利用の手引き

1.統計資料は国立社会保障・人口問題研究所が毎年推計公表している社会保障給付費のデータが基になっている。社会保障費収支表はILO事務局「第18次社会保障費用調査」までにおいて採用されていた表構造である。

2.社会保障の範囲

ILOは、社会保障に関する考え方や制度内容が個々の国々でまちまちであること、財政統計が十分整理されていないなどの事情を考慮して、社会保障について直接理論的な定義をくだすことをやめ、個々の制度やサービスが満たすべき、一定の基準を決めるという方法をとった。その基準とは次の三つである。

  1. 制度の目的が治療的ないし予防的医療を提供するもの、所得保障を行うもの、あるいは扶養家族に対して補足的給付を提供するものであること。
  2. 制度が法律によって定められ、それによって特定の個人に権利が付与され、あるいは公的、準公的、若しくは独立の機関に特定の責任が課せられるものであること。
  3. 制度が公的、準公的、若しくは独立の機関によって管理されていること。 ただし、業務災害補償は、その責任が直接事業主に課せられているので、上記(3)を満たさないが社会保障に含める。

3.制度の範囲:次の8制度名が複数の制度または補助金等費用を含む。

 

4.公衆保健サービスの「23.公衆衛生」については、大項目で以下12項目の費用が計上されている。保健衛生諸費・保健衛生施設整備費・結核医療費・原爆障害対策費・精神保健費・国立病院特別会計病院勘定へ繰入・国立病院特別会計療養所勘定へ繰入・沖縄保健衛生等対策諸費・検疫所・国立ハンセン療養所・科学研究費・厚生本省(毒ガス障害者調査委託費)

5.公的扶助及び社会福祉の「25.社会福祉」については、大項目で以下11項目の費用が計上されている。身体障害者保護費・老人福祉費・婦人保護費・災害援助等諸費・社会福祉諸費・社会福祉施設整備費・児童保護費・特別児童扶養手当等給付諸費・母子福祉費・児童扶養手当給付諸費・国立更生援護機関

6.「給付費」とは、支出のうち対人に直接給付される費用のみを限定する。「給付費」はその給付形態によって次のように分類される。

 ここで「医療」と呼ぶのは、現物給付形態で給付される医療給付費のことである。つまり医療(1)は、一般に人々(被保険者及びその被扶養者)が診療を受けた時、自己負担以外は医療機関から保険者に請求されるが、その請求額を表している。ただし、自己負担額が規定額以上になった場合の高額医療費等については、償還払いとなって実際には現金が支払われるが、これも従来から保険給付の一種であり医療(1)に含む。現物給付という名称は一般にサービスと同意語として用いられる。医療(3)は、業務災害で診療・治療を受けた場合の医療費を表している。現行の業務災害補償制度では、医療サービスを受けた場合、自己負担は無い。

 ここで「年金」と呼ぶのは、現金給付のうち年金として給付されるものを表している。年金(5)は、業務災害補償制度において支払われる給付で、本人に対する障害補償給付やその家族に対する遺族補償給付などで年金の形態をとる給付を表している。年金の形態とは、一時金のように一度にまとめて支払われる現金ではなく、一定期間にわたって給付される現金という意味である。年金(7)は、老齢・障害・遺族の3種類の年金給付とそれに付随する附加給付を表している。

 社会保障給付費の区分として、「医療」「年金」「福祉その他」の3分類を採用しているが、上記の医療(1)・医療(3)の合計を「医療」、年金(5)・年金(7)の合計を「年金」とし、給付費の内残余を「福祉その他」としている。

 つまり「福祉その他」は、現金(2)・医療以外の現物(4)・年金以外の現金(6)・失業・雇用対策(8)・家族手当(9)・医療以外の現物(10)・現金(11)の総計である。

 現金(2)は、出産に係る費用に対する給付である出産育児一時金と、出産で休業中の所得保障の一部としての出産手当金等及び、被保険者が傷病によって稼得能力が失われた場合の所得保障としての傷病手当金等である。例えば、現行制度では正常分娩に係る費用は医療のような現物給付でなく一時金として給付される。つまり、出産の為に医療機関へ通院した場合、その人は会計窓口で当日請求された費用のすべてを支払わなければならない。出産育児一時金とは償還払いではなく、出産に係った費用の規模に関係なく、規定どおりの額が支払われる。
健康保険制度以外における現金(2)は、「24.生活保護」の被保護世帯の出産扶助金と、「23.公衆衛生」の特定疾患(ハンセン病・結核・原爆後遺症等)の患者の所得保障を目的とした現金給付である。

業務災害補償の場合、医療以外の現物(4)には、補装具等支給費が計上されている。 年金以外の現金(6)は、業務災害補償制度において支払われる一時金の支給金や埋葬料等と休業補償給付である。

