一般会計プロジェクト

1 平成12 年度社会保障給付費推計

(1 )研究目的

 平成12 年度社会保障給付費推計(OECD 社会支出統計,新ILO 基準社会保障費統計を含む。)を行い,研究および行政資料として公表する。

(2 )研究計画

  1. 平成12 年度推計作業を例年どおり行う。また,『季刊社会保障研究』の誌上で財源を含めた推計結果の公表と分析を行う。
  2. 平成12 年度社会保障給付費のデータを基に,2000 年度までのデータをOECD 基準で再計算した結果を厚生労働省政策統括官政策評価官室,同国際課を通じてOECD に提出する。
  3. 社会保障給付費の拡張手法の検討と試算
  4. 「平成14 年版 社会保障統計年報」の編纂とデータベース構築

(3 )研究会の構成員

 担当部長
須田康幸(総合企画部長,〜8 月)/中嶋 潤(総合企画部長,8 月〜)
 所内担当
勝又幸子(総合企画部第3 室長),佐藤雅代(同部研究員),
宮里尚三(社会保障応用分析研究部研究員)
 所外委員
西岡 隆(厚生労働省政策統括官政策評価官室長補佐),小倉寿子(同室調査総務係)

(4 )研究成果の公表

  1. 一般配布資料「平成12 年度社会保障給付費」の作成
  2. 研究所ホームページへの和文および英文による結果の掲載
  3. 社会保障費データベースの更新・電子媒体化および関係部署への提供
  4. 季刊社会保障研究における社会保障費用の推計結果の公表と分析
  5. 海外社会保障研究における国際比較データに関する解説と分析
  6. 社会保障統計資料集「平成14 年版 社会保障統計年報」の作成
  7. 社会保障研究資料No.1 「社会保障費統計資料集平成14 年度遡及版」の作成

2 新将来推計人口事業に関する調査研究(平成13 〜15 年度)

 国立社会保障・人口問題研究所は,国が行う社会保障制度の中・長期計画ならびに各種施策立案の基礎資料として,@全国人口に関する将来人口推計,A都道府県別将来人口推計,ならびにB世帯に関する将来世帯数推計(全国・都道府県)を定期的に実施し,公表してきている。

・全国人口推計

 全国推計の結果は,すでに平成14 年1 月に公表を行い終了したが,平成14 年度においては,引き続き推計後の人口指標のモニタリングを行い,推計の評価を継続して行う。

(1 )研究概要

 推計に関連する人口指標を作成し,推計仮定値ならびに推計結果を人口学的手法により評価する。

(2 )担当者

 担当部長
高橋重郷(人口動向研究部長)
 所内担当
金子隆一(総合企画部第4 室長),三田房美(同部主任研究官),
石川 晃(情報調査分析部第2 室長),加藤久和(社会保障基礎理論研究部第4 室長),
池ノ上正子(人口動向研究部主任研究官),岩澤美帆(同部研究員),小松隆一(同部研究員),
守泉理恵(客員研究員)
・都道府県別人口推計

(1 )研究概要

 最新の国勢調査結果をふまえた「日本の将来推計人口(平成14 年1 月推計)」が公表され,この新全国人口推計に基づいて新たに都道府県別人口の将来推計を平成14 年3 月に公表した。これを受けて平成14 年度は報告書の作成,および推計の作業過程における成果を順次学会等で報告する予定である。

(2 )担当者

 担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
 所内担当
大場 保(人口構造研究部第1 室長),小池司朗(同部研究員),小林信彦(客員研究員)
 所外委員
江崎雄治(専修大学専任講師)
・世帯推計

(1 )研究概要

 本研究プロジェクトでは,全国および都道府県別世帯数の前回推計の評価作業を行い,新たに推計手法と仮定設定の見直し作業を行ってきた。平成14 年度はおもに全国世帯推計の将来推計モデルの開発と推計シミュレーションの実施,および推計結果の公表・提供を行う。

(2 )担当者

 担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
 所内担当
鈴木 透(国際関係部第3 室長),小山泰代(人口構造研究部第3 室長),赤地麻由子(同部研究員)

3 第12 回出生動向基本調査(実施)

