厚生労働科学研究費補助金(政策科学推進研究事業)



11 公的扶助システムのあり方に関する実証的・理論的研究(平成13〜15年度)

(1)研究目的

 本研究は,公的扶助システムの機能と実態,社会保障システム全体における位置づけと役割に関して,理論的,実証的に分析することを目的とする。最終年である平成15年度は,これまで得た理論的知見や実証的資料を分析し,総合化することを目標とした。主要な柱は:1)経済哲学のモデル・ビルディングの手法を基調に,公的扶助を支える経済・財政システムを再構成すること,2)権利と公共の利益に関する法哲学・政治哲学・憲法・厚生経済学の議論を参照しつつ,公的扶助を支える法規範システムを再構成すること,3)<善き生>に関する哲学理論と福祉に関する全国意識調査(2000人)を分析し,<困窮>と福祉に関する社会的合意を探ること,4)受給者とそれ以外の人々との間にあって両者を反省的に捉える位置にある福祉ワーカーの意見を参照しながら,1),2),3)の分析に反映させること。5)就労によって自立と自活が困難である「障害(碍)者」において所得の一部をなす公的扶助システムにおける給付とその他福祉サービスの実態を面談調査で調べること,の5つである。また,平成15年度は,厚生労働省などの既存調査を参照しつつ,一般の人を対象とした調査(以下,「社会生活調査」)を行うことにより,社会生活を中心とした基本的な福祉の充足に関する日本の実態に迫ることを目的とした。

(2)研究計画

 具体的には,計8回の専門家からのヒアリング,2市におけるケースワーカーへのヒアリングを行うとともに,平成16年2月には「社会生活調査」と題したアンケート調査(対象2,000世帯)を行った。これらと併行して,以下にあげる5つの研究課題(サブ・テーマ)に関する調査・研究が行われた:@低所得者の生活実態と生活保護制度の効果についての実証的研究,A公的扶助制度と他制度との関連に関する理論的,実証的研究,B公的扶助に関連する制度・法・理念・国民意識に関する国際比較,C公的扶助プログラムに関連する理論的・実証的研究,D「障害(碍)者」の所得保障に関する実態調査。また,これらの研究結果を総合的に議論するため,研究分担者,外部からの専門家を含めた座談会を行った。

(3)研究会の開催状況

 本年度は,布川日佐史(ドイツにおける要扶助失業者への生活保障と就労援助),卞在寛(韓国の国民基礎生活保障制度),金早雪(韓国型『福祉国家』の始動),土屋葉(障害者家族を生きる),中川清(社会生活に関する調査検討委員会報告書について),吉田登(地域通貨の実践),宮本太郎(ワークフェア概念の体系化と比較),武川正吾・宮本太郎・小沢修司(ワークフェアとベーシックインカム)など多くの専門家を招聘し,諸外国における公的扶助の状況についてヒアリングを行った。また,7月にはH市,G市の2市を訪れ,実際に公的扶助行政の最前線で働くケースワーカーの方々からヒアリングを行った。さらに,本年度は最終年度でもあるため,研究分担者と専門家による研究の集大成としての座談会を数回行い,それぞれの研究成果に反映させた。

(4)研究会の構成員

担当部長
松本勝明(社会保障応用分析研究部長,〜12月)/
金子能宏(社会保障応用分析研究部長,平成16年1月〜)
所内担当
後藤玲子(総合企画部第2室長),勝又幸子(同部第3室長),阿部 彩(国際関係部第2室長),
菊地英明(社会保障基礎理論研究部研究員)
所外委員
橘木俊詔(京都大学教授),八田達夫(東京大学教授),埋橋孝文(日本女子大学教授),
菊池馨実(早稲田大学教授)

(5)研究成果の公表

 本研究の結果は,主に,『季刊社会保障研究』第39巻第4号(平成16年3月刊行)の特集「公的扶助の現在:基本的福祉の保障に向けて」として,8本の論文にまとめて発表された。






12 社会保障負担の在り方に関する理論的・実証的研究(平成14〜15年度)

(1)研究目的

 少子高齢化が進展する中で,公平で安定的な社会保障制度を構築するため,中長期的な観点から,制度横断的な検討を行うことが求められている。制度横断的な検討を行うに当たって,給付面からのアプローチは困難であることから,負担面から検討を行う必要がある。社会保障負担については,現在,職種間,世代間,被扶養者の有無などで負担の不公平感があるとともに,保険料負担が増大していく中,所得のみの賦課には負担過重感が生じている。そこで,本研究では,公平で安定的な社会保障制度を構築するため,社会保障負担のあり方について制度横断的な検討を行うものである。特に,今後増大していく社会保障費用をどのように国民が公平に負担していくのが望ましいかという観点から,年金,医療,介護などあるべき社会保険の構造,所得・消費・資産のバランスのとれた総合的な負担能力に応じた負担賦課のあり方,各種人的控除を変更した場合の社会保障への影響,諸外国の社会保障における負担賦課の方法について,マクロ分析とミクロ分析を組合せて実施することを目的とする。

(2)研究実施状況

 本研究では,研究目的に応じて次のような四つのテーマを設けて研究を行う。
  1. 公平な社会保障費用の負担という観点から,社会保険のプロトタイプから見たあるべき社会保険の構造について,被用者保険と地域保険の分立の解消を前提とし,年金,医療,介護,生活保護なども含めたモデル(例えば世代会計の応用など)により,シミュレーションを行う。
  2. 所得・消費・資産のバランスのとれた総合的な負担能力に応じた負担賦課のあり方について,世代重複モデル(OLGモデル)を用いた分析もあわせて行う。
  3. 経済財政諮問会議などにおける税制の議論を踏まえ,高齢者や子を持つ親などの負担能力を考慮して設けられている各種人的控除(配偶者控除,扶養控除など)や公的年金等控除を変更した場合の社会保障への影響,およびパート労働者に対して厚生年金適用を拡大した場合の影響について,マクロ・ミクロ両面から試算を行う。
  4. 諸外国の社会保障における負担賦課の方法について調査研究を行う。

 平成14年度は,専門家(外部有識者)の意見を聴取し検討すべき論点などを整理した後に,各分担研究者により,個別テーマの研究を実施した。また,世代間と世代内の公平性両方の視点から結果を比較することのできる,四所得階層を持つ世代重複モデルを用いた所得・消費・資産に対する負担能力に応じた負担賦課のあり方に関するシミュレーション分析を行った。平成15年度は,これを拡張し,保険料固定方式と給付維持方式における厚生年金の負担賦課の水準および国庫負担の財源選択に関するシミュレーション分析,並びに就業形態による社会保険適用の不公平さを是正するため,短時間労働者へ厚生年金を適用拡大することがマクロ経済に及ぼす影響に関するマクロ計量経済モデルによる分析を行った。また,年金・医療・介護の負担と給付の関係をコホート別に見るための世代会計による分析,資産収益のリスクと寿命の伸びのリスクがある場合の最適な年金給付の所得代替率の世代重複モデルによる推計と負担のあり方に関する考察,社会保障負担と人的控除が就業行動に及ぼす影響についての文献サーベイと女性パートタイム労働者を対象とする実証分析を行った。国際比較研究は平成14年度と15年度を通じて行い,EU15カ国における社会拠出の動向をフォローしつつ,フランスの一般社会拠出金(CSG)及びドイツの年金・医療保険における国庫補助や適用範囲などに関して,その考え方,効果,問題点について,政策担当者・研究者などに対する現地ヒアリング調査,文献調査を通じて考察を加えた。

(3)研究会の構成員

担当部長
松本勝明(社会保障応用分析研究部長,〜12月)/
金子能宏(社会保障応用分析研究部長,平成16年1月〜)
所内担当
勝又幸子(総合企画部第3室長),大石亜希子(社会保障基礎理論研究部第2室長),
金子能宏(社会保障応用分析研究部第1室長,〜12月),
山本克也(社会保障基礎理論研究部主任研究官),宮里尚三(社会保障応用分析研究部研究員)
所外委員
江口隆裕(筑波大学教授),
松本勝明(マックス・プランク国際社会法研究所招聘研究者,平成16年1月〜)

