厚生労働科学研究費補助金研究(政策科学推進研究)



11 地理情報システム(GIS )を用いた地域人口動態の規定要因に関する研究(平成12 〜14 年度)

(1 )研究目的

 本研究の目的は地理情報システム(Geographic Information Systems: GIS )を用いて,わが国における人口動態とその変動の規定要因を解明することにある。具体的にはメッシュ単位での人口データから人口分布変化について詳細な分析を行うとともに,少子化の進行プロセスを追跡する。さらに標高・傾斜などの土地条件データとの組み合わせにより,人口分布を規定する地形的な要因について,地域性の観点から考察する。以上の分析により得られた新たな知見は,特にミクロスケールの将来人口予測を行う際の有益な情報として活用可能となる。

(2 )研究実施状況

 平成14 年度は最終年度に当たるため,全体的な総括も交えて研究成果を報告しておく。
 まず基準地域メッシュデータを利用した人口分布変化に関しては,都市圏を設定し,その中に含まれるメッシュデータについて時系列的な分析を行った。なかでも,少子化の進行プロセスについては全ての都市圏共通に見られる現象であるが,時間の経過とともに距離帯ごとの少子化の格差は縮小するという知見が得られた。また,男女・5 歳階級別人口データからは,コーホート要因法に基づく計算により,メッシュごとの純移動数を推計することが可能である。上記の都市圏から主として平野部に位置する都市圏を抽出し,推計された純移動数から都市規模別・距離帯別の移動パターンを明らかにした。
 一方,基準地域メッシュデータを実距離で1km ×1km のグリッドデータへと変換する手法については,様々な補間法を比較検討した結果,最も再現率の高い補間法を見いだした。生成されたグリッドデータは,距離に関連した分析を自由に行えるという意味で,大変貴重なものである。続いて,本グリッドデータを用いて全国47 都道府県における標高・傾斜と人口密度との関係について検討を加えた。その結果,両者の関係には都道府県の地域性が大きく関連していることが明らかになり,各都道府県に関する回帰式の係数からも地域ごとに特徴的なパターンがみられた。

(3 )研究会の構成員

担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
大場 保(人口構造研究部第1 室長),小池司朗(同部研究員)
所外委員
小口 高(東京大学空間情報科学研究センター助教授),江崎雄治(専修大学専任講師),
青木賢人(金沢大学助教授),伊藤史子(東京大学空間情報科学研究センター研究員),
堀 和明(日本学術振興会科学技術特別研究員)

(4 )研究成果の公表

 研究成果については各構成員の所属学会において適宜発表を行っているほか,報告書を近刊予定である。






12 個票データを利用した医療・介護サービスの需給に関する研究(平成13 〜15 年度)

(1 )研究目的

 医療費の適正な支出を管理することは医療保険制度の健全な運営にとって必要欠くべからざる項目であり,現状の医療費支出の状況を的確に把握する必要がある。医療費の実態を把握する方法のひとつとして大量のレセプトデータ等を用いて包括的に患者の受診行動や医療費受給構造を把握する方法が考えられる。このタイプの研究では各医療機関の診療内容の詳細についての情報はほとんど得られない。しかし,個別の医療機関の行っている診療行為についての情報を得た上で,その医療機関の医療費が医療機関全体の中でどの程度の水準にあるかを知ることは重要な政策課題である。
 本研究の目的は医療機関が選択する診療行為によって医療費がどの程度異なるか,その選択に市場環境や他の要因がどのように影響を与えているかを知ることによりどのような政策的選択肢が存在するかが明らかにすることである。また,その背景にある地域における医療・介護サービス提供者の資本装備・労働投入などの状況とサービスのアウトカム指標との関係や,それが医療費・介護給付費に与える影響も実証的に明らかにしようとするものであり,こうした受給両面からの医療費の増嵩要因分析はこれまで例のないものである。
 以上のように本研究の成果は,厚生労働行政の政策にこれまで以上の選択肢を提供するものであり,きわめて重要性・緊急性の高い研究である。

(2 )研究会の構成員

担当部長
松本勝明(社会保障応用分析研究部長)
所内担当
植村尚史(副所長),金子能宏(社会保障応用分析研究部第1 室長),泉田信行(同部研究員),
宮里尚三(同部研究員),山本克也(社会保障基礎理論研究部研究員),
佐藤雅代(総合企画部研究員)
所外委員
尾形裕也(九州大学大学院医学研究院教授),江口隆裕(筑波大学教授),
山田篤裕(慶應義塾大学専任講師),原田啓一郎(駒澤大学専任講師)

(3 )研究計画

 医療・介護にかかる需要・供給両サイドの個票データを用いた分析を行う。ほぼ毎月1 回研究会を開催し,委員が個別の分析について報告する。主たる研究課題は下記のとおりである。

  1. 地域域医療供給体制の格差の制度的補完の分析
  2. 診療内容の差異が医療費の格差に与える効果の分析
  3. 診療内容の地域的変動と医療供給体制の間の関係の分析
  4. 医療・介護提供者の地域的偏在とその費用に与える効果の実証的分析
  5. 地域の社会経済的背景と医療費・介護費の間の関係についての分析

(4 )研究会の開催状況

平成14 年5 月13 日
内容:前年度分として提出した研究報告書の印刷・製本版の披露及び今年度実施すべき研究内容の方向性の検討を行った。
平成14 年7 月26 日
内容:今年度の研究内容について各分担研究者が報告を行った。
平成14 年8 月30 日
内容:今年度の研究内容のうち,個票データに関する分析内容について各分担研究者が報告を行った。
「社会的入院についての研究」報告者:宮里尚三(社会保障応用分析研究部研究員)
「国保連合会におけるレセプト電子化の現状と課題」報告者:佐藤雅代(総合企画部研究員)
「所得階層ごとの健康リスクの相違」報告者:山田篤裕(慶應義塾大学専任講師)
「医師の開業と実態の分析」報告者:泉田信行(社会保障応用分析研究部研究員)
「中間報告」報告者:山本克也(社会保障基礎理論研究部研究員)
平成14 年12 月9 日
内容:フランス訪問調査に関して実施した原田啓一郎分担研究者から報告があった。
平成14 年12 月27 日
内容:今年度の研究内容のうち,個票データに関する分析内容について各分担研究者が報告を行った。
「社会医療診療行為別調査報告による分析」報告者:金子能宏(社会保障応用分析研究部第1 室長)
「病院報告データを用いた病院分類について」報告者:泉田信行(社会保障応用分析研究部研究員)
「病院の倒産確率に関する分析」報告者:山本克也(社会保障基礎理論研究部研究員)
「医療設備と医療費の間の関係についての分析」報告者:宮里尚三(社会保障応用分析研究部研究員)
平成15 年3 月6 日
内容:今年度の研究内容のうち,個票データに関する分析内容について各分担研究者が報告を行った。
「社会医療診療行為別調査報告による分析」報告者:金子能宏(社会保障応用分析研究部第1 室長)
「病院報告データを用いた病院分類について」報告者:泉田信行(社会保障応用分析研究部研究員)
「病院の倒産確率に関する分析」報告者:山本克也(社会保障基礎理論研究部研究員)
「医療設備と医療費の間の関係についての分析」報告者:宮里尚三(社会保障応用分析研究部研究員)
平成15 年3 月17 日
内容:「所得階層ごとの健康リスクの相違」報告者:山田篤裕(慶應義塾大学専任講師)
「ドイツにおける外来診療の需給に関する分析」報告者:松本勝明(社会保障応用分析研究部長)

(5 )研究結果の公表

厚生科学研究費補助金政策科学推進研究事業報告書として公表した。






13 こどものいる世帯に対する所得保障,税制,保育サービス等の効果に関する総合的研究(平成13 〜14 年度)

