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これまで,社会保障は政策的問題として専ら論じられてきた。法学,経済学,政治学等の専門的学問は,社会保障を自らの学問的手法の応用領域とみなし,個別的論点に関する局面的な貢献にとどまっていた。本研究の目的は,社会保障の問題を,人間生活の諸善(goods,well- being )に対する権利や義務の社会的配分の問題としてとらえ,社会保障制度を,権利や義務の社会的配分システムの一環としてとらえる正義論的フレームワークを構築することにある。それは,哲学,倫理学,法学,政治学との連携をめざす現代の規範的経済学と問題関心を共有するものであり,本研究は,そのような総合的社会科学の構想を主導する役割を果たす。
(2 )研究会の構成員主査:塩野谷祐一(国立社会保障・人口問題研究所長) 後藤玲子(総合企画部第2 室長)(3 )研究計画
3年度プロジェクトの最終年度に当たる本年は,研究成果を報告書にまとめ上げることを目標として研究会を開催する。また,内外の学会・コンファレンスにて研究報告を行う。さらに,研究成果の一部を平成11 年3 月に開催される厚生政策セミナーに反映させる。
(4 )活動状況2 月に1 回のペースで研究会を開催したほか,筑波大学,慶応大学等で開催されたコンファレンスで研究報告を行った。
(5 )研究成果以下の3 部からなる報告書を作成する。I 部は,「経済と倫理」という単行本の一部として発表予定。II 部,III 部は,各々論文として発表予定。
I 部:福祉国家の哲学的基礎
II 部:規範経済学に基づく福祉国家論
III 部:公正な社会保障システム
家族政策及び労働政策が出生率及び人口に及ぼす影響に関する研究(平成8〜10年度)
(1 )研究目的,方法及び経過
今日,各方面で,出生率低下にどのように対処すべきか政策的論議が高まっているが,この問題については,1 出生率低下の要因,そのうち政策的に操作可能な変数2 政府による政策介入の是非3 出生・家族・労働政策の出生率向上効果,など検討すべき課題は多い。本研究は,今日の出生率低下の主要な要因と考えられる四つの要因(1 結婚・出産の住宅コスト2 育児の経済的コスト3 女子労働4 ジェンダー関係)をとりあげ,それについて理論的,実証的検討を加えるとともに,出生力の総合化モデルを構築することによって,日本では従来ほとんど行われてこなかった出生率に対する政策変数の効果を測定することを目的としている。
こうした政策志向的モデルを構築し,そこに実証データを適用することで,各種の保育・労働・住宅施策をどの程度実施すればどの程度の政策効果があるかを探り出すというアプローチは,実証的データを踏まえた上で政策提言をひき出すことを目的とする限り,今日の日本では最も有効な方法と考えられる。
本研究では,低出生率の主要な四つの要因について,入手可能なデータを用いて統計的分析を行い,これらの実証分析の結果を踏まえて出生力の総合化モデルを構築し政策効果の計量的分析を行うとともに,少子化への家族政策,労働政策両面からの政策的含意を盛り込んだ報告書を取りまとめた。
(平成8 〜10 年度)
(1 )研究目的社会保障の規模の拡大に伴い,社会保障が国民経済に与える影響や社会保障負担の在り方が重要な課題となっている。本研究は,社会保障各制度の効率性や公平性の観点から社会保障負担に焦点を当て,租税・保険料・利用者負担の組合せや事業主負担の大きさについて,掲げる福祉国家モデルとの関連においてその在り方を研究することを目的とする。
(2 )研究計画研究班を設けて研究の方向や枠組を議論し,研究を進めた。社会保障の負担に関して国内で得られる資料を収集し,The Brookings Institution やLondon School of Economics (LSE )の研究者とも議論する機会をもった。研究班メンバーのレポートを基に研究報告書をとりまとめた。
(3 )研究会の構成員主査 井堀利宏(東京大学教授)(4 )平成10 年度研究
所内担当者 府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長),寺井公子(客員研究員)
日英で年金制度や医療費の低さは共通であるが,高齢化の影響や民間部門の役割では両国に大きな差がある。イギリスの社会支出の低さは,物価スライドによる給付水準の低下と広範な資産調査付給付によるdisincentives という二つのコストを伴っている。公的年金の改革ではイギリスが先を行き,介護保険では日本が先を行っている。