(4)研究成果の公表

 平成15年度に総合報告書をとりまとめるとともに,国立社会保障・人口問題研究所の機関誌などにおいて研究成果を一般に公表する。






13 医療負担のあり方が医療需要と健康・福祉の水準に及ぼす影響に関する研究(平成14〜15年度)

(1)研究目的

 高齢社会対策大綱が示したように,負担能力に応じて医療負担を求めると同時に,低所得者に配慮する医療負担のあり方を検討するためには,医療需要に関連する所得格差の要因を,引退や失業に伴う所得低下と関連させながら留意する必要がある。高齢者の引退過程に注目すると,再雇用,嘱託,パートタイム労働など,若年層と同様に就業形態の多様化が見られる。したがって,低所得になりやすい共通性を有している高齢者と若年者に対する医療負担が医療需要に及ぼす影響を実証分析することは,低所得者に配慮した医療負担のあり方を検討する上で,基礎的な知見として有益である。同時に,健康・福祉水準は医療需要に対応する医療サービス供給により変化するので,所得格差に配慮した望ましい負担のあり方を検討するためには,こうした健康・福祉水準に及ぼす影響も分析対象に含めることが望ましい。この点については,カナダやアメリカで行われている所得水準などの経済的要因と健康・福祉水準との関係に関する新しい実証分析やOECDの医療パフォーマンス計測プロジェクトから学ぶことが必要である。したがって,本研究では,引退や労働需給の変化によって低所得になる場合の多い高齢者と若年者に対して,医療負担と受診行動との関係についてアンケート調査とその解析を行い,上記の課題に応える新たな知見を明らかにすることにより,社会保障政策に多様な選択肢を提供することを目的とする。同時に,こうした選択肢が国民の健康・福祉の向上に寄与するように,所得格差に配慮した医療負担と医療サービスのあり方に関する実証分析を統計データを用いて行い,望ましい医療パフォーマンスをもたらす選択肢の提示に努めることとする。

(2)研究実施状況

 本研究は2年計画で以下の4つのテーマを研究する。どのテーマについても,1年目はまず先行研究のサーベイを行い,1年目後半より利用可能な個票データの集計とアンケート調査の企画を行う。2年目は,利用可能な個票データの実証分析を行うとともにアンケート調査を実施し,その結果を考察する。また,これらの結果をもとに,カナダ,アメリカ,OECDなどとの比較研究を行う。

  1. 医療関連支出に関する分析
  2. 所得格差など医療負担の負担能力の格差と健康の不平等度に関する分析
  3. 医療施設利用状況からみた医療需要と健康・福祉水準の格差に関する分析
  4. 引退や労働需給の変化により所得低下に直面しやすい高齢者と若年者に対する医療負担と医療需要に関する調査
・平成15年度の成果

 健康状態別の所得格差を把握するために,「国民生活基礎調査」の再集計を用いて所得格差と医療負担の関係を示すカクワニ係数を計測するとともに,所得格差要因の分解を行った。要因分解では,OECDで用いられている世帯規模を勘案した一人当たり調整済可処分所得を用い,所得分布のMLD分解とSCV分解を行った。これらの結果,高齢者の所得格差は健康状態に関係なく縮小傾向にあるが,健康でない高齢者については,外来受診では所得格差に関係なく負担していたため低所得層にとって不利な状況にあったが,入院では高所得層がより多く負担していたことが明らかになった。保健医療サービスの利用についてOECDの比較方法を参照した実証分析を行った結果,わが国の保健医療サービス利用には不平等はないが,その費用負担については高所得層で多いという傾向が見られることが確かめられた。税財源により連邦補助金を利用して皆保険を実現しているカナダでは,予算の制約から給付範囲がわが国よりも狭いことや医療の技術進歩への対応が遅れたことが今日問題となっており,上院と首相の諮問機関双方において皆保険を維持する枠組みの中での医療改革の検討が進められていることが明らかになった。仮想市場法を含めて将来の医療負担のあり方に関する問いへの回答を勤労世代と高齢者と比較した結果,世代によって制度改革に対する反応の違いが明らかになった。また,試験的な計算として,軽医療と終末期医療の費用対比の効用比較を行った結果,持病を持つ高齢者は,終末期医療よりも軽医療に対してより大きな選好を持っていることが分かった。

(3)研究会の構成員

担当部長
松本勝明(社会保障応用分析研究部長,〜12月)/
金子能宏(社会保障応用分析研究部長,平成16年1月〜)
所内担当
小島克久(社会保障応用分析研究部第3室長),山下志穂(客員研究員)
所外委員
大日康史(大阪大学社会経済研究所助教授),山田篤裕(慶應義塾大学専任講師)
研究協力者
國崎 稔(愛知大学経済学部)

(4)研究成果の公表

 高齢者の健康水準と所得格差については,小島克久「高齢者の健康状態と所得格差」,日本人口学会第55回大会,2003年6月7日,朝日大学および小島克久「都道府県別の所得格差動向」,応用地域学会第17回研究発表大会,2003年12月6日,埼玉大学において公表した。保健医療サービスの利用状況をOECDの枠組みで比較する研究については,大日康史・本多智佳「保健医療サービスの利用の水平的公平に関する研究」,健康の不平等に関する国際会議,香港大学,2003年11月16日において公表した。税財源の医療保険制度のメリットと課題については,金子能宏「カナダの国民医療制度の改革動向―連邦財政主義のもとでの皆保険の課題と展望―」,2003年12月,『海外社会保障研究』第145号において公表した。これらを含む成果の概要は,平成15年度厚生労働科学研究費(政策科学推進研究事業)公開シンポジウムで報告し,研究成果の詳細を平成15年度総合報告書としてとりまとめた。また,OECDの枠組みを用いた実証分析については,OECDのディスカッション・ペーパーのための資料としてこれをOECDに情報提供を行った。さらに,国立社会保障・人口問題研究所の機関誌などにおいても研究成果を一般に公表する。






14 個票データを利用した医療・介護サービスの需給に関する研究(平成13〜15年度)

(1)研究目的

 本研究は,日本の医療の効率性の評価について,具体的な政策決定の参考となる指標を提供することにある。具体的には,レセプトデータを電子情報化することなどにより,政策の,患者と医療機関双方の行動に与える効果の分析,医療行為,医療機関の効率性に関する指標を作成する手法を開発するとともに,保険者の機能強化を念頭に,そのような情報の活用方法を検討しようとするものである。
 従来の医療費の分析は,総医療費のようなマクロ的な指標や,受診率,一人当たり医療費といった平均によって行われてきた。しかし,我が国の医療のどこに無駄があり,どのようにすれば効率化が図れるかということは,そうしたマクロの指標や平均といった曖昧な指標では,明らかにすることはできない。医療の効率性を評価し,エビデンスに基づいた医療政策を進めていくためには,提供される個々の医療サービスのレベルにまで遡ったマイクロデータに基づくきめのこまかい分析の蓄積が求められる。しかし,我が国では,レセプトなどの個票データの電子データ化は進んでおらず,レセプト個票データを中心とした医療・介護サービスに関するミクロ分析は端緒的な取り組みが始まったところである。
 本研究は,レセプトを中心とする個票データから,医療政策を策定・評価する上で,あるいは,保険者が活用できる,どのような有益な情報が得られるかということを,具体的に示そうとするものである。

(2)研究実施状況

 本研究の政策的・学術的な位置付けを明らかにした上で,埼玉県・千葉県・神奈川県・大阪府・福岡県の政府管掌健康保険の6年分のレセプトデータを用い,各県別,個人別,医療機関別に集約して,各指標の分析を行った。
 さらに,レセプトデータを個人単位でのエピソード化作業を始めとし,分析目的に合わせて様々な再集計を行うことによって分析を行った。
 また,医療供給側の分析を行うために医療施設調査等の個票等の再集計を行った。これらのレセプトデータ等の既存個票データでは把握しきれない現状については,インターネットアンケート調査システムを用いた調査,フィールド調査やヒアリングなど,様々な手法を用いて情報を補足し,調査・分析に供した。

