厚生労働科学研究費補助金



(政策科学推進研究事業)

11 国際比較パネル調査による少子社会の要因と政策的対応に関する総合的研究(平成17 〜 19 年)

(1) 研究概要

 本研究は,平成14 年度から16 年度まで3 年間実施してきた「「世代とジェンダー」の視点からみた少子高齢社会に関する国際比較研究」プロジェクトを踏まえた上で,新たにパネル調査の実施や政策効果に関する研究を行う総合的研究を企図したものである。日本を含む国際比較可能なマクロ・ミクロ両データの分析に基づいて,結婚・同棲などを含む男女のパートナー関係,子育て関係などの先進国間の共通性と日本的特徴を把握し,これによって,日本における未婚化・少子化の要因分析と政策提言に資することを目的とする。

(2) 研究方法・研究計画

 本研究は,個人を単位とした調査の実施・分析(ミクロ・データ)と各国の法制度改革時期や行政統計データを含むマクロ・データ・ベースの構築という,大きな2 つの柱からなる。前者のミクロ・データについてはドイツのマックスプランク人口研究所が中心となり質問検討委員会が構成され,比較可能な共通のフレームで実査を行う。後者は,フランス国立人口研究所が中心となってデータベース委員会が構成され,マクロ・データに関する基本方針が決定される。これら2 つの委員会の方針に従って,各参加国は調査実施とマクロ・データの提供を行う。さらに,ミクロ班で設定されたテーマのもと,ミクロ・データ,マクロ・データを用いて多層的な国際比較研究を行う。19 年度は,具体的に以下の活動を行う(プロジェクト第3 年度目)。
  1. 国連ヨーロッパ経済委員会人口部・コンソーシアムが取りまとめる「世代とジェンダーに関する国際比較報告書」の内容について,日本側の意見を提示し,最終的な報告書の確定に向けて参加国と作業協力を進める。
  2. 第二回「ジェンダーと世代パネル調査」の本調査の2008 年度分を実施する。調査実施後は,調査票を回収し,データ・クリーニングを行い,分析用のデータ・セットを作成する。
  3. GGP のホーム・ページ用に,日本での調査の進行状況や第2 回調査の結果について情報を提供する。
  4. GGP マクロ・データ・ベース委員会が提示した共通フレームに基づき,マクロ・データ・ベースのためのデータ入力作業及び整備を完了させる。
  5. 前年度に引き続き,「GGP ニューズ・レター」を刊行し,本プロジェクトの進捗状況の公表と被調査者へのフォローアップを継続する。
  6. 日本の第1 回,第2 回のパネル調査データを用いた分析,マクロ・データの分析を統合させ,さらに国際比較分析の視点も含めた総合的研究の成果を踏まえて,政策提言を導き出すとともに,最終報告書の作成に努める。

(3) 研究者の組織

主任研究者
西岡八郎(人口構造研究部長)
分担研究者
福田亘孝(人口構造研究部第1 室長),阿藤 誠(早稲田大学人間科学学術院特任教授),
津谷典子(慶應義塾大学経済学部教授),
研究協力者
菅 桂太(客員研究員),岩間暁子(和光大学人間関係学部准教授),
田渕六郎(上智大学総合人間科学部准教授),吉田千鶴(関東学院大学経済学部准教授),
星 敦士(甲南大学文学部准教授)





12 少子化関連施策の効果と出生率の見通しに関する研究(平成17 〜 19 年度)

(1) 研究目的

 平成18 年6 月に公表された平成17 年の合計特殊出生率は1.26 と極めて低い水準を記録した。こうした少子化傾向の進展を背景として,本研究においては,今後の少子化対策を効率的に推進することに資するために,1)少子化対策要因の出生率におよぼす影響評価の研究,2)地域の少子化対策の効果に関する研究,ならびに3)少子化の見通しと少子化施策に関する有識者ならびに自治体政策担当者の調査という三つの柱から研究を実施してきている。
 少子化の主な人口学的要因が,女性の未婚化,晩婚化,非婚化の進展であることは,本研究班がこれまでも強調してきたことである。しかし,現実には結婚促進策ともいうべき施策はほとんど考えられてこなかった。
 施策は,出産・育児の環境整備,たとえば育児休業制度の普及,保育サービスの拡充,児童手当などの改善を通じて女性の就業と家庭生活の両立支援を進めていけば,女性の多くが結婚生活に入っていくであろうと期待してきた。これは必ずしも間違った方向の施策ではなかったが,効果は上がらず,少子化は深刻の度を強めるばかりであった。そのため,本研究では効果を及ぼす要因を実証的に明らかにすることを目的としてモデル研究ならび調査を実施した。
 そして,本研究は,少子化関連施策の効果を人口学,社会学,経済学などの学問的見地から評価研究を行い,今後の少子化対策について家族労働政策の視点から効果的な施策提言をすることを目的として実施する計画である。

