平成20年9月24日

国立社会保障・人口問題研究所所長
京極 宣 殿

国立社会保障・人口問題研究所
研究評価委員会委員長    庄司 洋子

評価報告書

 今般、国立社会保障・人口問題研究所研究評価委員会規程に基づき、平成17年度から平成19年度に係る国立社会保障・人口問題研究所(以下「研究所」という。)の機関評価を実施したところであり、その結果について、下記のとおり取りまとめたので、報告する。




1 研究・開発・試験・調査・人材養成等の状況と成果


 研究所は、社会保障及び人口問題に関する調査及び研究を行う厚生労働省の政策研究機関として、その所掌事務に係る調査研究業務等を着実に実施してきている。

 例えば、人口・世帯の推計や、出生動向・世帯・家族及び人口移動の動向の調査研究は、我が国の諸政策・研究の基礎データとして、また、社会保障給付費推計は、我が国の社会保障を数量面で全体的に把握し、国際比較にも資する調査として、高い評価を得ている。また、社会保障モデルの開発や各種政策課題に関する研究も着実に成果を挙げてきているところである。

 我が国においては、現在、少子高齢化、家族形態や労働環境の変化など、社会経済構造の大きな変化が進んでおり、こうした中で、人口・世帯等や社会保障の動向把握や将来推計についても、今後、より困難となることが予想されるが、新たな手法の導入や国際的動向を踏まえた改善などを進め、各種政策・研究への信頼されるデータ解析などの研究成果の提供・普及という、各方面の期待に応えていくことが必要である。

 また、多くの政策課題を抱える厚生労働行政の推進に資するため、政策当局との連携の下で政策の企画立案等に資する研究の一層の充実に積極的に取り組むことが期待される。




2 研究開発分野・課題の選定


 研究所において取り組んでいる研究課題については、近年の社会保障及び人口問題を取り巻く状況を踏まえ、所内の研究部の部長等により構成される研究計画委員会における議論を経て、所長のリーダーシップの下に決定されている。

 今回の評価期間においても、こうした議論・決定を経て、少子化、医療・介護、障害者自立支援、低所得者等の様々な重要政策課題についての調査研究が進められていることは評価できるが、さらに、研究開発分野・課題の選定において、次の点に留意することが必要である。

  1. 人口問題分野の研究者と社会保障分野の研究者との相互協力による研究を更に進めていくべきである。

  2. 社会保障において実証的研究が積極的に進められていることは評価できるが、理論的研究も重要であり、両者のバランスをとって進めることが必要である。




3 研究資金等の研究開発資源の配分


  研究所においては、各研究課題ごとに予算が計上されており、研究の実施に際し、当該予算を各部に配分することはしていないことから、本項目については非該当である。




4 組織・施設設備・情報基盤・研究及び知的財産権取得の支援体制


 研究所の組織については、現在の組織体制によって社会保障及び人口問題の研究の実施に必要な基本的枠組みは確保されているものと考えられるが、近時の社会保障及び人口問題の政策研究の量的拡大や質的な高度化に適切に対応していくためには、研究に必要な人的資源の確保に向けた取組が引き続き必要である。現下の政府における厳しい定員管理の下でも、研究所が、主任研究官の増員や、定員外の客員研究員、分担研究者・研究協力者の活用により研究体制の確保に努めていることは評価できるが、今後も、引き続きこうした努力を行うことにより研究の質を高めることが重要である。

  研究所の施設設備及び情報基盤については、各研究者に対し社会保障及び人口問題に関する研究活動を円滑に行う上で良好な環境が確保されているものと考えられる。

 なお、知的財産権の取得に関しては、社会保障及び人口問題に関する政策研究の過程においては、当面のところ、想定しにくいものである。




5 共同研究・国際協力等外部との交流


 研究所における研究内容を、内外の最新の研究成果を踏まえた質の高いものとしていくためには、内外の研究者との共同研究・交流を積極的に進めていくことが不可欠である。研究所においては、各研究プロジェクトにおける研究活動や機関誌の編集等が外部研究者の参加も得て実施されており、また、公開の場において内外の第一線研究者が討論する厚生政策セミナーの開催、外国人研究者の招聘による特別講演会の開催などの取組が進められているところであるが、他の研究機関とのコラボレーションや、セミナー等の公開での研究発表の場を増やしていくなど、更にこうした共同研究・交流の機会を増やしていくよう取り組んでいくことが望まれる。




