日本の世帯数の将来推計(全国推計) 1998(平成10)年10月推計 ―― 1995(平成7)年〜2020(平成32)年 ―― 国立社会保障・人口問題研究所 03(3503)1711(内線4465) はじめに  今回推計は,旧厚生省人口問題研究所が1995年に公表した推計1に続く新しい世帯推計である.推計の出発点となる基準人口は,1995年国勢調査に調整を加えて得ている. T 推計の枠組み 1. 推計期間  推計期間は1995(平成7)年10月1日から2020(平成32)年10月1日までの25年間である. 2. 推計方法と推計結果  推計方法の主要な部分は,『日本の将来推計人口:平成9年1月推計』の中位推計における男女別,5歳階級別人口に,推計された配偶関係と世帯内地位の組合せ別分布を乗じて,男女別,5歳階級別,配偶関係と世帯内地位の組合せ別人口を求めるものである.一般世帯人員の配偶関係と世帯内地位の組合せ別分布は,世帯推移率法によって求めた.これは推移確率行列により,将来の配偶関係と世帯内地位の組合せを推計する方法である.世帯内地位には「単独世帯」「夫婦のみの世帯」「夫婦と子から成る世帯」「ひとり親と子から成る世帯」「その他の一般世帯」のマーカが含まれる.マーカは推計モデルにおいて世帯の形成・解体の鍵とされる成員であり,大部分は国勢調査の世帯主と一致する.ただし国勢調査では,たとえば妻や子が「夫婦と子から成る世帯」の世帯主となる例が少数あるのに対し,「夫婦と子から成る世帯」のマーカは常に夫,「ひとり親と子から成る世帯」のマーカは常に親とするなどの規則を設けた.推計された男女別,5歳階級別,配偶関係と世帯内地位(マーカ・非マーカ)別人口に1995年の世帯主・非世帯主とマーカ・非マーカの対応関係を適用し,男女別,5歳階級別,配偶関係別,家族類型別世帯主数を求めた.推計結果の詳細は,結果表1に家族類型別一般世帯数と平均世帯人員を,結果表2に世帯主の男女別,5歳階級別,家族類型別世帯数を示した. 3. 基準人口  推計の出発点となる基準人口は,1995年国勢調査をもとに,一般世帯人員の世帯内地位を家族類型別世帯主・非世帯主から家族類型別マーカ・非マーカに変換して得た. 4. 推計結果の種類  今回の推計は1ケースについてのみ行った.ただし参考推計として,男女別,5歳階級別,配偶関係と世帯内地位(世帯主・非世帯主)の組合せ別分布が1995年以後一定とした場合の世帯数を計算した.  推計の目的は,将来の家族類型別一般世帯数を求めることである.家族類型は,「単独世帯」,「夫婦のみの世帯」,「夫婦と子から成る世帯」,「ひとり親と子から成る世帯」,「その他の一般世帯」の5類型である.2 U 推計結果の概要 1. 一般世帯人員と一般世帯総数(図1)  当研究所の全国将来人口推計によると,中位推計の場合,日本の総人口は2007年の1億2,778万人をピークとして,以後減少に転じるとされる.施設人口割合は急激には変化しないため,一般世帯人員の動向は総人口とほとんど変わらない.結果表1に見るように,一般世帯人員は1995年の1億2,377万人から増加して2006年に1億2,578万人でピークを迎える.その後は減少に転じ,2020年の一般世帯人員は1億2,143万人と,1995年に比べ235万人減少する.  これに対し一般世帯総数は,図1に見るように,1995年の4,390万世帯から2014年の4,929万世帯まで増加を続ける.すなわち総人口より7年,一般世帯人員より8年遅れて減少に転じる.それでも2020年の一般世帯総数は4,885万世帯で,1995年より495万世帯多い. 2. 平均世帯人員(図2)  人口減少局面に入っても世帯数が増加を続けることは,世帯規模の縮小が続くことを意味する.一般世帯の平均世帯人員は,1995年の2.82人から2020年の2.49人まで減少を続ける.