平成14年4月10日

国立社会保障・人口問題研究所所長
阿藤 誠 殿

国立社会保障・人口問題研究所
研究評価委員会委員長    高梨 昌

評価報告書

 今般、国立社会保障・人口問題研究所研究評価委員会規程に基づき、平成11年度から13年度に係る国立社会保障・人口問題研究所(以下「研究所」という。)の機関評価を実施したところであり、その結果について、下記のとおり取りまとめたので、報告する。




1 研究・試験・調査の状況と成果


 研究所は、社会保障及び人口問題に関する調査及び研究を行う厚生労働省の政策研究機関として、その所掌事務に係る調査、研究業務等を着実に実施している。研究所各部における研究は、量的にも、また、質的にも十分な水準を確保しており、研究活動は大変精力的であり、その成果についても、プロダクティブで質の高いものとなっている。
 社会保障及び人口問題に関する調査研究は、高度の学際的な知見を必要とするものであり、研究活動の実施に当たっては、学際的な研究体制の確保に留意する必要がある。現在、各プロジェクトにおける研究活動及びその成果の公表等に係る研究所機関誌の編集体制等においては、多くの学問分野の研究者が参画しており、全体として高く評価できるものとなっている。
 今後においても、各研究課題に対し多面的な研究が可能となるよう学際的な研究体制を維持すべきである。特に、今後、社会保障分野においては、契約、紛争解決等に係る法的諸問題の解明が要請されることとなると考えられるほか、人口問題分野を含めて、家族・社会との関連において解明すべき諸課題が多く存在することとなると考えられることから、法学、社会学等の研究者の研究活動への参画が求められる。
 また、研究所においては、所内各研究者間の情報の共有化のための研究交流会の開催、社会保障分野における研究者と人口問題分野における研究者との相互協力による研究プロジェクトへの共同参画、機関誌編集業務等への全研究者の参画等社会保障研究及び人口問題研究の一体的推進及び研究所としての研究活動の一体性の確保を図る上での積極的な取組みがなされており、高く評価できるものである。
 現在、厚生労働行政においては、社会保障制度改革、人口の少子高齢化への対応等重要な政策課題が山積しており、これらに対し適切に対応していくためには、政策の企画立案機能としての政策研究の充実が不可欠である。研究所においては、今後とも、厚生労働省の政策研究機関として、政策当局との連携を確保しつつ、政策の企画立案等に資する研究の一層の充実に向けて積極的に取り組むことが期待される。
 なお、「試験」業務については、研究所の所掌事務でないことから、非該当である。



2 研究開発分野・課題の選定


 研究所において取り組んでいる研究課題については、近時の社会保障及び人口問題を取り巻く諸状況を十分に踏まえ、当面の政策研究として必要とされる課題を概ね網羅したものとなっている。
 今後とも、研究所においては、社会経済の動向や社会保障及び人口問題に係る諸状況を踏まえ、時宜を得た研究課題に精力的に取り組んでいくことが期待される。特に、今後、研究所における研究の一層の充実を図るため、次の事項について留意する必要があるものと考える。
  1. 社会保障及び人口問題に関する研究においては、基礎的理論的研究及び応用的実証的研究について双方のバランスの確保が重要である。近時の傾向として、当面の社会保障制度改革、人口の少子高齢化への対応等直面する政策課題への対応に係る応用的実証的研究が優先され、これに相対的に比重が置かれることは当然ではあるものの、基礎的理論的研究によるアプローチも重要な政策研究手法であり、多くの成果が期待されることから、今後、その一層の充実が求められる。
  2. 社会保障においては、今日、多くの分野において「企業」がその制度運営に関与していることから、今後、企業の社会経済的な機能との関係に着目した研究が求められる。
  3. 人口問題研究においては、少子化の要因の解明等において未婚化の問題が重視されているが、今後、離婚の人口への影響に関する研究が求められる。なお、離婚に係る研究の成果は、社会保障分野においても重要な資料となり得る。
  4. 今後、労働力人口の減少に伴い、外国人の受入れに係る議論が予想されることから、アジアからの外国人の社会的統合等に係る研究の実施が求められる。