(1 )研究目的

 政府は平成11 年度,12 年度と2 年連続して児童手当を拡充した。児童手当をはじめとする,こどものいる世帯に対する所得移転および保育サービスなどでは,社会保障分野において高齢者対策と並ぶ重要課題である。これは少子化問題をかかえる先進諸国の多くと共通する問題意識であり,NBER ,Brookings Institute, UNICEF 等 各研究機関においてもこどもの社会保障をテーマとする研究プロジェクトが立ち上がっている。
 しかし,我が国においては,こどものいる世帯の経済的状況,所得再分配など,こどもの厚生(Welfare )に関する基礎研究が乏しいのが現状である。また,「少子化対策」として掲げられた児童手当にしても,保育サービスとの比較など,その政策効果について十分に議論されていない。1994 年「こどもの権利条約」批准した日本国は,こども全体の福祉の向上と人権の擁護を実現する義務がある。そのために効果的な政策を行う必要がある。具体的にこどものいる世帯に対する社会保障を政策立案する際に,これら基礎研究は重要な資料であり,その早急な実施が望まれる。
 これらをふまえ,本研究では,「所得再分配調査」「国民生活基礎調査」などマイクロ・データを用いた実証研究及び,こどもに関する社会保障費のマクロ分析など,「こどもの社会保障」に関する基礎研究を行う。

(2 )研究実施状況

@ 研究会の開催
平成14 年7 月17 日
「保育研究のためのGIS 入門」講師:貞広幸雄(東京大学大学院工学研究科助教授)
平成14 年7 月26 日
“The Need for Childcare Services and Desired Fertility in Contemporary Urban Japan: The Case of Yokohama City 2000”講師:津谷典子(慶応義塾大学教授)
A ワークショップの開催
平成14 年11 月18 日
「ワークショップ:低出生時代の政策アプローチを考える?こどものいる世帯に関する実証研究を基盤として?」(於国立社会保障・人口問題研究所)
平成14 年11 月21 日
「少子化と家族・労働政策に関する国際ワークショップ」(於アジア開発銀行研究所)
平成14 年11 月27 日
「ワークショップ:低出生時代の政策アプローチを考える?こどものいる世帯に関する実証研究を基盤として?」(於京都大学芝蘭会館)
B 視察実施
平成14 年11 月25 日東京都千代田区神田保育園視察
平成15 年1 月28 日東京都千代田区いずみこども園見学
C 外国人研究者の招聘

 政策科学推進研究事業で恩賜財団母子愛育会の補助によって海外から外国人研究者2 名(ブラウ博士とジャンティ博士)を招聘した。招聘期間中に上記"ワークショップの開催を通じて,研究成果の発表と意見交換を積極的に行った。

(3 )研究会の構成員

担当部長
松本勝明(社会保障応用分析研究部長)
所内担当
勝又幸子(総合企画部第3 室長),千年よしみ(国際関係部第1 室長),阿部 彩(同部第2 室長),
大石亜希子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),金子能宏(社会保障応用分析研究部第1 室長),
上枝朱美(客員研究員),周 燕飛(客員研究員)

(4 )研究結果の公表

 平成14 年3 月末,当該年度の報告書を作成し厚生労働省に提出および研究者へ配布した。また本研究の成果を中心として季刊社会保障研究の第39 巻第1 号において特集:こどものいる世帯に対する政策,を刊行した。なお,各分担研究者はそれぞれの所属する学会及び学術雑誌への投稿をおこない積極的な成果の普及につとめている。(詳細は,総合および総括報告書参照)






14 社会経済変化に対応する公的年金制度のあり方に関する実証研究(平成13 〜14 年度)

(1 )研究目的

 本研究は,就労形態の変化や家族構造の変化といった社会経済環境の変化が公的年金制度にもたらしている影響の実態把握を行うとともに,その要因を分析し,今後の政策対応のための基盤となることを目的とする。具体的には,ライフスタイルや就労形態の選択により女性の年金額がどのように異なるのか,支給開始年齢の引き上げや給付水準の切り下げといった制度改革により高齢者の就労率がどのように変化するのか,またそれらの制度改革が年金財政やマクロ経済にどのような影響を及ぼすのか,そして未納や未加入が増加している背景にある社会経済的要因を明らかにする。

(2 )研究実施状況

平成13 年度,14 年度の2 年間にわたり,公的年金に関する先行研究サーベイを行うとともに,各自の分担テーマについて分析を進め,報告書に取りまとめた。各研究課題についての実施状況は,次に示すとおりである。
  1. 既存研究サーベイ

    公的年金に関する既存研究をサーベイし,今後の研究課題を明らかにするために研究会を組織し,座談会形式で論評を行った。その成果は国立社会保障・人口問題研究所の機関誌『季刊社会保障研究』の特集号として14 年3 月末に刊行された。

  2. 公的年金が労働供給に及ぼす影響と所得保障のあり方に関する研究

    公的年金が1 )高齢者の引退行動に及ぼす影響と,2 )女性の労働供給に及ぼす影響の2 点について研究し,所得保障のあり方について考察した。

  3. 女性のライフスタイルの変化に対応した社会保険制度のあり方に関する研究

    女性のライフスタイルの実態を把握するために調査を実施したほか,高齢単身女性の経済状態について実証分析を行った。

  4. 就労形態の変化に対応した社会保険制度設計のための実情把握と分析

    年金数理モデルを用いて非正規雇用の拡大が年金制度を通じて所得分配に及ぼす影響を分析したほか,第3 号被保険者の扱いを変更した場合の年金財政への影響をシミュレーションした。また,企業に対して独自にヒアリング調査を実施し,就労形態多様化の実態を探った。

  5. 未納・未加入と無年金との関係に関する研究

    本研究事業の一環として行われた『女性のライフスタイルと年金に関する調査』と厚生労働省『平成10 年公的年金加入状況等調査』のデータを使用して実証分析を行った。

  6. シミュレーション分析

    経済的要因を考慮した人口予測の信頼性とその年金財政に与える影響について試算をした。

(3 )研究会の構成員

担当部長
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
所内担当
阿部 彩(国際関係部第2 室長),白波瀬佐和子(社会保障応用分析研究部第2 室長),
大石亜希子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),山本克也(同部研究員)

(4 )研究成果の公表

 各分担テーマに沿って分析を行い,報告書として取りまとめた。
 さらに,既存研究サーベイについては,『季刊社会保障研究』(第37 巻第4 号)の特集として14 年3 月末に刊行され,関係各方面に配布した。
 「公的年金が労働供給に及ぼす影響と所得保障のあり方に関する研究」における英文論文については,研究成果を平成14 年5 月のNBER (全米経済研究所)の国際ワークショップで報告し,同様のアプローチで研究を進めている各国との国際比較および意見交換を行った。参加各国のペーパーは,全体を取りまとめてUniversity of Chicago Press から書籍として刊行される予定である。
 この他の研究成果については,平成15 年夏にワークショップを開催し,さらに分析を進めた上で,国立社会保障・人口問題研究所の機関誌『季刊社会保障研究』第39 巻第3 号の特集として公表される予定である。






15 実質社会保障支出に関する研究−国際比較の視点から−(平成13 〜14 年度)

(1 )研究目的

 OECD では,「実質社会支出」(Net Social Expenditures )の研究を進めており,その重要性は平成12 年に報告書をまとめた「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」においても指摘された。社会保障費の国際比較では,給付のみならず税制や民間への権限の委譲等など,総合的な「移転」をみる必要がある。
 本研究においては,現在各国際機関がとりまとめている諸外国の社会保障給付費の違いを検証する。そして「実質社会支出」の議論を日本の制度に照らし併せて検討し,そこから日本の社会保障制度の特徴を明らかにする。
 1980 年代より,先進諸国において社会保障費の増加が重い社会的負担として認識されるようになった。1992年OECD 厚生大臣会議で,各国の社会保障費の実態を把握するための国際統計の必要性が指摘され,OECD は調査を経て1999 年社会支出統計として刊行を開始した。一方,ILO (国際労働機関)では,1949 年以来「社会保障給付費」として集計してきた費用の見直しをおこない,1994 年の数値より「機能別分類」を採用した新しい社会保障費統計を1999 年より公表しはじめた。ILO とOECD の新基準の採用は,1996 年に欧州連合統計局(EURO-STAT)が社会保護支出統計のマニュアルとして刊行した,費用の国際比較基準に強い影響を受けている。
 国際機関の費用統計の改訂は,先進国とりわけ欧州における,制度や給付の「民営化」および租税支出などの新たな政策を,費用統計においてどのように評価していくかという問題意識のあらわれである。実質社会保障支出の研究では,諸外国の社会保障改革における政策の効果を費用統計の側面からとらえ,日本との比較を行う。