(1 )調査目的

 国立社会保障・人口問題研究所は,昭和15 年に日本における夫婦の子どもの生み方に関する最初の大規模な全国調査『出産力調査』を実施し,戦時中の中断をはさんで,昭和27 年に第2 次調査を行った。その後は5 年ごとに調査を行い,平成9 年には第11 回調査を実施した。その結果,戦後の夫婦出生児数の急激な減少と最近の低出生率に関する各種の実態を明らかにすることができた。
 平成14 年は第12 回調査の実施年に当たっている。今回の調査により,最近変化しつつある夫婦の子どもの生み方に関する実態を明らかにし,その関連要因を究明することである。前回調査データの分析から明らかにされた昭和35 年以降コーホートの出生行動の変化が,一時的なものなのか,それともこの傾向は続くのかを把握する。さらに,独身者の結婚・出産に関する考えかたおよびその規定要因をより詳細に把握し,日本の出生率低下の主要因である晩婚化・非婚化の背景を明らかにする。
 この調査の結果は,最近の出生率低下の要因を解明し,今後の少子化対策に資するとともに,将来人口の予測と広く各種行政の施策立案の基礎資料として役立てられる。

(2 )担当者

 担当部長
高橋重郷(人口動向研究部長)
 所内担当
金子隆一(総合企画部第4 室長),三田房美(同部主任研究官),
大石亜希子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),福田亘孝(人口動向研究部第1 室長),
釜野さおり(同部第2 室長),佐々井 司(同部第3 室長),池ノ上正子(同部主任研究官),
岩澤美帆(同部研究員),守泉理恵(客員研究員)

(3 )調査の対象及び客体

 この調査は,全国から無作為抽出法によって抽出された調査区内に居住する妻の年齢50 歳未満の夫婦と,18 歳以上50 歳未満の独身の男女を調査対象とする。
 調査客体は,平成14 年度に実施される国民生活基礎調査の調査地区から600 調査地区を無作為抽出し,その地区内に居住する妻の年齢50 歳未満の夫婦(約10,000 組)と18 歳以上50 歳未満の独身の男女(約13,000 人)を抽出する。

(4 )調査の方法

 厚生労働省統計情報部が平成14 年度に実施する国民生活基礎調査に併行して,配票自計・密封回収方式により行う。

(5 )調査期日

 平成14 年6 月25 日(ただし,平成14 年6 月1 日現在の事実による)

(6 )調査事項

「夫婦調査」
  1. 夫婦(およびその両親)の人口学的・社会経済的属性
  2. 夫婦の結婚に関する事項
  3. 夫婦の妊娠・出産歴
  4. 妻の結婚・出産・家族に関する価値観
  5. 妻の結婚・出産・就業に関する事項
  6. 保育環境・保育資源に関する事項
「独身者調査」
  1. 独身者(およびその両親)の人口学的・社会経済的属性
  2. 結婚意欲と結婚に対する意識
  3. 子ども・家族に関する価値観
  4. ライフコースに関する意識

4 第5 回人口移動調査(分析)

(1 )研究概要

 平成14 年度はデータチェックを継続して行い,作業が終了し次第,集計表の作成と基本的な分析を行い,結果の概要を公表する。その後,早い段階で報告書を刊行し,2 次的な分析を行う予定である。

(2 )担当者

 担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
 所内担当
千年よしみ(国際関係部第1 室長),清水昌人(人口構造研究部研究員),
小池司朗(同部研究員),小林信彦(客員研究員)
 所外委員
江崎雄治(専修大学専任講師)

5 社会保障生活調査−世帯内単身者に関する実態調査−(分析)

(1 )研究概要

 平成14 年度においては,平成13 年度に刊行した報告書をベースにさらに分析をすすめ,成人未婚子と親を含めた世帯・家計との関係について分析を深める予定である。

(2 )担当者

 担当部
長府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
 所内担当
須田康幸(総合企画部長),松本勝明(社会保障応用分析研究部長),
大石亜希子(社会保障基礎理論研究部第2 室長),白波瀬佐和子(社会保障応用分析研究部第2 室長)

6 第3 回全国家庭動向調査(企画)

