厚生労働科学研究費補助金 平成22年度



(政策科学推進研究事業)

11 家族・労働政策等の少子化対策が結婚・出生行動に及ぼす効果に関する総合的研究 (平成20 〜 22 年度)

(1) 研究目的

 わが国における低出生率,すなわち少子化への政府の対応は,1994年12月に当時の厚生,文部,労働,建設の4大臣合意による「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」に始まり,その後「新エンゼルプラン」を経て,2004年に「少子化対策大綱」を閣議決定し,従来の「子育て支援」政策から「出生率上昇」政策へとより積極的に少子化問題への取り組みを始めた。そして,「少子化対策大綱」に基づく具体的な施策である「子ども・子育て応援プラン」が実施に移された。その後も,少子 化対策は政府の重要な施策課題として推進され,2007年の「子どもと家族を応援する日本」重点戦略,さらに次世代育成支援の包括的枠組み・中期プログラムなどによって政策が実施されてきている。2009年の政権交代後は子育て世帯への経済的支援に重点が置かれ,子ども手当制度が実現した。全国の自治体では,2005年から「次世代育成支援対策推進法」に基づく次世代育成支援行動計画(前期行動計画)が策定され,各自治体単位で様々な子育て支援事業が展開されている。2009年度には,これまでの前期行動計画を見直し,各自治体で「後期行動計画」が策定されて実施に移されている。こうした諸施策が次々と展開されている中,これらの政策がどのような形で効果を上げ,最終的に日本の少子化の進行を抑制し出生率の回復に効果を及ぼすのか実証的に明らかにする必要がある。
 こうした背景を踏まえ,本プロジェクトでは,わが国において社会経済的要因が結婚・出生行動に及ぼす影響を明らかにすること,および政府や自治体が少子化対策として実施している家族・労働政策等がそれらの行動へ及ぼす影響・効果を検証することを通じて,今後の少子化関連施策の展開に資する研究知見を得ることを目的として研究を行う。

(2) 研究計画

 本研究では,3つの切り口から課題に接近する。第一に,少子化に影響を及ぼす社会経済要因に関して理論的・実証的研究を行う。第二に,それらを土台に,家族・労働政策として行われる諸政策と現実の社会経済的諸条件が結婚や出生行動に及ぼす影響について,シミュレーションモデルによる分析を行い,今後の出生率動向に及ぼす政策要因の効果を統計的に把握する。具体的には,このシミュレーションモデルによって個別の家族政策,たとえば投入する児童手当の水準が出生率にどの程度の変化を引き起こすかといった効果 をマクロの観点から把握する。  第三に,特定の自治体の協力を得て行った調査データに基づいて,行動計画が提供するサービスと両親の育児ニーズとの整合性や,策定された行動計画の有効性と妥当性を評価する。とくに,行動計画作成段階から実施段階における問題点や改善点,計画の進捗状況について質問紙調査とヒアリング調査により分析を進め,行動計画の評価方法に関するモデルを作成する。これら三つの観点から研究を遂行し,効率的な少子化対策のあり方を提言する。  本年度は3年計画の最終年であり,結婚と出生行動に関する社会経済分析の研究を進めるとともに,都道府県単位のクロスセクションデータに基づくモデルへと拡張した政策効果を検討するためのシミュレーションモデルの精緻化を試みる。また,地方自治体と連携した質問紙調査および自治体の子育て支援行動計画に関するヒアリング調査を継続して行う。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
高橋重郷(副所長)
研究分担者
佐々井司(人口動向研究部第1室長),守泉理恵(同部主任研究官),
中嶋和夫(岡山県立大学保健福祉学部教授)
研究協力者
別府志海(情報調査分析部主任研究官),鎌田健司(客員研究員),
安藏伸治(明治大学政治経済学部教授),大淵 寛(中央大学名誉教授),
大石亜希子(千葉大学法経学部准教授),君島菜菜(大正大学非常勤講師),
桐野匡史(岡山県立大学助手),工藤 豪(埼玉学園大学非常勤講師),
増田幹人(内閣府経済財政分析担当政策企画専門職),
仙田幸子(東北学院大学教養学部准教授),
永瀬伸子(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授),
関根さや花(明治大学大学院院生)