ただし変化の速度は,図2に見るように次第に緩やかになると予想される. 3. 家族類型別一般世帯数および割合(表1,図3)  表1および図3に見るように,今後増加するのは「単独世帯」「夫婦のみの世帯」「ひとり親と子から成る世帯」であり,減少するのは「夫婦と子から成る世帯」「その他の一般世帯」である.より単純で小人数の世帯が増加することが,平均世帯人員の縮小に対応している.  「単独世帯」は1995年の1,124万世帯から増加を続け,一般世帯総数が減少に転じる2015年以降も増加は止まらない.この結果,2020年には現在より329万世帯多い1,453万世帯となり,割合も1995年の25.6%から4.1ポイント増加して2020年に29.7%となる.現在では「夫婦と子から成る世帯」が最も多いが,2013年以降は「単独世帯」が最も多い類型となると予想される.  「夫婦のみの世帯」も増加を続けるが,「単独世帯」ほど急速ではなく,また2015年以降は一般世帯総数と同様,減少に転じる.すなわち1995年の762万世帯から2015年の1,075万世帯まで増加した後,2020年には1,069万世帯となる.それでも2020年における世帯数は1995年よりも300万世帯以上多く,割合も1995年の17.4%から4.5ポイント上昇して21.9%となる.  「夫婦と子から成る世帯」は,1985年をピークに既に減少局面に入っているが,今後それが加速し,1995年の1,503万世帯から2020年には1,304万世帯まで減少する.この「夫婦と子から成る世帯」世帯は,かつては一般世帯の40%以上を占める圧倒的に優勢な類型だったが,1995年時点で既に34.2%と割合をかなり低下させており,2020年にはさらに26.7%まで低下すると予想される.  「ひとり親と子から成る世帯」は今後も増加を続け,「単独世帯」と同じく2015年以降も増加は止まらない.この結果,1995年の311万世帯から151万世帯増えて,2020年には462万世帯になると予想される.割合も1995年の7.1%から2020年には9.5%と,2.4ポイント上昇する.  「その他の一般世帯」の大部分は,核家族世帯に直系尊属か直系卑属が加わったいわゆる直系家族世帯だが,この類型は「夫婦と子から成る世帯」同様,1980年代後半には減少に転じている.減少は今後も続き,1995年の690万世帯から2020年には597万世帯となる.一般世帯全体に占める割合も,1995年の15.7%から2020年には12.2%まで低下する. 4. 世帯主が65歳以上または75歳以上の世帯の見通し(表2,図4) (1)世帯主が65歳以上または75歳以上の一般世帯総数の見通し  表2および図4に示したように,世帯主年齢が65歳以上の一般世帯の総数は,1995年の867万世帯から2020年には1,718万世帯へと1.98倍に増加することになり,この間の総世帯数の増加(1.11倍),65歳以上人口の増加(1.82倍)をいずれも上回る.この傾向は,世帯主年齢が75歳以上の世帯ではさらに強く,1995年から2020年の人口の増加が2.32倍であるのに対し,同期間の世帯数の増加は285万世帯から827万世帯の2.9倍である.  世帯主が65歳以上の世帯の相対的に大きな増加速度のため,世帯主が65歳以上の世帯数が総世帯数に占める割合は,1995年の19.7%から2020年の35.2%へと大幅に上昇する.すなわち,世帯主が65歳以上の世帯の割合は、5世帯に1世帯という現在の水準から,3世帯に1世帯という水準になる.また,世帯主が65歳以上の世帯に占める世帯主が75歳以上の世帯の割合も1995年の32.8%から2020年には48.1%へと増大し,世帯の高齢化が一層進むことになる. (2)世帯主が65歳以上または75歳以上の家族類型別世帯数の見通し  1995年から2020年の世帯主が65歳以上世帯の変化を家族類型別にみると,もっとも増加するのは「単独世帯」の2.44倍(220万世帯→537万世帯)で,次いで「ひとり親と子から成る世帯」の2.22倍(55万世帯→122万世帯)である.