(2) 研究計画

  1. マクロ計量経済モデルによる少子化対策要因の出生率におよぼす影響評価研究
  2. 地方自治体の少子化対策に関する効果研究
  3. 少子化の見通しならびに少子化対策に関する自治体担当者に対する調査ならびに少子化対策評価の研究

(3) 研究組織の構成

主任研究者
高橋重郷(副所長)
分担研究者
佐々井 司(人口動向研究部第1 室長),守泉理恵(同部研究員),
安藏伸治(明治大学政治経済学部教授),中嶋和夫(岡山県立大学保健福祉学部教授)
研究協力者
北林三就(人口動向研究部主任研究官),別府志海(情報調査分析部研究員),
大淵 寛(中央大学名誉教授),永瀬伸子(お茶の水女子大学大学院教授),
和田光平(中央大学経済学部教授),加藤久和(明治大学政治経済学部教授),
大石亜希子(千葉大学法経学部准教授),仙田幸子(千葉経済大学経済学部准教授),
増田幹人(東洋大学非常勤講師),君島菜菜(大正大学非常勤講師),
新谷由里子(武蔵野大学非常勤講師),福田節也(明治大学兼任講師),
鎌田健司(明治大学政治経済学部助手)





13 将来人口推計の手法と仮定に関する総合的研究(平成17 〜 19 年度)

(1) 研究目的

 少子高齢化が進み人口減少が始まった現在,社会経済施策立案に不可欠な将来推計人口の重要性はかつてない高まりを見せている。しかしながら,前例のない少子化,長寿化は人口動態の見通しをきわめて困難なものとしている。本研究では,こうした中で社会的な要請に応え得る科学的な将来推計の在り方を再検討し,手法および人口の実態の把握と見通しの策定(仮定設定)の両面から推計システムを再構築することを目的とする。

(2) 研究計画

 本研究においては,第一に,人口推計手法の枠組みとして従来から最も広く用いられているコーホート要因法の再検討を行い,新たな手法としての確率推計手法やシミュレーション技法等の有効性を検討する。第二に人口動態率(出生率,死亡率および移動率)の将来推計に関する先端的な手法について国際的な議論を踏まえ,推計手法および将来の動向に関する理論について,従来の方法・理論との比較,有効性と限界の検証等を行う。第三に人口状況の実態の測定と分析,出生,死亡,国際人口移動の見通し策定に関する科学的方法論について検討し,わが国ならびに諸外国の人口状況と動向の国際的,横断的把握,データ集積およびデータベース化を行い,上記において開発されたモデル,手法を適用することにより,人口動態率の今後の見通しに関する把握と提言を行う。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
金子隆一(人口動向研究部長)
分担研究者
石井 太(企画部第4 室長),岩澤美帆(情報調査分析部第1 室長)
研究協力者
石川 晃(情報調査分析部第2 室長),佐々井 司(人口動向研究部第1 室長),
三田房美(企画部主任研究官),守泉理恵(人口動向研究部研究員),
国友直人(東京大学経済学部教授),稲葉 寿(東京大学理学部准教授),
堀内四郎(ロックフェラー大学準教授),大崎敬子(国連アジア太平洋経済社会委員会委員),
エヴァ・フラシャック(ワルシャワ経済大学教授),
スリパッド・タルジャパルカ(スタンフォード大学教授)





14 男女労働者の働き方が東アジアの低出生力に与えた影響に関する国際比較研究(平成18 〜 20 年度)