(4) 研究成果の公表予定

 年度末の研究報告書において成果をとりまとめて公表する。ほか,日本人口学会等での発表,学術雑誌等への投稿を予定している。





12 人口動態変動および構造変化の見通しとその推計手法に関する総合的研究 (平成20 〜 22 年度)

(1) 研究目的

 わが国はすでに恒常的な人口減少過程に入り,同時に少子高齢化も急ピッチで進行している。今後に見込 まれる人口動態ならびに人口構造の未曾有の変動は,わが国の社会経済の基盤を根底から揺るがすものであ り,その見通しに定量的な指針を与える将来推計人口の重要性は増大している。しかし一方で,少子化,長 寿化,国際化の急速な進行によって人口動態の見通しは不透明となっており,こうした潮流の原因やメカニ ズムについては国際的にもほとんど解明されていない。そうした中で,わが国は世界に先駆けて未曾有の人 口高齢化を経験して行くため,その人口動向の見通しや制度的対応の方途において,これまでのように手本 とすべき先行例はなく,先陣を切ってこの前人未到の状況下を進んで行くことが余儀なくされている。こう した中本事業は,将来人口推計手法の先端的技術と周辺科学の知見・技術を総合し,社会経済との連関を考 慮しつつ,わが国の人口動態・構造変動のメカニズムの解明,モデル化,推計の精密化を図ることが目的で ある。また同時にその成果によって少子化や健康に関連する諸施策や今後の社会保障制度改革ならびに諸制 度の再構築に資する知見を提供することを目指している。

(2) 研究計画

 本研究においては,第一に人口変動の元となる国民生活やライフコース・家族の変容・健康や寿命に関す るデータを体系化し,いち早く正確に捉えるための分析システムの開発を行なう。すなわち,既存の人口統 計ソースである国勢調査データ,人口動態統計データ,全国標本調査データの体系的な再集計・分析システ ムの構築を行い,モニタリング体制の確立に取り組んでいる。第二にそれらのシステムと既存の将来推計人 口技術を確率推計手法,多相生命表手法をはじめとする構造化人口動態モデルなどの先端的技術と融合させ, これらの新しい技術の実用化への発展を図るものとする。さらに第三として,社会経済変動との連動など広 い視野を持った研究の基礎として,エージェント技術などに代表される革新的な技術を用いたモデル,なら びにシステムの開発に着手した。これらは,今後予想される人口動態と社会経済との相互関係の複雑化に対 応するものであり,各国の研究者と連携して研究を展開している。平成22年度においては,データ整備等 の研究インフラの整備に努めつつ,理論研究,実証分析においては,これまでの成果を踏襲し,構造化人口 モデルにおける再生産力の理論化,現下の出生動向の把握・要因分析と社会経済動向との連関に関する研究, 寿命予測モデルの改良,国際人口移動の分析・推計枠組みの構築等を中心とし,国際的な協力体制の下で研 究を実施して行く。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
金子隆一(人口動向研究部長)
研究分担者
佐々井司(人口動向研究部第1室長),岩澤美帆(同部第3室長),
石井 太(国際関係部第3室長),守泉理恵(人口動向研究部主任研究官),
稲葉 寿(東京大学大学院准教授)
研究協力者
石川 晃(情報調査分析部第2室長),別府志海(同部主任研究官),
三田房美(企画部主任研究官),国友直人(東京大学経済学部教授),
堀内四郎(ニューヨーク市立大学ハンター校教授),
大崎敬子(国連アジア太平洋経済社会委員会社会部人口・社会統合課長),
エヴァ・フラシャック(ワルシャワ経済大学教授),
スリパッド・タルジャパルカ(スタンフォード大学教授)

(4) 研究成果の公表予定

 研究報告書を作成し,公表する予定である。





13 東アジアの家族人口学的変動と家族政策に関する国際比較研究 (平成21 〜 23 年度)