(2 )研究実施状況

 前年開催した公開講座の成果を和英2 カ国語でまとめた。分担及び協力研究者の執筆により,@カナダとアメリカのマイクロ・シミュレーション・モデルの応用についてAアメリカにおける住宅給付についてB地方自治体における住宅給付についてC社会保障支出の規模再考5 韓国における社会支出の動向と雇用に及ぼす波及効果に対する分析をまとめた。

(3 )研究会の構成員

担当部長
中嶋 潤(総合企画部長)
所内担当
勝又幸子(総合企画部第3 室長),宮里尚三(社会保障応用分析研究部研究員),
上枝朱美(客員研究員)
所外委員
清家 篤(慶應義塾大学教授),宮島 洋(東京大学教授),山田篤裕(慶應義塾大学専任講師),
金 明中(慶應義塾大学大学院博士課程)

(4 )研究成果の公表

 報告書において,各分担及び協力研究者の研究成果をとりまとめた。なお,実質社会保障支出の日本データの推計については,週刊社会保障研究において解説文の掲載を行った。地方自治体の社会支出の推計に関する研究と韓国の研究については,それぞれ学会及び外部研究会での報告を行った。






16 公的扶助システムのあり方に関する実証的・理論的研究(平成13 〜15 年度)

(1 )研究目的

 本研究は,公的扶助システムの機能と実態,社会保障システム全体における位置づけと役割に関して,理論的,実証的に分析することを目的とする。研究の第一の柱は,日本の生活保護受給者や低所得者の実態を実証的に分析し,今日的な意味における「貧困」の実態と公的扶助プログラムの効果を明らかにすることにある。第二の柱は,他の社会保障制度(年金・医療・失業保険・介護保険・福祉サービス)や公共政策(教育・雇用・住宅)との補完性・連関性を明らかにすることである。研究の第三の柱は,諸外国で着手されている公的扶助制度改革,ならびに,関連する経済学・哲学的議論を広く参照する一方で,我が国の実態に即した観点から,公的扶助システムのあり方について考察することである。

(2 )研究実施状況

 本年度は,総じて,@福祉国家システムに関する国際比較研究と内外における現地調査をもとに公的扶助制度の役割と位置付けに関する見取り図を描くこと,A貧困や最小限福祉に関する概念的な定義を行い,<基本的福祉>を捉えるための新しい指標を仮説的に構築すること,B貧困や福祉に関する国民意識を捉えるための予備的調査を行うことが可能となった。具体的には,1 月までに計5 回の研究会を開催し,分担研究者の研究報告の他に,星野信也(選別的普遍主義論),小笠原浩一(イギリスの社会的排除論),炭谷茂(ソーシャルインクルージョンの理念から見る日本社会の仮題),根岸毅宏(アメリカの公的扶助),岡部卓(被保護世帯の実態調査)など多彩な研究者・実務者からのヒアリングを行った。これら研究会には,厚生労働省の関係部局の行政官も出席し,研究と実務の両サイドからの活発な議論が行われた。また,6 月にはI 県におけるケースワーカーのヒアリング,平成15 年3 月にはK 県における生活保護監察官のヒアリングを行って,生活保護行政の実務の現状を知る機会をもった。また,平成15 年2 月には貧困・福祉に関する国民意識の予備調査が行われた。これらと併行して,研究課題の4 つのサブ・テーマに関する調査・研究が行われた。主要な研究成果は以下の通りである。@公的扶助と他の社会保障制度や公共政策との連関を捉える基本的な構図の作成,Aアメリカやイギリスの公的扶助改革の動向と「社会的排除」など新しい概念の研究,B障害者の就労インセンティブと公的扶助に関する他国の制度の調査,C貧困の定義に関するタウンゼントの相対的剥奪理論とアマルティア・センの潜在能力理論の比較検討,などである。

(3 )研究会の構成員

担当部長
松本勝明(社会保障応用分析研究部長)
所内担当
後藤玲子(総合企画部第2 室長),勝又幸子(同部第3 室長),阿部 彩(国際関係部第2 室長)
所外委員
橘木俊詔(京都大学教授),八田達夫(東京大学教授),埋橋孝文(日本女子大学教授),
菊池馨実(早稲田大学教授)

(4 )研究成果の公表

平成14 年度報告書にて公表した他,関連する学会・コンファレンスにて報告した。






17 福祉国家の規範とシステムに関する総合的研究(平成14 〜16 年)

(1 )研究目的

 従来,福祉国家研究の主眼は,一定の規範的諸観念を暗黙の前提としながら,福祉国家と呼ばれている国々を歴史的・機能的に類型化すること,あるいは,代替的な福祉改革案が利害の異なる集団に及ぼす厚生の相違を,実証的・経済学的に分析することにおかれた。それに対して本研究は,現代の主要な規範理論(政治哲学・社会理論)を実践的な見地から解読する作業を通じて,また,厚生経済学のパラダイムそれ自体を再構成する作業を通じて,福祉国家を支える法規範とそれを実現する社会保障システムのあるべき姿を探ることを目的とする。より具体的には,福祉国家に現存する法規範とシステムの多様なヴァリエーションの中から,表層的な相違と対立を越えて,互いを整合化していく観点を探ることにある。本研究の独創性は,異なる専門領域にある研究者各人の成果(知見,分析道具,理論枠組み,研究ネットワーク)を生かして,福祉国家を支える法規範とシステムに関する研究を総合的(規範的アプローチと事実解明的アプローチを併せ持つという意味で)かつ実践的に(現実の政策案にコミットするという意味で)推進する点にある。その最終的な目的は,各国の社会保障改革が共通に直面している本質的な問題と解決のための具体的な課題を浮き彫りにし,多元的かつグローバルな現代社会に相応しい福祉改革の方向性を展望することにある。

(2 )研究実施状況

 平成14 年度は,先行する2 つのプロジェクトに継続的に参加した研究協力者(経済哲学,社会哲学,法哲学,社会学,憲法学,社会保障法,数理経済学)を母体として,月1 回の研究報告会を開催しながら,課題1 ならびに課題2 を部分的に進行させた。具体的には,『季刊社会保障研究』の特集「福祉国家の規範理論」にて,分配的正義をめぐるリバタリアン,リベラルな平等主義,政治的リベラリズムなどの主張が比較され,それとの関連で各国の福祉国家改革に関する規範的な検討がなされた。続いて,福祉国家の比較制度分析,戦後の社会保障制度審議会の歴史,社会保障財政の現代的課題,コミュニティ再生政策などに関する研究報告や各国の社会保障改革の動向をもとに,社会保障・福祉政策の新たな分析視座がまとめられた。

(3 )研究会の構成員

担当部長
中嶋 潤(総合企画部長)
所内担当
後藤玲子(総合企画部第2 室長)
所外委員
鈴村興太郎(一橋大学経済研究所教授),塩野谷祐一(一橋大学名誉教授),
今田高俊(東京工業大学教授),盛山和夫(東京大学教授),山脇直司(東京大学大学院教授)

(4 )研究成果の公表

関連する学会・コンファレンスで研究成果を報告するとともに,学術雑誌の掲載に向けてディスカッション・ペーパーをまとめた。






18 韓国,台湾,シンガポール等における少子化と少子化対策に関する比較研究(平成14 〜16 年度)

(1 )研究目的

 本研究ではわが国との比較を交えながら,アジアNIES における少子化と少子化対策の動向と内外の格差について比較分析をするともに,少子化対策の潜在的効果を分析し,わが国の政府・地方自治体における少子化対策の策定・実施・評価に資することを目的とする。そのため,利用可能なデータの分析と並行して,アジアNIES と日本国内(少子・多子の地域・階層)において収集したデータによって内外の地域間・階層間格差を分析し,少子化の要因と少子化対策の潜在的効果を明らかにするとともに,わが国にとっての対策の選択肢を提示しようとするものである。