(1) 研究目的

 2000 年代に入って東アジアの高度経済国・地域は急激な出生率低下を経験し,2004 年の合計出生率は日本が1.29,韓国が1.16,台湾が1.18 となった。このうち韓国・台湾の出生率は,ヨーロッパでも匹敵する国が稀なほど極端に低い水準である。このような低出生率の重要な決定因として,男女労働者の働き方の影響を分析する。たとえば欧米に比べ長い労働時間は,男性の家事・育児参加を阻害し,伝統的性役割意識を保存する方向に作用しているものと思われる。日本の長期不況や韓国の経済危機は,多くの若年労働者の経済的自立を挫折させ,また家計の将来に対する不安感を増幅し,結婚・出産意欲を減退させたと推測される。出産・育児休暇,家族看護休暇,フレックスタイム制度等のファミリーフレンドリー施策の導入の遅れも,東アジアの出生率低下を加速させたと考えられる。良質な保育サービス供給の不足も,妻の就業と出産・育児の両立を阻害し,やはり少少子化をもたらしたと思われる。本研究は,こうした働き方に関する諸要因が東アジアの出生率低下に与えた影響を分析する。

(2) 研究計画

 本研究では,働き方に関する諸要因が出生率に与える影響を,文献研究および専門家インタビュー,マクロ・データ分析,マイクロ・データ分析の各段階を踏んで分析を進める。そのような分析を通じて,労働時間や勤務形態のフレキシビリティー,家庭内分業の実態,若年労働者の経済的自立度の将来の見通し,企業のファミリーフレンドリー施策の導入努力,地域の保育サービス供給の量といった諸側面が,どのように結婚率・出生率に影響するかを定量的に調べることを目的とする。それぞれの側面における改善がどの程度の出生促進効果を持つかの見極めを通じて,政策の優先順位等に関わる政策提言が得られる。現在まであまりはかばかしい成果が得られていない日本の出生促進策を考える上でも,日本より急激に出生率が低下している韓国・台湾との比較研究は不可欠である。
 初年度は韓国・台湾における近年の出生率低下と,その社会経済的要因に関する既存研究を収集し,日本や欧米先進国から得られた知見と比較・検討する。また出生促進策の導入に関わる政府・自治体の動きや,導入をめぐる議論・言説等を,アカデミックな研究に限定せず新聞・雑誌等からも幅広く集める。これらを用い,経済の状況や政治的・文化的風土をも考慮した解釈と将来予測を試みる。
 第2 年度は,文献研究とヒアリングを継続するとともに,マクロ・データを用いた比較地域分析を行う。必要に応じて日本や欧米先進国との比較を行い,東アジアにおける出生率低下の諸要因と出生促進策の効果に関する知見をまとめる。
 第3 年度は,マイクロ・データの分析を通じて,働き方に関わる諸要因と出生促進策の効果に関する定量的分析を完成させる。これを地方レベル,国・地域レベルおよび国際比較から得られた知見と組合せ,政策提言をまとめる。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
鈴木 透(国際関係部第3 室長)
分担研究者
小島 宏(早稲田大学社会科学学術院教授),伊藤正一(関西学院大学教授)





15 社会保障の制度横断的な機能評価に関するシミュレーション分析(平成18 〜 20 年度)

(1) 研究目的

 社会保障制度をとりまく環境は過去40 年間で大きく変化した。今日では,少子高齢化や雇用構造の変化が進む中で社会保障制度の持続可能性を高めることが緊急の課題となっている。家族の生活保障機能は年々低下し,国際競争にさらされている企業は生き残りのためにコスト削減に努め,職域福祉の役割も変化せざるを得ない。こうした状況の中で社会保障制度の再構築に必要なのは現行制度の単なるスリム化ではなく,合理化である。本研究は,@制度横断的に社会保障の機能を分析し,家族形態や就労形態の変化に対応した社会保障の機能を考察するとともに,Aシミュレーション分析を通じて,政策の選択肢が社会保障の機能に与える影響を評価することを目的としている。

(2) 研究計画

 2 年目である平成19 年度は,介護保険制度の機能についての定量的な評価分析や,現物給付と現金給付のバランスに関する分析,高齢期のリスクを確率的に記述するモデルを用いたシミュレーション分析や,女性の健康状態とライフサイクル及び就労行動を基盤とした所得・貯蓄等の女性を取り巻く経済的状況の変遷との因果関係を実証的に検証する。加えて,有識者に対してヒアリングを行い,シミュレーションモデルを作成する。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
分担研究者
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),山本克也(同部第4 室長),
佐藤 格(同部研究員),酒井 正(同部研究員),菊池 潤(企画部研究員)