(1) 研究目的

 東アジアではかねてから出生促進策を採ってきたシンガポールや日本に加え,2000年代に入って急激な 出生力低下を経験した韓国・台湾も出生促進策に急旋回した。これらは出生促進策を中心としながらも,子 どもの福祉向上,若者の経済的自立,多様化するニーズへの対応等を含む包括的な家族政策パッケージになっ ている。一方で東アジアの極端な出生力低下の要因に対しては,北西欧や英語圏先進国と異なる家族パター ンの重要性が指摘されている。この点で,結婚制度の衰退や不安定化,成人移行の遅れ,世帯規模の縮小と 世帯構造の多様化,国際結婚の増加といった家族人口学的変動の中に出生力低下を位置づけることが,きわ めて重要な意味を持つことになる。本研究は,日本を含む東アジアの低出生力国における家族人口学的変動 と家族政策の展開を比較分析し,それらを通じて得られた知見からわが国の今後の家族変動と家族政策に対 する示唆点を得ようとするものである。

(2) 研究計画

 本研究では,東アジアの低出生力国の家族人口学的変動と家族政策の展開を,文献・理論研究および専門 家インタビュー,マクロおよびマイクロデータの分析,将来予測の各段階を踏んで分析を進める。そのよう な分析を通じて,東アジアにおける家族人口学的変動の特徴を明らかにし,それがどのような家族政策を発 現させ,そうした政策が過去にどの程度の効果を及ぼし,また将来及ぼし得るかを明らかにする。
 第二年目のデータ分析では,出生力低下を中心とする家族変動とその社会経済的要因に関するマクロデー タを広く収集する。また子育て支援支出,保育サービスの充実度,休暇取得率といった政策関連指標に関す るマクロデータ,および多変量解析が可能なマイクロデータの収集にも努力する。これらを用いて家族変動 の実態と要因,および家族政策の有効性に関する分析を進める。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
鈴木 透(企画部第4室長)
研究分担者
菅 桂太(人口構造研究部研究員),伊藤正一(関西学院大学経済学部教授),
小島 宏(早稲田大学社会科学総合学術院教授)

(4) 研究成果の公表予定

 研究報告書を作成し,公表する予定である。





14 貧困・格差の実態と貧困対策の効果に関する研究(平成22〜 24年度)

(1) 研究目的

 OECDによると日本の相対的貧困率は15%とOECD30カ国の中で4番目,所得格差(ジニ係数)は0.32と11番目に高い。2008年からの経済危機を受けて,国内においても生活に困窮する層が増加し,それに対処するために貧困の人々に対するさまざまな制度も充実してきている。貧困や格差に対する政策をいち早く講じている欧米諸国においては,格差や貧困が社会にとって莫大な社会的・経済的コストを生み出すことが認識されており,格差や貧困に対処するプログラムは,対費用効果という観点からも,ペイすると言われている。しかしながら,貧困研究が盛んな欧米諸国に比べ,日本においては,このような生活困窮に対する制度の効果や影響を分析する研究の蓄積が乏しいのが現状である。また,貧困や生活困難の現状に関する諸統計も少なく,一部の研究者による散発的な研究によるデータしか存在しない。さらに,日本における許容できる最低限の生活とはどの程度のものなのか,といった議論が活発でないために,生活保護制度や最低賃金などの経済弱者を支える制度の給付水準などを含めたナショナル・ミニマムについても,国民的合意が得られていない。  そこで,本プロジェクトでは,以下の4つのサブ・プロジェクトを行う。
    @ 格差が及ぼす社会への影響の研究
     格差や貧困が及ぼす影響は,格差の底辺や貧困の当事者のみに限られているわけではない。例えば,社 会疫学の分野からは,社会における経済的格差は,社会の中の経済弱者のみならず,経済強者の健康にも 悪影響を与えることが分かってきている。また,アメリカ政治学会は,アメリカにおける格差の拡大が民 主主義そのものを脅かしていると警告を発している。格差が大きい社会においては,社会における信頼と いった規範さえも薄らいでいる。本サブ・プロジェクトでは,欧米・日本における既存研究のサーベイに よってこれら格差・貧困の影響に関する知見を集積し,日本への示唆を探る。
    A 格差と貧困の経済コストの研究
     欧米諸国においては,格差や貧困に対処するプログラムの対費用効果を推計し,それを根拠に諸プログ ラムの財政措置が取られている。それらの手法を参考に,本サブ・プロジェクトでは,各種の貧困対策プ ログラム(例えば,教育支援や就労支援など)の効果を,シミュレーションを行って推計する。
    B 最低生活水準の算定手法の開発と試算
     国民における「最低生活」を測る一手法にはマーケットバスケット方式,実態家計方式などいくつかの 方法がある。近年英国で「合意基準アプローチ」の本格的な試みがある。これは,一般市民に対してどの ようなものが現代日本において最低限必要であるかを問う手法である(詳細は阿部2002参照のこと)。申 請者は2003年にこのような調査を試行し,また分担者の岩田は現在低所得層の家計調査を行い,実態家 計からの試算を行っている。これらの方式の利点難点を検討した上で,複合的なアプローチ法を開発し, 具体的な地域での試算を行う。
    C 貧困統計データベースの構築
    貧困や格差の指標は,研究者や行政によって公表されつつあるも,その定義や解釈についての理解につ いては一般的な理解を得ているとは言い難い。本プロジェクトでは,既存統計やそれらの特別集計による 貧困や格差のデータベースを構築し,それらを公開すると共に,データに関する理解を促すことを行う。