(1 )研究概要

 国立社会保障・人口問題研究所では「社会保障・人口問題基本調査」の枠のなかで5 種類の調査を継続して実施しており,平成15 年度は,「全国家庭動向調査」の実施年にあたっている。この調査は,全国規模のサンプルで本格的に家庭動向を把握したわが国における最初の調査として1993 年に実施された。本調査は他の公式統計では捉えることのできない「出産・子育て」,「高齢者の扶養・介護」など家庭機能の実態やその変化要因などを明らかにすることを目的としている。
 子育てや高齢者ケアなど家族変動の影響を大きく受ける社会サービス施策の重要性が高まっているなかで,わが国の家族の構造や機能の変化,それに伴う子育てや介護の実態の変化とその要因や動向を正確に把握することが重要になっている。本調査の結果は,「出産・子育て」,「高齢者の扶養・介護」など厚生労働行政の施策立案の基礎資料に資するものである。本年度は調査実施のための準備・企画を行う。

(2 )担当者

担当部長
西岡八郎(人口構造研究部長)
所内担当
白波瀬佐和子(社会保障応用研究部第2 室長),小山泰代(人口構造研究部第3 室長),
赤地麻由子(同部研究員),星 敦士(客員研究員)

7 自殺による社会・経済へのマクロ的な影響調査(平成13 〜15 年度)

(1 )研究目的

 自殺率が増加する中で,中高年男性の自殺率が特に高まっていることが指摘されている。中高年男性は,企業の担い手としてまた世帯主としてわが国の経済活動と人口の再生産にとって重要な貢献をしてきたにもかかわらず,その自殺率が増加していることは,これらの活動に少なからぬ損失を生じさせている可能性がある。これまで,経済活動や人口再生産の担い手である勤労者(とくに中高年の男女労働者)が自殺した場合の逸失利益を明確にして自殺の社会・経済への影響を明確にすることは,殆どなされてこなかった。
 しかし,自殺対策を効果的に実施するためには,自殺対策の費用と便益の関係を明らかにする必要がある。また,このような分析を行うには,中高年労働者の自殺率の上昇が景気後退に伴う失業率の上昇に関係しているマクロ的な側面と,個々の労働者に対して職場における能力主義の浸透(賃金体系や人事考課の変化)が職場のストレス要因となっているというミクロ的な側面それぞれに留意する必要がある。したがって,本研究の目的は,このような問題意識のもとに,厚生・労働政策との関連に留意しながら,労働者の職場におけるストレスがその治療成果や自殺に及ぼす影響を世帯構造や個人属性に配慮しながら分析する調査研究を実施するとともに,自殺のマクロ経済的な損失,及び雇用政策による職場環境の向上と医療政策による治療成果の向上が自殺を減少させることによる社会・経済への影響を分析することである。

(2 )研究計画

 自殺による死亡率は,経済環境の変化もあって近年増加しており,医療政策や精神保健政策に加えて,経済問題との関連にも関連した分析が求められている。リストラや配置転換などに伴う従業員のストレスにも配慮しながら自殺予防が可能になるためには,企業の理解を高める必要があり,そのためには,自殺の経済的損失や国民経済に及ぼす影響を測ることが重要な課題である。本研究は,このような問題意識のもとに,次のような研究を行う。
  1. 労働需給,就業状態,消費・貯蓄動向等の経済環境の変化と,職場環境の変化等によるストレス,景気循環に伴う世論の変化など社会心理的環境の変化とが自殺率に及ぼす影響に関する分析
  2. 家族のライフサイクルに注目した自殺の逸失利益の推計
  3. 自殺による労働力の変化が国民経済に及ぼす影響の推計
  4. 自殺対策と医療政策,精神保健政策の連携が医療費の変化を通じて,国民経済に及ぼす影響に関する分析
  5. 自殺の社会経済的要因に関する国際比較研究
 平成14 年度は,平成13 年度の成果を踏まえて,2 ,3 ,4 に関する分析を発展させる。2 については,自殺の逸失利益の範囲を拡張して,平成13 年度に得た逸失利益の推計値に,親の自殺が子供の教育投資を変化させること等が及ぼす世代間効果を含めた推計を行う。3 については,SNA の改訂に対応してマクロ経済モデルの改訂を行い,自殺が国民経済に及ぼす影響を新SNA ベースで推計する。4 については,自殺対策が労働者のストレスなどに関わる受診行動の変化を上記データ・ベースを用いて推計し,これを集計することにより,自殺対策が医療費の変化を通じて及ぼす国民経済への影響を推計する。
 平成14 年度は,さらにこれらの研究によって得られた推計結果の位置づけをするために,自殺防止関連対策の進んでいる北欧諸国などを主な対象として,国際比較研究5 を行う。