(3)研究会の開催状況

 本年度の活動は,メンバー全体で総合的に討議する研究会(計10回),およびサブ・グループを単位として行う分担調査研究により進められた。研究会には,厚生労働省の関係部局の行政官や自治体関係者,研究者等の専門家を招き,実務と研究の両サイドからの活発な議論が行われた。また,サブ・グループでは,地域における取り組みに関するヒアリング(計14回),日本の医療供給体制に関する現代的課題に関するヒアリング(計5回)等を実施し,情報収集・整理を行った。

【1. 研究会】
  1. 平成15年5月12日「医療サービスと介護サービスの代替と補完」他
  2. 平成15年6月2日「社会保険庁におけるレセプト点検の現状について」 高野裕治(社保庁運営部医療保険課課長補佐) 他
  3. 平成15年7月4日「官庁統計の個票利用と計量経済学から見た問題点」福重元嗣(大阪大学) 他
  4. 平成15年8月5日「保険者機能強化のための医療費データ活用方法に関する研究」他
  5. 平成15年8月22日「組合健康保険の保険者機能について」古井祐司(三菱総合研究所) 他
  6. 平成15年9月5日「政策提言及び報告書の方向性に関する検討」他
  7. 平成15年10月9日「リスク構造調整」 Franz Knieps氏(ドイツ連邦保険・社会保障省医療保険・介護保険局長) 他
  8. 平成15年11月7日「保険者機能強化のためのデータ活用について」 廣瀬滋樹(社会保険庁運営部企画課数理調査室長)
  9. 平成15年12月22日「病院類型インデックスの作成と利用」他
  10. 平成16年1月30日「フランスにおける疾病保険制度改革―ジュペプランの展開と評価―」 原田啓一郎(駒澤大学) 他
【2. ヒアリング】

@地域における取り組みに関するヒアリング 1福島県舘岩村 2高知県梼原町

A日本の医療供給体制に関する現代的課題に関するヒアリング

  1. 平成15年11月10日榮畑 潤(医政局総務課課長)
  2. 平成15年11月28日箕輪良行(船橋市立医療センター救命救急センター長)
  3. 平成15年12月3日吉田 学(保険局老人医療企画室長),石津克巳(保険局老人医療企画室長補佐)
  4. 平成15年12月5日大和田潔(東京都共済青山病院神経内科担当医長)
  5. 平成15年12月11日郡司篤晃(聖学院大学)

B海外の事例に関するヒアリング 1フランス 2ドイツ

(4)研究会の構成員

担当部長
松本勝明(社会保障応用分析研究部長,〜12月)/
金子能宏(社会保障応用分析研究部長,平成16年1月〜)
所内担当
泉田信行(社会保障応用分析研究部主任研究官),宮里尚三(同部研究員),
山本克也(社会保障基礎理論研究部主任研究官),菊地英明(同部研究員),
佐藤雅代(総合企画部研究員)
所外委員
植村尚史(早稲田大学教授),尾形裕也(九州大学教授),江口隆裕(筑波大学教授),
稲森公嘉(京都大学助教授),山田篤裕(慶應義塾大学専任講師),
田中健一(東京都喜望園病院歯科医師),
松本勝明(マックス・プランク国際社会法研究所招聘研究者,平成16年1月〜)

(5)研究成果の公表

 本研究の結果は,平成16年3月末,当該年度の報告書を作成し厚生労働省に提出および研究者へ配布した。なお,各分担研究者はそれぞれの所属する学会および学術雑誌への投稿をおこない,積極的な成果の普及につとめている。






15 高齢者の生活保障システムに関する国際比較研究(平成14〜15年度)

(1)研究目的

 人口高齢化,経済の低成長等を背景に先進各国において社会保障の改革が進展している。それらの中には共通の政策もあれば各国独自の対応も見られる。これらを今後のわが国の社会保障改革の参考にするには,各国の既存制度や背景となる社会経済の状況を十分踏まえる必要がある。そのためには,当該国の研究機関との共同研究を実施することが最も有益な情報を得られる方法であると考えられる。特に日本の介護保険は画期的な制度であるにも拘わらず,政策的な影響を分析するためのデータ・ベースが必ずしも十分には整備されて来なかった。従って,本研究では,Brandeis大学で確立された介護研究のためのパネル・データの手法を導入して,国際比較可能な日本のデータ・ベースを開発して,共同研究を実施することを目的とする。また,介護保険は社会的弱者に対して必ずしも十分な手だてがなされておらず,保険者である市町村では保険料減免の動きも出ている状況下で所得水準に配慮した研究が重要である。このような観点から,本研究では,高齢者の所得として重要な役割を果たす年金制度の国際比較研究,並びに年金制度等の公的所得移転と家族の生活保障機能の代替・補完関係に関する実証分析を行うこともその目的とする。

(2)研究実施状況

本研究は以下の3つのテーマを研究する。
  1. 高齢者の介護に対するサービス,費用負担と所得保障の関係に関するパネル・データの構築とこれを用いた実証分析:Brandeis大学のSchneider Institute for Health Policyと共同で,日米で比較可能な形式で,高齢者の所得とインフォーマルケア,介護サービスの利用と費用負担に関するパネル・データの構築を行う。
  2. 高齢者の所得保障としての年金に関する5カ国共同研究:日本の年金改革の議論にとって欠かすことのできない論点について,先進5カ国(アメリカ,イギリス,ドイツ,フランス,スウェーデン)でどのような議論がなされ,どのようなエビデンスが提示されているかについて,共通の論点を取り上げて国際比較を行う。
  3. 高齢者の生活保障における所得移転と家族の生活保障機能に関する共同研究:年金制度等の公的な所得移転と私的トランスファーによる家族の生活保障機能との関係を実証分析する。わが国の年金制度の発展は発展途上国に示唆を与えるという観点から,この研究の一環として,中国社会科学院「居民収入調査プロジェクト」(所得再分配調査に相当する調査)と連携することにより,このマイクロ・データを用いた実証分析の可能性についても検討する。

 平成15年度は,上記三つのテーマそれぞれについて,次のような研究を行った。
 @については,北海道の奈井江町,浦臼町の協力を得て,平成14年度に開始した日米比較可能なパネル・データの構築を続け,高齢者の男女別・年齢階級別にみた要介護度の推移および介護サービス利用の推移を明らかにした。また,医療と介護の連携および介護サービス適切性を把握するため,奈井江町・浦臼町,及び京都市と東京都世田谷区において面接調査を行った。具体的には,介護者等を対象として,介護サービスの適切性,利用者1割負担による需要の抑制等に関する面接調査,病院や介護老人保健施設の看護師等を対象に退院時計画に関する面接調査,および介護支援専門員を対象に各関係機関との連携等に関する面接調査をそれぞれ実施した。なお,面接調査は,Brandeis大学のLeutz準教授を招聘し,同氏がアメリカのSocial Health Maintenance Organization(Social HMO)において開発した調査手法に基づいて行った。
 Aについては,年金制度等の改革動向に関する質問項目をアメリカ,ドイツなど海外の研究者に送り,その結果を踏まえた論文を報告するワークショップを開催し,その成果を国立社会保障・人口問題研究の英文機関誌(Web Journal)において公表した。
 Bについては,中国社会科学院と協力して調査票を企画した「居民収入調査」が実施されたことを踏まえて,そのデータを利用した私的トランスファーと年金の負担・給付との関係について基本統計量の集計を行った。また,タイにおける医療制度改革による医療サービスの現物給付が公的トランスファーと私的トランスファーとの関係に及ぼす影響について考察した。

(3)研究会の構成員

担当部長
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
所内担当
金子能宏(社会保障応用分析研究部第1室長,〜12月,同部長,平成16年1月〜),
宮里尚三(同部研究員),山本克也(社会保障基礎理論研究部主任研究官),
所外委員
池上直己(慶應義塾大学教授:主任研究者),清家 篤(慶應義塾大学教授),
岡 伸一(明治学院大学教授),三石博之(年金総合研究センター部長),
Harald Conrad(Deutsches Institut fur Japanstudien),チャールズ・ユージ・ホリオカ(大阪大学教授),
跡田直澄(慶應義塾大学教授),澤田康幸(東京大学助教授),前川聡子(大阪経済大学専任講師),
吉田有里(甲南女子大学専任講師)