「夫婦のみの世帯」は1.99倍(294万世帯→585万世帯),「夫婦と子から成る世帯」も1.99倍(105万世帯→209万世帯)の増加となると見通される.また,「その他の一般世帯」は1.38倍(193万世帯→266万世帯)の増加で,5つの家族類型の中ではもっとも増加率が小さい.世帯主が75歳以上の世帯については,いずれの家族類型も世帯主が65歳以上の世帯に比して増加率が大きいが,特に「夫婦と子から成る世帯」は3.78倍(22万世帯→83万世帯)と顕著な増加をみせている.また,「単独世帯」も3.34倍(92万世帯→306万世帯),「ひとり親と子から成る世帯」も2.84倍(23万世帯→64万世帯)と大きく増加する.  世帯主が65歳以上の世帯について,1995年から2020年の家族類型別割合の変化をみると,「単独世帯」は25.4%から31.2%へと一貫して増加する一方,「その他の一般世帯」は22.3%から15.5%へと一貫して低下する.「夫婦のみの世帯」,「夫婦と子から成る世帯」には,目立った変化はなく,それぞれ34〜35%,12〜13%という水準で推移する.世帯主が75歳以上の世帯をみても,「単独世帯」が増加(32.2%→37.0%),「その他の一般世帯」が減少(22.5%→14.4%)という点では世帯主が65歳以上の世帯と同じ傾向をみせているが,「夫婦と子から成る世帯」は割合が上昇し(7.7%→10.1%),「夫婦のみの世帯」「ひとり親と子から成る世帯」はさほど変わらない.  家族類型別にみても,世帯主が65歳以上の世帯に占める世帯主が75歳以上の世帯の割合はそれぞれ増加の傾向にある.特にその割合が大きくなるのは「単独世帯」と「ひとり親と子から成る世帯」で,「単独世帯」では1995年の41.7%から2020年には57.1%へ,「ひとり親と子から成る世帯」では41.1%から52.6%となる. 5. 欧米諸国との比較(表3)  表3は,日本の現在及び将来の世帯の特性を,現在の欧米諸国と比較したものである.日本の平均世帯人員は1990年に2.99人,1995年でも2.82人であり,表に示したどの欧米諸国よりも大きい.既に見たように,日本の平均世帯人員は2020年には2.49人まで低下すると予想される.これは1990年時点の欧米諸国の平均的な水準で,イギリスとほぼ等しい.世帯の縮小は続くものの,25年経った時点でも現在の北欧やドイツの平均世帯人員ほどには小さくならないと考えられる.  日本の単独世帯割合は1990年に23.1%,1995年に25.6%で,イギリス,フランス,アメリカに近い水準である.これが2020年には29.7%まで上昇するが,やはり現在の北欧やドイツほどには高くならないものと予想される. 6. 参考推計との比較(表4)  参考推計は,男女別,5歳階級別の配偶関係と世帯内地位(世帯主・非世帯主)の組合せ別分布が1995年値で一定とした場合の,今後の世帯数の変化を表す.この場合,変動要因は人口規模と男女・年齢別構造のみとなる.  表4によると,世帯形成行動が今後一切変化しなかった場合でも,2010年前後まで世帯数は増加するが,本推計において予測されるほどではない.世帯形成行動の変化は,それがなかった場合に比べて2020年の世帯数を4.0%増やすことになる.  今後の人口規模と男女・年齢別構造の変化は,「単独世帯」の数を1995年の1,124万世帯から2020年の1,110万世帯まで,減少させる方向に作用する.これは過去20年ほど続いている出生数減少のため,単独世帯主が多い20歳代の人口が減少するためである.