1990 年代に入ってどの先進国でも社会保障改革が重要なテーマとなっている。アメリカ,イギリス,ドイツ,フランスのいずれの国でも税や社会保障負担をこれ以上増やさずに社会保障の機能を維持する方法が模索されている。負担の問題については,負担のマクロ的規模以外に,負担の構造や負担と給付の公平という視点が重要である。平成9 年度にはThe Brookings Institution と,平成10 年度にはLSE と研究協力を行ったが,今後とも多様な形態の「共同研究」を行っていくことの重要性が示された。
社会保障費統計3 系列の整合化・連結化に関する調査研究(平成8 〜10 年度)
(1 )研究目的本格的な高齢社会の到来を迎え社会保障制度の再構築が求められているが,このためには社会保障全体の給付と負担の構造及び国民経済全体に占める社会保障の位置付けを明確にとらえ,分析することが急務となっている。こうした中で,我が国の社会保障費統計は現状で3 系列(1 旧社会保障研究所ILO ベース2 社会保障制度審議会事務局社会保障関係総費用ベース 3 経済企画庁国民経済計算SNA ベース)が併存している。また,OECD は「社会支出統計(SOCX )」の構築過程にある。本研究は,上記3 系列の概念・範囲・計数等の整合化及び各体系の連結化を図る方途を探るとともに,OECD の社会支出統計等の国際比較データや国連によるSNA の改定作業など,新たな国際的側面への日本の対応策を提示することを目的とする。
(2 )研究会の構成員報告書を作成する。
政策科学推進研究事業の在り方に関する研究(平成10 年度)
(1 )研究目的
厚生科学研究費補助金政策科学推進研究事業は,厚生科学の枠組みの中で,社会保障及び人口問題に係る政策,保健医療福祉に関する総合的な情報化や地域政策の推進その他厚生行政の企画及び効率的な推進に資することを目的とする研究事業として,平成10 年度から始められた。この研究事業は,今後,厚生行政の中で重要性が増していくと考えられる少子・高齢社会における社会保障に関する諸課題や,少子化対策等を始めとする人口問題についての社会科学研究に対応できる貴重な研究事業である。少子高齢化の一層の進行が予想される中で,この研究事業における基礎的研究や政策提言,政策評価等に関する研究の蓄積は,ますます重要性を帯びてくるであろう。
そこで,本研究では,こうした状況を踏まえ,政策科学推進研究事業の中心である社会保障及び人口問題について,今後の研究課題を整理するとともに,研究事業の進め方や研究評価の在り方等について考察することを目的とする。
厚生科学研究費補助金の概要と政策科学推進研究事業の位置づけ,政策科学推進研究を取り巻く状況の変化と社会保障及び人口問題に関する政策課題,社会保障及び人口問題に関する今後の研究課題,政策科学推進研究事業の進め方と今後の課題等について取りまとめた報告書を作成した。
(3 )研究会の構成員主任研究者 阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所副所長) 分担研究者 増田雅暢(総合企画部第1 室長)
先進諸国における家族政策と雇用政策の関係(平成8 〜10 年度)
(1 )研究概要
本研究では平成8 〜10 年度にわたり,先進諸国における家族政策と雇用政策の関係について,主として国際機関・各国政府による刊行物と関連分野の研究者による学術書・論文に依拠しながら,両親による家庭と仕事の両立を支援するための施策間の調整,家族政策の失業対策手段化,家族政策と人的資本投資政策の役割分担の三つの側面を分析し,我が国にとっての政策的含意を探った。8 年度はそのうちでもジェンダー(両性)政策を含めた両立支援政策に焦点を合わせ,9 年度は家族政策の雇用政策化,特に失業対策化に焦点を合わせた。
10 年度は家族政策と人的資本投資政策の役割分担に関する文献研究を行った。また,研究対象としては,EU諸国のうちで最近新たな施策の展開が見られる4 か国を扱い,若干の国際比較を行いながら我が国にとっての政策的含意を探ろうとした。その際,個票データの実証分析により家族政策と雇用政策の潜在的影響も合わせて検討することを試みた。さらに,本研究に付随する推進費招聘事業の一環としてフランス国立人口研究所(INED )のJean- Louis Rallu 博士を平成11 年2 月6 〜20 日に招聘し,日仏の出生力に関する政策志向的な比較分析を試みた。
小島 宏(国際関係部長),仙田幸子(国際関係部研究員),赤地麻由子(客員研究員),(3 )研究成果の公表
及び若干の外部研究協力者