(2) 研究計画

 平成22年度は,格差と貧困の経済コストの研究について文献サーベイおよび暫定的試算を行う。また,最低生活水準の手法の一つとしてのイギリスのMIS(Minimum Income Standard)の検討とパイロット調査を行う。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
阿部 彩(社会保障応用分析研究部長)
研究分担者
西村幸満(社会保障応用分析研究部第2室長),岩田正美(日本女子大学教授)
研究協力者
黒田有志弥(社会保障応用分析研究部研究員),
岩永理恵(神奈川県立大学保健福祉大学助教),埋橋孝文(同志社大学教授),
重川純子(埼玉大学教授),山田篤裕(慶應義塾大学経済学部准教授)

(4) 研究成果の公表予定

 本研究の成果の一部は,6月の厚生労働省「ナショナルミニマム研究会」などで報告される。また,機関紙,学会などで,発表する予定である。





15 社会保障給付の人的側面と社会保障財政の在り方に関する研究 (平成22〜 24年度)

(1) 研究目的

 医療・介護・福祉等に関わる人々(福祉マンパワー)の確保・定着に関わる課題が,地域的な人手不足や 分野別の人手不足,正規・非正規職員の労働条件格差などを例として明らかになり,対策が採られ始めてい る(平成18年7月「医師の需給に関する検討会報告書」,平成20年7月「介護労働者の確保・定着等に関 する研究会中間取りまとめ」)。しかし,現場では,ニーズに応じた医療・介護従事者の不足,非正規職員 の待遇改善等の課題が残されている。これらの課題は,若年労働力の減少や労働市場の変化など従来とは異 なる社会経済状況と関連している。従って,福祉マンパワーの確保・定着を図るためには,働く人々のイン センティブ(誘因)と技能向上,ニーズに応じた人材配置等を可能にする組織体制を,賃金等人件費を含む 社会保障財政とのバランスを保ちながら整備・拡充していくという,制度横断的な課題に応えることが必要 である。
 このような問題意識から,本研究では,福祉マンパワーの全体把握を,時系列データに基づく実証分析と 制度分析を合わせて行い,これらの分野で人々に働く誘因が与えられかつ社会保障財政を維持していくこと のできる制度間に共通した要素と条件を明らかにし,今後の政策に応用可能なエビデンスを提供することを 目的として,研究を行う。