(4)研究成果の公表

 Aについては,平成16年1月,平成16年2月に,研究成果の論文報告を行うWorkshopを開催した。その成果は,次のとおり,国立社会保障・人口問題研究所のWeb Journal の論文として公表するとともに,国際社会保障協会ISSAにおいて報告した。

 Bについては,以下の論考を公表した。金子能宏「中国の社会保障制度」健康保険組合連合会編『社会保障年鑑』(東洋経済新報社)。
 本研究事業全体の成果は,平成15年度総括報告書としてとりまとめるとともに,その成果の一部は国立社会保障・人口問題研究所の機関誌等において公表し,一般に提供する。






16 福祉国家における規範理論と社会保障システムに関する総合的研究(平成14〜15年)

(1)研究目的

 従来,福祉国家研究の主眼は,一定の規範的諸観念を暗黙の前提としながら,福祉国家と呼ばれている国々を歴史的・機能的に類型化すること,あるいは,代替的な福祉改革案が利害の異なる集団に及ぼす厚生の相違を,実証的・経済学的に分析することにおかれた。それに対して本研究は,現代の主要な規範理論(政治哲学・社会理論)を実践的な見地から解読する作業を通じて,また,厚生経済学のパラダイムそれ自体を再構成する作業を通じて,福祉国家を支える法規範とそれを実現する社会保障システムのあるべき姿を探ることを目的とする。より具体的には,福祉国家に現存する法規範とシステムの多様なヴァリエーションの中から,表層的な相違と対立を越えて,互いを整合化していく観点を探ることにある。本研究の独創性は,異なる専門領域にある研究者の資産(知見,分析道具,理論枠組み,研究ネットワーク)を生かしながら,より総合的(規範的アプローチと事実解明的アプローチを併せ持つという意味で)かつ実践的(現実の政策案にコミットするという意味で)な見地から研究を推進する点にある。その最終的な目的は,各国の社会保障改革が共通に直面している本質的な問題と解決のための具体的な課題を浮き彫りにし,多元的かつグローバルな現代社会に相応しい福祉改革の方向性を展望することにおかれる。

(2)研究実施状況

 2年度にあたる平成15年度は,これまでの研究会に継続的に参加してきた研究協力者(経済哲学,社会哲学,法哲学,社会学,憲法学,社会保障法,数理経済学)を母体として,引き続き研究会を開催する一方で,『福祉の公共哲学』の刊行に向けて次の3つの課題に取り組んだ。1各国(各都市)の実際の制度のあり様(よう)や改革動向に関する文献調査・現地調査をもとに,社会保障・福祉制度の基本的モデルとそのヴァリエーションを抽出すること。2様々な包括的構想をもつ諸規範理論を,社会保障・福祉という政治的次元において整合化し,現代の多元的民主主義社会において最も妥当な(plausibleな)政治哲学を構成すること。3構成された政治哲学の観点から,望ましい社会保障・福祉システムの基本的骨格とそれを支える基本的法規範(例:福祉権と生活保護法)と財政システムに関する新しい構想を提出すること。これらの活動を通じて得られた主要な成果は3つある。第一は,分配的正義をめぐるリバタリアン,リベラルな平等主義,政治的リベラリズム,コミュニタリアンなどが拠って立つ哲学的議論の相違と政治的次元(社会保障・福祉政策の次元)における重複的合意の可能性が示唆されたこと。第二は,福祉国家の比較制度分析・歴史分析,社会保障行政の現代的課題,公共善・相互性・共同責任など福祉国家の基礎概念の検討を通じて新たな福祉国家の分析視座が構想されたこと。

(3)研究会の構成員

担当部長
中嶋 潤(総合企画部長)
所内担当
後藤玲子(総合企画部第2室長)
所外委員
今田高俊(東京工業大学教授),塩野谷祐一(一橋大学名誉教授),盛山和夫(東京大学大学院教授),
山脇直司(東京大学大学院教授)

(4)研究成果の公表

 関連する学会・コンファレンスで研究成果を報告するとともに,東大出版会の公共哲学シリーズの1巻として,塩野谷祐一・鈴村興太郎・後藤玲子編著(2004)『福祉の公共哲学』をまとめた。さらに,そこでの議論の意義と残された課題を確認するために,公開の「福祉国家の規範と公共性に関するシンポジウム」を京都で開催した。京都近辺の研究者はもちろんのこと,神戸,大阪,東京からも多くの研究者や大学院生が集まり,活発な討議が交わされた。






17 韓国・台湾・シンガポール等における少子化と少子化対策に関する比較研究(平成14〜16年度)

(1)研究目的

 本研究ではわが国との比較を交えながら,アジアNIESにおける少子化と少子化対策の動向と内外の格差について比較分析をするともに,少子化対策の潜在的効果を分析し,わが国の政府・地方自治体における少子化対策の策定・実施・評価に資することを目的とする。そのため,利用可能なデータの分析と並行して,アジアNIESと日本国内(少子・多子の地域・階層)において収集したデータによって内外の地域間・階層間格差を分析し,少子化の要因と少子化対策の潜在的効果を明らかにするとともに,わが国にとっての対策の選択肢を提示しようとするものである。

(2)研究実施状況

 本研究は平成14年度から3年間にわたり実施する予定であるが,初年度は国内における文献研究と専門家からのヒアリングを行うとともに,利用可能な内外のデータの予備的分析を行った上で,国内と一部の国・地域で現地調査を実施した。また,一部の国・地域については(財)アジア人口開発協会に対する委託により情報収集を行った。
 第2年度は,文献研究,ヒアリング,マクロデータ収集を継続するとともに,韓国の2000年出生動向調査,2001年の女性就業調査,台湾の1986年家族計画調査といったミクロデータを入手した。韓国のミクロデータを援用して合計特殊出生率より厳密な出生力指標を導出し,わが国の同一指標との比較を交えた比較分析を行った。また,入手したミクロデータの一部について日韓台の比較分析を行った。それと並行して韓国,台湾,シンガポールと国内の一部地域(沖縄等)で現地調査を実施した。さらに,平成15年12月には推進費によりわが国やアジアNIESへの家事労働者・女性配偶者等の送り出しにより少子化対策に貢献するフィリピンから専門家を招聘し,講演会等を開催した。

(3)研究会の構成員

担当部長
小島 宏(国際関係部長)
所内担当
西岡八郎(人口構造研究部長),鈴木 透(国際関係部第3室長),
佐々井 司(人口動向研究部第3室長),清水昌人(人口構造研究部第2室長),
山内昌和(同部研究員)
所外委員
伊藤正一(関西学院大学経済学部教授)

(4)研究会の開催状況

7月1日本年度の研究計画
10月28日講演:
「米軍統治と沖縄の出生力転換―優生保護法『廃止』と助産婦の避妊普及活動に注目して」澤田佳世(法政大学沖縄文化研究所奨励研究員)
3月5日講演:
「子どもと<福祉/教育>国家:韓国における<保育/幼児教育>領域の歴史的変容」相馬直子(日本福祉大学客員研究員)およびプロジェクト成果報告

 なお,12月には恩賜財団母子愛育会を通じた推進事業によりフィリピンのScalabrini Migration CenterのMarla Asis博士を招聘し,当研究所主催の厚生政策セミナー(12月16日)と関西学院大学経済学部(12月19日)で“Not Here for Good? International Migration Realities and Prospects in Asia”と題された講演をしていただいた。

(5)研究成果の公表

 昨年度の研究成果は厚生科学研究費補助金政策科学推進研究事業の平成15年度報告書として公表した。また,一昨年度の招聘外国人による報告論文改訂版が当研究所のウェッブジャーナルJournal of Population and Social Security: Population StudyのA Supplement to Volume 1《Low Fertility and Social Policies》の第2部《Low Fertility and Social Policies in Asian NIES》として掲載された。さらに,一部の研究成果は平成15年度以降,学会報告や論文の形で発表された。






