調査票配付数15,972に対して,回収票数は11,732(73.5%),うち有効票数10,727(67.2%)であった。回収された調査票は,点検作業の後,入力作業が終了した。現在データのクリーニング作業を行っている。
(2)担当者
(1)研究概要
近年の人口の急速な高齢化,出生率の低下,単独世帯・夫婦世帯の増加,共働き家庭の増加等により,わが国の家庭は,その姿とともに機能も変化させている。子育てや高齢者ケアなど家族変動の影響を大きく受ける社会サービス施策の重要性が高まっているなかで,わが国の家族の構造や機能の変化,それに伴う子育てや介護の実態の変化とその要因や動向を正確に把握することがますます重要になっている。本調査では,過去2回の調査の継続性を保ちつつ,最近の家庭機能の実態や動向の把握に努めるものである。
本調査の結果は,他の公式統計ではとらえることのできない出産・子育て,老親の扶養・介護などの家庭機能の変化要因や動向を示す有用な資料として,厚生労働白書等をはじめとする行政の各分野において広く利用されている。今回の調査は,1998年調査に続く第3回目の調査で,とくに1998年以降の変化の動向を把握する。
調査は,平成15年国民生活基礎調査の調査地区(平成12年国勢調査区から層化無作為抽出された1,048地区)から無作為抽出された300地区の全世帯を対象とした。調査期日は2003年7月1日である。調査票の配布・回収は調査員が行い,調査票への記入は原則として有配偶女子である。調査項目は,世帯員および夫婦の人口学的・社会経済的属性に関する事項,両親・子どもに関する事項,出産・育児および扶養・介護に関する事項,日常生活でのサポート資源に関する事項,夫の家事・育児遂行に関する事項,夫婦関係に関する事項,子どもや家族に関する意識に関する事項,資産の継承・世代間移転に関する事項等である。
第3回目となる今回の調査は,平成15(2003)年7月1日に実施した。本調査の回収状況は,調査票配付数14,332に対して,回収票数は12,681(88.5%),うち有効票数11,018(76.9%)であった。回収された調査票は,研究所における点検作業の後,入力作業,データ・クリーニング等の作業を行い,合成変数の作成までを終了した。
(2)担当者
(1)研究概要
国立社会保障・人口問題研究所は2002(平成14)年6月,第12回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)を実施した。この調査は他の公的統計では把握することのできない結婚ならびに夫婦の出生力に関する実態と背景を調査し,少子化対策等の関連諸施策ならびに将来人口推計に必要な基礎資料を得ることを目的として実施した。
本調査は,平成14年度に全国標本調査の実施ならびにデータの基本的チェックを行い,平成15年5月に夫婦調査を,また平成15年7月に独身者調査の結果の概要を公表した。その後,夫婦調査ならびに独身者調査の詳細な集計結果を分析し,調査報告書として刊行した。平成16年度においては,過去の出生動向基本調査デ−タを含め,調査データに基づく研究論文を機関誌『人口問題研究』や学会ならびに研究会等において発表した。
なお,機関誌『人口問題研究』では,第60巻1号ならびに2号において特集号を企画し,プロジェクト研究の成果を公表した。
(2)事後調査の実施
第12回出生動向基本調査の分析に続いて,全国調査の実施そのものの検討,ならびに調査の対象となった地域の実態を把握し,次回調査の調査設計に資するためにヒアリング調査を実施した。ヒアリング調査は,北海道庁,札幌市,旭川市を含む上川支庁の自治体の協力を得て,とくに当該地域の出生力の現状,各自治体の出生率低下に対する認識と施策の現状等について聞き取り調査を実施した。今後,このヒアリング調査の結果を参考にして第13回出生動向基本調査等の調査改善に利用する。
(3)担当者
7 第13回出生動向基本調査(企画)
(1)調査目的
国立社会保障・人口問題研究所は,昭和15年に日本における最初の大規模な「出産力調査」を実施し,戦後は昭和27年に第2次調査を行い,その後平成14年まで5年ごとに12回の調査を行ってきた。その結果,人口動態統計では把握できない戦後の夫婦出生児数の急激な減少と最近の低出生率に関する各種の実態を明らかにし,国内外の各方面から高く評価されてきている。また,昭和55年の国勢調査から結婚年数と出生児数の調査項目が削除されたため,この調査は,日本における夫婦出生児数の動向を把握し得る唯一の全国調査となった。