(2) 研究計画

 本研究では,専門職に就く人々の社会的背景やインセンティブには多様な要素が関係するため,経済学の みならず,教育社会学,心理学,社会保障法学,準市場論,制度分析などを応用し多角的に分析する。研究 方法としては,福祉マンパワーの統計データによる全体把握,専門職従事者の教育・社会的背景の分析,福 祉マンパワーに関連する制度分析・社会保障法学的分析,及び「国民生活基礎調査」等の再集計による福祉 マンパワーに影響するニーズ把握,ニーズ需給に関する実証分析や対費用効果のシミュレーション分析,並 びに国際比較研究を実施する。研究項目は,次の通りである。
    @ 福祉マンパワーの統計による全体把握と制度分析:福祉マンパワーとなる人々の就業意識と教育・入職経路等との関連性の分析,福祉マンパワーの就業インセンティブと賃金水準・賃金格差に関する比較研究,福祉分野における雇用制度の比較制度分析,特定健康診査・保健指導のコストと医療保険財政に関する研究)。
    A 実証分析:介護・福祉における家族と社会サービスの代替・補完関係に関する分析,介護・福祉サービス提供の制度改善と人的資源の専門性に関する制度分析,ライフサイクルにおける医療・介護ニーズの推計に基づく医療介護財政の分析,世帯構成・所得格差の変化を踏まえた社会サービスのマイクロ・シミュレーション分析,人件費・管理コストを考慮した医療・介護財政と地方財政との関係に関する分析。
    B 国際比較研究:EU及びドイツ等の社会サービス提供と専門職確保に関する政策の研究,介護力に着目した人的資源の育成・定着の条件と国際協力に関する研究。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
金子能宏(社会保障基礎理論研究部長)
研究分担者
松本勝明(政策研究調整官),東 修司(企画部長),
山本克也(社会保障基礎理論研究部第4室長),暮石 渉(同部研究員),
佐藤 格(同部研究員),稲垣誠一(一橋大学経済研究所教授),
岩木秀夫(日本女子大学人間社会学部教授),
岩本康志(東京大学大学院経済学研究科教授),
西山 裕(北海道大学公共政策大学院教授),音山若穂(郡山女子大学短期大学部准教授),
森口千晶(一橋大学経済研究所准教授),八塩裕之(京都産業大学経済学部准教授),
周 燕飛(労働政策研究・研修機構副主任研究員),
湯田道生(中京大学経済学部准教授),米山正敏(国立保健医療科学院主任研究官)
研究協力者
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2室長),酒井 正(同部研究員),
泉田信行(社会保障応用分析研究部第1室長),田近栄治(一橋大学副学長),
永瀬伸子(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授),
ジャネット・ゴルニック(ニューヨーク市立大学教授/ LIS事務局長)

(4) 研究成果の公表予定

 研究報告書を作成し,公表する予定である。





16 所得水準と健康水準の関係の実態解明とそれを踏まえた医療・介護保障制度・所得保障制度のあり方に関する研究(平成22〜 23年度)

(1) 研究目的

 本研究の目的は個人属性を踏まえた所得と健康の関係を明らかにすることにより,所得保障のあり方を踏 まえた医療保障制度のあり方を具体的に示すことである。得られた結果をもとに,特に国民健康保険,のあ り方を検討することである。

(2) 研究計画

 本年度は初年度として,分析に利用する調査データ等の準備を主に実施する。公的統計の使用申請の実施, 市町村での調査や個人に対するアンケート実施に係る倫理審査の受審,調査の実施を迅速に実施し,データ が利用可能となったものから随時分析に着手する。それまでの期間は有識者等からのヒアリングを実施する。
    @ 既存統計については厚生労働省大臣官房統計情報部等へ使用の申出を行って分析を実施する。使用する統計調査は,国民生活基礎調査,成年者縦断調査,所得再分配調査,国民健康・栄養調査,国民健康保険医療給付実態調査報告,国民健康保険実態調査報告,健康保険被保険者実態調査,政府管掌健康保険・船員保険医療給付受給者状況調査報告,である。
    A 市町村での調査を行う研究
     所得水準と健康状態・要介護状態の関係をコホート別に追跡するデータセットを作成し,地域間比較可能な形で分析を実施する。
    B 個人に対するヒアリング・アンケート調査による研究
     市町村での調査実施は被用者保険加入の勤労者の情報把握には限界がある。また,個別疾患の費用と負担の現状把握は,当該疾患の発現率が低い場合に効率性が低くなる。この弱点を補完するために実施する。
    B-1 疾患別の費用負担の現状を把握するために個人に対するヒアリングを実施する。倫理審査を受審するため,一年次の後半から開始する。精神疾患は疾病負担が大きいことが知られており,同疾患から調査を実施する。
    B-2 引退期の個人の所得と健康の関係について分析するためにアンケート調査を両年次にわたって同一個人を追跡可能な形で実施する。疾病罹患の有無と引退時期の早さ,所得の多寡の関係等を明らかにする。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
泉田信行(社会保障応用分析研究部第1室長)
研究分担者
川越雅弘(企画部第1室長),野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2室長),
小島克久(国際関係部第2室長),菊池 潤(社会保障応用分析研究部研究員),
山田篤裕(慶應義塾大学経済学部准教授),
中村さやか(横浜市立大学国際総合科学部准教授),
野田寿恵(国立精神・神経医療研究センター社会福祉研究室長),
近藤尚己(山梨大学大学院医学工学総合研究部講師),
府川哲夫(田園調布学園大学人間福祉学部客員教授)
研究協力者
東 修司(企画部長),新田秀樹(大正大学人間学部教授),
近藤克則(日本福祉大学教授),宮澤 仁(お茶の水女子大学准教授),
濱秋純哉(内閣府経済社会総合研究所研究官),
石井加代子(慶應義塾大学大学院商学研究科特別研究講師)