18 「世代とジェンダー」の視点から見た少子高齢社会に関する国際比較研究(平成14〜16年度)

(1)研究目的

 わが国では,少子高齢化の進展が社会保障制度全体の根幹を揺るがせているが,この問題は先進諸国に共通する。本プロジェクトは,少子高齢化の進展と家族・家族観の変化の相互関係を「世代とジェンダー」という視点から国際比較的に分析するために,国連ヨーロッパ経済委員会(UNECE)人口部が企画中の国際比較調査研究プロジェクト「世代とジェンダー・プロジェクト(GGP)」に参加する。そのうえで,主として,このプロジェクトにおける国際比較調査「世代とジェンダー調査(GGS)」の分析を通じて,結婚・同棲を含むパートナー関係(特にジェンダー関係の視点), 子育て問題(ジェンダー関係と世代間関係の両方の視点), 高齢者扶養問題(特に世代間関係の視点)の先進国間の共通性と日本的特徴を把握する。これによって先進諸国との比較という広い視野を踏まえたうえで,日本における未婚化・少子化の原因分析と政策提言,ならびに高齢者の自立と私的・公的扶養のあり方に関する政策提言に資することを目指している。15年度の実績については,下記のとおりである。

(2)研究実施状況

 平成15年度の活動は,プロジェクト参加国と協調を図りながら調査票の確定と実査までの作業を進めることが中心的な活動となった。以下に,研究活動結果の概要を述べる。

  1. 国連ヨーロッパ経済委員会,及び,国連人口部から提示されたGGS調査票(案)に関して,本部,各国研究員と意見・情報交換をしながら国際比較調査の日本版調査票の作成を行った。国連人口部から提示された英語版GGS調査票(案)は他記式インタビュー調査を前提とし,(1)親子・世代関係(2)出生(3)夫婦・ジェンダー関係(4)意識構造(5)教育(6)就業状況(7)経済状況(8)世帯構成(9)健康・福祉の9つのセクションから構成され,70ページにも上る膨大なものである。本プロジェクトでは,まず,英語版GGS調査票(案)の質問項目を一つ一つ詳細に吟味し,自記式留置調査にとって適当な分量になるように項目の取捨選択を行った。
  2. こうして作成されたGGS調査日本語調査票(案)に対して,他国と共同歩調をとるために東京,仙台でプリテストを行い,その後に調査員と回答者に対してヒアリングを行った。このヒアリングとプリテストの集計結果に基づいて,GGS日本語調査票(案)の質問文のワーディング,選択肢,レイアウトに関して問題点がないかを再び検討し,調査票のいくつかの部分を修正した上で最終的なGGS調査票日本語版を完成させた。また,ヒアリング結果を用いて,本調査実施上の問題点についても検討を行い調査回収率,調査精度と回答率の向上を図るための検討を行った。また,プリテスト結果については本調査の総合的な分析に役立てるために調査法上の問題点の析出,予備分析などの作業を進めた。
  3. マクロ・データのデータ・ベース構築のための基礎研究を行った。参加国の会議で(1)社会経済(2)福祉(3)制度の3つの領域についてのマクロ・データをできるだけ共通な形式で時系列に収集することが決定された。本プロジェクトでも,日本のナショナル・レベルのマクロ・データの利用可能性について調査,及びデータの収集を行った。上記の3つの領域について日本で利用可能なデータのタイプ,形式,利用可能な期間などについて調査,整理を行い,こうした日本のデータと他のGGP参加国のデータとを比較検討した。これと平行して,利用可能な時系列データそれぞれについては漸次,収集を行った。
  4. 前記1,2の過程を経て,本調査を平成16年3,4月に実施した。18〜69歳の男女15000人に配票し,回収は9074票であった(回収率60.5%)。
  5. 国連ヨーロッパ経済委員会では,情報の共有化を図るため,あるいは各国のGGS調査の総合的広報活動のため,GGPに関するホームページを開設した。日本もこれに協力し,わが国のGGS調査の進捗状況,調査内容などの報告を行った。
  6. プレテストにおける問題点の析出や最終年度の本格的分析に向けての先行研究のレビュー,プリテスト・データや他の調査データなどを利用して予備分析を行った。具体的な個別の実証研究には,ジェンダーの視点から就業と家事関係・出生水準の関係・意識構造の分析,親子の世代間関係,ジェンダー・世代とソーシャルサポートに関するテーマについての予備分析を行った。

(3)研究会の構成員

担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
福田亘孝(人口動向研究部第1室長),赤地麻由子(人口構造研究部研究員),
星 敦士(客員研究員)
所外委員
津谷典子(慶応義塾大学教授),白波瀬佐和子(筑波大学助教授),岩間暁子(和光大学助教授),
田渕六郎(名古屋大学講師),吉田千鶴(関東学院大学講師)





19 少子化の新局面と家族・労働政策の対応に関する研究(平成14 〜16 年度)

(1)研究目的

 我が国の近年の出生率低下が,晩婚化・未婚化による出生率低下のみならず,1960年代以降に生まれた世代の夫婦出生力低下傾向が明らかとなった。この出生率低下に現れた新たな局面は,今後の日本人口動向に極めて強い影響を及ぼすものと想定される。政府は,厚生労働大臣のもと有識者の意見や専門家の検討を踏まえ,「少子化対策プラスワン」を公表し,その後平成15年7月に「次世代育成支援法」,「少子化対策基本法」を制定するとともに平成16年6月には「少子化社会対策大綱」を閣議決定し,より一層少子化対策を強化することを明らかにしている。
 本研究は平成14年度より,出生率低下新局面の研究の必要性から,少子化の要因を探るとともに,今後の結婚や出生動向を社会学や経済学などの学問的な見地から調査研究を行い,現在の少子化動向へ対応して行くための「家族・労働政策」にとって効果的な施策メニューを提言することを目的として研究を進めてきている。

(2)研究計画

 少子化の持続的進展や高齢化の深刻化は,わが国の将来社会に大きな影響をもたらすものである。本研究は,政府の施策の参考に資するための研究を行い,少子化の新たな局面を分析するとともに,一方では少子化対策としていかなる施策が有効でかつ実施可能であるかという側面についても研究を行うことで,厚生労働行政に資することができる。また,少子化に関するアンケート調査を通じて,少子高齢化に対する国民一般の意識や少子化対策に対するニーズを把握することで,国の政策のみならず地方自治体の政策等の参考に資する。
 以上の目的・必要性を鑑み,本研究はかかる分野の専門家を集め,目的とする研究分野ごとに研究者をグループ化して研究を遂行することで,効率化を図るとともに,専門分野の最新の知見を集約することが可能である。
 少子化の原因や労働政策との関連については,わが国でも多くの理論的・実証研究が進みつつある。しかしながら,近年の少子化の新たな局面については最新のデータや情報を収集し,また少子化対策の実施動向等を勘案して,さらに研究内容や成果を深める必要がある。とりわけ,家族労働政策の具体的な効果を実証した研究例はいまだ数少なく,今後の研究の深化が問われている。また,近年の人口動態を社会経済要因から探るモデル開発においても,いまだ発展途上にあり,十分な知見が得られているとは限らない。多くの識者や研究者の主張する様々な家族労働政策関連の要因をさらに詳細に分析して,実用的なモデルの開発が急がれている。加えて,欧米諸国における少子化の経験とわが国における経験では,その文化的社会的背景も異なり,わが国独自の要因分析等も進める必要がある。これについては,アンケート調査などに反映し,適切な少子化対策を提案する必要がある。アンケート手法を用いたこのような研究はいまだ少なく,また相当数のサンプルを調査することで,少子化対策の新たな局面が開けてくることが期待されるとともに,厚生労働行政に対しても従来にない基礎データが収集可能であると考えられる。