(4) 研究成果の公表

本年度の研究成果として,総括・分担研究報告書をとりまとめる予定である。




16 低所得者の実態と社会保障の在り方に関する研究(平成19 〜 21 年度)

(1) 研究目的

 本研究は,多様な構造を持つ現在の日本の貧困・低所得の実態を時系列に把握し,その増加の要因分析を行うとともに,低所得者のニーズとそれに対する社会保障のあり方について給付と負担の両面から考察するものである。貧困の定義には,従来の所得・消費を始めとする一次元・一時点の指標に基づいたもののみならず,資産の状況や社会的包摂・相対的剥奪など多次元の事象を考慮し,また,それらのダイナミックな動きを観察することにより貧困の動態的分析を行う。そのために,パネル・データの活用及び構築も視野にいれる。

(2) 研究計画

 本研究は3 カ年計画で行われる。研究では,以下にあげる3 つのトピックごとに研究チームを立ち上げ,独自の分析を進めるとともに,制度横断的な検討を行うため,合同の研究会を行う。
  1. 低所得層の実態の把握(低所得者調査を中心とする分析)

     日本における低所得者の把握(貧困率など)は,既存の大規模調査(厚生労働省「国民生活基礎調査」,「所得再分配調査」,総務省「全国消費実態調査」など)が用いられることが多い。これらは,全国規模でサンプル数も多いことから利点もあるものの,低所得者の生活実態を把握するには不十分である。その理由は,低所得者がそもそもサンプルから除外されている可能性があること,所得・消費などの項目は詳細に調べているものの,物品的剥奪や社会的排除など,生活実態に関する項目が少ないことである。そのため,低所得者に関しては独自の調査を行うことが望ましい。主任研究者は過去の厚生科研費の研究にて,小規模のデータの構築を行ってきた。これらデータの分析から知見の蓄積はあるものの,調査の問題点なども明らかになってきている。本研究では,既存の調査の利点・欠点を洗い出し,また,厚生労働省の縦断調査や既存社会調査(社会保障研究所「掛川調査」など)の再分析も視野に含めながら,必要であれば独自の調査を行う。そして,低所得層として,どのような属性の人々が浮かび上がるのか,また,彼らがどのように現在社会保障制度と接点をもっているのかを明らかにする。研究の1 年目は,既存研究のレビュー,2年目,3 年目は調査の実施と分析を行う。

  2. 社会保険の減免制度,自己負担のあり方と給付に関する研究(国民年金・国民健康保険の未納・未加入問題,パート労働者などの社会保険適用問題,障害年金の所得保障機能など)

     現行の社会保障制度には,様々な低所得者措置が盛り込まれている。しかし,国民年金を例にとると,減免制度が用意されているにもかかわらず未納問題は依然として深刻である。近年の減免制度の改正についても,どれほどの効果があったのか実証研究はまだなされていない。本研究では,このような問題をトピック的にいくつか選出し,それらの分析を行う。研究の1 年目は,研究メンバーの選定(主要メンバーは分担研究者)と研究会の立ち上げ,トピックの選出,現状の実態の共有を行う。2 年目以降は,それぞれのメンバーによって分析が行われる。

  3. 公的扶助を始めとする低所得者支援制度のあり方に関する研究(生活保護制度,児童扶養手当,児童手当など)

     日本の低所得者に対する社会保障制度の中でも,もっとも研究が進んでいるのが生活保護制度である。また,児童扶養手当を始め,母子世帯に対する施策にも多くの質的分析がなされている。しかし,現在,もっとも改革が推し進められているのもこの2 制度である。本研究では,改革が進む中で,当事者がどのように変わっていくか,インタビュー調査などの手法をもって検討するものである。例えば,母子世帯の母親は,2002 年の児童扶養手当の改革を受けて,どのように生活が変化したのか,具体例をあげて検討することとする。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
阿部 彩(国際関係部第2 室長)
分担研究者
西村幸満(社会保障応用分析研究部第2 室長),菊地英明(社会保障基礎理論研究部研究員),
山田篤裕(慶應義塾大学経済学部准教授)