(3 )研究会の構成員

 担当部長
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
 所内担当
金子能宏(社会保障応用分析研究部第1 室長)
 所外委員
池上直己(慶應義塾大学教授),池田俊也(慶應義塾大学専任講師),
反町吉秀(京都府立医科大学助教授),宮崎俊一(国立循環器病センターCCU 部長),
野口晴子(東洋英和女学院大学専任講師),橋本英樹(帝京大学専任講師),
音山若穂(郡山女子大学専任講師)
 研究協力者
山下志穂(学習院大学大学院博士課程)

(4 )研究成果の公表

 研究成果は,平成14 年度厚生労働省社会援護局障害保健福祉部「自殺対策研究者懇談会」に報告して,同部の「自殺対策有識者懇談会」の検討に資する基礎的資料としてとりまとめる。また,日本国内の問題に関する研究成果は,国立社会保障・人口問題研究所の機関誌『季刊社会保障研究』,『人口問題研究』,および社会保障・人口問題研究シリーズ等によって一般に公表し,国際比較研究に関連する成果は,機関誌『海外社会保障研究』等によって公開する。

8 社会保障改革分析モデル事業(平成13 〜15 年度)

(1 )研究目的

 2002 年1 月に公表された新人口推計では,従来よりも少子高齢化の進展が急速であることが示された。同時に,社会保障制度が経済に及ぼす影響はさらに強まるとともに,制度自体の将来像を巡る議論も盛んである。予算制度や税制の議論にあっても年金や医療といった諸分野のあり方が問われる時代であり,本研究所においてもこのような諸問題に対して一定の見解を有することがますます重要なものとなりつつある。本研究はこうした要請に応えるべく,社会保障制度改革の効果を定量的に示すことが目的となっている。
 以上の目的を遂行するため,マクロ計量経済モデルや世代重複モデルなどを開発するとともに,政策的な効 果が明らかになるようなシミュレーションを実施する。

(2 )研究計画

 本年度は3 年計画の2 年目ということもあり,本格的な分析を行うための基礎づくりの年となる。そのため,マクロ計量モデルや世代重複モデルなどのシミュレーションにおいては,新人口推計の結果を十分取り入れた試算を行うとともに,2004 年度に予定されている公的年金の財政再計算等を視野に入れた改革効果を示すことを予定している。
 具体的には,マクロ計量モデルでは,長期モデルの改訂や新人口推計に対応した将来見通しの実施,世代重 複モデルでは,既存モデルの改訂と新人口推計を取り入れたシミュレーションの実施,さらには応用一般均衡 モデルでは,社会保障改革分析への適用可能性に関するサーベイを行うこととしている。

(3 )研究会の構成員

 担当部長
府川哲夫(社会保障基礎理論研究部長)
 所内担当
金子能宏(社会保障応用分析研究部第1 室長),加藤久和(社会保障基礎理論研究部第4 室長),
山本克也(同部研究員),宮里尚三(社会保障応用分析研究部研究員)
 所外委員
大林 守(専修大学教授),藤川清史(甲南大学教授),山田節夫(専修大学教授),
人見和美(電力中央研究所主任研究員),上村敏之(東洋大学専任講師)
 その他協力者
佐藤 格(慶應義塾大学大学院経済学研究科),(財)国民経済研究協会

(5 )研究結果の公表

 報告書を作成するとともに,学会等で報告を行う予定である。

9 戦後日本の社会保障制度改革に関する政治社会学的研究(平成14 〜16 年度)

(1 )研究目的

 社会保障について,2000 年には年金改革,社会福祉基礎構造改革がなされ,介護保険の実施もはじまったが,これらについて更なる改革を求める意見も強く,医療保険改革も喫緊の課題として残されている。現行の社会保障制度はこれまでのさまざまな改革の積み重ねで出来上がったものであり,それぞれの次元での政策判断がどのような議論の積み重ねとどのような時代背景の下でなされてきたかを整理分析することは,今後の社会保障制度改革について政策決定を行う上で不可欠である。本研究は,高度経済成長が低成長に移行し,社会保障改革も単純な制度の拡充から財政制約への対応に重点が移行した1980 年代以降を中心に,制度改革に関する文書資料を収集し改革の流れを追うとともに社会経済との関連を分析し,今後の社会保障制度改革の政策決定のための基礎資料を得ようとするものである。

