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国立社会保障・人口問題研究所

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 7 社会保障計量分析モデル開発事業(平成21〜23年度)

(1) 研究目的
 社会保障制度を構築するためには,実体経済との相互関係にも留意しつつ,年金等の所得移転に関わる給 付(現金給付)と医療・介護・福祉等に関わるサービス(現物給付)のバランスを図りながら,社会保障給 付をより効率的なものにしていく対応が求められている。具体的には,限られた社会保障財源の中で,年金 等による所得保障と医療・介護・福祉等のサービス提供とをどのように組み合わせて実施していくのかとい う点が,国民負担水準の動向や実体経済に与える影響との関係を含めて,重要な政策課題となっている。
 特に,現物給付については,その実施に当たり多様なサービス提供主体が関わることとなるため,その実態 に即した現実的な分析が重要であり,サービスを供給する側の事情やその行動によって社会保障給付がどのよ うな影響を受けるのかといった点にまで踏み込んだ検討を深めることが必要である。このような供給側からの アプローチについて,近年めざましい発展を遂げている経済学的な分析手法(内生的経済成長モデル,産業組 織論および行動経済学等の新たな分析手法)を組み込むことは,これまでの社会保障分析モデルでは無かった 画期的な対応であり,新たに一層精緻な社会保障計量分析モデルを構築することができることとなる。
 他方,社会保障制度改革の効果と実体経済との相互間の影響を見ることも重要であり,こうした要請にも 対応できる改善を加えることにより,計量分析モデルとしての実用性が大きく高まることから,政策研究機 関としての当研究所における社会保障分野の研究基盤を強化することが可能となる。
 本研究では,このような問題意識に基づき,従来のような社会保障制度と国民経済との関係だけではなく, その内訳としての現金給付と現物給付の構成比の変化や制度的な要因も考慮した,多面的な分析に耐え得る 社会保障計量分析モデルの構築を行うこととしており,社会保障と国民経済に関する現実的で応用範囲の広 いモデルに基づく推計作業に着手することを通じて,今後のわが国の社会保障政策に寄与できるエビデンス 及び政策的インプリケーションを提供しようとするものである。

(2) 研究計画
 社会保障制度改革と実体経済との相互関係を分析できるモデルの構築,供給側の影響を分析できる経済理論 等に関するサーベイを行う。マクロ計量モデルと保険数理モデルとの補完関係の構築(保険数理モデルの経 済的前提条件をマクロ計量モデルにより補正するプログラミング論理の構成等)を中心に,世代重複モデル やマイクロシミュレーション・モデル等も含めた「社会保障計量分析モデル」の開発に着手する。また,医療・ 介護・福祉等のサービス提供(現物給付)については,多様な供給主体が関与する一方,制度的には社会保 険となっているためサービス提供が効率的にできるかを分析する経済理論(プリンシパル・エージェント理論, インセンティヴ・コンパティビィティー理論)等に関する研究動向を調査する。また,現金給付のうち年金 制度は,未納問題など加入者のインセンティブに関わる問題があり,これについて行動経済学による分析の 研究動向を調査する。
 平成23年度は,供給側の影響を分析できるモデルを組み込んだシミュレーションの実施と,その成果を踏 まえた政策的示唆の導出を行う。医療・介護・福祉等のサービス提供における供給側の影響を分析するため の経済理論等に基づくモデルを組み込んで,「社会保障計量分析モデル」による最終シミュレーションを実施 する。また,この成果を踏まえ,政策的な示唆を導出するとともに,政府部内や大学等の他の研究機関と連携 することを通じて広く情報発信し,社会保障分野の計量分析の発展にも貢献する。なお,研究会の実施は年3 〜4回程度であり,最終年度にあたり研究の進化と成果普及のためにワークショップを開催する予定である。

(3) 研究組織の構成
担当部長 金子能宏(社会保障基礎理論研究部長)
所内担当 山本克也(社会保障基礎理論研究部第4室長),佐藤 格(同部研究員),
     菊池 潤(社会保障応用分析研究部研究員)
所外委員 稲垣誠一(一橋大学経済研究所教授),大林 守(専修大学商学部教授),
     加藤久和(明治大学政治経済学部教授),川瀬晃弘(東洋大学経済学部准教授),
     府川哲夫(田園調布学園大学人間福祉学部客員教授),
     小黒一正(一橋大学経済研究所准教授),中田大悟(経済産業研究所研究員)

(4) 研究成果の公表予定
 本研究の成果は,研究事業報告書としてとりまとめるとともに,当研究所のディスカッション・ペーパーや 機関誌・Web journal,各研究者の所属する学会,研究会などでの発表,及び学術誌への投稿等を予定している。