(4) 研究結果の公表予定

 本研究の成果は,報告書として厚生労働省に提出するとともに,関係団体および研究者に配布,および,学会,学術雑誌への投稿等などにて普及を努めるものとする。




17 所得・資産・消費と社会保障・税の関係に着目した社会保障の給付と負担の在り方に関する研究(平成19 〜 21 年度)

(1) 研究目的

 持続可能な社会保障制度を構築するためには,社会経済の変化に応じて絶えず社会保障の給付と負担の在り方を検討していく必要がある。2008 年から始まる高齢者医療制度の財源の1/2 は公費となること,2009 年までに基礎年金の国庫負担を1/2 に引き上げることが予定されており,社会保障財政における税負担の割合が高まる可能性がある今日,社会保障の給付と負担の在り方を社会保険料と税に着目して検討することは,緊急の課題である。
 所得・資産格差の拡大が危惧されている今日,所得再分配機能を発揮させるための給付と負担の在り方を,所得格差の要因となる賃金格差,就業形態や就業機会の多様性,所得に基づく貯蓄を通じた資産格差等を含めて,検討することが求められている。また消費税の活用にあたっても必需品に対するゼロ税率の適用可能性など,社会保障の負担の在り方を検討するためには,社会保険料と税を関係づけて検討する必要がある。
 一方,社会保障給付に対する人々のニーズは,ライフサイクルの段階ごとに児童手当,失業保険,年金,介護サービス等へと変化する。また,所得は現役時代に増加し引退期に減少し,資産は所得格差に応じて引退期にも増加する場合と減少する場合があるのに対して,消費は生涯を通じて一様に支出される傾向がある。そのため,社会保障の負担を所得・資産・消費のいずれに求めるかという選択に応じて,ライフサイクルの段階ごとに異なる社会保障給付とのバランスが相違することになるため,社会保障の給付と負担の在り方を検討するには,負担賦課の選択に応じた社会保障財政の収支動向のみならず,個人のライフサイクルにおける負担と給付の関係の変化も加味しながら検討する必要がある。
 したがって,本研究では,人々の格差是正に対する関心やライフサイクルの段階ごとのニーズの変化に対応しつつ,持続的な社会保障制度の構築に資するために,所得・消費・資産の実証分析に基づいて,所得・消費・資産と社会保険料・税の関係に着目した社会保障の給付と負担の在り方に関する研究を,制度分析と合わせて総合的に実施する。

(2) 研究計画

 本研究では,研究目的で示した問題意識のもとに,所得・消費・資産の実態把握のために「所得再分配調査」「国民生活基礎調査」等の使用申請に基づく再集計を行い,人々のライフサイクルに着目した実証分析を行う。
 なお,これらの統計では補足できないが所得・消費・資産に影響を及ぼす事項,例えば引退過程と資産選択等との関係については,アンケート調査を実施する。また,わが国の所得・消費・資産の実態を客観的に評価するため,OECD や税財源による社会保障制度を持つカナダとの研究協力を行うとともに,成長著しく所得変動の大きい東アジア諸国との比較を行う。
 さらに,負担賦課の対象として所得・消費・資産のいずれを選択するかを社会保険料と税との関係に着目する分析には,実証分析のみならず,制度分析・社会保障法学の応用が不可欠である。制度分析においても,カナダの連邦児童給付制度の変遷と意義について分析を深化させ,払戻型税額控除の理念,意義,わが国への導入の是非など,児童手当と併存させることの是非等について我が国への示唆を得るための比較研究を行う。さらに,負担能力を考慮して消費税の活用を図る方法としての軽減税率の動向や,社会保険料と公費負担,税の控除制度と給付との関係について,「法と経済」による分析等にも留意しつつ,制度分析を行う。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
金子能宏(社会保障応用分析研究部長)
分担研究者
東 修司(企画部長),米山正敏(同部第1 室長),
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),山本克也(同部第4 室長),
尾澤 恵(社会保障応用分析研究部主任研究官),
酒井 正(社会保障基礎理論研究部研究員),岩本康志(東京大学大学院経済学研究科教授),
小塩隆士(神戸大学大学院経済学研究科教授),
田近栄治(一橋大学大学院経済学研究科教授),
チャールズ・ユウジ・ホリオカ(大阪大学社会経済研究所教授)
研究協力者
京極宣(所長),小島克久(社会保障応用分析研究部第3 室長),
島崎謙治(政策研究大学院大学教授),宮島 洋(早稲田大学法学部教授)