さらに「出生動向基本調査」のデータは,政府の経済計画・地域計画・福祉計画の策定に不可欠の将来人口推計(国立社会保障・人口問題研究所が定期的に実施・発表)の基礎資料として欠かせないものである。また,近年の日本における出生率低下の趨勢は顕著であり,かりに,こうした急激な出生率低下が長期的にわたり継続すれば,人口高齢化の進展・若年労働力の減少といった生産・消費などの社会経済の基礎的構造に与える影響は計り知れないものがある。したがって,それら出生の動向をより正確に把握し,確固たる将来の指針をたてることはわが国にとって緊急な課題である。第13回出生動向基本調査は,現在の少子化が主として若い世代の結婚年齢の動向,再生産年齢期間の人口における未婚率の増加といった近年の結婚パターンの変化,および結婚した夫婦における出生意欲,出生抑制行動に大きく依存しており,結婚行動と出産行動の人口学的・生物医学的・社会経済的要因の解明を通じて,日本の将来人口の的確な予測,ならびに少子化対策の基礎資料として資することを目的として企画している。
(2)調査の企画内容
本調査は,次の諸点に関する把握を目的として調査票の設計ならびに調査企画を行った。
厚生労働省統計情報部が平成17年度に実施する国民生活基礎調査の後継調査として,配票自計・密封回収方式により行う。調査は全国のすべての国勢調査区から,無作為に抽出された調査地区内に居住する妻の年齢50歳未満の夫婦ならびに18歳以上50歳未満の独身男女を対象とする。標本抽出は,平成17年度の国民生活基礎調査の標本を親標本とし,そのなかから無作為に700調査地区を選定し,その地区内の該当する夫婦と独身の男女を対象とする。
平成17年6月1日現在の事実を調査する。
(3)担当者
(1)研究目的
わが国をはじめ多くの先進諸国では人口置換水準を下回る低出生力が持続し,著しい少子高齢化・人口減少問題に直面している。わが国の低出生力の要因については従来,様々な経済学的・社会学的アプローチによって社会・経済条件との関連が研究されてきたが,これまで体系的な研究があまりなされていない2つの大きな研究課題があると考えられる。
一つは出生力の近接要因(結婚年齢,避妊,人工妊娠中絶,妊孕力など生物学的行動的要因)の観点に立ったアプローチであり,個々のカップルについていえば,出生意図と出生調節行動に関する研究である。換言すれば,出生力の要因研究には子どもの需要側に着目する研究と子どもの供給側に着目する研究があるが,本研究は主に後者の視点に立つ研究である。つまり供給過多(意図せざる妊娠/出生)あるいは供給過少(夫婦にとっての希望子ども数の未達成)がどのようなメカニズムでおこるのか,という点の解明に力点を置く。
いま一つは政府が採ってきたあるいは今後採りうる政策と出生調節行動との関連である。もとより民主主義国において強権的な出生促進政策はありえないが,国民の福祉向上のために実施あるいは模索されている様々な公共政策の中には個人の出生調節行動の変化を介して出生力に影響を及ぼす可能性のある政策が含まれる。出生力の供給側に影響を与えうる政策として,たとえば,直接的な出産・育児支援政策,リプロダクティブ・ヘルス/ライツ政策などがある。また出産・子育てをめぐる全般的な女性の意識と行動に影響を与えうるものとして,ジェンダー政策,IEC(情報・教育・コミュニケーション)活動などが挙げられる。なお本研究でいう「政策」は広義の概念であり,「自由放任=自然状態あるいは市場に委ねる」に対して何らかの「介入」が実行または企図されることを意味する。政府の直接・間接的活動のみならず,性教育/健康教育/人権教育,マスメディアなどを通した情報や観念の伝播・形成を含んでいる。その意味からすれば,「情報・政策」と括るべきものである。
本研究は,このような出生力に関連する諸政策および情報が個々の男女の出生調節行動を介して出生力に及ぼす影響を詳細に明らかにしようとするものであり,広い意味の生態学的観点に立った出生力研究ともいえる。
(2)研究実施状況
先行研究のレビューに際し2種類の文献リスト(『関連文献分類項目別索引』,『少子化に関する文献目録』)を作成した。前者は本研究の特徴である広い意味の医学的観点に立ったものであり,「医学中央雑誌」などの文献データベースにより検索・分類したものである。後者は本研究所図書室が2001〜04年にかけて収集し所蔵する図書・資料を@少子化に関する現状と見通し,A少子化の背景と要因,B少子化の経済的影響,C少子化の影響に対する対応,D少子化の要因への対応,E出生(人口)理論・分析方法の6項目に分類したものである。
出生率の水準の違いが人口規模と構造に及ぼす影響について検討した。人口規模の維持に必要な出生率の水準が合計特殊出生率で2.1程度(わが国の場合2.07〜2.08)であることは既に知られているが,ここでは出生率の水準の違いにより生産年齢人口割合がどのように変化をするかシミュレーションをおこなった。その結果,生産年齢人口割合は合計特殊出生率が2.5前後で最も高い割合(約6割)となり,出生率がそれ以上でも以下でも生産年齢人口割合は低下した。このことは,人口置換水準を維持することが人口規模の維持だけでなく,世代間の人口の均衡の観点からも大きな政策的含意を持つことを示している。
