V 推計の方法と仮定
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3.出生率の仮定

(4) 年次別出生率の推計結果

 高位、中位、低位の三つの仮定に基づいてコーホート年齢別出生率が推計されれば、それを組み換えることによって将来年次の年齢別出生率ならびに合計特殊出生率を算出することができる。 なお、平成23(2011)年3月に発生した東日本大震災の影響により、平成23年12月以降の出生数に変動が見込まれるため、平成23(2011)年および平成24(2012)年については、阪神淡路大震災が発生した平成7(1995)年における出生数の変動実績18)ならびに最近における妊娠届出数等を参考にして別途推計し19)、これを仮定値として用いた。

 ここで得られた仮定値は日本人女性についての出生率なので、総人口を推計するためには、日本に常住する外国人女性の出生率も必要となる。 このために本推計では、日本人女性の年齢別出生率と外国人女性のそれとの関係を、近年の実績から得られる出生率モーメント(年齢別出生率の合計、平均出生年齢ならびに出生年齢の標準偏差)間の関係として求め20)、 これを用いることで、前節において策定された日本人女性の出生率に対応する外国人女性の出生率を求めている21)。 なお、推計計算の過程において必要となる外国人女性から生ずる日本国籍児数については、その年齢別発生率について近年の実績をモデル化して用いた22)

 これらの出生率構成に対応する人口動態統計と同定義の出生率(外国籍女性が生んだ日本国籍出生児も含めた出生率)ならびに合計特殊出生率(下式参照)は、日本人女性、外国人女性の人口構成に依存するため、人口推計の結果として算出されるものである。将来人口推計の出生率仮定について、こうした複数定義の出生率を扱うことは推計手法を著しく複雑なものとするが、人々の国際的交流が進展した人口状況を正確に再現するためには必須の仕組みである。

 表V-3-7ならびに図V-3-9に、結果として得られた将来年次の合計特殊出生率の推移をその前提となる日本人女性の出生率とともに、仮定の別に示した(いずれも死亡中位仮定との組み合わせによる)。人口動態統計と同定義による合計特殊出生率は、実績値が1.39であった平成22(2010)年から平成26(2014)年まで、平成24(2012)年の1.37を除き、概ね1.39で推移する。その後平成36(2024)年の1.33に至るまで緩やかに低下し、以後やや上昇して平成42(2030)年の1.34を経て、平成72(2060)年には1.35へと推移する。

 同様に、高位の仮定における人口動態統計と同定義の合計特殊出生率は、平成22(2010)年の実績値1.39から平成23(2011)年に1.44となった後、平成32(2020)年に1.61を経て、平成72(2060)年には1.60へと推移する。

 低位の仮定における人口動態統計と同定義の合計特殊出生率は、平成22(2010)年の実績値1.39から平成23(2011)年に1.31となった後、平成35(2023)年に1.08台まで低下し、その後わずかに上昇を示して平成72(2060)年には1.12へと推移する。

 図V-3-9には、合計特殊出生率の推移とともに、推計結果として算出される年次別出生数を出生仮定別に示している(死亡中位仮定との組み合わせによる)。2030年以降はいずれの仮定においても合計特殊出生率はほとんど変化しないが、母親となる女性人口が漸次減少していくことによって、出生数はいずれの仮定においても減少が続く






(5) 出生性比の仮定

 出生数を男児と女児とに分けるためには出生性比(女児数100に対する男児数の比)を仮定する必要があるが、過去の出生性比を観察すると年次変動はきわめて小さいため、本推計では、2006〜2010年の5年間の実績値である105.5平成23(2011)年以降一定として用いた。
18) 阪神淡路大震災が発生した平成7(1995)年は、震災発生から9ヶ月後の出生数が季節変動調整後の期待数の95%程度に落ち込んだことが観察されている。平成23(2011)年については、推計時点において8月までの人口動態統計月別概数による母の年齢別出生数、ならびに10月までの速報値(出生総数)が得られるので、これらを基に月別年齢別出生率を求め、震災発生から9ヶ月後である12月分について阪神淡路大震災時と同程度(95%)の引き下げ補正を行った。
19) 各自治体に届出られる各年度の妊娠届出数は、翌年の出生数と同調性が高く、出生数の先行指標となりうる。全国の約500の自治体にヒアリング調査を行い、2010年度および2011年4月〜9月までの月別の妊娠届出の推移を用いて2011年度の全国値を推計した上で、2012年の出生数の推計に反映させた。
20) 1987〜2010年について得られた日本人女性、外国人女性それぞれの年齢別出生率のモーメント間の関係を、数理関数(ロジスティック関数)によってモデル化した。
21) 手続きはすべて出生順位別出生率に対して適用され、その総計として出生率が求められた。
22) 日本人男性を父とする場合、外国人女性から日本国籍児数が生ずる。外国人女性の生んだ児のうち、この日本国籍児数の割合は近年安定的に推移しているため、本推計では2006〜10年の母の年齢別実績値にロジスティック関数をあてはめ、そのモデル値を2011年以降一定として用いた。


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