(4) 研究成果の公表

 本年度の研究成果として,総括・分担研究報告書をとりまとめるとともに,社人研ディスカッションペーパー,学術雑誌等への投稿およびワークショップ等により成果の普及に努める。




18 医療・介護制度における適切な提供体制の構築と費用適正化に関する実証的研究(平成19 〜 21 年度)

(1) 研究の目的

 医療・介護制度を持続可能なものとするためには,適正な資源配分を確保する必要がある。近年の介護保険,健康保険,医療,の各法の改正により医療・介護提供体制改革の端緒が開かれた。しかし,改革を実効的にするには,その成果について継続的に実証的検証を行い,その結果をその後の改革に活かす「PDCA サイクル」を確立する必要がある。
 本研究では,平成18 年度医療・介護制度改革等の成果について実証的検証を行う。分析内容は,@平均在院日数短縮の推進,A医療機能の分化・連携の促進,に関する分析が中心となる。@及びAは具体的な課題に細分される。これらの検討結果を参照しつつ,B医療制度改革の有効な実施方法に関する理論的検討・分析を行う。
 本研究では@及びAの制度改革の効果について「2 つの軸」による分析を行う。ひとつめの軸は日本全体に影響を及ぼす改革の効果の測定である。マクロ的な改革の効果は地域により異なることが予想される。地域の提供体制の相違によりマクロ的な改革の効果に地域差が発生する場合である。この点の検証がふたつ目の軸となる。
 改革のマクロ効果測定と提供体制の違いによる改革効果の違いを同時に測定することにより,医療費適正化策において国・地方の適正化策それぞれの効果,提供体制の相違の影響,に区別された情報を得ることが可能となる。

(2) 研究計画

 研究にあたっては,医療・介護関連諸制度の改革が進捗していることもあり,それらの改革に対して研究成果が提供できるように研究を進めていく。分析の対象となる主たる課題は次のとおりである。
  1. 平均在院日数の動向に関する検討

    1)平成17 年10 月および平成18 年10 月に実施された介護施設給付と療養病床入院患者の負担引き上げ等の効果の分析
    2)急性期病等の平均在院日数規定要因と影響の大きさに関する分析
    3)脳卒中治療における医療・介護連携の効果の分析

  2. 医療機能の分化・連携の促進

    1)医療連携実施状況の実態把握
    2)医療連携実施機関等の平均在院日数の変化に関する分析
    3)療養病床再編による患者の医療・介護受給パターンの変容に関する分析
    4)医療・介護のサービス利用パターンに関する実態調査・分析
    5)医療・介護サービス提供の地理的範囲・提供内容範囲に関する実態調査・分析

  3. 医療制度改革の有効な実施方法に関する理論的な検討・分析

     これらの分析課題の分析内容にあわせてデータを準備・作成していく。具体的には,『国民健康保険の実態』(国民健康保険中央会)及び介護関連データ(『介護サービス施設・事業所調査』の再集計データ含む)などの既存統計,『病院報告』,『医療施設調査』,『患者調査』,『介護サービス施設・事業所調査』などの既存統計の個票データ,保険者や医療機関に作成を依頼する個票データ,ヒアリング調査などを,疫学的研究の倫理指針や個人情報保護にかかる法令を遵守して,入手し使用する。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
泉田信行(社会保障応用分析研究部第1 室長)
分担研究者
東 修司(企画部長),川越雅弘(社会保障応用分析研究部第4 室長),
野口晴子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),菊池 潤(企画部研究員),
郡司篤晃(聖学院大学大学院教授),島崎謙治(政策研究大学院大学教授),
橋本英樹(東京大学大学院医学系研究科教授),
宮澤 仁(お茶の水女子大学文教育学部准教授),田城孝雄(順天堂大学医学部講師)
研究協力者
稲田七海(客員研究員)





(長寿科学総合研究事業)

19 介護予防の効果評価とその実効性を高めるための地域包括ケアシステムの在り方に関する実証研究(平成18 〜 19 年度)