従って,本推計における「単独世帯」の増加は,もっぱら晩婚化,未婚化,離婚の増加,親子の同居率低下といった結婚・世帯形成行動の変化によってもたらされることがわかる.  核家族世帯については,本推計の結果と同じく,参考推計でも長期的には「夫婦のみ」および「ひとり親と子から成る世帯」が増加し,「夫婦と子から成る世帯」は減少する.しかし変化の速度は,本推計の方が速い.つまりこれらの3種類の世帯の動向は,人口構造と行動変化の要因が同時に作用した結果生じると解釈できる.  「その他の一般世帯」の動向は,本推計と参考推計で結果が逆である.つまり,世帯形成行動に変化がない場合,「その他の一般世帯」は増加するはずである.従ってこの類型の今後の減少は,親子同居率の変化をはじめとする世帯形成行動の変化によって生じるものと言える. V 推計の方法 1. 推計手法の概要  今回の世帯推計の主要な部分は,世帯推移率法によって行われた.これは生存者を複数の状態に分割し,状態間の推移確率行列によって将来の状態別人口を推計する方法である.推計すべき状態は,配偶関係と世帯内地位の組合せである.国勢調査における世帯内地位と配偶関係の間には強い相関があり,未婚者が2人以上世帯の世帯主になったり,夫が別居している場合を除いて有配偶女子が世帯主になる場合は稀である.こうした例外的な組合せを放置すると,推移確率行列が不必要に大きくなる上に,調査データから信頼し得る推移確率を求めることが出来ない.そこで国勢調査および第3回世帯動態調査(後述)の世帯主に対し,推計モデルの対象となる世帯の準拠成員をマーカと呼び,以下の規則を設けてマーカの地位と性・配偶関係の組合せを限定した. (1) 夫婦のみの世帯および夫婦と子の世帯では夫をマーカとする. (2) ひとり親と子の世帯では親をマーカとする. (3) 夫と同居する妻がその他の世帯の世帯主の場合,夫をマーカとする. (4) 未婚者が親夫婦を含むその他の世帯の世帯主の場合,父親をマーカとする.  この結果,一般世帯人員について次のように男子12種類,女子11種類の配偶関係と世帯内地位の組合せを定義した.推計期間内での男女の夫婦別居へのフローを一致させる必要上,有配偶男子の「単独世帯」と「ひとり親と子から成る世帯」のマーカは一括して扱い,推計後に分割した.1995年基準人口は,国勢調査の男女別,5歳階級別,家族類型別世帯主数および非世帯主数を男女別,5歳階級別,家族類型別マーカ数および非マーカ数に変換して得た. 男子 女子 S: hS 未 婚・単独世帯のマーカ S: hS 未 婚・単独世帯のマーカ S: hO  〃  その他の世帯のマーカ* S: hO  〃  その他の世帯のマーカ* S: nh  〃  非マーカ S: nh  〃  非マーカ M: hS 有配偶・単独世帯のマーカ** M: hS 有配偶・単独世帯のマーカ M: hC  〃  夫婦のみの世帯のマーカ M: hP  〃  ひとり親と子の世帯のマーカ M: hN  〃  夫婦と子の世帯のマーカ M: sp  〃  配偶者 M: hO  〃  その他の世帯のマーカ M: nh  〃  その他の非マーカ M: nh  〃  非マーカ W: hS 死離別・単独世帯のマーカ W: hS 死離別・単独世帯のマーカ W: hP  〃  ひとり親と子の世帯のマーカ W: hP  〃  ひとり親と子の世帯のマーカ W: hO  〃  その他の世帯のマーカ W: hO  〃  その他の世帯のマーカ W: nh  〃  非マーカ W: nh  〃  非マーカ * 親夫婦を含まない世帯 ** ひとり親と子の世帯のマーカを含む  施設世帯人員についてはデータの制約上推移確率が得られないため,後述のように趨勢延長によって男女別,5歳階級別,配偶関係別施設割合を推計した.これと推移確率行列によって求めた暫定的な一般世帯人員を組合せて,出入国がなかった場合の男女別,5歳階級別,配偶関係と世帯内地位(施設を含む)の組合せ別人口を5年毎に推計した.