V 推計の方法と仮定
                                                前へbacknext次へ

4. 生残率の仮定(将来生命表)

(1) 近年の死亡動向

 わが国は、近年、男女ともに世界的のトップクラスの平均寿命を保ちつつ推移してきているが、その死亡動向について、生命表による平均寿命の推移によってみることにしよう。

およそ50年前の昭和35(1960)年(第11回生命表)の平均寿命は、男性65.32年、女性70.19年であったが、直近の平成22(2010)年簡易生命表によれば、男性79.64年、女性86.39年であり、この間に平均寿命は男性で14.32年、女性で16.20年延びたことになる。この延びは近年徐々に緩やかになっているとはいえ、昭和60(1985)年が男性74.78年、女性80.48年であったことから、それ以降の25年間だけをとっても、男性4.86年、女性5.91年と引き続き延びを示していることがわかる(図V-4-1)。

このように、近年のわが国の平均寿命は国際的にみてトップクラスの水準を保ちつつ、なおも改善を続けているという点が第一の特徴である。

寿命がどこまで延びるのかは重要な関心事であるが、かつて専門家の間では、寿命には一定の限界があり、平均寿命もやがてその限界に近づいていくため延びが鈍っていくとの議論が有力であった。しかし、世界の最長平均寿命は各国や国連などによる推計を上回って延びてきており、従来、比較的確実性が高いと考えられてきた将来の死亡・寿命の動向は、再度、不確実性の高い現象として捉える必要が出てきたといえよう。



 わが国の平均寿命のもう一つの特徴は男女の平均寿命の差にある。

近年、多くの欧米先進諸国においては、平均寿命の男女差が縮小する傾向にあるが、わが国では、昭和35(1960)年に4.87年であった男女差が、平成22(2010)年簡易生命表では6.75年と拡大してきており、諸外国と異なる傾向をみせてきたところである。

しかしながら、この拡大傾向には近年変化がみられる。すなわち1990年代までは男女差は比較的堅調な拡大基調であったが、直近である2000年以降については、傾向に変化がみられ、男女差の拡大は停滞をみせている(図V-4-2)。将来の寿命を見通すにあたっては、こうした情勢の変化に配慮する必要があるだろう。



 その他、近年のわが国の死亡率改善の特徴としては、男女とも特に高齢層での改善が著しいことが挙げられる。図V-4-3は、0歳・65歳・70歳時の平均余命について、昭和60(1985)年を100とした場合の指数を示したものである。これによれば、男女とも平均寿命の指数の増大に比べ、近年、65歳・70歳余命の指数の増大が大きく、死亡率改善は高齢層ほど著しいことがわかる。



 さらに、これらを年齢別死亡率のレベルで観察するため、図V-4-4に昭和35(1960)年以降10年おきの女性の年齢別死亡率(対数値)をグラフに示した。これによれば、この間の年齢別死亡率は、当初、低年齢における改善が起き、その後、高年齢における改善へと変わってきていることが分かる。とりわけ、近年における高年齢での死亡率変化は、死亡率曲線が高齢側にシフトしている動き、すなわち死亡が遅延している動きとみることが可能である。

このように、わが国の近年の平均寿命の延びの要因の一つである高齢死亡率改善は、死亡率曲線の年齢シフトによる変化と捉えることができ、こうした傾向は将来の死亡状況を見直す上で重要なポイントとなる。




第V章目次へ                                      前へbacknext次へ

社人研トップページへ