(2 )研究実施状況

本研究は平成14 年度から3 年間にわたり実施する予定であるが,初年度は国内における文献研究と専門家からのヒアリングを行うとともに,利用可能な内外のデータの予備的分析を行った上で,国内と一部の国・地域で現地調査を実施した。また,一部の国・地域については(財)アジア人口開発協会に対する委託により情報収集を行った。その結果,韓国,台湾については少子化対策の資料がある程度公開されているし,ミクロデータが利用可能であるため,分析に着手することができたが,シンガポール,香港については少子化対策の資料がほとんど公開されていないし,ミクロデータが利用不能であるし,マクロデータも大まかなものしか利用できないことが判明したため,詳細な比較分析が困難であることが明らかになった。しかし,わが国とは限らず外国でもアジアNIES における少子化と少子化対策について研究がほとんど行われていないことが明らかになったため,できる範囲で研究を進めて行けば,意義があることも明らかになった。

(3 )研究会の構成員

担当部長
小島 宏(国際関係部長)
所内担当
西岡八郎(人口構造研究部長),鈴木 透(国際関係部第3 室長),
佐々井 司(人口動向研究部第3 室長),清水昌人(人口構造研究部研究員)
所外委員
伊藤正一(関西学院大学教授)

(4 )研究会の開催状況

平成14 年6 月28
日本年度の研究計画
11 月11 日
シンガポールにおける政策資料・データの利用可能性に関するヒアリング
11 月19 日
韓国・シンガポールにおける少子化と少子化対策に関するヒアリング
平成15 年2 月13 日
「韓国における人口政策とリプロダクティブライツ」
講師山地久美子(神戸大学・韓国保健社会研究院)およびプロジェクト進捗状況報告
3 月17 日
韓国・台湾・シンガポールにおける少子化と少子化対策の状況に関するヒアリング
 なお,平成14 年11 月には恩賜財団母子愛育会を通じた推進事業により下記の2 名を招聘し当研究所(11 月19 日)と関西学院大学経済学部(11 月15 日)でMini-Workshop on Low Fertility and Policy Responses in Asia: Cases of Korea and Singapore を開催し,両国の少子化と少子化対策の実状について報告していただいた。

 YAP 博士には少子化の影響を緩和するためのの対策としての人口移動について,“Management of Labour Migration in Singapore”というテーマででも当研究所(11 月13 日)での講演をお願いした。
また,3 月には(財)アジア人口開発協会が招聘した下記の3 名によるMini-Workshop on Low Fertility in Asia: Cases of Korea, Taiwan and Hong Kong を当研究所(3 月17 日)で開催し,関西学院大学政策科学部(3 月19 日)でもそれらの講演を含む形でWorkshop を開催していただいた。

(5 )研究成果の公表

 平成14 年度の研究成果は厚生科学研究費補助金政策科学推進研究事業の平成14 年度報告書として公表した。また,上記の招聘外国人による報告論文改訂版が当研究所のウェッブジャーナルJournal of Population and Social Security: Population Study のSupplement to Volume 1, No.1 ≪Low Fertility and Social Policies≫ の第2 部≪Low Fertility and Social Policies in Asian NIES≫として掲載された。さらに,一部の研究成果は平成15 年度以降,学会等で発表される予定である。






19 家族構造や就労形態等の変化に対応した社会保障のあり方に関する総合的研究(平成14 〜16 年度)

(1 )研究目的

 本研究の目的は,家族構造や就労形態等の変化が社会保障を通じて所得分配に及ぼしている影響を把握し,社会経済的格差が生じる要因を分析することを通じて,効果的な社会保障のあり方を展望することにある。具体的には@家族構造・就労形態等の変化が所得分配に及ぼす影響,A生涯を通じた社会保障の所得分配に及ぼす影響,B人々の不平等感と@,Aから把握される不平等度との関係?の3 つのテーマについて分析する。

(2 )研究実施状況

 本年は3 年計画の初年度に当たり,個別のテーマについて先行研究サーベイを行うとともに,研究会を組織し,研究者相互の意見交換を行いながら初期的な分析結果を論文にとりまとめた。各分担研究項目における実施経過は以下の通り。

  1. 家族構造・就労形態等の変化が所得分配に及ぼす影響
  2. 生涯を通じた社会保障の所得分配に及ぼす影響

    上記の2 つのテーマについては,共同した研究会を組織して研究を進めた。『国民生活基礎調査』の個票データを利用し,未婚成人の経済状況や,世帯構造による高齢者の経済状況の違い,第3 号被保険者制度が有配偶女性の労働供給に及ぼす影響について分析した。また,『所得再分配調査』を用いて生涯所得ベースの所得再分配に社会保障制度がどのように関わっているかを明らかにした。さらに,次年度以降,目的外申請による個票データを利用することを念頭に,各種シミュレーション・モデルを構築するための予備的なプログラミングを行うとともに,使用するデータとマクロの統計データとの整合性について検討した。

  3. 所得分配と人々の不平等感との関係に関する社会学的分析

    社会学,教育学,経済学など多分野の研究者を含む学際的な研究会を組織して研究を進めた。所得を中心に,年齢,ジェンダー,職種,学歴なども含めた社会経済的格差について,『国民生活基礎調査』,『所得再分配調査』のマイクロデータや独自のアンケート調査のマイクロデータを用いて実証分析を行ったほか,機会の平等について理論的な考察も行った。

(3 )研究会の構成員

担当部長
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
所内担当
阿部 彩(国際関係部第2 室長),白波瀬佐和子(社会保障応用分析研究部第2 室長),
大石亜希子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),宮里尚三(社会保障応用分析研究部研究員)
所外委員
寺崎康博(東京理科大学教授),石田 浩(東京大学教授),稲垣誠一(農業者年金基金数理役),
小塩隆士(東京学芸大学助教授),苅谷剛彦(東京大学教授),
玄田有史(東京大学社会科学研究所助教授),佐藤俊樹(東京大学助教授),
田近栄治(一橋大学教授),古谷泉生(財務省財務総合政策研究所研究官),
松浦克己(横浜市立大学教授)

(4 )研究成果の公表

 本年は3 年計画の初年度に当たり,個別のテーマについて先行研究サーベイを行うとともに,研究会を組織し,研究者相互の意見交換を行いながら初期的な分析結果を論文に取りまとめた。今後,さらに分析を深め,国内外の学会で報告する他,いくつかのものについては英文論文にして海外の雑誌に投稿する予定である。こうした目標のもとに,次年度以降は『国民生活基礎調査』,『所得再分配調査』のより新しい年次の調査について目的外申請を行い,最新の所得分配状況を把握した上で政策提言を行う。また,研究協力者を海外に派遣し,海外の研究機関や研究者との連携をはかりながら国際的な所得分配研究の動向を本事業の研究に反映させる。最終年度には海外研究者を招聘したワークショップを開催する予定である。






20 高齢者の生活保障システムに関する国際比較研究(平成14 〜16 年度)

(1 )研究目的

 人口高齢化,経済の低成長等を背景に先進各国において社会保障の改革が進展している。それらの中には共通の政策もあれば各国独自の対応も見られる。これらを今後のわが国の社会保障改革の参考にするには,各国の既存制度や背景となる社会経済の状況を十分踏まえる必要がある。そのためには,当該国の研究機関との共同研究を実施することが最も有益な情報を得られる方法であると考えられる。特に日本の介護保険は画期的な制度であるにも拘わらず,政策的な影響を分析するためのデータ・ベースが必ずしも十分には整備されて来なかった。従って,本研究では,Brandeis 大学で確立された介護研究のためのパネル・データの手法を導入して,国際比較可能な日本のデータ・ベースを開発して,共同研究を実施することを目的とする。また,介護保険は社会的弱者に対して必ずしも十分な手だてがなされておらず,保険者である市町村では保険料減免の動きも出ている状況下で所得水準に配慮した研究が重要である。このような観点から,本研究では,高齢者の所得として重要な役割を果たす年金制度の国際比較研究,並びに年金制度等の公的所得移転と家族の生活保障機能の代替・補完関係に関する実証分析を行うこともその目的とする。