(3)研究スケジュール

 初年度(平成14年度)において,本研究の基礎的研究を展開したが,平成15年度の研究2年次は,実施したアンケート調査の解析をすすめるとともに,家族労働政策に基づく少子化対策関連の実証分析を進めた。また,人口学的モデル研究ならびに計量経済学的モデル研究ではモデルの開発を行うとともに,モデル研究から得られた知見に基づき少子化対策の効率的なメニューの提示を試みた。さらに,平成14年に実施された最新の出生動向基本調査の解析を通じ,夫婦出生の動向と社会経済属性別の出生行動,ならびに独身者の結婚に対する意識を各回調査の比較を通じ,その傾向を分析した。
 次年度(平成16年度)は研究最終年度にあたり,実施したアンケート調査の解析を進めるとともに,労働経済学的な知見から得た少子化の要因等を整理する。計量モデルについては将来見通しを可能とするような実用レベルにまで研究を進め,文献研究等を含め全体報告書を作成する。
 なお,研究は具体的に,次の三つの研究を柱として分担研究として実施した。それらは,1結婚・出生行動の人口学的・社会経済学的研究,2女子労働と出生力の研究,ならびに,3結婚・出生に関する国民意識の調査研究である。

(4)研究実施状況

@結婚・出生行動の人口学的・社会経済学的研究

 マクロデータに基づく計量経済学的モデル研究と,年齢別初婚率や年齢別出生率など人口学的マクロデータのモデル分析的研究,ならびに国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査個票データに基づく多変量解析によって研究が進められた。
 結婚と夫婦出生力の低下について,第一に,結婚変動と出生力の人口学的分析の観点から,初婚過程のコーホート変化,ならびに離婚が出生率に及ぼす影響についての分析から,一見,一様に進んでいると見られるわが国の晩婚化が,女性のコーホートによって分けられるいくつかのフェーズによって,その要因とメカニズムが変化してきており,新たに捉えられた若い世代(1958〜1964年)では,それまで見られた晩婚なグループの拡大という形ではなく,全グループの晩婚化が進行するという形に変化しており,少子化の進行における新局面が現れたことが示唆された。また,晩婚化,非婚化などの結婚変容の実相は世代によって異なり,最近の世代についてこれまで関係が深いと考えられていた高学歴化や家族意識の変化などとは独立に結婚の変化が進むという新局面が見いだされたことは,わが国の少子化の今後の見通しに対して重要な示唆を与えるとともに,その対策として子育て支援等個別策だけでなく,男女のパートナーシップなどを含む世代全体のライフコースを考慮した施策が必要なことを示している。また,離別(離婚)が出生率変動に与える影響の大きさは近年の若年齢での急激な離別の増加と再婚率の低下を反映し,2000年は1990年の4倍強となった。この分析結果は将来の出生率変動を予測する際に,離婚の要素が無視し得ない要素となっていることを示している。
 第二に,社会経済学的観点から,夫婦出生行動変化の諸側面として,妻の就業行動と出産・育児の分析からは,妻が出産後も仕事を継続し,次の子どもをもつためには,夫妻の母親,とりわけ妻方の母親の育児支援に多くを頼っている実態が明らかになった。働いている女性の方が理想や予定子ども数が多いという傾向がみられ,そのような希望を実現しにくい状況が除かれれば,一層の追加出生が期待されるかもしれない。1990年代に入るとパートや派遣など非典型労働に従事する女性が増えている。こうした働き方では出生子ども数が少ない傾向がみられた。非典型労働をめぐる仕事と子育ての両立を図っていくことも重要な政策課題となることが示唆された。同居選択と妻の就業分析では,同居が妻の就業を促進する効果は,従来考えられていたよりも大きいことが明らかとなり,また,保育サービスと同居は,代替関係ではなく,補完関係にあることが示唆された。政策的観点からは,日本社会の伝統的な家族構造に配慮した政策の効果が期待される。結婚・出産退職と逸失所得の分析からは,1960年代出生コーホートにおいて累積所得の上昇が起こっており,従って結婚・出産による退職で生じる逸失所得の上昇が起こっていることが明らかとなり,この逸失所得の上昇を抑止し,低下させる必要性が実証的に見いだされた。雇用機会拡大と専業主婦の分析からは,片働き生涯専業主婦家庭という家族像が子世代に強く,子どもケアは女性がにない,子どもを持つ女性は低賃金,正社員は時間制約がきついという労働市場の構造が変わらないために,既婚者の変化は小さいが「非婚」が増えているという構造がある。したがって,女性労働市場をより制度的にも社会慣行の上でも男女共同参画型にして行く必要性が明らかになった。また教育費負担の及ぼす影響について社会学的,経済学的分析では,教育観の違いによって,教育需要,負担感,出生意識に差異が見出された今回の結果は,「教育費が負担」の実態が,単に一様なものではなく多重的な構造である可能性を示しており,少子化対策としての教育費負担の軽減,あるいは児童手当などの所得補助を検討する上でも重要な視点を提示できるものである。
 第三に出生力の政策効果に関する研究として,女性の就業と育児にかかわる機会コストの関係をマクロシミュレーションモデルとして定式化し,合計特殊出生率の将来動向を評価したが,機会コストが徐々に低下し,かつ保育所整備が進んだ場合には,2001年の合計特殊出生率は1.58と実績である1.33よりも0.25ポイント上昇するという結論が導かれ,出生率の今後における少子化対策の有効性とその効果が確認された。

A女子労働と出生力の研究

 自治体単位のデータベースを作成し,それぞれの自治体が独自に実施している少子化対策が実際の出生率に与えている効果の多変量解析,ならびに,実際に子どもを出産し,育児休業を取っている人にインタビュー調査を行う手法によって研究を実施した。
 開発した少子化対策とその効果に関する自治体別データベースは,全国約3400自治体のうち,675市・東京23区についてデータを収集した。対象自治体選定にあたっては,各自治体の少子化対策の情報が必要なため,これが掲載されている日本経済新聞社と新聞社日経産業消費研究所が作成した『全国市区の行政比較(行政改革度・行政サービス度)データ集2002年』のなかで取り上げられている市区を基準とし選定されている。
 開発したデータベースを使っての研究は第一次接近にとどまっており,来年度も引き続き詳細な分析を行っていく予定であるが,保育所整備(施設数,定員数,待機児童数)と女性労働力率の関係,保育所整備と出生(出生者数割合,出生率など)の関係,出生と女性労働力率の関係,保育所整備と地価,住宅着工との関係,保育所整備と地域の成長力との関係,ならびに,公共施設における託児サービス・子ども部屋増改築支援等と出生率の結果から得られた結論は,同じ少子化対策といっても,その内容により,効果は異なっている可能性があり,今後,さらに詳細な分析が必要である。この中で,第1次接近という限定的な結論ではあるが,各施策の効果は次のようにまとめることができよう。待機児童数を減らすような保育所整備を行うことは当該地域の女性労働力率と出生率を高めると考えられる。また,女性労働力率が高い地域で出生力は高いという関係が観察され,必ずしも女性労働力率を高めることが出生力を引き下げることにはならない。これらの結果から,保育所整備を行うことで女性労働力を高め,出生力をも高める可能性があると言えよう。保育所整備は地価や住宅着工の伸び,そして成長力を必ずしも高めることには繋がっていない。
 今回の分析は人口規模や産業構造などの地域特性を十分にコントロールしておらず,結果の頑健性は十分保証されたものとはなっていない。来年度の分析では,計量経済学手法を用いて,地域特性を十分に配慮し分析を行う予定である。
 育児休業中と復職後の2時点におけるインタビュー調査の結果から,両立支援施策へのニーズとしては,(突発的な残業にも対応可能な)保育所の迎えの時間の柔軟性,病児保育,小学校入学後に放課後,子どもを安心して任せることのできる保育所のような場所,があげられた。また,育児休業取得者の代替要員について,代替要員を確保するのではなく仕事を外部化してしまったため,原職復帰ができない,代替要員確保のため,育児休業取得期間が希望通りにならない,などの問題点が見出された。