3 研究資金等の研究開発資源の配分


 研究所においては、各研究課題ごとに予算が計上されており、研究の実施に際し、当該予算を各部に配分することとはしていないことから、非該当である。


4 組織・施設設備・情報基盤・研究及び知的財産権取得の支援体制


 研究所の組織は、所長及び副所長のほか、7部1課の組織体制となっており、社会保障研究及び人口問題研究の双方にわたる事案を取り扱う組織として、研究所における研究に関する総合的企画立案、調整等を行う総合企画部、海外の社会保障及び人口問題に関する研究等を行う国際関係部並びに社会保障及び人口問題に関する研究に係る情報の収集分析等を行う情報調査分析部の3部が設置されている。
 また、社会保障研究を行う組織として、社会保障の機能等社会保障の基礎理論研究を行う社会保障基礎理論研究部及び社会保障の実証的研究を行う社会保障応用分析研究部が設置されている。また、人口問題研究を行う組織としては、人口の地域・世帯構造等を研究する人口構造研究部及び出生力・死亡構造等を研究する人口動向研究が設置されている。
 さらに、研究所全体の人事、会計等の業務を行う総務課が設置されている。
これらの組織体制によって、社会保障研究及び人口問題研究の実施に必要な基本的な組織的枠組みは確保されているものと考えるが、近時における社会保障及び人口問題に関する政策研究の量的拡大や質的な高度化に適切に対応していくためには、必要な人員の確保に向けた取組みが不可欠であり、具体的には、併任ポストの専任化等が求められる。

 研究所の施設設備については、各研究者に対し社会保障及び人口問題に関する研究活動を円滑に行う上での良好な環境が確保されているものと考えられる。

 情報基盤に関しては、研究環境の電子化が進められているほか、情報調査分析部を中心として、図書室の運営、研究所所蔵文献の電子化、インターネット化、分類検索方法の効率化等が進められており、いずれも研究活動の効率化等の観点から高く評価できる。今後とも、社会保障及び人口問題に関する研究の効率化を図るための関係情報の一層のデータベース化が求められる。

 なお、知的財産権の取得に関しては、社会保障及び人口問題に関する政策研究の過程においては、当面、想定しえないものである。




5 共同研究・民間資金の導入状況、国際協力等外部との交流


 研究所においては、各研究プロジェクトにおける研究活動、機関誌の編集等が外部研究者の参加も得て実施されているほか、「社会保障の改革動向に関する国際共同研究」、「高齢者の医療・介護に関する日英比較研究」、「先進諸国の少子化の動向と少子化対策に関する国際比較研究」、「アジア諸国における持続可能な都市化と人間・環境安全保障に関する研究」等において、海外研究機関等との共同研究が着実に実施されている。
 また、内外の研究者の参加の下に厚生政策セミナーが毎年開催されているほか、外国人研究者の招聘によって特別講演会が積極的に開催されている。
 さらに、国内大学院及び民間研究機関から客員研究員を受け入れており、今後とも大学院教育、民間研究機関等との連携が期待される。
 また、国連人口開発委員会の活動への参加、アジア諸国等の社会保障政策及び人口政策に係る国際協力にも積極的に取り組んでいる。
 研究所においては、今後とも、社会保障及び人口問題に関する研究の内外研究者との幅広い連携協力の確保、アジア諸国等への国際協力の推進等研究所の対外的活動の積極的な展開が期待される。

 なお、民間資金の活用については、社会保障及び人口問題に関する政策研究の過程においては、当面、想定しえないものである。




6 倫理規程の整備


 研究所は、社会保障及び人口問題に関する政策研究を行う人文科学系の研究機関であることから、生物に係る実験等を行うものではないので、非該当である。


7 その他


 今日、年金、医療、介護等の社会保障改革が喫緊の政策課題となっており、また、少子高齢化等に関する国民の人口に対する関心は高まっている。このため、社会保障及び人口問題に関する研究の成果については、行政や研究者のみならず、国民の政策参加を促す観点からも広く国民に公開していくことが重要である。
 研究所においては、これまで研究成果等を調査研究報告書をはじめ、機関誌、研究所ホームページ、学会報告、厚生政策セミナーの開催等によって積極的に公開に努めてきており、これらは高く評価できるものである。特に、英文による研究成果の公表が重視される中において、いわゆるウェッブジャーナルの創刊は大いに評価できるが、今後とも、英文による研究成果の公表に留意すべきである。
 研究所においては、今後とも、工夫を凝らした研究成果の内外への積極的な発信が期待されるところである。その際、特に、研究者のみならず一般の国民が社会保障及び人口問題に関する理解を容易にできる標準的な資料を作成し、公表することが求められる。

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