(2 )研究実施状況

本研究は3 年計画で以下の3 つのテーマを研究する。
  1. 高齢者の介護に対するサービス,費用負担と所得保障の関係に関するパネル・データの構築とこれを用いた実証分析:Brandeis 大学のSchneider Institute for Health Policy と共同で,日米で比較可能な形式で,高齢者の所得とインフォーマルケア,介護サービスの利用と費用負担に関するパネル・データの構築を行う。
  2. 高齢者の所得保障としての年金に関する5 カ国共同研究:日本の年金改革の議論にとって欠かすことのできない論点について,先進5 か国(アメリカ,イギリス,ドイツ,フランス,スウェーデン)でどのような議論がなされ,どのようなエビデンスが提示されているかについて,共通の論点を取り上げて国際比較を行う。
  3. 高齢者の生活保障における所得移転と家族の生活保障機能に関する共同研究:年金制度等の公的な所得移転と私的トランスファーによる家族の生活保障機能との関係を実証分析する。わが国の年金制度の発展は発展途上国に示唆を与えるという観点から,この研究の一環として,中国社会科学院「居民収入調査プロジェクト」(所得再分配調査に相当する調査)と連携することにより,このマイクロ・データを用いた実証分析の可能性についても検討する。

 一年目となる平成14 年度においては,上記三つのテーマそれぞれについて,次のような研究を行った。1については,北海道の奈井江町,浦臼町の協力を得て日米比較可能なパネル・データの作成を開始し,基本的な統計量の集計とその結果の考察を行った。2については,年金制度等の改革動向に関する質問項目をアメリカ,ドイツなど海外の研究者に送り,その結果を踏まえた論文を報告するワークショップを開催した。3については,年金制度等の公的トランスファーと私的トランスファーの役割を世帯構造などの属性を考慮した上で検討することのできる,等価尺度を用いた推計方法について考察を行った。また,中国社会科学院と協力して行う「居民収入調査」については,中国の社会保障制度の展開に関する文献研究に基づいて質問項目の検討を行い,これを踏まえた調査を平成14 年12 月に実施した。なお,調査票の集計と解析は平成15 年度に行う。

(3 )研究会の構成員

担当部長
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
所内担当
金子能宏(社会保障応用分析研究部第1 室長),宮里尚三(同部研究員)
山本克也(社会保障基礎\理論研究部研究員),周 燕飛(社会保障応用分析研究部客員研究員)
所外委員
池上直己(慶應義塾大学教授:主任研究者),清家 篤(慶應義塾大学教授),
岡 伸一(明治学院大学教授),三石博之(年金総合研究センター部長),
Harald Conrad (Deutsches Institut fur Japanstudien ),チャールズ・ユージ・ホリオカ(大阪大学教授),
跡田直澄(慶應義塾大学教授),澤田康幸(東京大学助教授),前川聡子(大阪経済大学専任講師),
吉田有里(甲南女子大学専任講師)

(4 )研究成果の公表

2については,平成14 年11 月22 日,平成15 年2 月21 日および3 月25 日に,研究成果の論文報告を行うWorkshopを開催した。3については,以下の論文,論考を公表した。金子能宏・何立新「中国の社会保障制度」広井良典・駒村康平編著『アジアの社会保障』(東京大学出版会),金子能宏「APEC のSocial Safety Net 国際会議報告(上)(下)」『週刊社会保障』第56 巻,通巻2203 号,2204 号(平成14 年9 月)






21 介護に関する調査・実証研究−世帯・地域との関係を探る−(平成14 〜16 年度)

(1 )研究目的

 介護サービスの量的・質的な充実は必要不可欠である。他方,介護サービスの供給体制の充足は利用者の行動を変化させ,長期的に日本の家族・世帯構造を変化させ,それがさらにまた供給構造の変化を促す可能性がある。
 今後における介護保険制度のあり方,介護サービスのあり方等を検討するに当たっては,介護保険制度の導入が介護サービスの普及等を通じて世帯や地域にどのような影響を与えてきたか,また,個人の介護サービス利用行動がどのような要因によって決定されてきたか等について,介護保険制度の導入前後を比較して実証的に分析することが必要である。
 そこで,本研究計画では以下の点について検討する。@家族介護の実態把握,A施設入(院)所・家族介護の選択に与える,世帯構造等の要因分析,B遠距離介護の実態把握,C介護サービス利用と就業選択の分析,D介護サービス事業者とボランティア組織の役割分担の実態把握,からなる。
 これらは厚生労働行政に直結する内容である。このように,本研究は介護保険導入後の介護の実態把握をもとに,これからの介護保障のあり方を考えるための有効な基礎資料を作成し,厚生労働行政に対する貢献を通じて国民の福祉の向上に資するものとすることを目的とする。

(2 )研究会の構成員

担当部長
須田康幸(総合企画部長,〜8 月)/中嶋 潤(総合企画部長,8 月〜)
所内担当
白波瀬佐和子(社会保障応用分析研究部第2 室長),泉田信行(同部研究員)

(3 )研究計画

平成14 年度
  1. 既存研究・民間調査の整理による介護保険制度の利用状況,及び介護における介護サービス事業者と民間非営利組織の役割分担に関する整理
  2. 既存指定・承認統計等の再集計を実施するための申請作業の実施及びそれらの統計を用いた介護サービス利用状況の実証的検討及び理論的問題に関する分析の実施
  3. 次年度実施予定の高齢者の介護サービス利用状況の実態調査の実施準備作業
平成15 年度
  1. 前年度に引き続いて,既存指定・承認統計等の再集計による介護サービス利用状況の実証的検討及び理論的問題に関する分析の実施
  2. 高齢者の介護サービス利用状況の実態調査の実施
  3. 前年度までの実証的研究,理論的分析の整理と実態調査の実施に基づいた報告書の作成

(4 )研究会の開催状況

平成14 年8 月30 日
内容:「高齢者の生活実態に関するアンケート」の進め方についてフリーディスカッションを行なった。
平成14 年10 月4 日
内容:東京工業大学坂野研究室が2001 月12 月に実施した「高齢者の地域での支えあいに関する調査」について,その調査設計と調査実施,データ分析結果について,議論し意見交換をした。
平成14 年10 月11 日
内容:「高齢者の生活実態に関するアンケート」調査項目の検討を行なった。既存の調査を網羅的に収集し,その中から利用可能な質問項目について議論を行なった。
平成14 年10 月25 日
内容:「高齢者の生活実態に関するアンケート」調査項目の検討に関して,被調査者の基本属性としてどのような項目を設定するかについて議論した。
平成14 年11 月8 日
内容:「高齢者の生活実態に関するアンケート」調査項目の検討について,主に子供との同居世帯,別居世帯について質問項目を変えるべきか,同一とすべき質問項目は何かを検討した。
平成14 年11 月27 日
内容:「高齢者の生活実態に関するアンケート」調査項目の検討について,受給している介護サービスの区分について議論した。
平成14 年12 月13 日
内容:「高齢者の生活実態に関するアンケート」調査項目の検討については,全般的な質問項目のチェック,偏り等について修正を行なった。
   国保データの使用方法等について議論を行なった。
平成14 年12 月24 日
内容:「高齢者の生活実態に関するアンケート」調査項目の再検討を行った。
平成15 年1 月15 日
内容:「高齢者の生活実態に関するアンケート」調査項目の最終的な確認
   国保データの集計表の検討
平成15 年2 月10 日
内容:「高齢者の生活実態に関するアンケート」プレ調査の打ち合わせ
平成15 年3 月20 日
内容:「高齢者の生活実態に関するアンケート」プレ調査結果の概要報告
   国民生活基礎調査の分析概要報告
   国保データの分析報告書最終版の報告

(5 )研究成果の公表

厚生科学研究費補助金政策科学推進研究事業報告書として公表した。






22 「世代とジェンダー」の視点から見た少子高齢社会に関する国際比較研究(平成14 〜16 年度)