第2回「少子化とリプロダクティブ・ヘルス:新たな研究と政策の展開は可能か?」(2005年3月24日)
@基調報告:佐藤龍三郎・石川 晃・白石紀子・早乙女智子
A討論
(3)研究会の構成員
(4)研究成果の公表
研究成果は報告書(所内研究報告第14号)としてとりまとめた。また研究成果の一部は,アメリカ人口学会(2002年5月),日本人口学会(2003年6月,2004年6月,2005年6月),国際人口学会(2005年7月)等において発表した。
(1)研究目的
社会保障について,2000年には年金改革,社会福祉基礎構造改革がなされ,介護保険の実施もはじまったが,これらについて更なる改革を求める意見も強く,医療保険改革も喫緊の課題として残されている。現行の社会保障制度はこれまでのさまざまな改革の積み重ねで出来上がったものであり,それぞれの次元での政策判断がどのような議論の積み重ねとどのような時代背景の下でなされてきたかを整理分析することは,今後の社会保障制度改革について政策決定を行う上で不可欠である。本研究は,高度経済成長が低成長に移行し,社会保障改革も単純な制度の拡充から財政制約への対応に重点が移行した1980年代以降を中心に,制度改革に関する文書資料を収集し改革の流れを追うとともに社会経済との関連を分析し,今後の社会保障制度改革の政策決定のための基礎資料を得ようとするものである。
(2)研究計画
初年度は,社会保障制度の諸改革に関する各種先行研究,並びに政府各省庁の資料,関係審議会の答申・勧告・建議等の文書資料の収集を行った。次年度は,前年度の資料の整理・検討並びに研究者及び政策担当者からの補完的なヒアリングを実施した。最終年度は,前2年度で収集,整理・検討した文献・資料等を基に,社会保障制度改革について分析・検討し,報告書・CD-ROMを作成した。
(3)研究会の構成員
(4)研究成果の公表
収集・整理した資料のうち重要なものを社会保障資料集として詳細な解説を付け加えて取りまとめた。資料集の作成については,膨大な量であることを勘案しCD-ROMに画像ファイルとして収集・整理を行い,その上でキーワード検索など汎用的なソフトの導入によって効率化を図った。CD-ROMと解説書の作成をするとともに,その公開を行い,協力団体・図書室等に配布を行った。
(1)研究目的
少子高齢化の進展や経済環境の変化とともに,社会保障制度が有するセーフティ・ネットの役割やこれが経済活動に及ぼす効果に対する関心が高まっている。本事業は,社会保障制度の財政動向,所得再分配効果,社会保障改革が経済に及ぼす影響,あるいは世代間の公平性の試算など,今後,社会保障制度の運営とともに注目される諸課題を定量的に明らかにすることを目的としている。
以上の目的を遂行するため,マクロ計量経済モデルや世代重複モデルなどを開発するとともに,政策的な効果が明らかになるようなシミュレーションを実施する。
(2)研究計画
本事業は3年計画に沿って運営される。平成16年度は,以下の3つの項目に重点を置いて研究を重ねてきた。
介護保険導入や年金制度改革等の状況変化を反映するような最新の社会保障関連データベースを構築するとともに,諸モデルに用いる金融市場・財投関連諸データの整備を行った。とりわけ,コーホート・ベースのデータを整理して,今回の年金制度改正を踏まえた給付と負担に関するシミュレーション実施の準備を行った。
既存の長期マクロモデルを改訂するとともに,将来の人口減少に関連するいくつかのシミュレーションを実施するとともに,労働市場や海外市場等と連関した企業行動の分析が行えるような総合的なモデルへの拡充が可能かどうかについて,幅広い視点から検討した。
OLGモデルについては,パートタイム労働への厚生年金適用拡大が次期改正の課題となったこと,及びフリーターなど不安定就労を余儀なくされることの多い若年層の国民年金加入問題などが認識されるようになったことを踏まえて,労働供給の側面をより現実的に改良したOLGモデルを作成して,年金改革の影響を世代間の公平性と所得分配への効果を視点にシミュレーション分析をおこなった。
また,医療サービスが健康資本から人的資本を通じて労働供給に及ぼす影響を織り込むようにOLGモデルを改良し,医療保険改革の分析が可能となるOLGモデルの構築による総合的な分析を試みた。
(3)研究会の構成員
(4)研究結果の公表
佐藤 格「基礎年金の国庫負担部分についてのシミュレーション分析」2004年日本財政学会秋季大会
山本克也「マクロ指標から見たアジアの社会保障」早稲田大学現代政治経済研究所