本研究の成果は報告書としてまとめられ,提出された。また,研究成果の一部は平成11 年9 月に慶応義塾大学で開催される日本家族社会学会大会でテーマセッション「先進諸国における家族政策の新たな展開」として発表される。さらに,招聘事業の成果の一部は同年7 月にテルアビブで開催される国際社会学機構大会,岡山理科大学で開催される日本統計学会大会,8 月にヘルシンキで開催される国際統計協会大会で発表される。
高齢者の医療・介護に関する日英比較研究(平成9 〜11 年度)
(1 )研究目的
日本とイギリスの医療システムの大きな相違点としてプライマリー・ケアが挙げられるが,両国はともに医療費の対GDP 比が主要国の中で最も低いグループに属していることから,1 その制度的要因2それが医療サービスの効率性や質に与えている影響3 国民の医療制度に対する評価4 高齢者の介護サービスに対する政策的アプローチに関して日英共同で比較研究を行う。
急速に高齢化が進展している中で,高齢者介護の在り方や医療と介護の関連について国民の関心が高まっている。高齢者の医療・介護においてどのような政策的option があるかを考える上で,他の先進国との共同研究を行うことは大変有意義である。特にイギリスのプライマリー・ケアが医療全体の効率性に与えている影響や低医療費が医療サービスの質に与えている影響については、日本にとっても極めて重要な情報であると考えられる。
高齢者の医療・介護に関して,London School of Economics (LSE )をパートナーとして平成9 年度から3 年計画で比較研究を行う。
平成9 年度は,日英両国における高齢者の医療・介護の現状について,高齢者の身体状況,living
arrangement ,医療・介護サービスの利用状況等を既存の調査から比較可能な範囲で把握し,主に高齢者の医療サービスに関して,プライマリーケア・システムの日英比較,医療サービスの効率性と質の日英比較など、今後,掘り下げて比較研究を行うべき課題を抽出した。
平成10 年度は,平成9 年度に抽出された重点課題についてLSE との共同研究を実施した。さらに,主に高齢者の介護サービスに関して,日英比較研究を行うべき重点課題の抽出作業を行った。
平成11 年度は,平成10 年度に抽出された重点課題について共同研究を実施するとともに,高齢者の医療・介護に関して日英両国の共通点,相違点を総括した上で,両国のこれまでの経験からお互いにいかなることが学べ,どのような政策のoption があるか,その評価を含めて考察する。
主査 府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)(4 )平成10 年度研究
委員 佐々佳子(客員研究員),Ray Robinson (LSE )
平成10 年度の研究では,高齢者の医療サービスに関する日英比較及び高齢者の介護サービスについての両国の取り組みについての検討を行った。高齢者の健康状態は概して日本のほうが良いようにみえるが,高齢者の医療費は日英で大差がなかった。しかし,その使い方には両国で大きな差があり,イギリスのほうが入院サービスの比重が高く,年齢階級別1 人当たり医療費のパターンにも顕著な違いがあった。イギリスの国民保健サービス(NHS )改革ではプライマリー・ケアの分野にも様々な戦略的アプローチがとられている。イギリスで医療費増加の抑制が他の先進国よりうまくいっている理由は,医療サービスの大部分が政府が支払うNHS によっているため支出をコントロールしやすいからである。今後も医療費の増加が予想されるが,現行の財源調達方式が政府にとってもイギリス全体にとっても最も経済的であるとみられている。
市場原理をどのように導入するかはそれぞれの国の制度的・思想的背景に大きく依存する。イギリスのNHSの効率化への道は,運営の専門化,供給サイドでの競争,交渉による契約による。改革は管理者と医療従事者,医療サービスの購入者と供給者の間の力関係を変えるために使われたが,ユーザーの力は根本的には強くなっていない。イギリスではミクロ・レベルの効率性が向上したかどうかはっきりせず,マクロ・レベルの医療費は上昇した。
日英両国の高齢者介護に関する政策(特に在宅サービス)の展開をみると,類似点も多く,興味深い。イギリスでは平成11 年3 月にRoyal Commission が介護サービスの将来の財政に関してレポートを発表したが,日本では平成9 年12 月に介護保険法が成立して,日本が一歩進んでいるようにみえる。しかし,イギリスのコミュニティ・ケア改革は日本より先に実施され,日本の在宅福祉施策にも大きな影響を及ぼしており,高齢者介護の分野で両国がお互いの経験から学び合う意義は大きいと考えられる。