(1) 研究目的

 本研究は,@全国データに基づくケアマネジメントの現状分析(介護保険制度改正前との比較を含む),Aパネル・データ(生活機能/介護/医療/健診に関する包括的データ)に基づく介護予防の総合的効果評価,B効果的な介護予防サービスの在り方の検証,C介護予防の実効性を高めるための地域包括支援センターの在り方の検証,を通じて,今後の地域包括ケアシステムの在り方に関する提言を行うことを目的とする。

(2) 研究計画

 制度改正3 年後の見直しの議論に資するためには,平成19 年度には検証結果をまとめておく必要があるため,本研究は2 年計画とした。初年度である平成18 年度は,1)全国認定・給付データによる要介護度の自然歴の地域差分析,2)モデル地区の包括的パネル・データに基づく高齢者の生活機能や疾病構造などの実態解明,3)運動機能測定を通じた高齢者の歩行パターンや転倒リスク要因の解明,4)摂食機能に応じた食形態の開発と提供効果評価,5)ケアプランの個別事例検討による現在のケアマネジメントの課題の解明,6)住民を巻き込んだ多職種協働のモデル試行による最適な意思決定プロセスの在り方の検証,7)兵庫県但馬地区やカナダオンタリオ州トロント市などの地域ケアの先行事例の検証などを実施した。
 最終年度となる本年度は,昨年度行った分析の精緻化に加え,1)平成18 年度及び平成19 年度データに基づく横断的縦断的分析,2)昨年度の分析から判明した主な課題に対する具体的解決策の検討及び提言,3)地域包括ケアに対する特徴的取り組みを行っている先行事例の追加調査,4)昨年度取り組めなかった認知症高齢者の実態把握やリハビリテーションの効果評価などを実施する。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
川越雅弘(社会保障応用分析研究部第4 室長)
分担研究者
金子能宏(社会保障応用分析研究部長),泉田信行(同部第1 室長),
信友浩一(九州大学医学研究院基礎医学部門医療システム学分野教授),
備酒伸彦(神戸学院大学総合リハビリテーション学部准教授),山本大誠(同学部助手)
研究協力者
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長),渡部律子(関西学院大学総合政策学部教授),
津賀一弘(広島大学大学院医歯薬学総合研究科准教授),
鍋島史一(福岡県メディカルセンター保健・医療・福祉研究機構主任研究員),
田中志子(医療法人大誠会介護老人保健施設大誠苑施設長),
黒田留美子(潤和リハビリテーション診療研究所主任研究員),
大野 裕(慶応義塾大学保健管理センター教授),瀧澤 徹(八戸大学人間健康学部准教授),
梶家慎吾(鐘紡記念病院チーフ理学療法士),柴田知成(寝屋川市保健福祉部係長)

(4) 研究成果の公表

 本研究の成果は,報告書としてとりまとめて厚生労働省に提出するとともに,関係団体および研究者に配布する。なお,本研究の成果の一部は,『海外社会保障研究』第162 号〈特集:地域包括ケアシステムをめぐる国際的動向〉において公表する予定である。




(障害保健福祉総合研究事業)

20 障害者の所得保障と自立支援施策に関する調査研究(平成17 〜 19 年度)

(1) 研究の目的

 本調査の目的は,社会福祉基礎構造改革の理念である,障害者がその障害の種類や程度,また年齢や世帯状況,地域の違いにかかわらず,個人が尊厳をもって地域社会で安心した生活がおくれるようになるために必要な施策へとつなぐ基礎データを得ることである。そのために,独自の調査を実施して,既存の調査では得ることの出来ない障害者の生活実態を明らかにするとともに,それを基礎データとして,障害者の自立支援にはなにが重要であるかを,総合的学際的に研究する。生活者としての障害者を明らかにするという意味は,障害者の定義を手帳保持者などの狭い範囲に限定することなく広く捉えることと,障害者の暮らしの実態に着目して,障害者を個人だけでなく世帯の一員として捉えること,そして,経済的な自立と身体的な自立を,通院やサービス利用の実態と生活時間から観察しようとするものである。このような障害者をミクロで観察する社会調査はいままで希少で,それも自治体などの地域的区分の中を無作為に調査する試みは初めてと言って過言でない。平成17 年度18 年度に2 度の実地調査「障害者生活実態調査」を実施したが,最終年にあたる当該年度は,調査結果のさらなる分析と,結果を基礎とした議論を研究の柱としていく。学際的な研究にまで広げた,障害者の所得保障と自立支援のあり方を検討する。