6 研究者の養成及び確保並びに流動性の確保


 研究所においては、研究者の確保にあたっては、ホームページ掲載等により広く公募が行われ、応募者については、論文審査等の一次審査で専門性が、また、幹部職員全員による面接審査でバランス感覚や政策視点等を考慮に入れた審査がなされるなど、適切な採用への努力が行われている。

 研究者の養成については、修士課程(博士前期課程)修了以上の学歴を有する者が入所者の多数を占めるという状況の下で、入所後は研究プロジェクトに参加して一定の調査研究をする中で研究者として養成されている。また、研究所幹部及び研究評価委員による研究者評価においても、学位取得や研究の方向性等について適切に指導する等により人材養成が行われている。更に、若手・中堅研究者には、在外研究が奨励され、外国人研究者との共同研究、国際学会や国際セミナー・ワークショップへの参加などが推進されている。

 また、流動性については、研究所研究者の大学等への転出が少なくないが、これは、我が国唯一の社会保障及び人口問題の総合的な研究機関から専門的研究能力を有する人材を送り出すことにより、我が国の社会保障及び人口問題研究に広がりと深みをもたらすとともに、大学等へ移った後も研究所のプロジェクトに外部研究者として参加・貢献しているという意味で、社会保障及び人口問題研究の人材養成の側面も有している。




7 専門研究分野を生かした社会貢献に対する取組


 研究所においては、専門学術誌として関係方面から高い評価を受けている「季刊社会保障研究」、「海外社会保障研究」及び「人口問題研究」が毎年着実に刊行され、また、厚生政策セミナー、研究報告会、研究交流会等も積極的に行われている。更に、ホームページにおいても、少子化情報ホームページや、機関誌・統計資料集の登載、英文ウェブジャーナル等豊富な情報を発信しており、アクセス数も近年大幅に増加してきている。

 こうした情報発信の取組は評価されるものであるが、今後、次のような点に留意すべきである。

  1. 地域レベルでの政策立案や調整の重要性を踏まえ、地域レベルの情報のデータベース化や分析手法の紹介等を行うこと。また、人口分野の統計資料について、研究成果を反映した内容の見直しを絶えず行うこと。

  2. 研究叢書や研究資料等の出版を含め、研究所における各研究者の研究成果を情報発信する場を積極的に作り出すこと。

  3. ホームページにおいて、研究者個人の名を載せたレポートを掲載するなど、個人研究者の顔が見えるような工夫をすること。




    8 倫理規程、倫理審査会等の整備状況


     研究所は、社会保障及び人口問題に関する政策研究を行う人文科学系の研究機関であることから、生物に係る実験等を行う場合の倫理面での配慮には非該当であるが、個人情報などのプライバシー保護については、今後より一層慎重に配慮しなければならない。なお、これまでのところ、個人情報については、統計法等に則って、適切に保護されている。




    9 その他


     政府全体を通ずる厳しい定員管理の中で、今後とも政策研究機関としての期待に応え、質の高い研究成果を挙げていくためには、研究所全体として、研究者間の業務量の適切な配分や業務量全体の適正化に取り組むことが必要不可欠である。研究所において、個人研究計画書の作成における所内各研究者と所属研究部長との協議や、全部長を構成員とする「研究計画委員会」における各調査研究プロジェクト編成の検討を通じて、こうした取組が行われていることは評価するが、更に、研究員の在外研究の機会の確保という観点も踏まえ、全所的取組を更に進めていくことが望まれる。





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