失業・雇用対策(8)は、失業時の所得保障を目的とした手当である。ただし、この手当を受けることができるのは就労の意欲のある求職者だけである。一般に失業手当と呼ばれるが、正式には各種求職者給付のことである。

家族手当(9)は、「13.児童手当」の現金給付と、「25.社会福祉」に含まれる障害児や母子家庭等の子供に支給される特別児童扶養手当または児童扶養手当である。

医療以外の現物(10)では、サービス給付が分類されている。例えば、「13.児童手当」の児童育成事業費補助金のうち時間延長型保育サービス事業費に要する費用の補助がこれにあたる。また「25.社会福祉」では、ほとんどの事業の補助金が含まれている。児童保護費の大半を占める児童保護費等負担金も、児童福祉施設(保育園・心身障害児施設等)における医療支出部分以外はすべてこの医療以外の現物(10)に計上される。

現金(11)は、健康保険の保険者の支出については、被保険者本人や家族の埋葬料である。また「24.生活保護」においては、所得保障に関わる生活・住宅・教育・生業・埋葬等の扶助金である。「25.社会福祉」の場合は、災害弔慰金や特別障害者手当等給付金である。

管理費(12)とは、業務取扱費・事務費・事務所費・総務費・基金運営費・業務委託費・組合会費・旅費等が含まれる。管理費とは、当該制度の運営や給付を行うために必要な費用であるが、この種の正確な情報は入手困難なことが多い。その理由のひとつは、同一機関で複数の給付を行っている場合に、給付の種類で管理費を分離することができない場合が多いためである。 ILO基準の場合、制度ごとの決算が可能なので、決算の業務経理を参考に管理費を出している。しかし、医療と年金の2種類の給付を行っている共済組合の場合、業務経理のうちどれが医療管理費であり、どれが年金管理費かを区別することは実務上できない。

他制度への移転(14)とは、ある特定の給付に対して複数の保険者で負担を分担するための拠出金のことである。したがって拠出する制度からすると支出であるが、給付費として見た場合、既に他制度に計上されているものである。これには、次のようなものがある。

(a)医療保険制度関係 (b)年金保険制度関係

7.財源とは、ILO 基準の表で「収入」を表す。「収入」は、次のように分類される。

被保険者@と事業主Aは、社会保険制度における財源として拠出する保険料である。公務員制度で事業主が国である場合は、国が事業主として拠出した金額はたとえ国庫支出金であっても、事業主拠出に計上する(地方公務員制度についても同様)。

社会保障特別税Bは、ILOの定義では収入の全部もしくは一部が社会保障のために用いられる直接税や間接税または関税を含んでいる。 しかし時には、このタイプの収入と公的機関による直接支払を区別するのは困難である。先進諸国では、アメリカが年金財源を社会保障税から得ている。

国庫負担Cは、中央政府が支出する金額、即ち国庫が負担している金額が計上される。

他の公費負担Dは、都道府県と市町村が支出する金額の合計である。事業によって、負担金が決まっている場合と決まっていない場合があるが、その両方の費用を含む。

資産収入Eは、利子・利息・配当金である。一部の制度については、施設利用料・賃貸料・財産処分益・償還差益等が含まれる。積立金を有する制度(年金・雇用保険等)においては、特にこの資産収入が大きい。

その他Fは、受取延滞金・損害賠償金・手数料・補助金・分担金・繰入金・繰越金・雑収入等、残余の収入である。

他制度からの移転Gは、ある特定の給付に対する負担を複数の保険者で分担している拠出金制度において、他の保険者から受け入れる拠出金又は交付金のことである。これには、次のようなものがある。

(a)医療保険制度関係 (b)年金保険制度関係

8.平成9年度遡及版からの訂正個所については、第1表〜第3表において数値の変更を行った部分についてセルに網掛けをして示した。平成5年度の総額の変更は、失業・雇用対策の集計において本来給付費にいれるべき費用をこの年だけ落としていたことを訂正したために変更となった。他の変更部分の理由は、3区分の費用分類に統一性がなかった年を更新して統一性を持たせたこと、各部局より入手したデータの誤植をさかのぼって更新したことなどである。
 1997年に給付費の制度別個票データをコンピュータ集計するように整備を開始した。整備により、詳細な時系列分析が可能になり統一性に欠ける過去データが明らかになった。データが統一性に欠けたのは、データ提供元の担当者の交代により集計方法の引継が不徹底であったことによる。社会保障給付費のように、2次的データを集計する費用統計ではこのような不都合は避けがたい面もあるが、5年ごとに行う遡及で整備し時系列の分析に耐えうるデータの提供をおこなっていきたい。
 1988年度(昭和63年度)までのデータについては平成14年度遡及版を確定数値とし、原則以後遡及を行わないこととする。

9.表中に用いた記号は次の通りである。

△ マイナス
0 表章単位に満たないもの(ただし収支差については「0」が収支均衡を示す)

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