(2) 研究計画

 本調査研究は全体を3 カ年計画で行う計画である。初年度と次年度に調査を実施しそれぞれの調査の分析を進める。また,最終年度に調査分析結果からの考察に併せて,学際的な,障害者自立支援について考察し,3 年間の研究成果を総合的にまとめることとする。
 最終年である3 年目は,障害者生活実態調査票を参考にして,国民生活基礎調査(平成16 年)や所得再分配調査及び,社会生活基本調査などの承認統計調査の個票データを目的外使用申請を行う。使用許可が下りた場合には,健常者と障害者の違いや類似を明らかにするように分析を行う。3 年目は実地調査は行わず,2回の調査データの更なる分析や,結果を用いて自主企画シンポジウムの実施を前年同様に,日本社会福祉学会の全国大会にて提案していく。また,当事者団体や多くの研究者との意見交換および情報収集を公開研究集会として実施していく。研究集会としては9 月に大阪で本研究参加者と関西の研究者及び当事者で公開で実施する。
 委託研究として日本障害者協会に2 年目の調査のフォローとしてケース調査による,障害者自立支援法施行後の影響調査等を依頼する。基礎データの収集も継続し,知的障害者の定義の国際比較,障害者関連支出の国際比較についてもまとめていく。

(3) 研究組織の構成

主任研究者
勝又幸子(情報調査分析部長)
分担研究者
本田達郎(医療経済研究機構研究主幹),
福島 智(東京大学先端科学技術研究センター准教授),
遠山真世(立教大学コミュニティ福祉学部助教),
圓山里子(特定非営利活動法人自立生活センター新潟調査研究員),
土屋 葉(愛知大学文学部人文社会学科助教)
研究協力者
金子能宏(社会保障応用分析研究部長),三澤 了(DPI 日本会議議長),
磯野 博(静岡福祉医療専門学校教員)





(統計情報高度利用総合研究事業)

21 パネル調査(縦断調査)に関する総合的分析システムの開発研究(平成18 〜 19 年度)

(1) 研究目的

 厚生労働省は国民生活に関する諸施策の策定に必要な情報収集のために,政府統計初のパネル調査(21 世紀出生児縦断調査,成年者縦断調査,中高年者縦断調査)を実施し,従来の横断調査とは異なる因果関係に着目した要因の把握を目指している。しかし,パネル調査はデータ管理法や分析方法において横断調査とは異なる。本研究の目的は,パネル型データの有効で実際的な管理法と統計分析手法とを融合したシステムを検討・開発し,21 世紀縦断調査に適用することによって,年々蓄積されるデータを適切に管理し,また有効な分析結果を導くことである。

(2) 研究計画

 本研究は平成18,19 年度の2 ヶ年で行うものとし,主として初年度(平成18 年度)は,調査事例および分析法のサーベイを進め,情報ベースとして閲覧システムを整備し,標本設計ならびに統計的分析手法に関する検討を進め,さらに標本の脱落・復活や移動等のデータの特性に関する検討を進める。また,出生児調査,成年者調査の主要な事項(出生児の成長,結婚・出生の意識・意欲と行動,家事育児・就業,健康リスク,地域)について,先行研究レビューを行い統計的分析の基礎となるデータ・変数等の整備を行い,基礎的分析を行った。
 第2 年度(平成19 年度)はシステムの検証と確立ならびにシステムを用いた主要事項に関する本格的な統計分析を行う予定である。

(3) 研究組織の構成

主任研究官
金子隆一(人口動向研究部長)
分担研究者
北村行伸(一橋大学経済研究所教授),釜野さおり(人口動向研究部第2 室長)
研究協力者
石井 太(企画部第4 室長),三田房美(企画部主任研究官),
岩澤美帆(情報調査分析部第1 室長),守泉理恵(人口動向研究部研究員),
阿藤 誠(早稲田大学人間科学学術院特任教授),津谷典子(慶應義塾大学経済学部教授),
中田 正(日興ファイナンシャルインテリジェンス副理事長),
福田節也(明治大学兼任講師),西野淑美(日本女子大学人間社会学部助手),
鎌田健司(明治大学政治経済学部助手),
相馬直子(横浜国立大学大学院国際社会科学研究科准教授),
元森絵里子(東京大学大学院人文社会系研究科)



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