B結婚・出生に関する国民意識の調査研究

 市町村レベルの地方自治体と連携してアンケート調査を行ない,少子化に関する実態・意識に関する基礎資料を収集し,クロス集計分析ならびに汎用多変量解析ソフトを用いて研究を実施した。プロジェクト初年度において東京都品川区,千葉県印旛郡栄町,埼玉県秩父市で調査を実施したのに続き,今年度は岐阜県多治見市,東京都八王子市で調査を行い,標本データを得た。このデータに基づき多重集計と多変量分析を実施した。

調査から得られた結論としては,次の通りである。
  1. 夫婦票分析から得られた結論

     女性の就業は結婚や出産によって中断される傾向が強く認められ,職業によって異なる職場復帰の容易さや育児支援の利用可能性が,女性の就業継続に重要な影響を与えていることが示唆される。一度退職した女性が再び正規雇用に就くことは難しいことを考慮すると,就業意欲をもつ女性が働き続けることができる職場環境を整備することは少子化対策の重要な課題といえよう。
     家庭生活では,夫の家事・育児参加は,妻の結婚に対する幸福感と関連を持っていることが推測され,今後生活の質の向上に向けて,家庭内における性別役割分業の柔軟化をさらに進めていく必要性があるといえる。また,これは未婚男女の結婚意欲や,家族観,結婚観にも影響を与えるだろう。
     子どもについては,秩父市民の子ども数は全国平均より多く,予定・理想子ども数の数値も高いため,出生意欲も高いといえる。そうした中で,育児支援策としては,未就学児に対する保育所・幼稚園の整備,小学生に対する学童保育の整備,そして子どもが自由に安全に遊べる遊び場の整備という,3つのニーズが主に挙げられる。これらの一層の充足は,子育て費用の軽減にもつながる。

  2. 独身者票分析から得られた結論

     結婚と就業のかかわりでは,フルタイム就業継続を希望するものが多いものの,実際はパート再就職コースになると考えている女性が多く,仕事と家庭の両立策を一層強力に推進することは,結婚した人たちだけでなく未婚者に対しても影響が大きいことが推測できる。
     こうしたライフコースの選択には,男女の結婚観・家族観も大きく影響するが,男女間で性別役割分業についての考え方や結婚観について,男女でギャップが存在している。男性は伝統的な妻として母としての役割を担ってくれる女性を求め,年齢が上昇すればするほどその傾向が強くなる。しかしながら女性は伝統的な役割分担ではなく,夫との新しい時代の関係を求めている。結婚については,女性は堅実な関係を望み,男性はそれにはとらわれない考え方をもっている。このような相違が存在し,さらに男女間の乖離がすすめば,晩婚化や非婚化を食い止めることは不可能となろう。

(5)研究会の構成員

@結婚・出生力の人口学的,社会経済学的モデル開発研究班
主任研究者
高橋重郷(人口動向研究部長)
所内担当
金子隆一(総合企画部第4室長),大石亜希子(社会保障基礎理論研究部第2室長),
加藤久和(同部第1室長),岩澤美帆(人口動向研究部研究員),守泉理恵(客員研究員)
研究協力者
大淵 寛(中央大学教授),和田光平(中央大学助教授),
永瀬伸子(お茶の水女子大学助教授),ジェームズ・レイモ(ウィスコンシン大学助教授),
新谷由里子(武蔵野女子大学非常勤講師),別府志海(麗澤大学大学院ポストドクター)
A女子労働と出生力の実証研究班
分担研究者
樋口美雄(慶應義塾大学教授)
所内担当
小島 宏(国際関係部長),佐々井 司(人口動向研究部第3室長)
研究協力者
駿河輝和(大阪府立大学教授),阿部正浩(獨協大学助教授),北村行伸(一橋大学教授),
岸 智子(南山大学助教授),仙田幸子(獨協大学専任講師)
Bアンケート調査による意識調査研究班
分担研究者
安蔵伸治(明治大学教授)
所内担当
加藤久和(社会保障基礎理論研究部第1室長),岩澤美帆(人口動向研究部研究員),
守泉理恵(客員研究員)
研究協力者
兼清弘之(明治大学教授),吉田良生(朝日大学教授),和田光平(中央大学助教授),
新谷由里子(武蔵野女子大学非常勤講師),辻 明子(早稲田大学助手),
福田節也(明治大学大学院生),鎌田健司(明治大学大学院生)





20 家族構造や就労形態等の変化に対応した社会保障のあり方に関する総合的研究(平成14〜16年度)

(1)研究目的

 本研究の目的は,家族構造や就労形態等の変化が社会保障を通じて所得分配に及ぼしている影響を把握し,社会経済的格差が生じる要因を分析することを通じて,効果的な社会保障のあり方を展望することにある。具体的には@家族構造・就労形態等の変化が所得分配に及ぼす影響,A生涯を通じた社会保障の所得分配に及ぼす影響,B人々の不平等感と不平等度との関係―の3つのテーマについて分析する。

(2)研究計画・実施状況

 3年計画の2年目にあたる本事業年度(平成15年度)は,(1)研究協力者を米国に派遣し,文献サーベイや専門家などへのインタビューを通じて米国の福祉改革の成果と問題点を調査し, (2)厚生労働省『国民生活基礎調査』,『所得再分配調査』ほかのマイクロデータを使用して1年目のアプローチをさらに発展させた実証分析を行ったほか,(3)機会の平等について理論的検討を行うとともに,社会階層や階層意識について国際比較を行った。

(3)研究会の構成員

担当部長
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
所内担当
阿部 彩(国際関係部第2室長),大石亜希子(社会保障基礎理論研究部第2室長),
西村幸満(社会保障応用分析研究部第2室長),宮里尚三(同部研究員)
所外委員
寺崎康博(東京理科大学教授),石田 浩(東京大学教授),稲垣誠一(農業者年金基金数理役),
小塩隆士(東京学芸大学助教授),苅谷剛彦(東京大学教授),玄田有史(東京大学助教授),
佐藤俊樹(東京大学助教授),白波瀬佐和子(筑波大学助教授)田近栄治(一橋大学教授),
古谷泉生(福岡大学助教授),松浦克己(広島大学教授)

(4)研究成果の公表

 平成15年度総括・分担研究報告書として研究成果を取りまとめたほか,本事業における研究成果の一部は,以下のような形で出版された。

1 論文発表 2 学会発表




21 介護サービスと世帯・地域との関係に関する実証研究(平成14〜16年度)

(1)研究目的

 介護サービスの量的・質的な充実は必要不可欠である。他方,介護サービスの供給体制の充足は利用者の行動を変化させ,長期的に日本の家族・世帯構造を変化させ,それがさらにまた供給構造の変化を促す可能性がある。今後における介護保険制度のあり方,介護サービスのあり方等を検討するに当たっては,介護保険制度の導入が介護サービスの普及等を通じて世帯や地域にどのような影響を与えてきたか,また,個人の介護サービス利用行動がどのような要因によって決定されてきたか等について,介護保険制度の導入前後を比較して実証的に分析することが必要である。
 そこで,本研究計画では以下の点について検討する。@家族介護の実態把握,A施設入(院)所・家族介護の選択に与える,世帯構造等の要因分析,B遠距離介護の実態把握,C介護サービス利用と就業選択の分析,D介護サービス事業者とボランティア組織の役割分担の実態把握,からなる。これらは厚生労働行政に直結する内容である。このように,本研究は介護保険導入後の介護の実態把握をもとに,これからの介護保障のあり方を考えるための有効な基礎資料を作成し,厚生労働行政に対する貢献を通じて国民の福祉の向上に資するものとすることを目的とする。

(2)研究会の構成員

担当部長
中嶋 潤(総合企画部長)
所内担当
西村幸満(社会保障応用分析研究部第2室長),泉田信行(同部主任研究官),
阿萬哲也(総合企画部第1室長),宮崎理枝(客員研究員)
所外担当
白波瀬佐和子(筑波大学助教授),石田光広(東京都稲城市役所),植村尚史(早稲田大学教授),
鏡 諭(埼玉県所沢市役所),坂野達郎(東京工業大学助教授),堀田聰子(UFJ総合研究所),
横山重宏(UFJ総合研究所)