(平成10 〜11 年度)
(1 )研究目的本研究は,経済のグローバル化の下で我が国企業が活力を維持することができる社会保障政策の条件を明らかにするとともに,我が国企業の直接投資額が特に多く,成長の著しい中国経済を対象に調査を行い,我が国の社会保障政策がアジア諸国の人口・労働問題にどのような影響を及ぼすかを知ることを目的とする。これによって,我が国企業の活力を維持しつつアジア諸国の人口・労働問題の解決にも寄与することのできる社会保障政策のあり方を探る。
(2 )研究会の構成員本研究の研究計画は,次のとおりである。
10 年4 月〜7 月 | 研究組織の発足準備 |
10 年8 月〜10 月 | 先行研究の文献サーベイ |
10 年11 月〜12 月 | 国内研究者からのヒアリング調査と中国における企業アンケート調査の企画 |
11 年1 月〜3 月 | 中国人研究者(鄭功成・武漢大学経済学院教授,夏積智・中国社会保障労働部労働科学 研究所長)の招聘と企業アンケート調査の実施 |
本研究では,中国企業へのアンケート調査結果の分析に加え,平成11 年度に以下の課題を実施し,報告書を公表する予定である。
縦覧点検データによる医療受給の決定要因の分析 (平成10 〜11 年度)
(1 )研究目的本研究の目的は,縦覧可能なレセプトデータを利用し,まず被保険者個人ごとの包括的な医療費受給状況を把握した上,それが被保険者の属性,地域要因にどのように影響を受けているかについて計量経済学の手法を用いて実証的に明らかにすることである。これまで我が国の医療費の分析は主としてレセプトデータに依存してきた。しかし,レセプトデータは1 か月単位の診療内容のみが記載されているにすぎず,また,重複受診があったとしても名寄せが不可能であったため,分析から見落とされてきた。このようなデータの制約を取り除いて分析を行うことにより,より精密に医療受給を決定づける要因を探ることができる。
(2 )研究会の構成員本研究の研究計画は,次のとおりである。
平成10 年度の研究は,次のスケジュールで実施された。
10 年4 月〜7 月 研究組織の発足準備(5 )研究成果の公表
厚生科学研究費補助金研究報告書として公表を行った。
我が国では,急速な少子・高齢化の進行により社会保障費用が増大する一方,経済成長は低迷を続けており,社会保障費用を賄う租税・社会保険料等の負担の一層の増大が確実視されている。こうした状況の下で,社会保障はもとより,経済,財政といった領域でも,現在の社会保障制度の評価や今後のあり方等について様々な議論が行われている。
本研究では,厚生行政の進展,社会経済の変化や国民の要望等を踏まえつつ拡充が図られてきた我が国の社会保障の到達点を明らかにするとともに,社会保障と国民生活の関係について,国民経済レベルと家計レベルの双方から分析し,国際比較を行うことによって,社会保障の機能を再確認し,今後の社会保障の発展に向けての方向性を提示することを目的とする。従来,社会保障に関する研究は,年金,医療,介護,社会福祉等の各分野について,法制度や政策効果を検討したものが多数を占めているが,本研究は,社会保障について,国民生活における具体的な機能を中心に全体的,総合的にとらえて把握しようとする点や,国民経済及び家計の双方の視点から分析しようとする点に特徴がある。
研究結果については,大別して次の4 点からなる個別研究を取りまとめ,報告書を作成した。
第1 に,社会保障の所得再分配機能について,「所得再分配調査」のデータを活用して,従来の世帯単位ではなく個人単位の観点から年齢階級別に分析した。第2 に,日本,米国,英国及びドイツのそれぞれの国の家計収支の国際比較を行い,家計レベルにおける租税・社会保障負担等の実態について考察した。第3 に,社会保障給付費の規模や財源について,時系列的及び国際比較の観点から分析を行った。第4 に,社会保障と経済に関する最近の論文や調査研究結果の概要を整理し,社会保障と経済との関係やその経済効果について考察するとともに,今後の研究の参考資料として役立てることとした。
1970 年代半ば以降,急速な少子化が続いているが,その背後には若者の間における未婚化・晩婚化の急激な進行がある。本研究は,未婚化・晩婚化の背景を社会学的に多面的角度から究明することを目指す。具体的には,結婚を若者の人生設計=生活設計の一部ととらえ,若者の生活構造の変化という包括的・長期的視点と,生活の場としての地域という視点にたって,各種の社会調査を実施し,未婚化・晩婚化の要因を特定化するとともに,ありうべき政策提言を行うことを目的とする。