(2 )研究計画

 初年度は,社会保障制度の諸改革に関する各種先行研究,並びに政府各省庁の資料,関係審議会の答申・勧告・建議等の文書資料の収集を行う。次年度は,前年度の資料の整理・検討並びに研究者及び政策担当者からの補完的なヒアリングを実施する。最終年度は,前2 年度で収集,整理・検討した文献・資料等を基に,社会保障制度改革について分析・検討し,報告書を作成する。あわせて,収集・整理した資料のうち重要なものを社会保障資料集として取りまとめる。

(3 )研究会の構成員

 担当部長
松本勝明(社会保障応用分析研究部長)
 所内担当
植村尚史(副所長),白波瀬佐和子(社会保障応用分析研究部第2 室長),小林信彦(客員研究員)
 所外委員
土田武史(早稲田大学教授),田多英範(流通経済大学教授),北場 勉(日本社会事業大学教授)
清水英彦(早稲田大学教授),横山和彦(新潟大学教授),菅沼 隆(立教大学助教授)

10 出生力に関連する諸政策が出生調節行動を介して出生力に及ぼす影響に関する研究(平成14 〜16 年度)

(1 )研究目的

 わが国をはじめ多くの先進諸国では置き換え水準を下回る低出生力が持続し,著しい少子高齢化・人口減少問題に直面している。わが国の低出生力の要因については従来,様々な経済学的・社会学的アプローチによって社会・経済条件との関連が研究されてきたが,これまで体系的な研究があまりなされていない2 つの大きな研究課題があると考えられる。
 一つは出生力の近接要因(結婚年齢,避妊,人工妊娠中絶,妊孕力など生物学的行動的要因)の観点に立ったアプローチであり,ミクロ(個々のカップル)レベルでいえば,出生意図と出生調節行動に関する研究である。低出生力の社会では夫婦の大部分がなんらかの出生調節行動をおこなっており,出生意図/出生調節行動とその結果としての出生力との関係を明らかにすることは出生力の決定要因を測る上できわめて重要である。換言すれば,出生力の要因研究には子どもの需要側に着目する研究と子どもの供給側に着目する研究があるが,本研究は主に後者の視点に立つ研究である。つまり供給過剰(望まない妊娠/出産)あるいは供給過少(夫婦にとっての希望子ども数の未達成)がどのようなメカニズムでおこるのか,という点の解明に力点を置く。
 いま一つは政府が採ってきたあるいは今後採りうる政策と出生調節行動との関連である。もとより民主主義国において強権的な出生促進政策はありえず,国民の福祉向上のために様々な政策が実行あるいは模索されているが,それら諸政策の中には個人の出生調節行動の変化を介して出生力に影響を及ぼす可能性のある政策が含まれる。出生力の供給側に影響を与えうる政策として,たとえば,直接的な出産・育児支援政策(母子保健医療対策,育児休業,保育支援など),リプロダクティブ・ヘルス/ライツ政策(避妊法の認可,人工妊娠中絶に関する規制の変更,女性健康対策,思春期保健対策など),がある。また出産・子育てをめぐる全般的な女性の意識と行動に影響を与えうるものとして,ジェンダー政策(男女雇用機会均等,男女共同参画など),IEC (情報・教育・コミュニケーション)活動などが挙げられる。
 なお本研究でいう「政策」は広義の概念であり,「自由放任=自然状態あるいは市場に委ねる」に対して何らかの「介入」が実行または企図されることを意味する。政府の直接・間接的活動のみならず,性教育/健康教育/人権教育,マスメディアなどを通した情報や観念の伝播・形成を含んでいる。その意味からすれば,「情報・政策」と括るべきものである。
 本研究は,このような出生力に関連する諸政策および情報が個々の男女の出生調節行動を介して出生力に及ぼす影響を詳細に明らかにしようとするものである。その成果は,この分野の学問的発展ならびに少子化に対する政策対応および評価に関する科学的方法の発展に寄与することが期待される。

(2 )研究計画

 第1 年度(2002.4 〜2003.3 )  第2 年度(2003.4 〜2004.3 )  第3 年度(2004.4 〜2005.3 )

(3 )研究会の構成員

 担当部長
佐藤龍三郎(情報調査分析部長)
 所内担当
石川 晃(情報調査分析部第2 室長),白石紀子(同部第3 室長)
 所外委員
荻野美穂(大阪大学大学院助教授),早乙女智子(NTT 東日本関東病院産婦人科医師)



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