(1 )研究の目的

 わが国では,最新の将来人口推計でも明らかなように少子化と高齢化が急激に進行し,社会保障制度全体の根幹を揺るがせているが,この問題は多かれ少なかれ先進諸国に共通する。先進諸国の少子化の進行は,広義の家族・家族観の変化と密接に関わり,少子化と長寿化がひき起こす高齢化はその家族・家族観の変化をひき起こすものと考えられる。本プロジェクトは,少子高齢化の進展と家族・家族観の変化の相互関係を「世代とジェンダー」という視点から国際比較的に分析するために,国連ヨーロッパ経済委員会(UNECE )人口部が企画中の国際比較調査研究プロジェクト「世代とジェンダー・プロジェクト(GGP )」に参加する。そのうえで,主として,このプロジェクトにおける国際比較調査「世代とジェンダー調査(GGS )」の実施集計分析を通じて,結婚・同棲を含むパートナー関係(特にジェンダー関係の視点), 子育て問題(ジェンダー関係と世代間関係の両方の視点),高齢者扶養問題(特に世代間関係の視点)の先進国間の共通性と日本的特徴を把握する。これによって先進国との比較という広い視野を踏まえたうえで,日本における未婚化・少子化の原因分析と政策提言,ならびに高齢者の自立と私的・公的扶養のあり方に関する政策提言に資することを目指す。

(2 )研究実施状況

 平成14 年度に実施された研究は,大きく次の2 点にまとめることができる。第1 は,国連ヨーロッパ経済委員会(UNECE )人口部と連携をとり,「世代とジェンダー調査」(GGS )の調査票作成を担当するオランダ学際人口研究所,ドイツ・マックスプランク研究所と交流し,意見交換を行った。国際比較調査の原型は1 時間をめどとした面接法を採用するが,日本では予算や人材確保の点から実現が難しく,留置自計方式を用いることを決定した。それに伴って,留置法に適する質問構成の見直し,日本の現状に合った質問項目を選び出し,国際比較調査データとしても活用できるような日本版調査となるよう調査項目の選定,調査の再構成を行ってきた。現在も継続中である。2003 年2 月24 日から26 日にかけて開催されたIWG (Informal Working Group )ミーティングで,日本を含めオーストリア,ベルギー,ドイツ,ロシアがプロジェクトの参加を明らかにしている。
第2 は,GGS 調査企画とともに,ジェンダーと世代に関する既存研究の整理と今後の研究枠組みを検討する作業も行った。大きくは,家族行動・家族構造に関する研究動向,少子化と就業行動に関する研究,社会政策と社会関係資本に関する研究等について国際比較の枠組みで整理し,検討した。この作業を通して,GGS 分析にあたっての中心となる分析枠組み構築のバックデータとした。

(3 )研究会の構成員

担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
白波瀬佐和子(社会保障応用分析研究部第2 室長),福田亘孝(人口動向研究部第1 室長),
赤地麻由子(人口構造研究部研究員),星 敦士(同部客員研究員)
所外委員
津谷典子(慶應義塾大学教授),田渕六郎(名古屋大学専任講師),岩間暁子(和光大学助教授),
吉田千鶴(関東学院大学専任講師)





23 少子化の新局面と家族・労働政策の対応に関する研究(平成14 〜16 年度)

(1 )研究目的

 本研究は,「日本の将来推計人口(平成14 年1 月)」において明らかになった,出生率低下における新たな局面,すなわち結婚した夫婦の出生率低下傾向について,その動向と要因を探るとともに,今後の結婚や出生動向を社会学や経済学などの学問的な見地から解析し,また少子化への対応について家族労働政策の視点から効果的な施策メニューを提言することを目的としている。具体的には,

  1. 出生率の持続的な低下と夫婦出生力の低下という少子化の新たな局面について,人口学的,社会経済学的な要因分析を進めるとともに,将来の出生率を予測するための人口学的,計量経済学的モデル開発を行い,経済成長や社会意識の変化に伴う出生率の見通しなどを検討する(出生の人口・社会経済分析)。
  2. 女子の労働供給をはじめとする労働市場の環境や結婚の動向をマクロとミクロのデータから検証し,その構造的要因を明らかにし,今後の少子化対策への政策提言を行う(女子労働と出生分析)。
  3. 国民の少子化や高齢化に関する意識を把握し,有効な少子化対策のメニューを構築するためのアンケート調査を行うとともに,地域における少子化対策の具体策を検討し,政策提言する(結婚・出生に関する国民意識調査)。

(2 )研究計画

  1. 出生の人口・社会経済分析

    1 )マクロデータに基づく計量経済学的モデル研究と2 )年齢別初婚率や年齢別出生率など人口学的マクロデータの数理モデル研究,ならびに3 )国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査個票データに基づく多変量解析によって研究が進められた。