(4) 研究成果の公表予定

 研究報告書を作成し,公表する予定である。





17 要介護高齢者の生活機能向上に資する医療・介護連携システムの構築に関する研究(平成22〜 24年度)

(1) 研究目的

 要支援・要介護(以下,要介護等)高齢者に対し,質の高い医療・介護サービスを効率的に提供するためには,医療と介護の連携強化が必要である。
 本研究は,医療・介護連携上の主要課題(課題1:病院とマネジメント担当者(ケアマネジャー及び地域包括支援センター職員,以下,ケアマネ等)との連携(退院時連携),課題2:在宅主治医とケアマネ等との連携,課題3:終末期患者に対する在宅主治医・看護師とケアマネ等との連携)別に,連携の実態とその阻害要因を調査分析した上で,制度面ならびに報酬面からみた具体的な課題解決策を提示することを目的とする。

(2) 研究計画

【課題1:病院とケアマネ等との連携】
 初年度(平成22年度)は,病院から在宅に退院する要介護等高齢者に対する,@病院の退院支援プロセス A退院後のケアプラン作成プロセス B退院後の生活機能予後(アウトカム)に関する調査を行い,生活機能予後(アウトカム)からみた最適な退院支援プロセスの在り方を検証する。また,解決策を提示するため,退院支援プロセスへの介入研究(連携モデル構築)を開始する。
 平成23年度は,介入研究の効果評価を行った上で,平成24年度診療報酬・介護報酬同時改定や制度改正に向けた政策提言をまとめる。
【課題2:在宅主治医とケアマネ等との連携】
 平成22年度は,在宅主治医とケアマネ等の連携の実態と課題を,アンケートやインタビューを通じて把握する。また,同一症例に対する医療リスク評価を,主治医/看護師とケアマネ等がそれぞれ実施し,両者の認識の差異の実態について,事例ベースで検証する。また,認知症高齢者に関しては,早期発見・早期対応が求められているが,これらをすでに行っている先行地域の取り組み状況のヒアリングを行い,課題解決策に向けた示唆を得る。
 平成23年度は,医療リスク把握や認知症高齢者の早期発見用のチェックリストの作成,ならびにその活用方法の検討,ケアマネ等向け研修プログラムの検討を行う。
【課題3:終末期患者に対する在宅主治医・看護師とケアマネ等との連携】
 平成22年度は,終末期患者に関する,@医療・介護・生活支援サービスの受給状況と必要サービス量 A退院時におけるケアマネ等の関与状況について,アンケート調査を行い,その実態を把握する。
 平成23年度は,在宅主治医・看護師とケアマネ等との連携上の課題を,事例検証やインタビューを通じて把握する。
 平成24年度は,同年4月に実施される診療報酬・介護報酬同時改定の影響分析を行うと同時に,前年度までに開発した連携支援ツールおよび研修プログラムの試行を行い,その実用性と有効性を検証する。その上で,退院時連携を含めた,連携手順に関するガイドラインの作成と,政策提言のまとめ,残された課題と対策の整理作業を行う。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
川越雅弘(企画部第1室長)
研究分担者
泉田信行(社会保障応用分析研究部第1室長),白P由美香(同部研究員),
備酒伸彦(神戸学院大学総合リハビリテーション学部准教授),
篠田道子(日本福祉大学社会福祉学部教授),
竹内さをり(甲南女子大学看護リハビリテーション学部講師),
孔 相権(大阪市立大学博士研究員)
研究協力者
森上淑美(兵庫県介護支援専門員協会会長),原 寿夫(郡山市医療介護病院院長),
戸田和夫(戸田内科・リハビリテーション科院長),
鍋島史一(福岡県メディカルセンター保健・医療・福祉研究機構主任研究員),
小森昌彦(兵庫県民局但馬長寿の郷企画調整部主任),
内藤正樹(クリニック内藤経営企画室室長)