(2 )研究会の構成員平成10 年度は,U ターン論を手掛かりに出身地と生活の場の連続している場合と,そうでない場合の結婚や生活設計の相違に関しての調査を実施し,考察した。
(4 )研究方法と成果
1,研究方法「少子化」というここ10 年程問題にされている事態を把握するためには,その時期ばかりでなく,その背景として進行してきた現代日本の中期的な変化をとらえることが必要である。この視点にたてば,少子化ないし未婚という変化を理解する方法として,ここ20 〜30 年の社会の変化からアプローチすることが一つの方法となる。そこで,9 年度に報告した社会の仕組みや意識の変化について,平成10 年度はその形成過程及び現在の趨勢に関して,地方紙の記事収集,U ターン者へのインタビュー,都市居住者へのアンケートを中心にして実証的にアプローチした。
2,研究成果:生活設計と移動.未婚と人生観の変化9 年度のまとめでその輪郭を示したような社会の変化は,U ターン論からみれば,次のような推移として現れている。大都市圏へ,あるいは大都市圏から地方へという一方向の顕著な地域移動が生じる時代は終わり,多様な移動が可能な時代になりつつある。個人にとって人生設計を自覚的にとらえて選択することが可能になりつつある。
ここで生じた社会の変化は,より具体的には次のような変化である。子育て支援策の効果に関する研究(平成9 〜11 年度)
(1 )研究目的少子化あるいは仕事と子育ての両立に対する社会的関心を背景として,実証分析の立場から子育て支援策のあり方を検討することを目的とする。9 年度は,文献研究及び「平成9 年結婚と出生・育児に関する基礎調査」(厚生省大臣官房政策課)の再集計を行ったが,10 年度は,実際にサンプル調査を行って,保育サービスの利用状況をも含むデータを確保した。
(2 )研究会の構成員
10 年度は,「女性の就労と子育てに関する調査」の企画・実施に重点をおいた。社団法人中央調査社を委託先として,9 月から10 月にかけて郵送法による調査を行った。小学校入学前の子どもがいる全国の母親4,500 人に調査票を発送したところ,回収数は1,858 (41.3%),集計対象数は1,757 (39.0%)となった。この調査により,保育サービスの利用の実態を母親の就労状況等と関係づけてとらえることができた。
その他,「平成9 年結婚と出生・育児に関する基礎調査」の分析を進めるとともに,小規模ながら保育所の訪問調査も行った。
(4 )研究会の開催状況
次の8 回の研究会を開催し,主として「女性の就労と子育てに関する調査」にかかわる討論を行った。「女性の就労と子育てに関する調査」の集計結果は『平成10 年度厚生科学研究(子ども家庭総合研究事業)報告書(第5 /6 )』のなかで発表した。また,「平成9 年結婚と出生・育児に関する基礎調査」の分析の発表状況は次のとおりである。
近年の我が国の出生率低下に影響を与えている制度的諸要因が,他の先進国ではどのように評価され,どのような少子化対策がとられているかを国際共同研究を通じて明らかにする。これらを踏まえて我が国の出生率回復に向けての望ましいポリシー・ミックスを提言する。
(2 )研究計画
各国の家族政策,税制,医療・年金,雇用の各分野における諸施策の中で少子化対策と考えられる政策とその効果について,日本にとって何が参考になり,どのような妥当性があるかという観点から国際比較を行う。
平成9 年度から3 年計画で行うこととし,1 年目は文献レビューを基に,国ごとに比較研究すべきテーマの選定及び分析の方向性を検討する。2 年目以降,国ごとに選定された個別研究テーマについて当該国の研究者との共同研究を実施し,掘り下げた研究を行う。その際,各施策の実行上の効果や,日本からみて関心の高い論点に焦点を当てた分析を行う。
以下の研究者による研究会を組織する。研究会の事務局は,国際長寿社会日本リーダーシップセンターが行う。
家族政策では特にフランスやスウェーデンの施策が,税制では特にフランスやアメリカの施策が参考になることがわかり,これらの国と個別テーマについての共同研究を実施することにより,有益な情報を得られることが期待される。いずれの国でも,直接的な対策だけでは,効果があまりない,又は持続しないと見られており,それぞれの国の実情を踏まえた総合的な少子化対策が求められている。少子化対策のメニューのみならず,プライオリティの決定プロセスや結果に関しても,日本にとって参考になる点が多くあると考えられる。