ここから男女別,5歳階級別に,配偶関係と世帯内地位(施設を含む)の組合せ分布を求め,それを全国人口の将来推計の中位推計における男女別,5歳階級別人口に乗じて,男女別,5歳階級別,配偶関係別,世帯内地位(マーカ・非マーカ)別人口を得た.この5年ごとの推計結果に基づき,線型補間によって各年の結果を求めた.さらに1995年基準人口作成時の世帯主・非世帯主からマーカ・非マーカへの変換を逆に適用し,男女別,5歳階級別,配偶関係別,世帯内地位(世帯主・非世帯主)別人口を得た. 2. 将来の配偶関係間推移確率の設定  推計の作業は,図5に示した手順によって行われた.配偶関係間推移確率の将来値の設定は, 1990年女子の結婚の多相生命表3に,1990年と1995年の初婚率,再婚率,死亡率,離婚率の比を適用して1995年女子の多相生命表を作成し,出発点とした.将来の女子の初婚率と死亡率,夫の死亡率は,全国の将来人口推計で用いられた値を使った.再婚率と離婚率については,スムージングした1990〜1995年の変化率が今後直線的に減速し,10年後の2005年以降は一定となると仮定した.このようにして女子の配偶関係間推移確率の将来値を求めた後,夫妻の年齢分布によって男子の初婚・再婚・離婚・死別・死亡の確率を求めた. 3. 推移度数行列の作成  夫婦別居を除く一般世帯の世帯内地位間の推移確率は,配偶関係間の各種推移確率と第3回世帯動態調査4において観察された推移パターンから得た.この調査では,調査時点である1994年10月15日と,1989年1月1日の世帯内地位が得られる.この調査データにおいて,妻が世帯主になっている場合は夫と組替え,未婚子が世帯主になっている場合は父親を優先して親と組替えるなど,上で定義された配偶関係と世帯内地位の組合わせ併せて世帯主・非世帯主からマーカ・非マーカへの変換を行った.調整後の世帯内地位(夫婦別居を除く)について男女別,5歳階級別に推移度数行列を作成した.うちごく稀な推移は省略し,行列を単純化した. 4. 推移確率行列の作成  上で得られた推移パターンに,予測された初婚,再婚,離婚,死別確率を適用し,男女・5歳階級別の世帯内地位間の推移確率行列を作成した.これを1990年国勢調査から得た世帯内地位ベクトルに乗じて結果を1995年国勢調査から得た世帯内地位ベクトルと比較し,推移確率を調整した.  ただし未婚のその他の世帯のマーカ(S:hO)と夫婦別居を表す地位(M:hSおよびM:hP)は,調査データから十分な推移数が得られなかったので,1995年基準人口における割合をもとに,次の仮定を置いて推定した.未婚のその他世帯マーカについては,未婚内のフローは単独世帯マーカ(S:hS)との間にのみ生じ,結婚しない限り期首のストックは期間内に全て単独世帯マーカに移ると仮定した.有配偶女子の夫婦別居への入フローは,期首30歳未満は初婚女子から,30歳以上は配偶者から生じるとし,推移確率は未婚時の世帯内地位とも別居時の地位とも独立とした.出フローは,期首に別居していた夫婦は,死離別に至らない限り全て期間内に同居を再開すると仮定した.このようにして推定した有配偶女子の入フローを,結婚の将来推計と同様,夫妻年齢分布によって有配偶男子の年齢に分配し推移確率を求めた.有配偶男子の出フローについては,女子と同様,期首に夫婦別居だった男子は死離別以外は全て同居を再開するものとした.また,有配偶男子の夫婦別居の約90%が「単独世帯」,約10%が「ひとり親と子から成る世帯」だが,両者を併せてひとつの地位として扱い,推計後に「単独世帯」と「ひとり親と子から成る世帯」に分割した. 5. 未婚者の離家の将来推計  第3回世帯動態調査では,最近のコーホートで親世帯からの離家が遅くなっている動向が観察された.