  2. 女子労働と出生分析

    この研究では,出生動向基本調査などの個票データや保育などのマクロデータを用いた多変量解析が行われ,育児休業制度および出生率の地域差の分析が行われた。

  3. 結婚・出生に関する国民意識調査

    選定された地方自治体の標本抽出調査によって,標本データを得た。このデータに基づき多重集計と多変量分析を実施した。

(3 )平成14 年度研究の内容

  1. 出生の人口・社会経済分析

     結婚と夫婦出生力の低下について,1 )人口学的分析をより詳細に行うとともに,2 )マクロ経済の動向と結婚・出生行動,3 )出生力の社会学的,経済学的分析を行った。
     1 )については,出生力低下が結婚・出生過程の途上のコーホートが主体となっている ため,将来推計の手法を応用し,結婚過程途上の若い世代についてもコーホート的視点から行動変化を捉える手法を用い分析した。分析の結果,初婚タイミングの変化(晩婚化)は1952 年生まれ世代(2003 年51 歳)から始まり,1964 年生まれ世代(39 歳)まで急速な晩婚化が生じた。しかし,1965 年生まれ(40 歳)からは晩婚化は終息に向かっているように見える。生涯未婚率は1959 年生まれ(44 歳)から上昇が開始され,いわゆる非婚化が始まっている。そしてその後もむしろ加速的に上昇を続けている。この結果によれば,これまでの少子化に関わった世代はその結婚行動パターンから3 つのフェーズに分けることができる。(I )晩婚化のみ進行した世代(1952 〜58 年生まれ),(II )晩婚化と非婚化が同時に進んだ世代(1959 〜64 年生まれ),(II )(結果として)非婚化のみが生じている世代(1965 年生まれ以降)。I 期の世代は結婚を先送りしたものの,その後に結婚したために非婚化は生じなかった。II 期では,晩婚化がさらに進んだが,高い年齢層での結婚の取り戻しに一定の限界があったため先延ばしした結婚に遺失が生じ,非婚化を伴うようになった。すなわち,II 期の晩婚化は,著しい晩婚化の結果生じたものであったといえる。そして,III 期の世代に至ると先延ばしで結婚率の下がる若い年齢層だけではなく,「晩婚化」ならば本来上昇するべき高い年齢層でも結婚率が下がり始めている。すなわち,このフェーズの非婚化はそれまでのようなタイミングの調節とは関わりなく,本格的な非婚化が始まったと見ることができる。  上記の結婚変動は,これまで女性の相対的高学歴化が,女性の経済的自立を助長させ,それが結婚から得られる利益を減じているとの仮説,また上方婚志向が維持されていることによって,高学歴女性と低学歴男性が望ましい配偶者にめぐりあえない結婚難に直面しているとの仮説などが提示されてきた。後者に関しては実証的に明らかにしているものがほとんどない。そこで,過去の出生動向基本調査のプーリングデータを用いて,日本における婚姻率低下に,未婚男女の属性の周辺分布および結婚相手の選択条件に絡む構造的変化がどの程度影響しているのかを結婚生命表を用いて明らかにすることを試みた。年齢別・教育水準別の婚姻率低下を結婚牽引の変化と結婚市場構造の変化に分解した。1975 年と1995 年の教育水準別の結婚生命表を作成し,教育水準別の未婚者割合の上昇を結婚牽引の変化と市場構造変化に分解する。結婚牽引と結婚市場構造について反事実的な結婚表を作成し,現実の結婚表と比較することによって,それぞれの効果の寄与を測定した。その結果,結婚市場におけるミスマッチは高学歴女性の婚姻率低下には影響を及ぼしていたが,低学歴男性の結婚難は引き起こしてはおらず,むしろ市場構造変化は有利になっていることが明らかになった。結婚の需要面のみが議論されるなかで,このような構造的変化の影響が実証されたことの意味は大きい。ただし,全体としては結婚牽引の変化の影響が大きいことは明らかであり,そのメカニズムを捉える分析が今後の課題である。
     さらに,結婚に関しては離婚や再婚の出生率に及ぼす影響について,生命表形式による分析を行い,近年の離婚や再婚を含む結婚過程の分析を進めた。
     2 )に関しては,マクロ経済の代表的な指標である経済成長率や失業率を取り上げ,時系列分析の手法を適用して出生や結婚行動に及ぼす影響を分析することである。最初に,わが国の出生・結婚動向を示し,マクロ経済環境と出生・結婚との関係についていくつかの仮説を提示する。次に,年次データを利用して,分析の対象とする変数の時系列的性質を確認した後,人口変動とマクロ経済変数の関係をエラー修正メカニズムで表現する。出生や結婚といった事象は年次ベースで捉えられているが,しかし時系列分析の手法を適用するには年次データにおける小標本バイアスの問題が避けられない。年次データを用いた分析では,失業率の上昇は初婚率に負の影響を,また経済成長率の上昇も初婚率に負の影響を及ぼすことが示された。とりわけ,失業率の変動が結婚行動に及ぼすインパクトを明らかにする点は,本研究のひとつの成果であると言える。また,出生行動に関しては,男子失業率とは負の,また経済成長率とは正の関係があることが示された。この点はさまざまに議論されていたことでもあるが,時系列データの視点からも有意な結果が得られた。
     しかしながら,年次データでは観測値数が限られており,時系列分析の手法に十分馴染まない側面もある。そこで,婚姻率と出生率の四半期データを作成し,上記の結果を追試したところほぼ同様な結論を得た。さらに,出生と結婚との相互依存関係を考慮した5 つの変数の組み合わせから,出生率は婚姻率,経済成長率,女子失業率と正の関係が,また男子失業率と負の関係があることが見いだされた。強調されるべきことは,インパルス応答の結果などから,経済成長は長期的に見て出生率に正の影響を与えていることが確認されたことである。したがって,経済成長の低迷は出生率を低下させる効果を持つ可能性が強い。
     結婚や出生行動は人口学的な側面から決定されると同時に,マクロ経済環境もこうした行動に影響を及ぼす。従来はクロスセクション・データを用いてこのような分析が行われてきたが,時系列データを利用して有意な結果が得られたという点も述べておきたい。
     3 )については,結婚(初婚)と出生とそれらのタイミングに関する経済社会的要因について分析を行った。出生コーホートが新しいほど結婚を遅らせる傾向がある。次に,時間非依存型説明変数による説明力と時間依存型説明変数による説明力の両方を同時に推定した。その結果,ホワイトカラーである就業状態が実は結婚を促進する効果のあることが分かった。逆に最も結婚しにくい職種は農林漁業であった。パラサイトシングルについても分析し,同居している場合は,別居している場合と比べて結婚する確率が低く,それ らの確率には2 倍以上の差が推定された。一方,母親が完全に死亡してしまっている場合は,別居の場合よりもさらに結婚がしにくいという結果が得られた。
     さらに,本研究では,女性が結婚・出産というライフイベントを経験することによって発生する「機会費用」に着目し,その推定を試みる。研究初年度である今年度は,就業構造基本調査等を用いた女子労働の実態把握と文献サーベイを行なった。次年度からは,日本の機会費用を独自に推計し,諸外国の結果とも合わせて,機会費用を軽減するにはどういった政策展開が必要であるか検討する。そのため,一定の仮定の下で四半期データを作成し,同様な検証を行うこととする。

  2. 女子労働と出生分析

     初年度の研究は,育児休業制度および出生率の地域差の二つに焦点を当て,分析を行った。第1 の育児休業制度については,1 )これをどのような人が利用しているのか,2 )結婚や出産,継続就業にどのような影響がみられるのか,そして3 )どのような問題点を抱えているのかについて,分析を行った。その結果,1 )については,高学歴で長期に勤続を重ねてきた賃金の高い人的資本ストックの多い人が利用する確率が高く,復職後も高い賃金を受け取っている。2 )に関しては,育児休業制度の備わっている企業では,継続就業確率は高いものの,結婚確率が有意に高いとはいえないという結果を得た。結婚関数の推定結果では,大都市以外に居住する姉妹の人数の多い人が早く結婚する一方,就業関数の推定結果からは通勤時間の短い官公庁や小規模企業に勤める人の継続就業率が高いことが示された。3 )の育児休業制度の抱える問題点については,育児休業中のカップルについてヒアリングした結果,復職後の保育施設の利用に関する不安を持っている人が多く,育児休業制度と育児資源の両者がともに整備されることにより,出産の不安を取り除けることが示唆された。また聞き取り調査では,子供を持つ時期については妻の意思が優先され,地域の利用可能な育児資源を検討したうえで転居が行われるケースが多くみられる一方,育児休業取得者に対する人事上の扱いが不明確な企業が多く,取得した期間以上に昇給が遅れると予想しているケースもしばしば存在した。第2 の地域分析では,他の経済要因をコントロールした上で,地域特性を示す変数を独立変数として導入したところ,過疎化の進んだ地域では合計特殊出生率は高く,人口集中地域では低い傾向がみられた。しかし自治体別保育所数と合計特殊出生率の間には今のところ明らかな相関関係は確認され

  3. 出生に関する国民意識調査

     この調査は,日本における結婚・出生行動の実態,および少子化をめぐる意識や地域レベルの政策ニーズを把握することを目的として行なわれた。研究初年度は,これまで実施されている各種の調査の検討を踏まえ,調査項目の検討を行い,調査実施のための調査票を設計した。また,この調査が市区町村自治体と連携して実施するため,調査対象自治体を選定し,調査を実施した。今年度は,東京都品川区,千葉県印旛郡栄町,埼玉県秩父市の協力を得て調査を実施した。  上記目的に合わせて,調査票は夫婦票,独身者票の二種類を作成し,調査は郵送法によって行なった。品川区,栄町は回収・データ納品まで終了しており,秩父市は実施準備中である。調査の終了した品川区,栄町の回収状況は,品川区で夫婦票配布2000 票,有効回収票659 票(有効回収率33.0 %),独身票配布3000票,有効回収票520 票(同17.3 %)であった。栄町は,夫婦票配布500 票,有効回収票221 票(有効回収率44.2 %),独身票配布500 票,有効回収票123 票(同24.6 %)となっている。また,秩父市は,夫婦2000 票,独身者3000 票で行なう計画で作業が進められている。
     調査票に基づく分析は,研究2 年度目に予定する追加調査自治体を含め,今後分析を進める。

(4 )研究会の構成員

@ 結婚・出生力の人口学的,社会経済学的モデル開発研究班
担当部長
高橋重郷(人口動向研究部長:主任研究者)
所内担当
金子隆一(総合企画部第4 室長),大石亜希子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),
加藤久和(同部第4 室長),岩澤美帆(人口動向研究部研究員),
守泉理恵(客員研究員)
所外委員
大淵 寛(中央大学教授),和田光平(中央大学助教授),永瀬伸子(お茶の水女子大学助教授),
ジェームズ・レイモ(ウィスコンシン大学助教授),新谷由里子(武蔵野女子大学非常勤講師)
A 女子労働と出生力の実証研究班
担当部長
小島 宏(国際関係部長)
所内担当
佐々井 司(人口動向研究部第3 室長)
所外委員
樋口美雄(慶應義塾大学教授:分担研究者),駿河輝和(大阪府立大学教授),
阿部正浩(獨協大学助教授),北村行伸(一橋大学助教授),岸 智子(南山大学助教授),
仙田幸子(獨協大学専任講師)
B アンケート調査による意識調査研究班
所内担当
加藤久和(社会保障基礎理論研究部第4 室長),岩澤美帆(人口動向研究部研究員),
守泉理恵(客員研究員)
所外担当
安蔵伸治(明治大学教授:分担研究者),兼清弘之(明治大学教授),吉田良正(朝日大学教授),
坂井博通(埼玉県立大学助教授),和田光平(中央大学助教授),
新谷由里子(武蔵野女子大学非常勤講師),辻 明子(早稲田大学助手),
別府志海(麗澤大学大学院ポストドクター),福田節也(明治大学大学院生)