(3)研究計画

平成14年度
  1. 既存研究・民間調査の整理による介護保険制度の利用状況,及び介護における介護サービス事業者と民間非営利組織の役割分担に関する整理
  2. 既存指定・承認統計等の再集計を実施するための申請作業の実施及びそれらの統計を用いた介護サービス利用状況の実証的検討及び理論的問題に関する分析の実施
  3. 次年度実施予定の高齢者の介護サービス利用状況の実態調査の実施準備作業
平成15年度
  1. 前年度に引き続いて,既存指定・承認統計等の再集計による介護サービス利用状況の実証的検討及び理論的問題に関する分析の実施
  2. 高齢者の介護サービス利用状況の実態調査の実施
平成16年度
  1. 前年度までの実証的研究,理論的分析の整理と実態調査の実施に基づいた報告書の作成

(4)研究会の開催状況

平成15年6月2日(月)
   内容:
主任研究者の挨拶及び研究の趣旨に関する説明の後,各委員から自己紹介を兼ねた簡単な問題意識に関する発言があった。その後,今年度の主たる事業内容となる自治体調査について議論を行った。
平成15年6月28日(金)
   内容:
稲城市福祉部介護保険担当課長石田光弘氏による講演「稲城市における要援護高齢者への介護施策等について」の後質疑応答を行った。
平成15年7月18日(月)
   内容:
西村幸満室長から「高齢者の生活実態に関するアンケートにかかわるプレ調査」の報告を受け,質疑応答を行った。
平成15年8月13日(金)
   内容:
所沢市保健福祉部高齢者いきがい課 鏡諭氏の「自治体における高齢者福祉」と題した講演の後に質疑応答を行った。
平成15年10月10日(金)18:30〜20:00
   内容:
阿萬哲也室長の「高齢者をとりまく社会の現状と施策の基本的方向〜介護問題を中心にして〜」と題した講演の後に質疑応答を行った。
平成15年11月14日(金)18:00〜20:00
   内容:
坂野達郎氏(東京工業大学社会理工学研究科)の「住居選好・公的介護サービスの選好に及ぼすサポーティブネットワークの影響」と題した講演の後に質疑応答を行った。

(5)研究成果の公表

 厚生科学研究費補助金政策科学推進研究事業報告書として公表した。






22 社会保障と私的保障(企業・個人)の役割分担に関する実証研究(平成15〜17年度)

(1)研究目的

 本研究は,社会保障と私的保障とのかかわりに着目し,公私の役割分担を明確にした社会保障パッケージのあり方を以下の4つの視点から考察することを目的としている。具体的な研究テーマは以下の通り。(1)企業年金と公的年金のすみ分けに関する研究,(2)企業による福祉と社会保障の関係に関する研究,(3)公的年金が労働供給に及ぼす影響と所得保障のあり方に関する研究,(4)非正規労働者への社会保険適用に関する分析。

(2)研究計画・実施状況

 第1に,海外の研究動向を把握するために平成15年6月に分担研究者を米国のEBRI他に派遣してヒアリング調査等を実施した。第2に,公的年金に関連したテーマについては,平成15年9月に研究者と行政関係者からなる「公的年金ワークショップ」を国立社会保障・人口問題研究所で開催し,研究成果を発表するとともに内容について議論を行った。第3に,企業負担の実態把握方法について,平成15年6月〜16年3月にかけて日本経団連,生命保険文化センター,(株)帝国データバンク,厚生労働省年金局企業年金国民年金基金課などを対象にヒアリングを実施した。第4に,指定・承認統計等の個票データを用い,経済学的手法を用いて個人の行動を実証的に分析した。
 2年目はさらなる調査やデータ収集等を行い,分析を深めた後,3年目に国際ワークショップを実施し,研究成果を『季刊社会保障研究』またはThe Japanese Journal of Social Security Policyその他の形態で国内外に公表する予定である。

(3)研究会の構成員

担当部長
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
所内担当
阿部 彩(国際関係部第2室長),大石亜希子(社会保障基礎理論研究部第2室長),
山本克也(同部主任研究官),菊地英明(同部研究員)

(4)研究成果の公表

 平成15年度報告書を取りまとめたほか,以下のように研究成果を公表した。

@論文発表 A学会発表




23 社会保障における少子化対策の位置づけに関する研究(平成15〜16年度)

(1)研究の目的

 本研究の目的は,中期的視野にたち今後10年にわたり日本で行うべき少子化政策とはどのような社会状況を想定して立案すべきなのか,それを検討するための基礎資料を提供することにある。
 諸外国の政策分析においては,手当・休業・年金など社会保障制度全体において各国がどのような政策を行っているか,それが総合的にどのようにそれぞれの国の子供を持つ世帯の家計へ影響を与えているのかを分析する。また,各国の政策が現行の制度として確立されるまでの歴史的経緯とその背後にある国民的価値観についても考察する。諸外国間の政策の違いを決定するものは何かを知る手がかりが得られることが期待できる。それによって,中期的に日本が取り組むべき政策のなかで諸外国の例に学ぶことの意味と限界を知ることができるだろう。
 社会調査においては,私的な移転の実態を明らかにすることが重要である。従来の政策は,実施主体,財源,施行の実際においても公的な制度を枠組みとして検討されてきたが,経済成長の鈍化によって,あらゆる分野で公的な役割分担の見直しが進められている現在,少子化対策も例外ではなく,政策の財源や実行可能性を広い分野にもとめる必要がある。近年日本では「豊かな高齢者VS経済的に苦しい子育て世帯」の対照的イメージだけが先行し,公的老齢年金の給付水準引き下げや年金課税の見直しなど,高齢者の公平な負担のために改正の必要性が議論されている。一方,景気刺激策として生前相続における親世帯から子世帯の非課税枠の拡大などが行われ,豊かな親を持つ子供は住宅購入等に多額の所得移転を親世帯から得ている。数の減った孫に対する経済的,協力的支援も同様である。祖父母の世帯と孫のいる子世帯の間の協力関係は,言い換えれば経済的に苦しい子育て世帯への「私的移転」と位置づけられるだろう。この私的移転が,単に親世帯の経済的状況に左右されるのであれば,それを得られる子世帯と得られない子世帯,ひいては祖父母の手厚い支援を受けて育つ子どもとそうでない子どもの間に大きな不公平を生むことになるだろう。本来,公的な制度は,私的移転の補完的役割を果たすと同時に,私的な移転の行われにくい対象や状況にもてる資源を集中させて配分する配慮が必要である。このように,私的移転の実態を明らかにすることで,より効果的な公的移転の方法を模索することが可能となるのである。

(2)研究計画・実施状況

 2カ年計画の初年度は,本研究の中心である社会調査の実施準備を中心に研究をすすめた。親子世帯間の私的援助の実態を明らかにするために,「高齢者世帯対象調査」「成人子世帯対象調査」の2つの独自調査票を設問案より検討した。当該年度に実施まで至ったのは,高齢者世帯調査だけだったが,2年目の成人子世帯調査の結果集計を待って,2年目に詳細な分析を行う。
 初年度は,独自調査の設問設定に参考とした先行調査「第1回家庭動向調査(1993年)」の個票データの使用許可を得て分析を行った。親世代から子世代への育児支援が行われやすい条件の研究,子どもの性別やきょうだい構成,配偶関係といった人口学的属性に着目して支援が行き届きやすい環境の分析,親から別居子への住宅資金援助に影響を与える要因の分析,生前贈与の実態と世帯条件などについて分析を行った。これらの分析は2年目に行う成人子調査とあわせて,親子世帯間の私的援助について,仮説を検証する試みである。最終分析において全国調査である先行調査と独自調査の接合を図るために行った。

(3)研究会の構成員

担当部長
中嶋 潤(総合企画部長)
所内担当
勝又幸子(総合企画部第3室長),阿萬哲也(同部第1室長),
千年よしみ(国際関係部第1室長),守泉理恵(客員研究員)
所外委員
上枝朱美(東京国際大学経済学部助教授),周 燕飛(大阪大学社会経済研究所非常勤研究員)



トップページへ