(4) 研究成果の公表予定

 研究報告書を作成するとともに,関連学会にて研究成果の一部を報告する予定である。





(障害者対策総合研究事業)

18 障害者の自立支援と「合理的配慮」に関する研究―諸外国の実態と制度に学ぶ障害 者自立支援法の可能性―(平成20 〜 22 年度)

(1) 研究目的

 目的は障害者自立支援法の理念である自立と完全社会参加と平等を理論的及び実践的に捉えながら,将来 日本が「障害者権利条約」を批准するための条件整備に必要な要件を明らかにすることである。本研究の特 徴は理論的には「社会モデル」の実践への応用を試みることで,「合理的配慮」の政策面への反映を目標に するところである。

(2) 研究計画

 政策との関係では,国内における,労働市場や就労の場の実態,自立生活実践の場の問題,地方自治体の障害者基本計画と県と市町村の役割分担の問題点などを検討する。1年目は法施行後の市町村などの基礎自治体とそれを指導する都道府県にヒアリングを実施した。
 2年目は,「障害者権利条約(第19条自立した生活及び地域社受け入れられること)」条約の履行につながる施策について,重度障害者の地域生活を可能とする条件について日本国内において先駆的な地域における事例調査を行った。
 なお,平成20年度実施したカリフォルニア州発達障害の現地調査で入手した「ランターマン法における権利とは? 発達障害者のためのリージョナルセンターのサービス」を翻訳し,ランターマン法のPC− IPPと障害者自立支援法の支給決定システムとの対比を中心とした日米制度の比較検討を行った。これは,障害者権利条約の要請に応え知的障害者の「生活の自律」を前提とする支援システムを日本においても本格的に構想するための基礎資料となる。
 また,国内においては介助サービスを利用し自立生活を行っている障害者とその支援者に対するヒアリング調査を実施し,自立生活の実態を調査した。地域的ばらつきがあり数としても少ない地域自立生活を送る障害者の生活を詳細なインタビュー調査より明らかにした。障害者権利条約19条の批准後に増加する見込みの障害者の生活様式についての基礎的資料を得ることができた。
 2009年6月に,UNESCAP『アジア・環太平洋における障害者権利条約と国内法の協調に関する専門家会議』にオブザーバーとして参加し,そこで紹介された韓国政府保健福祉家族部における研究「障害者差別改善モニタリングシステム構築のための政策研究」の日本語訳を作成した。障害者差別禁止法を整備し,障害者権利条約を批准した同国が,2009年から試行実施しているモニタリングシステム(監視調査委員会)の基礎となる諸外国の情報収集がそこにあり,批准後日本が求められているパリ原則に基づく監視委員会のあるべき姿を考える上で貴重な資料となる。
 最終年(3年目)にあたる当該年度は,政権交代によって条約批准の可能性が高まった。それをふまえて,障害者権利条約における,自立(自律)生活,就労と社会参加,障害当事者の参画,監視機構の在り方,など,参加研究者の過去2年間の研究成果を広く一般に公表し,障害者権利条約に対する日本人の関心を喚起できるようオープンな研究活動を行っていく。なお,障害者権利条約の批准にむけて本条約が果たしうる批准国における政策推進の役割について,すでに批准している国の経験に学ぶべく,オーストラリアより障害保健福祉総合研究推進事業・外国人研究者招へい事業の採択によって研究者を招へいする。そして招へい研究者と本研究の参加研究者をパネラーとする公開シンポジウムを開催する。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
勝又幸子(情報調査分析部長)
研究分担者
白P由美香(社会保障応用分析研究部研究員),岡部耕典(早稲田大学文学学術院准教授),
土屋 葉(愛知大学文学部准教授),遠山真世(立教大学コミュニティ福祉学部助教),
星加良司(東京大学大学院教育学研究科専任講師)
研究協力者
磯野 博(静岡福祉医療専門学校教員),
臼井久美子(東京大学READ:経済と障害の特任研究員),大村美保(東洋大学大学院院生),
木口恵美子(東洋大学大学院院生),佐々木愛佳(自立生活センター日野コーディネーター),
瀬山紀子(東京大学READ:経済と障害の特任研究員),
中原 耕(同志社大学大学院社会学研究科院生),山村りつ(同研究科院生),
西山 裕(北海道大学公共政策大学院教授)

