ページ内を移動するためのリンクです。


国立社会保障・人口問題研究所

  • 文字サイズ


 8 家計の経済資源・人的資源と社会保障の機能の関連性に関する実証的研究(平成21〜23年度)

(1) 研究目的
 従来,所得など家計の有する経済資源に着目して社会保障制度の効率化に関する議論が行われることは多 かったが,健康や教育,技術・技能といった家計の人的資源という観点から社会保障制度との関連が検証さ れることは少なかった。本研究では,家計の経済資源のみならず,人的資源にも着目して社会保障制度との 関連について分析することを目的とする。
 本研究を通じて,従来の経済資源のみならず新たに人的資源が及ぼす影響についても,社会保障制度との 相互関連の中で把握することができる。例えば,高学歴で高い職業スキルを持ち健康状態も良好な女性や高 齢者の場合,結婚や出産,定年退職等の様々なライフ・イヴェントにおける退職の機会費用が高まるため, 保育サービスに対するニーズが高まる一方,老後の所得保障に対するニーズは働き方の実態に即したものに なると考えられる。他方,社会保障制度におけるメタボリック・シンドローム対策や介護予防給付の実施は, 家計の人的資源に直接働きかけることを通じて,将来的な医療・介護支出に影響を及ぼすことが考えられる。 こうしたライフ・イヴェントにおける機会費用や社会保障政策の費用対効果を定量的に把握することにより, 今後の持続可能な社会保障の在り方の検討に向けた多面的な研究成果を提供することが可能となる。

(2) 研究計画
 まず,家計の経済資源のみならず,人的資源にも着目した分析として,次のような研究を行う。@結婚・ 出産及び定年退職等の様々なライフ・イヴェントにおける就労等の経済活動に対して,人的資源や経済資源 がどのように影響しているのか,A出産に伴う保育サービスや退職後の年金受給,医療・介護などのサービ スの利用といった,社会保障に関する国民のニーズに対して,人的資源や経済資源がどのように影響してい るのか。
 さらに,これらの分析も踏まえつつ,人生の各段階において,様々な社会保障サービスの供給と,家計の人 的資源や経済資源が相互にどのように関わっているかについて,分析を行い,全世代型社会保障の構築へ 向けての基礎資料の提供を目指す。
 本研究における以上のような分析は,社会保障制度に対する国民のニーズをきめ細かく正確に把握するとと もに,生活環境の多様化等を踏まえた,柔軟で機能的かつ効率的な社会保障制度の在り方を考える上で,重 要な実証的エビデンスを提供することになる。同時に,本研究では,それらの財政的なインパクトにも言及 する。
 さらに,わが国においては未だ,人的資源や経済資源の両面を網羅した,全国規模かつ長期間にわたるパ ネルデータが存在しないが,本研究では厚生労働省統計情報部の縦断調査等を活用しながら分析を進めるこ ととしているため,その成果の提供を通じて,こうしたパネルデータの設計に向けた研究基盤の確立にも寄 与することができる。
 平成23年度は,本研究課題の最終年度に当たり,目的外申請によって得られた個票データをメインに分析 を進める。その過程で必要となる知見を有する識者からヒアリングを行う。今年度は最終年度なので,秋頃 にワークショップを開催し分析結果について政策的含意を含め多角的に検討したうえで,ディスカッション・ ペーパーとして公表し,これらの成果をもとに最終年度の報告書を取りまとめることとする。

(3)研究組織の構成
担当部長 金子能宏(社会保障基礎理論研究部長)
所内担当 野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2室長),
     暮石 渉(同部研究員),酒井 正(同部研究員),
     泉田信行(社会保障応用分析研究部第1室長),菊池 潤(同部研究員)
所外委員 井堀利宏(東京大学大学院経済学研究科教授),阿部修人(一橋大学経済研究所准教授),
     加藤竜太(国際大学大学院国際関係学研究科教授),
     川口大司(一橋大学大学院経済学研究科准教授),坂本和靖((財)家計経済研究所研究員),
     田中隆一(政策研究大学院大学准教授),戸田淳二((株)リクルートワークス研究所研究員),
     中嶋 亮(横浜国立大学経済学部准教授),
     林 正義(東京大学大学院経済学研究科准教授),
     府川哲夫(田園調布学園大学人間福祉学部社会福祉学科客員教授),
     別所俊一郎(一橋大学大学院経済学研究科/国際・公共政策大学院専任講師)

(4)研究成果の公表予定
 本研究の成果は,研究事業報告書及び図書としてとりまとめ,研究成果の普及を図る。また,当研究所のディ スカッション・ペーパーや機関誌・Web journal ,各研究者の所属する学会,研究会などでの発表,及び学術 誌への投稿等を予定している。