24 社会保障負担のあり方に関する研究(平成14 〜15 年度)

(1 )研究目的

 少子高齢化が進展する中で,公平で安定的な社会保障制度を構築するため,中長期的な観点から,制度横断的な検討を行うことが求められている。制度横断的な検討を行うに当たって,給付面からのアプローチは困難であることから,負担面から検討を行う必要がある。社会保障負担については,現在,職種間,世代間,被扶養者の有無などで負担の不公平感があるとともに,保険料負担が増大していく中,所得のみの賦課には負担過重感が生じている。そこで,本研究では,公平で安定的な社会保障制度を構築するため,社会保障負担のあり方について制度横断的な検討を行うものである。特に,今後増大していく社会保障費用をどのように国民が公平に負担していくのが望ましいかという観点から,年金,医療,介護などあるべき社会保険の構造,所得・消費・資産のバランスのとれた総合的な負担能力に応じた負担賦課のあり方,各種人的控除を変更した場合の社会保障への影響,諸外国の社会保障における負担賦課の方法について,マクロ分析とミクロ分析を組合せて実施することを目的とする。

(2 )研究実施状況

本研究では,研究目的に応じて次のような四つのテーマを設けて研究を行う。

  1. 公平な社会保障費用の負担という観点から,社会保険のプロトタイプから見たあるべき社会保険の構造について,被用者保険と地域保険の分立の解消を前提とし,年金,医療,介護,生活保護なども含めたモデル(例えば世代会計の応用など)により,シミュレーションを行う。
  2. 所得・消費・資産のバランスのとれた総合的な負担能力に応じた負担賦課のあり方について,世代重複モデル(OLG モデル)を用いた分析もあわせて行う。
  3. 経済財政諮問会議などにおける税制の議論を踏まえ,高齢者や子を持つ親などの負担能力を考慮して設けられている各種人的控除(配偶者控除,扶養控除など)や公的年金等控除を変更した場合の社会保障への影響,およびパート労働者に対して厚生年金適用を拡大した場合の影響について,マクロ・ミクロ両面から試算を行う。
  4. 諸外国の社会保障における負担賦課の方法について調査研究を行う。

平成14 年度は,2 年計画の1 年目なので,1については,プロトタイプとなる世代会計モデルを作成した。2については,4 つの所得階層をもつ世代重複モデルを用いて,厚生年金の財源選択に関するシミュレーション分析を行った。3については,パートタイム労働者への厚生年金適用拡大の影響について,マクロ計量経済モデルを用いた推計を行った。4については,ドイツとフランスを対象に海外調査を実施した。

(3 )研究会の構成員

担当部長
松本勝明(社会保障応用分析研究部長)
所内担当
勝又幸子(総合企画部第3 室長),大石亜希子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),
金子能宏(社会保障応用分析研究部第1 室長),山本克也(社会保障基礎理論研究部研究員),
宮里尚三(社会保障応用分析研究部研究員)
所外委員
江口隆裕(筑波大学教授)





25 医療負担のあり方が医療需要と健康・福祉の水準に及ぼす影響に関する研究(平成14 〜15 年度)

(1 )研究目的

 高齢社会対策大綱が示したように,負担能力に応じて医療負担を求めると同時に,低所得者に配慮する医療負担のあり方を検討するためには,所得格差の要因と医療需要に関連する所得格差の結果を,引退による所得低下や失業率の増加に伴う労働市場の変化に留意する必要がある。高齢者の引退過程に注目すると,再雇用,嘱託,パートタイム労働など,若年層と同様に就業形態の多様化が見られる。したがって,低所得になりやすい共通性を有している高齢者と若年者に対する医療負担が医療需要に及ぼす影響を実証分析することは,低所得者に配慮した医療負担のあり方を検討する上で,基礎的な知見として有益である。同時に,健康・福祉水準は医療需要に対応する医療サービス供給により変化するので,所得格差に配慮した望ましい負担のあり方を検討するためには,こうした健康・福祉水準に及ぼす影響も分析対象に含めることが望ましい。この点については,カナダやアメリカで行われている所得水準などの経済的要因と健康・福祉水準との関係に関する新しい実証分析やOECD の医療パフォーマンス計測プロジェクトから学ぶことが必要である。
 したがって,本研究では,引退や労働需給の変化によって低所得になる場合の多い高齢者と若年者に対して,医療負担と受診行動との関係についてアンケート調査とその解析を行い,上記の課題に応える新たな知見を明らかにすることにより,社会保障政策に多様な選択肢を提供することを目的とする。同時に,こうした選択肢が国民の健康・福祉の向上に寄与するように,所得格差に配慮した医療負担と医療サービスのあり方に関する実証分析を統計データを用いて行い,望ましい医療パフォーマンスをもたらす選択肢の提示に努めることとする。

(2 )研究実施状況

 本研究は2 年計画で以下の4 つのテーマを研究する。どのテーマについても,1 年目はまず先行研究のサーベイを行い,1 年目後半より利用可能な個票データの集計とアンケート調査の企画を行う。2 年目は,利用可能な個票データの実証分析を行うとともにアンケート調査を実施し,その結果を考察する。また,これらの結果をもとに,カナダ,アメリカ,OECD などとの比較研究を行う。

  1. 医療関連支出に関する分析
  2. 所得格差など医療負担の負担能力の格差と健康の不平等度に関する分析
  3. 医療施設利用状況からみた医療需要と健康・福祉水準の格差に関する分析
  4. 引退や労働需給の変化により所得低下に直面しやすい高齢者と若年者に対する医療負担と医療需要に関する調査
・平成14 年度の研究成果

 医療関連支出に関する分析および所得格差など医療負担の負担能力格差と健康の不平等度に関する分析については,文献サーベイを行うとともに,所得階層別,世帯属性別に「国民生活基礎調査」を用いて分析を行う必要があるため同調査の使用申請を行い,使用許可を得て,基本的な再集計と実証分析を行った。
 医療施設利用状況からみた医療需要と健康・福祉水準の格差に関する分析については,「医療施設静態調査」を経時的に再集計して,地域間の所得不平等と受診状況との関連から地域間健康不平等度について検証する分析手法を検討するため,文献サーベイを行った。
 引退や労働需給の変化により所得低下に直面しやすい高齢者と若年者に対する医療負担と医療需要に関する調査については,アンケート調査票の立案などその企画調査を行った。
 医療負担のあり方と健康福祉の水準に関する国際比較研究については,「カナダの医療における将来のあり方に関する王立委員会」会長のロイ・ロマノー氏(前サスカチワン州首相)と同委員会事務局長マシャルドン博士(レジーナ大学教授)にヒアリングを行うとともに,同委員会の報告書に基づく比較研究を行った。また,中高年者の健康福祉の水準に影響を及ぼす失業などの経済問題とストレスや自殺との関連性に留意して,外国研究者招聘事業によりスウェーデン国立心の病と自殺防止・研究対策センター長のダヌータ・バッセルマン博士を招聘して,ストレスや自殺の予防に関する海外の研究動向と日本への示唆に関するワークショップを開催した。

(3 )研究会の構成員

担当部長
松本勝明(社会保障応用分析研究部長)
所内担当
金子能宏(社会保障応用分析研究部第1 室長),小島克久(同部第3 室長)
所外委員
大日康史(大阪大学社会経済研究所助教授),山田篤裕(慶應義塾大学専任講師)

(4 )研究成果の公表

 平成15 年度に総合報告書をとりまとめるとともに,国立社会保障・人口問題研究所の機関誌などにおいて研究成果を一般に公表する。




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