(4) 研究成果の公表予定

 2011年3月に研究報告書を作成し,公表する予定である。





(統計情報総合研究事業)

19 パネル調査(縦断調査)に関する統合的分析システムの応用研究(平成22 年度)

(1) 研究目的

 本研究は,厚生労働省が各種の施策策定に資する科学的基礎資料を得るために実施しているパネル調査 ( 21世紀出生児縦断調査,成年者縦断調査,中高年者縦断調査(以下,21世紀縦断調査))に対し,データ 管理から高度な統計分析までを総合的に支援するシステムを開発し,またデータの特性や分析研究に必要な 事項に関する知見を体系的に提供することによって,調査実施主体における速やかで効率的な結果公表に資 するとともに,手法開発ならびに分析研究による学術的貢献を目的としている。縦断調査は行政ニーズの把 握や施策効果の測定に有効な調査形態であるが,その活用には横断調査と異なる独自のデータ管理と分析手 法が必要である。しかし21世紀縦断調査は日本の政府統計上初の大型パネル調査であり,これまでの管理・ 分析法に関する知識,経験の蓄積は十分とはいえなかった。このため本研究の先行事業において,この調査を行政的,学術的に活用するための効果的なデータ管理,統計分析のためのインフラストラクチャーの構築 に向けて研究開発を進めてきた。本事業ではそれらの成果を受けて,その体系化,実用化に向けての研究開 発を行うものとする。

(2) 研究計画

 研究は平成22年度の1年間で行うものとし,これまで本事業において開発された個々のシステムの本格 的な実用化と知見の体系化に向けて,統合と総括を図る。具体的には,@データ管理・統計分析システムの 開発,Aパネル調査に関する情報ベースの開発,B分析手法の確立・体系化,Cデータ特性の分析・把握, D事例研究とその体系化,という五つの領域に分けて,@Aにおいてはシステム開発を進め,課題について 対処することによって,効果的な支援を行えるシステムの提供を目指す。Aにおいてはさらにデータの更新 を行う。Bにおいては,パネル特有の分析法について体系化を行い,解説等を付した提供を行う。Cにおい ては,分析の基礎となる脱落等データ特性に関する分析,横断調査との特性の違いに関する分析などを進め るとともに,これまで得られた知見を体系化し有用な形態で提供を行う。Dにおいては,結婚・離婚,出生, 育児,発育,健康・疾病,就労,家計,社会活動,各種社会保障制度の利用など,主要な21世紀縦断調査 のテーマについてこれまで集積されてきた基礎的分析事項に関する知見について,本調査データを用いた一 般の研究分析の高次のインフラとして活用されるようにライフコースを縦軸,テーマの関連を横軸として体 系化に努め,提供を行うものとする。それらを総合した成果によって,年々蓄積されて行く縦断調査データ に対し,速やかで質の高い結果公表に資するとともに,方法論・分析結果の双方において国際的に価値の高 い貢献が得られることが期待される。

(3) 研究組織の構成

研究代表者
金子隆一(人口動向研究部長)
研究分担者
釜野さおり(人口動向研究部第2 室長),北村行伸(一橋大学経済研究所教授)
研究協力者
阿部 彩(社会保障応用分析研究部長),石井 太(国際関係部第3室長),
岩澤美帆(人口動向研究部第3室長),守泉理恵(同部主任研究官),
三田房美(企画部主任研究官),鎌田健司(客員研究員),
阿藤 誠(早稲田大学人間科学学術院特任教授),津谷典子(慶應義塾大学経済学部教授),
中田 正((株)リソースネット顧問),
藤原武男(国立保健医療科学院生涯保健部行動科学室長),
井出博生(東京大学医学部付属病院助教),
西野淑美(東洋大学社会学部社会学科専任講師),
福田節也(マックスプランク人口研究所研究員),
相馬直子(横浜国立大学大学院国際社会科学研究科准教授),
元森絵里子(明治学院大学社会学部専任講師)

(4) 研究成果の公表予定

 研究報告書を作成し,公表する予定である。



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