そこで若いコーホートの今後の結婚前離家確率を予測し,そこから未婚の非マーカ (S:nh) から単独世帯マーカ (S:hS) への推移確率を求めた.この変換は,国勢調査による1990〜95年の未婚単独世帯主へのコーホート推移率に依拠して行った. 6. 施設世帯人員割合の将来推計  先に言及した推移確率行列は,一般世帯人員だけに関するもので,施設世帯人員を含んでいない.これは第3回世帯動態調査が一般世帯人員しか対象としておらず,施設世帯との間でのフロー・データが得られないためである.そこで将来の施設世帯人員割合は,趨勢延長によって推計した.すなわち1990〜1995年の国勢調査における男女別,5歳階級別,配偶関係別施設世帯人員割合の変化率をスムージングし,それが直線的に減少して2020年に変化が停止すると仮定した. 7. 基準人口  推計の出発点となる基準人口,すなわち男女別,5歳階級別,配偶関係別,世帯内地位(マーカ・非マーカ)別一般世帯人員と,男女別,5歳階級別,配偶関係別施設世帯人員は,1995年国勢調査から得た.施設世帯人員は,男女別,5歳階級別,配偶関係別施設割合を,全国人口の将来推計における1995年基準人口に乗じて求めた.一般世帯人員は,先述の規則によって世帯主・非世帯主からマーカ・非マーカに変換して得た. 8. 一般世帯と施設世帯間のフロー  前述のように,第3回世帯動態調査が一般世帯だけを対象としているため,施設世帯との間でのフローに関しては経験的データが得られない.そこでまず,一般世帯との間にフローがなかった場合の男女別,5歳階級別,配偶関係別施設世帯割合を求め,これを前述のようにして推計した目標値と比較した.  割合が目標値を下回っていた場合,施設世帯から一般世帯へのフローだけがあったものと仮定し,総フローを比例配分した.ただし有配偶で夫婦別居の場合(M:hSおよびM:hP)は,施設との間のフローはないものと仮定した.  割合が目標値を上回った場合,一般世帯から施設世帯へのフローだけがあったものとみなした.未婚・死離別の場合は,単独世帯主の施設への入居確率が他の地位に比べ2倍高くなると仮定した.有配偶で夫婦別居の場合は施設との間のフローがなく,有配偶男子の夫婦のみの世帯主,有配偶女子の世帯主の配偶者は,施設への入居確率が他の地位に比べ2倍高くなると仮定した.  このようにして,出入国がなかった場合の一般世帯人員と施設世帯人員を同時に求めた.この人口について男女別,5歳階級別に配偶関係と世帯内地位(マーカ・非マーカ,施設を含む)の組合せ分布を計算し,前述のようにこれを全国の将来人口に適用し,さらに補間推計によって各年の結果を求めた.最後に,基準人口作成時の世帯主・非世帯主からマーカ・非マーカへの変換を逆に適用し,男女別,5歳階級別,配偶関係別,家族類型別世帯主数,非世帯主(有配偶女子は配偶者とそれ以外の非世帯主に分かれる)数および施設世帯人員数を得た. 脚注 1 厚生省人口問題研究所,『日本の世帯数の将来推計 全国推計/都道府県別推計―1990(平成2)年〜2010(平成22)年―』,研究資料第283号,1995年3月. 2 「その他の一般世帯」には「非親族世帯」が含まれるが,その割合は1995年で1.85%とごく小く,ほとんどは「その他の親族世帯」と考えて差しつかえない.なお,「その他の親族世帯」のうち少なくとも3分の2は三世代世帯である.また,前回推計では「親と子供から成る世帯」で一括されていた類型を,今回は「夫婦と子から成る世帯」と「ひとり親と子から成る世帯」に分離した. 3 池ノ上正子・高橋重郷,「結婚の多相生命表:1975年,1980年,1985年および1990年」,『人口問題研究』,第50巻,第2号,1994年,73〜96頁. 4 厚生省人口問題研究所,『第3回世帯動態調査(1994年人口問題基本調査):現代日本の世帯変動』,調査研究報告資料第10号,1996年3月.